仲木戸俊成がその扉を恐る恐る開けると、その奥から何やら手を叩く音が聞こえてきた。
「いらっしゃい、よく来たね」
突然かけられる声。その声に驚いて、仲木戸は開きかけた扉を一度閉じた。
「……どう思う?」
「絶対怪しいでしょ」
「だよなあ……」
シンカライジングルナの言葉にその場の全員が賛同した。そもそも、誰も入ることができなかった柱の中をを長時間昇り続けて辿り着いた場所に既に先客がいる……だなんてことは、どう考えても怪しい。
「考えられるとしたら……この柱はダンジョンの外に繋がっていたのか?」
「支局長、それって?」
Flying Foxの仮説はこうだ。彼女らの知るこの『柱』のダンジョンには、前から知られている入り口の他にもう1つの入口があって、それがこの螺旋階段である、と。
しかしその論理には問題があった。仮にそのようなものがあったとして、その先に誰か来ているならば、冒協からそのダンジョンの内部の支局長であるフォックスに話が全く来ていないのはおかしいのである。
「いいや、違うね。聞かなかったことにしておくれ」
フォックスは自分で出した解釈を棄却した。そうすると、答えは自ずから決まってくる。先ほどの者は……。
ガチャリ。
扉の前で頭を抱える4名が手を触れていないのに、扉が開く音がする。そちらへと皆が目線を向けると、そこでは先ほどの声の主が向こう側から扉を開けてこちらを覗き込んでいた。
「入りなよ。落ち着ける場所もあるからさ」
「……ならばこのFlying Foxに教えてほしい。ここはどこで、貴方は何者なんだい?」
フォックスは他の3名の前に出てそう問う。
するとその者は「ちょっと待ってね」とだけ言って一旦扉を開放して固定してから、改めて4名の前に立った。
「名乗るのが遅れたね。僕はPerseverance、気軽にパーシーとでも呼んでほしいな。そしてここは、僕の秘密基地さ」
そう言いながらPerseveranceは右手を胸に当て、頭を下げた。
それでも、4名のうち3名は警戒を緩めない。
「Perseverance……?」
「聞き覚えのない名前だな」
「それに秘密基地とは?」
そう、パーシーの言葉を反芻して、お互いにお互いの認識を確認する。だが最後の1人、成岩富貴はずっと考え込むような仕草をしていた。
「どうした成岩?」
「俺はその名前を知っている。だが……」
成岩は、目の前にいるパーシーが彼の知るPerseveranceかどうかの確信は持てなかった。そして恐る恐る彼の知るPerseveranceが知っているであろう名前を挙げた。
「Noveltyという名前に聞き覚えは?」
3名はその名前には聞き覚えがなかった。成岩はこの次元においてそれぞれの派閥が単に色で呼ばれていることから、ここで五元神の名は通用しないのだと認識をしていたが、それはその通りだったのだ。
しかしもちろんパーシーは違う。その名前を知っている。そして、それを知っている成岩に興味を持った。
「そこの彼は僕が何者か知っているみたいだね」
「だからこそあの多層構造のシールドを展開できた」
「御名答。ささ、僕の正体も分かったことだし、中に入りなよ。話は中でするからさ」
くるりと回って部屋の中へと戻るパーシー。成岩はそれに躊躇せずついていった。
「待てよ、1人で納得すんなって」
「すぐにわかる。それよりも、支局長達も早く中へ。彼の機嫌を損なうのが一番危険だ」
成岩が真剣な表情と口調で発したその言葉に、3名もしぶしぶ中へと歩みを進めた。
部屋の中はあの無機質な螺旋階段から続いていたとは思えないほどに普通な――と言うにはいささか豪勢であったが――風景が広がっている。ただ異質なのは、その部屋には扉はあっても窓が一切設けられていないということくらいだ。だがそれも、地下室と考えればそれほど不思議な要素でもなかった。
そしてパーシーは、4名をソファーにかけさせて、そして紅茶を配ってから改めて話を続けたのだった。
「分からないことも多いだろうからね。1つずつ、質問を受け付けるよ」
「先ほどこの『柱』の周りのシールドを張ったのを肯定していたけど、このダンジョンを作ったのも貴方なのかい?」
フォックスがまずそう聞いた。パーシーはにこやかに紅茶を一口だけ口に含んでからそれに肯定した。お互いに表面上の笑顔を崩さぬまま。
「みんながここに潜って先へ先へと進もうとしていく中で生まれるドラマを楽しみながら見させてもらってたよ」
……流石にこの言葉にはフォックスの顔も多少引きつったが。
その次にライルがダンジョンを作った理由を尋ねると、パーシーはここに誰かが来るのをずっと待っていたのだと答えた。答えになってはいないような気もするが、ライルはそれを試練か何かなのだと理解した。
そして、その次に質問権を行使したのは成岩だった。
「俺は別の次元で戦っていて、気がついたらこの次元にいた。それに貴方は関わっているか?」
「……流石に別の次元のことは分からないね。だけど」
パーシーの記憶の中には、先日の会合があった。そしてそこで発された言葉の意味を理解した。
「この前にロペが次元を越える力を探求させるほど大きなことをしてたらしいけどね。あっ、ロペってのはCyclo……」
「Cycloped」
「そう、やっぱり僕達のことを知ってるんだ。君だけ持ってる知識が違うことを鑑みるに、君が外から来たのは本当みたいだね」
そして最後に、仲木戸の質問権が残った。
仲木戸は――彼がここを目指すようになったその理由について尋ねた。するとパーシーは少しだけ考えてから、こう言い放ったのだった。
「その噂の事は僕は知らないよ。でも、そうすることはできる。ロペがそういうことをしでかしたんだから、僕にだってそれをやる権利があるからね。さて、貴方達はそれを望むのかい?」