「それで、また君は無茶をしたのかい。今年に入って何度目だい?」
「してねえよ。これが無茶だってんなら何1つ為せなくなっちまうだろーが」
超次元より帰還した綾部綾は、友人である程久保是政に身体機能に異常がないかの調査を手伝ってもらっていた。
「何が起こるかわからないと言う面では無茶だよ! ……まぁ、今回は特には異常はなさそうだけれど。だいぶ君の身体も莫迦になってるんじゃないのか? 君の頭みたいにね」
「何だと!? どういう意味だおい」
軽くポカリと殴りかかる綾部を、程久保は軽く受け止めて冗談だよと答えた。
程久保の調査の結果、綾部の身体には異常は見当たらず、おおよそ健康な20代の男性の身体そのものである事は分かった。そもそも、ラッチという超次元技術を常用しているトレイナーが超次元の移動をおこなったとて、ただちに健康に害を及ぼす訳がないのだ。
それを確認すると、綾部は立ち上がった。
「行くのかい?」
「じっとしてちゃいられないだろ」
苛立つように、そう答える綾部。その後ろには、彼ならではの焦りと恐怖があった。それは話をしている程久保にも伝わるほどのものだった。
「……そうだね。この程久保もなにかの力に立てればいいかとおもっていたけれど、どうやら力不足のようだ」
「お前の分まで俺ちゃんは頑張るからよ。お前はここで待っていてくれよ。もしかしたら俺ちゃん達が探しに出てる間に、山根や名松達が帰ってくるかもしれねーだろ?」
「……そうだね」
苦い表情で、程久保は綾部を見送った。そしてしばらくしてから、彼はごつんと自らの机を叩いた。
悔しかった。許せなかった。親友が行方不明になったというのに、何一つとして動くことができていない自分が。
そして程久保がもう一度机を叩こうと手を振り上げたとき。
その手を、そっと受け止めた者がいた。
「やめな」
「……ビエント」
程久保は、くるりと振り返るとじっと声の主、ゴータデルビエントの目を見つめた。
「物にあたっても仕方がない。それに、是政らしくもない」
「この程久保だって、そうしたくなる時もあるさ。今みたいにね」
そしてその手を振り払ってから優しく降ろすと、今度は体ごとビエントの方に向けた。
「……君は悔しくないのかい?」
「何が」
「君だって、チッキを渡した相手が超次元の彼方へ消えていったんだろう? それなのに、このJRNにとどまって、何一つとしてその捜索に関われていないことが」
わなわなと、震える声で程久保はそう尋ねた。しかし対称的に、ビエントは終始落ち着いていて、芯の通った声ではっきりとそれに答えたのだった。
「吾は一志を信じている。信じているからこそ、チッキを渡したのだ。だからこうはっきりと言える。吾が動こうが動くまいが一志は帰ってくると」
「でも、それって」
「吾は戦闘向きでない。探索向きでもない。ならば吾が捜索メンバーに加わったとして、足を引っ張るだけだ。そしてそれは是政、君もだ。違うか?」
程久保は声を出せなかった。図星だったからだ。そしてゆっくりと首を縦に振ってから声を絞り出した。
「違わない。この程久保は、無能だ」
「無能ではないだろう? それに先ほども捜索メンバーの役に立っていたではないか」
ビエントはこう続けた。何も現場に出ることだけがその捜索に関わることではないと。後方で支援を行うことも、立派な貢献の一形態なのだと。
そして、程久保は既にその役割を果たしているのだとも。
「あんな程度、貢献なんかじゃない」
「是政。君は彼……綾部と言ったかな。彼の相談をどの程度の頻度で受けている?」
「およそ1週間に3回程度だね」
ビエントは驚いた。その頻度が彼女の想定していたものよりも3倍ほど多かったからだ。だが程久保は、それでも親友としては少ないくらいだと述べている。
「充分だ」
「何が! 山根達がいなくなって1ヶ月強、この程久保がその真実を知ってから4週間! たった10回強だけ綾部に会って話を聞いたりしていたところで、それが見つかることにどう繋がるっていうのかい?」
程久保はその間、常に焦りと罪悪感に苛まれていた。それは彼の心を確実に蝕み、いまや即席ラーメンの麺のようにスカスカな状態にまで陥ってしまっているのだ。
そんな程久保を奮い立たせるように、ビエントは強い言葉を投げかける。
「繋がっている。現に綾部は、是政がここにいるからこそ多少無茶をしてでも見つけることを優先しようとしているのではないのか!」
その言葉に、程久保ははっとした。そしてその自分の見識の狭さと、綾部に対する理解のなさを自覚させられて、涙を流したのだった。
「あ、あぁ……。綾部ぇ、どうして君はそんなに莫迦で、大莫迦者なんだい? そしてこの程久保は!」
程久保は自分が急に情けなくなった。綾部が不器用で、そして実は思慮深くて仲間想いなことを知っておきながら、その真意に気づかずにいた自分が。
ポカポカと自分の頭を叩いてから脱力して倒れ込む程久保。そんな彼を、ビエントはその胸で優しく受け止めた。
「ビエント……」
「是政。もう、君のすべき事は分かっただろう?」
ビエントは程久保の頭を包むように、その後頭部に両手を回しながらそう問いかけた。泣き崩れる彼からその答えは戻ってはこなかったが、彼はその答えを理解していた。
そしてビエントもまた、程久保がその答えを理解していることを確信していたのだった。