ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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9レ後:俺はもう帰るからな!

「すまなかったねぇ、山根くん。……おや、アドパスくんたちも戻ってきてたのかい?」

 

 ベーテクさんがラボへとようやく戻ってきたのは、ふたりが国分寺から帰ってきてから40分強ほど経ったころだった。

 ……ものすごくげっそりしているんだけど、会議で何かあったんだろうか。

 

「遅かったじゃないか」

「いやぁ、想像を絶する莫迦をしでかしてくれた奴がいたらしくてねぇ。余計な仕事を増やしてくれるんじゃないよ、全く」

「紅茶飲みマースか?」

「頂こう」

 

 ベーテクさんは紅茶を受け取ると、香りを楽しむ間もなく飲み干した。どうも相当余裕が無いと見える。

 

「これだからバランスの脳筋は嫌いなんだよ……」

「何があったんデースか?」

「詳細は明日か明後日辺りにでも連絡が来るはずだから、金曜の朝のミーティングで話そうと思う。けど、今日はもう疲れたから退勤させてもらうよ……」

「Oh……。お疲れ様デース」

 

 ベーテクさんは荷物を纏めると、ポラリスを連れてラボを後にした。

 ……ポラリス、流石に今日のこの疲れているベーテクさんにワガママを言ったりはしないでおこうね? 言うのは彼が復活してからでも遅くはないはずだから。

 

「にしても、あそこまでやられてるベーテク見るのはだいぶ久しぶりだな……」

「デースね。ファーストコンタクトでコダマ号が連れてきたときもだいぶ闇を抱えてマーシタが……」

「さすがにそこまでは行ってないと思うぞ。ポラリスがノリモンに成った頃と同程度じゃないか?」

 

 え、こわい。

 僕は過去のベーテクさんを知らないから比較はできないのだけど、このふたりの反応見る限りだいぶメンタルをやられてる方だということは理解できた。

 

「会議行く前は普通だったんですが、会議で一体何言われたんでしょうね……」

「わからんが、多分あそこまで行ってるってことは俺やアドパスの研究にまで影響してそうな気がすんだよな」

「ミーもそう思いマスネ。金曜日は覚悟して臨むしかなさそうデース」

「うわぁ……」

 

 地獄かな?

 

「山根。他人事だと思ってるようだが、一番ヤバいのはお前だからな? 別に俺達の研究は想定ペースより早く進んでいたから、少し影響入っても大した問題にはならん。でもお前の場合、インターンの期限を考えると何もやらない時期ができるのは凄くマズいぞ?」

「ミ゚」

 

 言われてみればそうじゃん。

 終わった後にロケットの上に出す報告書に書くべきものが存在しないのは、今後の査定を考えると非常によろしくない。ロケットは、残酷にも全体としての最適であると認められれば容赦なく個を切り捨てる派閥だ。そんな中で『ただ遊んでいただけ』のような烙印を押されてしまえば、工事が終わってロケットの組織に戻った後の人権が消滅してしまう。

 

「……今からロケット追い出された時の事も考えとかなきゃだめかもしれないなぁ」

「流石にキールがロケットのノリモンで、ユニットまで入ってるのに派閥から追放される事は無いだろ」

「あり得ないと言えないのがうちの派閥なんですよ」

 

 大多数は配置転換で済まされるとはいえ、過去に大莫迦やらかして追放された事例がここ5年で複数存在しているのが恐ろしいところだ。

 

「つってもそういうのは法律とおさわりしてる連中だろう? 事情があって成果出せてないだけの奴がそうなるってんなら、工事中でもインターンに来てはいるお前なんかより先に追い出す奴がいるだろうよ」

「……それもそうか」

「焚き付けた俺が言うのも何だけど、お前は諸々悲観的なんだよ。さっきも言ったような気がするが」

「そうデスネ。もう少しアプティミスティクになった方がいいデースよ?」

「そう言われても、常に最悪のパターンを考えておいて備えておけば失敗はしないでしょ?」

「そうだな」

 

 意外にも、成岩さんは僕の主張をあっさりと肯定した。そして指を2本立てて、僕の目の前に突き出した。

 

「お前は2つ勘違いをしている。1つ、最悪のパターンと言ってはいるが、それはお前が考え得た中でという注釈が入ること。全ての危機を予測できると思うな。本当の危機というのは、予測ができないからこそ恐ろしいんだ」

 

 中指を畳む。

 確かに、成岩さんの言っていることは正しい。僕がいくら最悪を考慮したところで、思いつかなければ考慮のしようがない。

 

「そしてもう1つは、全てに対応できるよう備えるべきだと考えている事だ」

「1つ目は解るんですが、2つ目はどういう意味です?」

「そのままの意味だが? 備える必要があるのは、考えられうる最悪じゃなくて、備える価値のある最悪だって事だ」

「全ての最悪には備える価値があると思います」

「それがお前の価値観なんだな、それは尊重するし、悪いと言うつもりは無い。でもな、そうやって準備に時間を取られているとタイミングを逃すぞ」

 

 うぐ。割と気にしてる事なのに。

 そして成岩さんの言わんとしていることはわかる。わかるんだけど……。

 

「だいたいお前だって例えば明日隕石が落ちてきて関東平野が壊滅したときとかの対応までは流石に考えてないだろ?」

「そんな突拍子もない、レアなこと考えてどうするんですか」

「そういう事だ。その言葉そのまんまお前に返すぞ」

 

 なるほど、確かに言われてみれば閾値がだいぶ違うだけで僕も棄却している最悪が普通にあった。だいぶ強引な論理だけど、同じように思われても不思議じゃないな……。

 

「あと、言うタイミングを完全に逃しちまってたから今更だが、これから何もやらないって事はまずないからそこも安心していいぞ。なんてったって、俺達は退屈が一番嫌いだからな」

「……え?」

「じゃ、俺はもう帰るからな! お先に失礼します」

 

 そう言うと成岩さんはほとんど広げていない荷物を鞄に入れて、ラボを出ていった。

 

「山根サン?」

「……る」

「ワッツァ?」

「一発殴る!」

「……お疲れ様デース」

 

 必要な荷物は明日の朝早めに来て回収すればいい。僕はラボを飛び出して、そして追いかけっこが始まった。

 

 後日、コダマさんとかにめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもない。




【TIPS:JRN】
 東京都小平市に本部を構える公益財団法人、日本ノリモン研究開発機構(Japan Research of Norimon Agency)のこと。主な業務としてクィムガンの対応とノリモンに関する研究、トレイナーライセンスの認定等がある。また、下部組織としてトレイナーを養成する各種学校、トレイナーズスクールなどを有する。
 ルーツをたどると運輸省内の安全輸送管理委員会という一部署であったが、国鉄出身のノリモンが多かったため間もなく国鉄に飲み込まれ、そして国鉄解体に伴って現在は独立している。
さらにルーツをたどれば、日本国との平和条約の締結に伴って表向きは消滅・解散したはずの商船管理委員会から繋がっている。
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