ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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23レ後:その場所はどこでもない

 もう一度、超次元に旅立つ時が来た。

 都立武蔵国分寺公園の『無』の消失から1週間。帰還した10名の調査隊のバイタルチェックや経過観察も一通り終わり、現行体制での捜索活動に問題はないという結論が下された。そして再び、超次元へと旅立つ時が来たのだ。

 超次元へのアクセスが能うのは6名。5名のノリモンはすべてが可能であるため、それぞれが同じ派閥のトレイナーを連れて飛び出して、どこでもないゾーンにて合流した。

 

 だが、しかし。

 

 そう意気込んでどこでもないゾーンへと飛び出たものの、彼らはどこでもないゾーンの広大さを知らなかった。

 彼らが進めども進めども、風景は複雑なパターンが続くばかりで、他の次元がどこにあるのかすらわからない。そもそも、どっちが上でどっちが下か、そしてどっちが右でどっちが左なのかすら。唯一つ言えたのは、彼らが感じ取ることのできるJRNのある次元の方向が後ろだということだけだった。

 

「……いや、こっちだな」

 

 ただ1人、綾部綾を除いて。

 

「でたらめを言ってない?」

「でたらめじゃねえ。俺ちゃんは感じるんだ、こっちから知っている感覚をな」

 

 北澤百合のその至極真っ当な疑問にそう綾部は答えた。その顔に迷いはなく、ただ一方を向いている。

 

「……どうしよう?」

「他に行くべき方向を感じ取った者がおらぬのならば、少しでも可能性のある方に進むべし」

 

 臨時ユニットのリーダー、高山各務はそう判断して綾部の感じた方向へと進むことを支持した。

 皆、帰る方向だけはわかっていることもあって、半信半疑ながらもその判断自体には異を唱える者はいなかった。

 

 それから綾部を先頭に数kmほど進んで。

 綾部は、ある一点で立ち止まってこう言った。

 

「ここだ」

「……何もないが」

「確かにここなんだよ、俺ちゃんが感じたのは」

 

 そう主張する綾部ではあったが、事実そこには何もなく、周囲と何一つ変わらぬ不思議な空間が広がっていた。

 何か感じていたというのは嘘だったのではないか。そのような旨を口に出すメカマムサシコヤマ。歯を強く噛み締めながら客観的な反駁を探す綾部に、ノゾミタキオンが助け舟を出した。

 

「おいムサコ。アタシは彼を信じるよ。ここに何かあるってのは本当なんだろうってな」

「しかし、虚言で決めつけを行うのは劣っているとされる」

 

 間に割り入ったタキオンは、さらにムサコににじり寄る。スーパーブライトがそれを止めようと間に入ろうとしたが、ふたりはそれを弾いて今にも一触即発の雰囲気だ。

 

「虚言だぁ? それこそが決めつけってもんじゃないのか?」

「裏付けなき感覚など、虚言と差のあることなし」

「頼むから何が起こるか分からないよーなところで喧嘩しないでくれ……」

 

 そんなブライトや周囲の者たちの願いも虚しく、ふたりの言い合いは激しくなる。

 発生の研究をしているムサコからすれば、トレイニングしているとはいえ人間である綾部が超次元の感覚を掴みとることは考え難いことであった。それが裏付けとなって、彼の言葉を否定しているのだ。

 

「じゃあ教えてくれ。アンタには何かわかるのか? どの方向に進むべきなのか、どの方向に進んではいけないのか」

「それは……弊には分からないとされた」

「それなら綾部の言葉を完全に否定する必要なんてないじゃねぇか」

 

 タキオンがここまで怒り、そして綾部を庇うのにも理由があった。彼女もまた、行くべき方向を感じ取っていたのだ。しかしその方向は、奇妙なことにその方向と別の方向に進んだとしてもJRNを指し示していたがゆえ、言い出すべきではないと認識していたのである。

 それでもタキオンは、その感覚を否定したくなかった。だからこそ、同じ感覚を持っていたであろう綾部の言葉を信じているのであった。

 

「しかし! 綾部トレイナーの示したこの場所には、この通り何もないとされている! この要説明は廃止できない」

「……できるよ」

「できるが」

 

 ここで始めて、佐倉空とナリタエアウェイズがタキオンに味方した。

 彼女たちの言い分はこうだった。即ち、この場所と綾部の感じ取った場所にはさらなる超次元のズレがあるのだと。

 

「例えばの話。ある建物の中でビーコンを探していたとする。そのビーコンからの信号で地図上にその場所が表示されたとして、ビーコンが3階に、探索者が1階にいれば? ビーコンと探索者の位置は、地図上では重なってる。実際には違う場所なのに」

「つまり、俺達の認知してない次元軸方向に距離があるって事だ」

「……お二方の主張は理解。しかしそれは……」

 

 それらの仮定がすべて正しいとして、この捜索方法では決して綾部の感じ取った場所に行くことはできない。その残酷な仮説を提示していた。

 あれほどやかましかった探索隊は、突然静かになった。

 

「……他に、行くべき方向の分かる者はいるか?」

 

 高山が探索隊を代表してそう全員に聞いた。誰ひとりとして、答える者はいなかった。

 そしてすこししてから、おずおずとブライトが手を挙げた。

 

「JRNに戻ろう。一度再検討を挟むべきだ」

「然り。何もない砂漠で捜し物をするようなもの。何か別に他の次元の場所を知る術を検討すべきやもしれぬな」

 

 高山はそう言って頷いた。そのときふと、ただ俯いて黙り込んでいる綾部の姿が目に入った。

 

「すまん。俺ちゃんの言葉のせいでこんなことになって」

「こんな……? 全員無事ではないか。それにまだ若い君には、間違える権利は残っておるよ」

 

 そう声をかけながら、高山は綾部の背中をポンポンと叩いた。

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