「どうもはじめまして。私はオトメ、このJRNの理事を務めさせていただいております」
パレイユの派閥のリーダー、オトメは会議室に集まった超次元からの客人に向かって頭を下げた。
「これはご丁寧に。アタシはFlying Fox、この子たちはまぁ、アタシのビジネスパートナーみたいなものさ」
「えぇ、成岩から聞いております。特にそちらの仲木戸さんにはお世話になったと」
そう言いながら、オトメは仲木戸俊成に微笑んだ。
「いえ、俺は……自分の目的のために、彼を利用したに過ぎません」
「目的、とは?」
仲木戸は冒険者だ。まだ知らない場所を目指して、どこまでも探求していく……それこそが、彼の目的となっていた。そして、そんな彼の前に現れたのが成岩富貴だったのだ。
仲木戸は成岩がそのダンジョンの中に落ちてくるのを見て確信した。彼は自分が夢にまで見た世界から来たのだと。
「ダンジョン、ですか」
「はい、そうです。俺と氏はただ、目的の方向性が同じだっただけなんです。だからお互いがお互いを利用していた」
「……なるほど。ですがそれでも成岩を保護してくださったことは事実です。本人にかわり、そして組織を代表してお礼申しあげます」
オトメは頭を下げた。
しかし仲木戸は、逆に冷や汗をかいた。ここまで感謝されるということは、実は成岩はここではとても身分の高い人だったのではないか? そんな懸念が彼を襲ったのだ。
それに際して、ダンジョンの中とはいえわりと軽口を叩いていたことが彼の仲木戸の脳裏を走る。背中に冷や汗がダラダラと滝のように流れるような感覚が急に彼を襲っていた。
「あの、オトメ、さん」
「はい」
「もしかして俺達、何か無礼をはたらいていてしまっていたのでしょうか」
「……へ?」
オトメは顔を上げて、目をパチクリとさせた。
そこにはあまりにも心配そうな顔色で、しかし覚悟が決まったように据わった目でオトメを見つめる仲木戸の顔があった。
「罰を受けなければいけないのなら、全ての責任は俺にあります。俺の接し方を見て彼女たちも氏への接し方を判断した訳ですから。悪いのは、俺だけなんです」
「お、落ち着いてください。私達にあなた方を非難するような理由など1つもございません」
慌てて謎に罪悪感を抱える仲木戸をフォローする羽目になったオトメ。そこにシンカライジングルナが落ち着けよと背中に一撃を加えるまで彼は落ち着かなかった。
「何すんだよライル」
「それはこっちのセリフ! オトメさん困ってるでしょ? ……ごめんなさい、うちの幼馴染が」
「……幼馴染、ですか」
オトメはライルの何気なく発したその言葉を繰り返した。それに、軽くとはいえあれだけ力を込めていたであろうライルの平手打ちをまともに受けても仲木戸が口答えできる程度で済んでいることにも着目した。さらに先ほど仲木戸の発していたダンジョンという言葉をも合わせて、総合的に判断して結論に至った――彼女たちのいた次元はこの次元とはルールが違うのだと。
先月に作成していた、他次元の者が現れたときのマニュアルを再び頭に思い浮かべながら、落ち着いて対応に戻った。
「Flying Foxさん」
「フォックスでいい」
「ではフォックスさん。あなたが成岩についてこの次元にいらしたのも、同じ理由ですか?」
「そうだね」
「でしたら、ぜひともあなた方のいらっしゃった次元の話をお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか」
もちろんその間は滞在する場所を設け、また彼女らの帰還のための協力までする、とオトメは提案した。これはマニュアル通りの提案である。
マニュアルの作成時には、このようなことが起きた場合その次元において次元渡りの方法にある程度の検討がつけられている可能性が高いということ、そしてこの次元に来た者はこの次元において拠点は当然なくそのまま放り出すのは人道上問題があるということから、このような扱いが決められたのだ。そして、別次元の技術を吸収し解析することで、未だに謎の多いノリモンについての知見を深めることが期待されているのである。
フォックスはその提案を受け入れた。オトメが、JRNが自分たちに何を求めているかを察し、それを提供することは問題ではないと考えたからだ。そして、それがお互い様であり、彼女側からも同様のことを行う機会が得られるという打算もあった。それにライルと仲木戸も続き、その提案は完全に受け入れられる運びとなった。
★
「そうですか、Perseverance様が」
ノーブルの派閥のリーダー、コダマは帰還した成岩からその報告を受けていた。
「それで、その使えるようになった新たな技は今でも使うことができるんです?」
「もちろん。少しお待ちを」
そういうと成岩はチッキを取り出しトレイニングし、技を使う準備を整えた。
「この通り、《門(GATESEPARATER)別》」
すると成岩の目の前に門が開き、その先には超次元の空間が広がっているのが見えた。コダマが今までさんざん見てきた武蔵国分寺公園の球体のそれとは違って、平面状の結界がそこにはあった。
「こちらって、閉じたりはできるんです?」
「もちろん。全てがこの技で完結している」
そして成岩は門を閉じ、超次元との接続をなくした。その門があった場所には、元通りの空間が広がっている。
それを見て、コダマはこの技は有用であると考えた。
「成岩君。辞令ですわ。こちらから連絡はしておきますので、来週からサイクロの超次元専攻の方へ行ってもらいます」
「しかしコダマ号、明日にはベーテクが……」
「大丈夫ですわ。これまでの半年、向こうでできていたではありませんの」
そうコダマが微笑んで、そして成岩の肩に手を置いた。続けて目を合わせて、彼はお願いをしたのだった。
「超次元で手に入れたその力、まだ帰れていない7人を探すのに使わせてください」
「承知。できれば佐倉のいる……鳥満博士のところへ」
「もちろん。鳥満博士がこの分野には一番明るいですから」
そしてコダマはその場で鳥満絢太へと連絡をし、正式に成岩の出向が決まったのだった。