「イノベイテック、ただいま戻りました」
「えぇ、ご苦労さまです」
英国から帰国したイノベイテックは、真っ先にコダマのもとへと報告に向かった。その後ろにはAdvance PassengとExcaliburも並んでいる。
そのカリバーを見つけるた、コダマは留学めいて来日してきた彼にも挨拶をした。
「それと……Welcome to Japan, Excalibur. This is Kodama, a director of JRN-Nvl」
「あ、日本語で、大丈夫です。よろしくお願いします。カリバーと呼んでください」
「よろしくお願いしますわ」
それから少しの間コダマはカリバーと話をしてから、アドパスに彼を案内するように頼んだ。そしてふたりが部屋から出たのを確認すると、部屋の扉に鍵をかけたのだった。
「……さて、本題に入りましょうか」
「うん。まだ帰ってきてないトレイナーのことだよね? 成岩くんは帰ってきたけれど……」
「えぇ、まだ帰ってきたのは彼だけですわ」
そして帰還した成岩富貴は、その帰還の術を以て他の行方不明者の探索に活用すべくサイクロの専門チームのもとに出向いている。それがゆえ、ベーテクの研究室には戻れそうもないことをコダマは詫びた。
ベーテクは怒るだろう。コダマはそう思っていた。だが、実際の態度はその想定とは正反対のものだった。
「仕方ないよ。成岩くんだって大切な仲間が何人もいなくなってるんだもの。それと比べちゃ、彼を置いてダービーに高跳びした僕なんて優先度は下も下に決まっているじゃあないか」
「……あなたにしてはやけに軽く引き下がるじゃありませんの」
ニコニコと笑みを浮かべながらそう返すベーテクに、拍子抜けするコダマ。それもそのはずで、ベーテクは成岩の決断について直接飛行機の中でそのメッセージを受け取っていたのだから、それを受け入れる準備は済んでいたのだ。
「殴られる覚悟はしていましたわ」
「そんなくだらないことを僕がするとでも?」
にこやかな笑み。それは何か裏がありそうな雰囲気を醸し出している。
コダマは一瞬だけそれを追求しようと考えたが、それに気づかないふりをすることにした。ベーテクの性格を考えれば、この先でそのあからさまな笑みの意図を明らかにしようとしてくるだろうと考えたのだ。
「……それで、レインヒルには行ってきたのです?」
「もちろん。マンチェスターやヨーク、シルドンにもね。だけど……」
ここにきて、ずっと笑みを浮かべていたベーテクの顔に、はじめて陰りが差した。
「見つかってしまったよ」
「……どちらに?」
「サンシモン号……」
コダマは頭を抱えた。
St Simonと言えば、英国で最も実力とカリスマを兼ね揃えているノリモンであり、そして現地ではトガリネズミに例えられるほどに我を貫くことで有名だった。彼女を本気で怒らせた者は英国の表社会で生き残ることが難しくなるとまで言われる程に。
そんなシモンに目をつけられてしまった。コダマはそのことを重く受け止めた。
「起きてしまった事は仕方ありませんわ。それで、彼女は何と?」
「ダービーでの最後の仕事を終えた後にヨークに呼び出されてね、そこで歴史の矛盾の見解を尋ねられたよ。……日本語で」
「来日する気マンマンじゃありませんの」
「そもそも日本の鉄道150周年のイベントで招待されているって言っていたけどね?」
「……そうでしたわ」
コダマの口腔から空気が抜ける音がした。どうしてシモンを招待したのかと今すぐヒカリエターナルを問い詰めたくなったが、もはや後の祭であることは明らかだった。
こうなれば、できることはただ1つ……シモンが来日した折に、どのようにして彼女に不満を募らさせないようにするか。それを考えることだ。
「それでヨークでは何と?」
「サンシモン号はレインヒルの五元神に疑問を抱いている。その根拠として、Cycloped神とPerseverance神はノリモンになるには明らかに活躍期間が不足していることを、残りの3神は機関車が現在も残存していることを挙げていたよ。そして来日した暁にはもう一度僕に会ってその答えを聞きたいともね」
そしてベーテクは机の上に、1枚のCD-ROMを置いた。それはヨークでシモンに渡された、彼女の持つ独自の研究データの一部が焼かれたものだとベーテクは述べた。
それを舐めるように見回すと、コダマはそれを持ち上げてボソリと呟いた。
「……こちらでも、五元神ですか」
「でも、とは?」
「Perseverance神に会ったことで帰ってこれたのだと、成岩君は述べていましたわ」
それを聞いてがたりと机の上に乗り出すベーテク。その額をコダマは片手で受け止めた。
「Perseverance神に!? それって……」
「落ち着いてくださいな、ベーテク。ハツカリ号にはこちらから伝えておきますわ。我々は神の研究をさらに加速させる必要があると」
そしてコダマは力を強め、ベーテクを軽く弾き飛ばした。そして少しよろけながらも体勢を整えて、ベーテクは再び机の前に戻った。
「詳しいことは、本人の口から直接聞いたほうがいいですわ。まもなく戻ってくる頃でしょうし」
「そうだね。その後で気がついたことがあれば……ハツカリ号に直接持ってったほうがいいかい?」
「その可能性があることも伝えておきますわ。それじゃ、取り急ぎ報告すべき事が他になければ、長旅の疲れもあるでしょうし、今日はゆっくり休むといいですわ」
「そうさせてもらうよ」