ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

34 / 306
11レ前:トレイナーが生業としていた重要な役割

 木曜日。

 朝、ユニット部室に向かうと、いつものように佐倉さんが何か書類を書いていた。

 

「今日は早いね」

「目覚めが良かったので」

「一昨日の午後は目が死んでたから心配してた」

 

 それはまぁ、半分脅されてたようなもんだったし……。

 でも、昨日リフレッシュして、はじめから負けたつもりで対応していたら勝てる戦いはないと気づいて。決して負けやしないという鋼鉄の如く硬い意志を持って接すれば大丈夫だと思う。たぶん。

 

「ところで、来週の水曜、空いてる?」

「空いてますけど……。何の用で?」

「ん。これ」

 

 そう言って佐倉さんが取り出したのは、水色の券片。

 

「あぁ、この前のチッキですか」

「そ。先に戻しておくけど、博士が一度直接会って伝えたいって」

 

 佐倉さんから件のチッキを受け取る。

 ってことはこれの解析とかができたのか、あるいは逆にそれでも分からなくて追加の情報を欲しているか。前者だといいなぁ。

 

「何時頃に3号館に行けばいいですかね?」

「10時と13時と、どっちがいい?」

「10時でお願いします」

 

 それまでにチッキとか、その周りの情報は自分の中でまとめておいて、その場で質問とかはきちんとできるように最低限の準備はしておかないと。

 ……こりゃ、日曜日は買ってきた本だとか、あとは部室の資料だとかを漁るだけで時間がとけてしまいそうだなぁ。いや、今のうちから部室にある資料には目を通した方がいいかもしれない。

 

「じゃ、伝えることは伝えたからね」

 

 佐倉さんはそう言って手元の書類に目線を戻した。

 そして僕が部室の本棚にある本のうち数冊から情報を集めて、目ぼしい情報の周りはあらかた写真を撮ったころ、他のメンバーがかわるがわる到着して、朝の定例会がはじまる。

 

 JRNの敷地にも限りがあるから、毎回のように演習できるスペースを確保できる訳ではない。なので今日は演習などはせずに、お互いの近況や習得状況を確認しながら、万が一の出動要請に備えて待機しているだけだ。

 要するに全員が部室で揃って駄弁って雑談しているだけなんだけどね。詳しく話を聞いてみれば、その時活動できているユニットの数にも依るもののおよそ1割くらいの確率でこういう日が生えてくるらしい。

 

「どうだい、もうそろそろトレイニングには慣れてきたかい?」

 

 その雑談の中で、早乙女さんは僕達新人二人にそう呼びかけた。

 

「アタシはオトメさんから習った5つの技の使い方とか、有効性とか、リーチとかはだいぶわかるようになってきたかな」

「そうかそうか。それは何より。……山根君はどうだい?」

「僕の場合慣れるも何も僅かな隙間を見つけてスナイプするだけじゃないですか、大して進歩というものはないですよ。そもそもクシーさんが《桜銀河》一本でやってたから彼女に助言求めてもどうにもならないですからね……」

 

 一応《桜銀河》のメカニズムとかリバースエンジニアリングして新しい技を生み出そうともしてるけど、そんなに上手くはいかないのが現実だ。

 

「一応聞いておくけれど、その唯一の《桜銀河》の扱いはどうだい?」

「これしかできないんですから、慣れないでいる方が難しいと思いませんか」

「つまり君はもう既にクシー号とのトレイニングは完全に習得したという事だね?」

 

 確かに、言葉の表面だけ聞いていればそう聞こえるかもしれない。実際、クシーさんが前線に出ていた頃の動きであればほぼほぼトレースはできると言っても差し支えないレベルだとは本人の口からお墨付きを得ている。

 

「できてる訳ないじゃないですか。そもそも、クシーさんは自分自身でもその力を十分に引き出せていないって言ってたんです。本人すら知らない潜在的な何かが絶対にあるはずで、僕はまだそれの足がかりすら掴めていません」

 

 クシーさんは、《桜銀河》以外の術を必要としなかった。そして、当時は《桜銀河》のデメリットは今のそれと比べるとはるかに小さいものだった。だから、彼女からコピーできるものは最早もう無い。だけれど、彼女の全力をコピーできている訳ではない。だってクシーさんは全力を出していなかったのだから。

 

「山根君。それは確かに、かつてトレイナーが生業としていた重要な役割の1つだ。だけど、まだ経験の浅い者がやることじゃない」

「じゃあ僕はどうすればいいんですかね」

「しばらくは座学中心のメニューを組もうと思っているよ。君の場合、どうしてもクィムガンから離れて、全体を俯瞰しながら対応することになるだろうから、状況の分析や記録といった役割を頼みたいと思っている。だから分析ができる程度には知識を蓄えてもらいたい」

 

 なるほど。でもそれを習得する頃にはもうトランジットができて僕も前にいる気はするんだけどな。

 

「もちろん、いつになるかはわからないけれどもそのうち君も前に出られるようになるはずだし、逆にそうなってもらわないと少し困る。でも、これから君に教える知識は、前に出たからといって使えなくなるような軟なものではないから安心していい」

「前に出てても当然状況分析は必要ってことですよね」

「そういう事だ。近接特化している方が速度や精度は高いけれども、君の場合はトランジットを重ねたところでクシー号のが強力ゆえに遠隔も継続する蓋然性が高いから、汎用性を求めた方がいい」

 

 やはり《桜銀河》は、ベテランの目から見てもデメリットを打ち消すほどに強力らしい。トランジットしたところで結局全て《桜銀河》に劣るだとか、そういう評価を下されて結局前には出ずしまいになりやしないだろうか?

 ……なんだか、それはそれで別の不安が僕の脳裏に広がったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。