ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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回12レ:風の息づかいを感じて

「やっぱ、夢だったか」

 

 目が覚めて、僕は周りを見渡す。夕日が差し込んでいる、いつもの部室だ。

 ……夕日? どうして成岩さんは起こしてくれなかったんだ! 僕の眠りがそうとう深かったのか?

 

 その事実を認識した僕は、体を起こして直ぐに部室棟を飛び出した。トレイニングをして7号館へ向かい……、その道中で、僕はその道に違和感を覚えた。

 

 人がいない。太陽の高さから想定される時間帯は、もう普段から人は少ないけれども、流石に誰ともすれ違わないなんてことはない。

 疑問に思いながらも7号館に辿りつかんとした時。まともになにか強い衝撃が突き刺さる。振り返れば、1号館の真上に真っ赤な光の柱が立っている。

 

 赤? 1号館はロケット、つまり黄色の領域のはず。赤と言えばバランスだ。なのになぜ1号館の上で? そもそも、どうして光の柱が?

 

 わからない。けれど、今周りに人がいないのと関係があるかもしれない。何より、異常があるなら確認はしたほうがいい。それが必要ないならば、向かう最中で誰かが止めてくれるはずだから。

 恐ろしいほど静かな構内を、1号館に向かって走る。近くまで寄れば、その光の柱の源は中庭であることがわかる。わかったのだが。

 

「IDカードが、反応しない……?」

 

 ありえない。ロケットのトレイナーである僕のIDカードなら、24時間365日いつでも1号館の建物自体には入ることができる。なのにどうして?

 ……いや、よく見るとリーダのLEDが点いてない。ってことは待機状態にすらなっていないな。これ、システム全体が落ちてるのか?

 こうなったらアレだ、防災用の外階段を登って屋上にあがり、上から中庭を覗き込むしかない。そうして覗き込んだ中庭は……地獄めいていた。

 一辺およそ50mの正方形の中庭の真ん中、直径30m程度の赤い光の柱の周りには、数人のノリモンとトレイナーがかろうじて立っていて、そしてその外側では倒れていた。動けるひとたちが倒れているひとたちを柱から遠くへと運んでいるのが見える。

 これ絶対に合流して手助けしたほうがいい奴だ。でも、問題はここからどうやって中庭に降りるか。相変わらずIDカードは屋上からの入口にも反応しないので、雨樋づてに降りるべきか? でもそれだと絵面は完全に不審者だ。飛び降りる? 着地はトレイニングしてれば大丈夫だろうけど、下手したら倒れてる人の真上に足を置くことになるので論外だ。

 そうこう考えているうちに、光の柱が消える。そしてそれがあったところの縁には倒れているトレイナーと……真ん中には、真っ黒のドレスを着ている人影を、金属の鎖で縛り上げる有名な顔……JRN、日本ノリモン研究開発機構の理事長にして、始まりのクィムガン、ルースの落し子との1年間にもわたる対峙を終結させた純然たる実力者でもあるノリモン、トシマさんだ。

 

「逃しはしないぞ。貴様次は既に投げられたと言ったな?」

 

 トシマさんは、重く響く声でそう問い詰めている。

 

「さぁね。投げられた行方は、投げた私にだって分からない。でも、風の息づかいを感じていれば、事前に気配はあるはずだ」

『……ろって』

「そうか、ならばもう貴様に聞くべきことはない。ラストランの準備はいいな?」

 

 そうしてトシマさんは鎖を操り、その人を持ち上げて……。

 

「起きろって、山根!」

 

 次の瞬間、目の前にあったのは、心配そうに僕を覗き込む成岩さんの顔だった。あれもまた夢だったか。

 変な夢を見たせいで疲れは取れなかったけど、頭はなぜかすっきりしている。

 すぐさま飛び起きて何度か屈伸をしたあと、成岩さんと一緒に7号館へと向かう。

 

「今、何時です?」

「13時18分、あと12分だ。10分から声かけ始めておいて良かったよ」

「つまり8分目覚めなかったって事ですか」

「だいぶぐっすり寝てたからな。そもそもさっきポラリスが襲来してきた時も微動だにしてなかったしな」

 

 襲来してきてたんかい。油断も隙もないな本当に! だいたいなんで部室にいるってわかったんだよ……。

 そもそも、いったい僕の何がポラリスをそんなに惹きつけているというのか。粘着制御装置が暴走してるんじゃないかな?

 

「後で佐倉には礼を言っておけよ? ポラリスを追い返してくれたのは佐倉だ」

「えっどうやって……?」

「知らん。ポラリスの首根っこ掴んで外行って暫くしたら一人だけ戻ってきた」

「えぇ……」

 

 そう道すがら教えてくれた成岩さんの声には、少し困惑の色が混じっている。

 あの超絶鋼メンタルのポラリスを引き返させるって、佐倉さんは一体……? 流石にわざわざ部室まで来てる事を指摘でもすれば勝てる、か……? いや無理だなぁ。

 というかそもそも、だ。

 

「わざわざ僕のためにトレイニングまでして……?」

「いや、生身で首根っこ掴んでいったが」

「どういうことなの……」

「俺だって知りてぇよ。ただ全体的にサイクロのトレイナーはなんか人間やめてる奴らが多い気がするんだよな。バランスの奴らは莫迦力だし、パレイユには容姿端麗なやつしか居ねぇけど」

「それ言ったらノーヴルだって皆足が速いじゃないですか」

「ロケットのスタミナだって異常だろうが」

 

 ただ単純にJRNに入る段階やスクールでの適正検査と派閥振りでそういう傾向が出るように仕向けられてるだけな気がしてきたぞ。まぁこの領域はどっちにしろサイクロのだから、直接彼らに聞いてみれば案外既に答えが出ていそうな気はしないでもないけれど。

 

 そんな話をしながら、ラボの前にたどり着くと、一度息を整えて再びのトレイニングをして、13時29分30秒、つまり午後の活動を始める30秒前に僕達はラボの扉を開け――

 

 ――そして、飛びかかってきたポラリスをサイドステップで躱しながら入室した。

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