ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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14レ中:ボタンが押ささってしまってね

「ねぇポラリス」

「やだ」

「まだ何も言ってないんだけど?」

 

 ポラリスは僕の腕を抱きしめながら、満足げな声色で拒否した。

 ……どうしてこうなっちゃったかなぁ?

 ちらり。ふたりの方を見る。

 

「山根」

「成岩さん」

「……お幸せに!」

「成岩さん?」

 

 あっだめだ。この人この状況を楽しんでやがる。

 あとはベーテクさんだけど……あれ、見当たらない。どこ消えたんだ?

 そう思って首を回した瞬間、ガコンと僕とポラリスを隔てるケージが上がった。そして、操作部から探していた声が聞こえる。

 

「いや凄いねぇ山根くん。これ、今朝ここに持ってきて組み立てたんだろう?」

「あの、ベーテクさぐぼぉ」

「ぎゅーっ」

 

 腕に纏わりつく感覚が消えると共に、胴になにかが巻き付く感覚に襲われる。何が起きたのかは見なくてもわかる。

 しかしまぁ、力が強い。痛い。ポラリスも本当にノリモンなんだなぁなどと関心している場合ではなく、下手したら肋骨がやられる。というか現在進行系で肺や横隔膜が圧迫されてうまく声が出せない。窒息する。

 ならば一旦この場でトレイニングを……駄目だ、チッキケースの上から貼り付かれてしまってチッキを取り出せない。

 あれ、もしかして詰んでる?

 

「こらポラリス、力を入れ過ぎだよ。山根くんはヒトなんだから壊れちゃうよ」

「え? あ、ごめん真也」

 

 ベーテクさんの言葉で力が弱まり、肺に空気が戻る。た、助かった……。

 

「なんでケージを上げたんですか、ベーテクさん……」

「いやごめんよ、中が気になって入ったらボタンが押ささってしまってね」

「勝手に入らないでくださいよ……」

 

 そもそも手を捕まえられた時点であのまま膠着状態になりそうな気はしてしまったので、ある意味で助かったと言えなくはないけど、その結果窒息しそうになるのはとてもつらい。

 もう捕まってしまったものはしょうがないので、とりあえず今からできることを考えるか。

 

「ねぇポラリ」

「やだ! ぎゅーってしてたいの!」

「まだ何も言ってないよ?」

 

 このやり取りさっきもしたな?

 仕方ない、真横から抱きつかれてるとめちゃくちゃ動きにくいけど装置を解体するか……。

 

 そうして1時間強かけて撤収作業を終わらせ、部品を全てスーツケースに戻した頃には時計は8時45分を指していた。

 

「間に合うもんだねぇ」

「間に合わせましたとも。……ポラリスはどうしましょうか」

 

 ポラリスは気がついたらひっついたまま眠っていた。思いっきり解体作業していた横でよく眠れるなぁ……。

 さて、どうするかな。これから実験がある訳だけど、流石にこの状態で高速走行できる勇気や技術は僕にはない。せめて背中にひっついてくれていれば大丈夫だったのに。

 

「今朝だって僕が目覚めるはるか前から起きていたようだからねぇ」

 

 ベーテクさんから追加の情報が投下された。つまり何、今寝てるのはただ単に寝不足ってことなのか?

 だとしたら起こすのは忍びないというか……いや、でもだ。

 

「なんでそんな朝早くに起きてるんです……?」

「それだけ君への想いが強かったってことじゃないの」

「投げやりですね、あなたはそれでいいんですか?」

「君はポラリスを故意に傷つけられるヒトではないだろう?」

「他者を故意に害そうと思う人なんてそうそういませんって……」

「そういうところだよ、僕が安心しているのはね。事実今だって自分の心配より先に僕の心配を口に出しているね」

 

 ダメ元でそこで止めてくれることを期待しただけなんだけどね。そう捉えられちゃうか。僕は思われているほど善良な人間じゃないと思うよ。

 

「で、どうしましょうかねこの子。力込めたまんま寝てるせいでうまく剥がせないんですけど」

「起こそうか?」

「起きたところで離れてくれるんですかね」

「流石に離れてくれなかったら僕も怒るよ、実験にならないもん。……いや、こうしよう」

 

 そう言うとベーテクさんは眠ったまんまのポラリスを強引に引き剥がした。それができるんだったら最初からやってほしかったんだけどなぁ。

 ……無理か。ポラリス起きてたし。

 

 僕から引き剥がされたポラリスは、人の気も知らずに気持ちよさそうな寝顔でスヤスヤと眠っている。

 なんかまだ朝なのに疲れがどっと出てきたような気がする。気がするだけで体は元気だけど、逆にそれがかえって脳味噌を疲れさせている。

 

「一応ポラリスにも走ってもらうつもりだったから起こそうかね」

「そうしますか」

 

 そうして立ち上がってポラリスの方へ向かおうとしたとき、服の裾を誰かに引っ張られてる。見れば、ベーテクさんだった。

 

「いや、君は一旦外に出ておいた方がいいかもしれないよ」

「どうしてです?」

「わかるだろう? ポラリスを剥がしたんだから。落ち着いたら呼ぶよ」

 

 あぁ、確かにその場に僕が居合わせていたら何されるか予想できない。お言葉に甘えてベーテクさんがポラリスを起こすまでの間、一旦ラボの外に退避した。

 腕を伸ばしたり、巻き付かれていた左の脇腹を伸ばしたりして軽くストレッチをする。だいぶ無茶な姿勢をしていたようで、まだ朝なのに伸ばした脇腹が相当痛気持ちいい。

 

「朝から何してるんデース?」

「おはようアドパスさん、いろいろあったんですよ」

「いろいろ……? まだ朝デースよ?」

「金曜のことと、ポラリスといえば納得してもらえますかね」

「……お疲れ様デース」

「ベーテクさんには許可もらって外出てるので、中に入ってもここにいることは喋らないでもらえると助かります」

「わかりマシタ」

 

 出勤してきたアドパスさんにも口封じを頼んで、体の中に変な力がかかっている場所がないかを入念に確認する。

 

 ……これ今日の実験、まともに走れるかなぁ?

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