ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

47 / 306
15レ②:びゅわんびゅわんとレールを駆ける

 加速の強烈な成岩さんは、僅か1周回で既にトップスピードまで達したのか2周まわると今度は恐ろしいまでの急ブレーキをかけて、ちょうど僕の前に停まった。

 これはこの前ベーテクさんのラボに顔を出していたコダマさんから聞いた話だけれど、加減速に関して言えば、どうも生粋のノリモンよりもトレイナーの方が鋭い傾向にあるのだとか。だから走りを極めるノリモンの中には車輪を脱いでランニングする者も少なくないらしい。やってること自体は正反対だけど、トレイナーズスクールの人たちが車輪を長く履くのと感覚は同じだと思う。

 そんなことを考えていると、停止後の軽い検査を終えたのだろう、ようやく成岩さんがレールをはなれる。そして彼からいくつかの小型の測定用センサを受け取って体に取り付けて、軽く体を動かしてその影響を見る。

 ……うん、大丈夫そうだな。

 

「いつでも出れます」

「よし。じゃあ俺からコアにいるベーテクの準備を確認しだい合図を出すから、それで走り出してくれ」

 

 周回する軌道に入線して、体を大きく前に倒して左後ろからの出発合図を待つ。そして永遠とも思われるほどの僅かな間を置いて。

 

 長く一回、ブザー音が響いた。

 

 レールを斜めに蹴りながら、反対の車輪で前への動きに変える。そしてさらに車輪を回して、スピードをどんどんと上げていく。足元の主電動機(モーター)がぐうぅっと唸っている。

 ラチ内の周回軌道のレールは、曲率が一定のカーブだ。足の動きを変える必要は無いので、スピードを上げると外側に体が引っ張られること以外は、見た目に反してほとんど直線を走り続けているようなもの。正直、これより大きな曲線でも直線や逆向きの曲線が混じっている方がはるかに面倒くさい。

 だからこそ、この走行ではそんなにフォームが崩れることはない。

 

(まだ、いける……!)

 

 いま走っている曲線半径が1200メートルでカントのないカーブは、ロケットでは適正な最高速度として250キロメートル毎時が設定されている。そして僕はそのスピードを今、半周弱回って超えた。足元の音も、わんわんと高い音を奏でている。

 ノーヴルの経験値では、普通に立って走る場合はカント抜きでは曲線半径の平方根の10倍の数字キロメートル毎時までならギリギリ速度を出せるのだという。これをこの半径1200に当てはめると、およそ350キロメートル毎時弱。そこから姿勢制御で重心を内側に寄せたり下げたりすれば、出せる速度もさらに上がっていく。

 そしてそれこそがこの実験の意図の1つだと、僕は解釈している。1200だと現状僕の出せる最高速度程度ならちょっと工夫するだけで出せてしまうし、それじゃ実験にはならないと思う。だからこの後はきっと内側の軌道を走ったりすると予想する。

 

 閑話休題。

 

 体を少しだけ内に傾けて、そしてちょうど1周ほどまわったところで僕の加速度は0へと漸く近づく。その速度、おそらく430強で、びゅわんびゅわんとレールを駆ける。この速度なら、2周目終わりまでに減速は間に合うはず。停まる準備をのために、一度ノッチを落とす。主電動機の唸りが消え、そこに流れる音は風を切る……いや、そこにある空気の塊を断ち裂く音のみとなった。

 惰行運転に入って少し余裕ができたので、ちらりと左を見れば、ラッチのコア部に3つの人影。こちらからはどれが誰なのかは判別できないけれど、スコープを覗く向こうからは見えているはずなので手を振っておこう。

 

 そして、残りが半周強となった位置から、ブレーキをかけ始める。この速度なら、およそ4km弱もあれば停まれるはずだから。

 再び主電動機がうぉぉぉんと唸りを上げて、今度は逆に僕の運動エネルギーを奪う(回生ブレーキがかかる)。アンチジャイロを作動させてなお前へとつんのめりそうになる体を強引に後ろに強く引っ張って、確かにレールに喰らいつく。

 

 そして、ラッチコアから出てきていたアドパスさんの目の前、ちょうど僕が走り出した場所が近づいてきて。でもこのまんまの減速度では通り過ぎてしまう速度だ。だけれどその絶対値は既にかなり落ちてきているので、ここでブレーキシューを押しつけ(空気ブレーキを込め)て調節すれば、ほら。

 キキキキキィーッとけたたましい音を立てて、速度がさらに鋭く落ちて。でも、このままだと逆に手前に停まってしまうから、残りの距離と今の減速の感覚と速度から少しブレーキを緩める。そしてぴたりと、車輪の転がりがなくなった。

 

「……停止位置、よし」

 

 その場所は、アドパスさんの目の前で、そしてちょうど僕が走り出した場所。そうなるようにブレーキを調節したんだから当たり前だけど、その誤差は数センチメートルもない。

 

「エークセレン!」

「ラチ内は雨も降らないし風もないですからね」

「それでもピッタリじゃないデスか」

 

 これくらいはできないとってロケットでは教わっているけど、話を聞けばどうもノーヴルではそうでもないらしい。なんでもオーバーランは厳禁だけど手前に停まる分には1メートル以内程度なら許される空気なのだとか。

 でも、確かに手前に停まってしまうならわざと緩めて調節すれば比較的簡単に所定位置に停止するよう調整するのは難しくない。それに逆にどうにもならないオーバーランが厳禁な事を考えると案外理にかなっているのかもしれないなぁ。

 

 そんなことを考えながら、僕は測定センサを取り外してアドパスさんに渡した。彼女はそれを取り付けて、僕と入れ替わりに入線する。そしてコアのベーテクさんからの準備が整った旨の合図(発光信号)を見てから彼女に出発合図を出せば、彼女は僕ともベーテクさんとも異なった走り方で動き出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。