ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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15レ④:こんな綺麗なデータが出るものなんですか?

「さて、ここに4つのデータがあるわけだけど、どれから見たいかい?」

 

 午後、ベーテクさんのラボに戻ると、既にもうスクリーンとプロジェクターが準備されていた。

 

「俺はまずは対照的なアドパスのと山根のとの比較がしたい」

「ポラリスも真也の見たいー! キレーだったもん」

「どうして……」

「おやおや、人気だねぇ」

 

 本当になんで僕なんかの走りを気にするんだろうか。やはり僕がロケットで、ノーヴルの走りとは違うからか?

 

「じゃあまずは山根くんのだね。これが6軸センサー*1の生データと、xzの角速度を使ってx軸*2とz軸*3について補正を入れたデータだよ」

「何デスかこれ」

「どういうことだよ……」

「反応ひどくない?」

 

 気持ちは分かるけど。なんせ補正z軸がほとんど0の区間が連続しているし、補正x軸やy軸の加速度もものすごく滑らかだ。これは補正x軸がほぼ僕の加速度を、y軸が遠心力をほぼそのまま出しているということで、実際y軸*4のデータとxyの角速度――真円状の軌道を走っていたので、速度そのものに比例している――のグラフの形がほとんど一緒だ。

 

「こんな綺麗なデータが出るものなんですか?」

「お前が言うな」

「一応鉄道車両そのものだとわりと近いデータにはなると思うよ。だから僕はこのデータは単独じゃデータとしてはそこまで面白いものだとは思わないね。……あ、もちろん山根君を貶してるわけじゃあないよ、むしろこれほど安定した姿勢を維持できるのは素晴らしいという他ない」

 

 ベーテクさんの言わんとしていることはなんとなくだけどわかる。綺麗なデータって「はい仮説通りでしたー!」ってやりたいとき以外は正直掴みどころが少なくて分析しようがないからね……。

 そういう意味では、明らかに分析しがいがありそうなのはアドパスさんの走りだ。

 そう考えていると、ちょうど画面が切り替わってアドパスさんのデータが映し出される。

 

「……あれ、意外」

「何が意外なのかい?」

「あれだけ動いてたのに補正z軸はぜんぜんなんですね」

 

 それにy軸のデータも、美しい正弦波を描いていてこれはこれで綺麗なデータだ。

 そう感心していると、成岩さんから待ったがかかる。

 

「いや、滑らかな線路走ってるんだから補正zはそうそう動かねぇぞ……」

「ちなみにこれが君のデータだよ」

「ガタガタじゃねえか」

 

 成岩さんは崩れ落ちた。

 きれいにオチがついた。成岩さんの補正z軸はガッタガタだ。一応左右の蹴り出しで元に戻っているのか周期性は見て取れるけど、アドパスさんのように正弦波というわけでもない。y軸もまた然り。

 その流れでベーテクさんのデータも見せてもらったけど、これも補正z軸の加速度は変動していた。

 

「さて成岩くぅん。君は山根君とアドパス君のが対照的だと言っていたね?」

「俺が間違ってた。アドパスの走りが一番山根のに近い」

「そう、近いんだよ。じゃあここで当事者である山根くんに聞こうか」

「はい?」

 

 唐突に何ですか?

 

「簡単な質問だよ。君の走りとアドパスくんのの違いがどこだかわかるかい?」

「それは……映像データを確認していいですか」

「もちろんだとも」

 

 自分の走りは見なくてもわかるので、アドパスさんの映像データを見る。横からの撮影なので左右方向は少し見えづらいけれども、よく目を凝らして見ればその奇妙な動きの真実に気がつくことができた。

 

「アドパスさん、もしかして蹴る足の真上まで重心を持ってってます……?」

「That's right」

「なるほど、わかりました」

 

 アドパスさんは体を左右に揺り動かしてはいるけれど、よく見ると胴の部分の角度が変わっていない。事実センサーの値まで戻って確認すれば、彼女の場合でも補正yzの値が、おそらく遠心力の影響程度しか動いていない。

 一方僕も補正yzは似たようなグラフになっているけれど、それは僕がセンサーをつけていた頭部をあまり動かさないように走っていたからだ。そうしないと視界が左右に揺れて前方監視がしにくくなるからこうしているのだけど、揺れてもきちんと確認できるなら確かに揺らしたっていい。

 

「僕はしっかり前を見るために顔を動かさないようにしているのに対して、アドパスさんは足元に力をかけるために体を左右に大きく揺らしている、そういう事ですね?」

 

 そうすれば、一番強く、正確に足元を蹴ることができる。それをやっているんだろう。

 でも、これはバランス感覚がなかったら即座に脱線する諸刃の剣でもある。アドパスさんってそこんところすごいんだな……。

 

「正解だよ。一見エネルギーのロスが大きいように見えるかもしれないけれど、振り子のような単振動って実はきちんと設計して動きさえ決まってしまえばほとんどエネルギーを消費しないで済むんだよね」

 

 なるほど、だから最初っからあんな大きく体を揺らしていたのか。

 そう振り返っていると、ベーテクさんは予想だにしなかった事を言い放った。

 

「だから、君にはこの振り子走法を習得してもらうよ」

「え」

 

 いや、無理だって。そもそもベーテクさん、あなたの走りもそういう走りではないですよね?

 そう問い詰めれば、彼自身自分にはバランス感覚がないから無理だと開き直ってきた。僕だってできないって……。

 

「……ふぅん。言うねぇ、君。頭を固定して走ることができるのにバランス感覚が無いとはねぇ」

「それとこれとは関係ないのでは?」

「大いに関係あるね。大丈夫さ、もし転んだってシールドがあるのだから。それに、さっきも言ったけどアドパスくんの走り方は君の走り方と類似点が大きいんだよ」

 

 あ、これベーテクさんの中では完全に決定事項になっていて、首をタテに振るまで帰してもらえないやつだ……。

*1
3軸の加速度と角速度のセンサー

*2
進行方向

*3
鉛直方向

*4
枕木方向




【キャラクター紹介:#10】
Advanced Passenger
・愛 称:アドパス
・誕生日:6月7日
・出身地:Derbyshire州
・所 属:ノーヴル/JRN/BRRD
国鉄解体のあおりを受けて世界中を放浪し、新小平に流れ着いたノリモン。
本当は新小平ではなく近所の国立でお仕事がしたかったらしいが、たまに共同研究をするので今の境遇にも十分満足している。
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