ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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2レ中:あのね、それは拉致だよ

 成岩さんに連れられて辿り着いた先は、7号館という建物だった。彼は入口脇のリーダにIDカードを読ませて入口を解錠すると、僕を中へと招き入れた。

 

「あの、ここって……」

 

 この7号館は、巷ではノーヴルの城と呼ばれているほどに、ノーヴルのラボが多くある建物だ。

 そしてノーヴルのトレイナーである成岩さんによってここに連れてこられたという事が意味する彼の目的地は、よほどの莫迦でない限り察することができるだろう。

 

「もちろん、俺のいるラボのある建物だが?」

「僕はロケットですよ?」

「ロケット以前に同じJRNで、ウルサ・ユニットのメンバーだろうが。それにな、お前がなんかやらかしたら招き入れた俺が責任を取るだけだから、とりあえず俺についてきな」

 

 そう言うと彼は入口脇の階段を登り始めた。僕もそれに続けていくつか階を上がる。そして薄暗く静かな廊下を進むと、彼は一つの部屋の前で立ちどまると、扉を開けた。

 

「入りな」

 

 その言葉に促され、おそるおそる足を踏み入れると、そこにいたのは白衣を纏い、グレーの縁に緑のつるの眼鏡をかけた若い男だった。

 いや、違う。

 少し目線をずらせば、彼の髪の色が目に入る。それは老人のそれとも異なる異質な白に、前髪だけは深い海のような紺色――つまり、ノリモンだ。

 

「あぁお帰り成岩くん。……で、彼がそうかい?」

「あの電話の後で他に誰を連れてくるんだ?」

「一応の確認に決まっているじゃあないか。おっと、自己紹介が遅れたね。どうもはじめまして、イノベイテックでございます。長い名前なのでみんなからはべーテクと呼ばれているよ」

「はじめまして、僕は山根真也と言います」

「君のことはねぇ、まあ成岩君から聞いてますよ、なんでもスジのいい新人がユニットに入ったとかでねぇ。嬉しそうに話すんだもの」

 

 成岩さんがわざとらしくした咳払いの音が聞こえる。

 その情報を聞かれたくなかったのだろうか?

 

「立ち話もなんだ、奥に入りな」

「ちょっと成岩くん、まだ僕が話してる途中」

「ドアも閉められない状況で長話をするのは普通に近所迷惑だろうが」

 

 これはこれで正論である。

 この廊下、足音ですら結構響いていたし。

 これにはべーテクさんもなにも言い返せなかったようで、無言で僕を招き入れると、長机を4つ並べて一つの大きな机にしてある区画へと案内してくれた。

 

「さて、山根くん。君のこれからのインターンのことだけど」

「ちょっと待って下さい、インターンって一体何です?」

「……おや?」

 

 そんな話はまったく聞いていない。

 そう思って左にいるはずの成岩さんの方を向こうとしたとき、同時に立ち上がったべーテクさんの眼鏡の奥の桃色の目が、比喩ではなく光るのが視界に入った。

 

「おやおやおや? 成岩くぅん? どういうことだい、これは?」

「……俺の独断で、彼を連れてきました」

「事前に本人の同意は取りなさいよ。あのね、それは拉致だよ! なんでそれでいいと思ったんだい? 君は今晩、試作品のテストで武蔵野線一周だよ、いいかい?」

「承知です、備えます」

 

 そう言うと彼は僕を置いて退室してしまった。

 

「すまないねぇ、まさか本人に話しもせずに連れてくるなんて思いもしなくて」

 

 べーテクさんは苦笑いをしながらそう言った。

 でも、普通の感性を持っているなら、何も知らない人を連れてくることを想定しろって方が無理だと思う。

 そしてこれに関して言えば、ホイホイついていった僕も僕で悪い点がなかった訳じゃない。そこは反省すべき点だ。

 

「一応聞いておきますけど、インターンってどんなことをするんですか?」

「まさかとは思うけど、君にその説明すらせずに連れてきたっていうのかい? 逆に君が何を聞かされてるのか気になるじゃないか」

「何一つ聞かされてないです。この後どうせ暇ならついて来い、とだけ」

 

 べーテクさんの苦い顔が、さらに強くなる。

 そして一旦俯いて頭を抱えると、再び顔を上げたときにはニュートラルな顔に戻っていた。

 

「こっちからこんなことを言うのも何だけど、そんななのに話を聞いてくれるのかい?」

「実際ユニット以外でやることがないのは事実ですし……」

「分かったよ。インターンでどんなことをするか、だね? 僕達がねぇやってるのは、理論から実験まで幅広くやってる訳だけど、かんたんに言っちゃうと足し算なんだよ」

「足し算、ですか?」

「うんうん。もうちょっと詳しく言うとねぇ、複数の要素を同時に与える事で起きる事象の研究さ。たとえばだよ、車輛のノリモンやトレイナーが走るとき、足の車輪を回転させる力と、そもそも足を動かして大地を蹴る力が両方はたらいてるじゃない? 一番速く走るのに、それをどうやって組み合わせるのか、とかね」

 

 あれ、なんか意外と普通の研究をやっているぞ。結局は速く走ることの目的に到達するのは流石はノーヴルらしいといえばそうだけど。

 

「理論の構築なんかは数か月じゃ無理だから、やってもらうことって言えば実験の補助、たとえば新しく作った試作品に換装して走ってもらったり、あとは計測したデータを分析しやすいように整理をしたりとかだね。一応今すぐにでも受け入れることもできるよ、君が望むならね。どうするかい?」

「……流石に今すぐの決断は難しいので、回答を保留させて頂いて大丈夫ですか?」

「もちろんだとも。連絡先も渡しておこう。期待はしていないけれどもね」

 

 まぁ、正直暇なのは事実だし、お世話になってもいいかな、と考える自分もいる。

 それに、どちらにせよ成岩さんとは同じユニットメンバーなので、彼や彼とトレイニングしているべーテクさんとは、この件がなくとも付き合いが発生することは間違いがない。

 ただ、僕としては自分の持ち合わせているものさしだけでは判断するに至らない、つまりはこういう話をそもそも受けるべきなのかという情報自体を持っていない。とりあえずは、結論を出すのは明日のユニットの定期の集まりで第三者の意見も聞いてからでも遅くはないだろう。

 

 そう考えながら、僕は7号館を後にした。

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