金曜日。今日もまた、ベーテクさんのラボではラチ内の走行試験を行っていた。
今日の主役はなんとポラリスだ。前髪の青いメッシュの両脇に黄緑色が差さり、普段と比べてキリッとしている他、頭の上にはネコミミのような構造物にベントキャップが取り付けられている。ベーテクさんいわく、これはメインエンジンに繋がる給気口らしいんだけど、どう見ても足元に繋がっているようには見えない。
そして、彼女の足元と言えば……まず目を引くのが、その小さな体には似合わぬほどゴツゴツのブーツだ。ベーテクさんのようなロングブーツ程度の丈ならそこそこ見かけなくもないけれど、そもそも足が短いのもあるのだろうが流石に膝を超えてサイハイブーツほどの丈ともなれば珍しいんじゃないだろうか? 特に膝より下なんかは、片側だけでポラリスの胴回りより太いんじゃないかって程に機械が取り付けられている。
そしてこのポラリスの異様な姿に驚愕を覚えているのは、僕だけではなかった。
「マジか……。ベーテクもたいがいゴツいと思ってたけどこりゃ完全にそれ以上だぞ……」
「Wow……」
どうもポラリス、東京に来てからこの姿になった事がないらしく。アドパスさんも成岩さんも初めて見るのだそうだ。
しかしまぁ、世界中を飛び回っていたらしいアドパスさんですらこの驚きようなんだから、ポラリスの姿は本当に異質なのだろう。
「どう? ポラリス、かっこいいでしょ?」
「かっこいいっていうか……」
「凄かったんだな、お前」
「メカメカしくて、ミーはいいと思いマス」
なんだろう、かっこいいとかそういうベクトルじゃなくて、圧巻という言葉が似合うような、そんな風貌だ。普段は可愛らしいのに。これが所謂ギャップ萌えってやつなのだろうか。
「君達、どうしてボケっとしているんだい? これから走るんだぞ?」
「いやベーテク、頼むから脳内を整理する時間くらいよこせや」
「仕方ないねぇ。じゃあ……ポラリス、走ろうかぁ!」
「うん!」
ベーテクさんはそう言うと、ポラリスを引き連れて周回の線路の方へと向かっていってしまった。ポカーンとしていた僕達3人を置いて。
「……何というか、やっぱり自由だなアイツ」
「ベーテクさんは、それができマースから」
「アレか、『真の勝者には、選ぶ権利がある』とか言う奴だろ? 俺達はそのプロセスを真横でずっと見てたから、そうなる努力をずっとやってたのはアドパスも知ってんだろうけどさ、最近はその権利を濫用しすぎじゃねえかな……」
成岩さんは頭を抱えている。彼はベーテクさんがJRNに入った時からずっと側にいた訳だから、色々思うところがあるのだろう。そのかつての努力と、おそらくその頃抑圧されていたさまとを見ているのだから。
「なんか……大変ですね」
「いや、現状被害一番受けてるのお前だからな?」
「えっ」
そうなの?
確かに最近ポラリス周りでいろいろ大変なことになってるけど……。確かにベーテクさんからのアプローチも少なくはなかったけど、どっちかって言うとポラリス本人がヤバすぎてそこまで多いとは感じはしなかった。むしろこの実験の採択みたいに、自由というよりは結構きちんとプロセス踏んでたりもするし。
「お前は知らないだろうが、ベーテクは人に迷惑かけてた時はポラリスであろうと結構きつく叱ってたんだぞ? あの状態のポラリスに注意してないのはかなり大きめの意図を感じた」
「それはもう少し早めに教えてほしかったですね……」
そう知ってたら少し対応変えてたのに。単純にかわいい妹分のポラリスにはめちゃくちゃ甘いだけかと思ってたぞ。
まぁでも、ポラリスまわりの事は結局丸くおさまったんで普通に許してもいいかな……。僕にもたぶんメリット大きい話だからね。
僕が正直にそう話すと、成岩さんは呆れたようにため息をついた。
「お前がそれでいいならいいけどよ、これでポラリスも遠距離型だったとしても知らねぇぞ俺は」
「その時はまたその時ですよ」
どっちにせよ早乙女さん程とは言わないまでも、手札は多いに越したことはない。その時はまた、別のトレイニング先を探すだけだ。もっとも、今はポラリスのことをやらなきゃいけないので他を探している余裕はあんまりなさそうだけどね。
そう思って僕はスコープを覗いてポラリスの方を見た。どうやら800mの軌道をまわるようで、もう既にポラリスは入線しているのが見える。
「カメラを回した方がいいやつですかねこれ」
「それはミーがやっておきマース」
アドパスさんに撮影を任せて、スタート地点に視線を戻すと、ベーテクさんがポラリスの周りを立ち止まりながらも何周かしていた。恐らくその足回りのチェックをポラリスに教えているのだろう、ポラリスも立ち止まったベーテクさんに向けて頷いているのが見える。
そして暫くしてからベーテクさんが少しだけ離れた後。彼がちらりとこっちを見て、そしてそれからまた少し間をおいてから、ついにポラリスが走り出した。
……見ているこっちが、恐ろしくなるような勢いで!
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