「すまんな早乙女。わざわざ受けてもらって」
「いや、私達新人比率が高いウルサとしても、練度の高いドラコとの模擬戦闘はためになる部分が多い」
「そう言ってもらえると助かるが」
地下演習場に展開したラッチの横で、僕達はドラコのメンバーと正対していた。
そのうちの一人――体つき的に、たぶんバランスの、僕と同じ遠距離タイプの攻撃をしてた人だ――が、リーダー同士の話が終わるや否や僕を指差す。
「……この少年が報告にあったクシー号のか」
「僕に何の用です?」
「いや、単純な興味だ。あの時はまだあの冒進と大金星を詳しく知らなかったからな」
「まーぼくは全部見てたんだけどね」
そう話に割り込んできたのは、あの時戦況確認のためにラチ内に残った……確かパレイユの人。
「キミ、うちのリーダーがくたばったらドラコに来る気はない?」
「おい、まだ俺は辞める気はないぞ」
「お断りします」
「アハハ、振られちゃった」
だって僕が入っても絶対足を引っ張るだけだし。新人とはいえ、ウルサですら微妙に半分要介護みたいな扱い受けてるのに。
それに、ウルサの空気はなんだかんだ居心地がいいと感じてるからね。離れるつもりはない。
「私の目の前で堂々と引き抜きを企むとは、君、いい度胸をしているね?」
「へ? いや、社交辞令的なものだって」
「どこに社交辞令で引き抜きかける奴がいるんだ……。早乙女、うちの莫迦が不快にさせてすまんな」
「いいや、君からの謝罪は不要だよ。私にはいくらでも手札があるのでね?」
「早乙女の場合
その言葉とともに、軽口を叩き合っていたドラコの空気が変わって、ピリッとしたものになる。つられて僕達も、僅かに緊張の糸が伸ばされた。
「それじゃ、今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ」
頭を下げ、握手をしてからチッキケースに手をかける。ふと向こうを見れば、ドラコのメンバーはみな左腕につけられた機械のディスプレイをいじっていた。
「あれは……」
「eチッキ。今は実用化に向けた最終調整中のはず」
へえ。名前からなんとなくどんなものかはわかるけど、そんなものまで開発してるんだ。興味はあるけど、とにかく今はそんなものは頭の片隅に投げつけて模擬戦闘だ。
『テステス、こちらドラコロケットよりウルサバランスへ、感度どうですかどうぞ』
『ウルサバランスより、感度良好どうぞ』
『では時計の針が0秒になった瞬間から入場と同時に演習スタートで』
『承知』
無線で始まりの合図が決められた。演習場の時計を見れば、秒針はいま8の文字を回ったところだ。
右手にチッキを構え、時計を凝視する。10をまわり、まもなく11。
5、4、3、2、1、0。
僕達は、一斉にチッキをラッチに押し付けた。派閥の固有色が身体を包み、トレイニングで姿が変わる。
そして入場と同時に入線し、《ハイブリッド・アクセラレーション》で盛大なスタートダッシュをきめた成岩さんに続いてドラコのいるであろう方へと駆け出した。
「いくよ」
僕の直後を走る佐倉さんが得物を構える音がする。ラッチコアはもうすぐそこだ。
そう思ったその時。
急に音がしたかと思えば、空には大きな火の玉が。
進路を周回軌道に変えて大回りして避けるのは簡単だ。だけどそれでは、ドラコが先にラッチコアに到達する。つまり、不利になる。
ならば。
同じ事を考えていたようで、前を走る成岩さんが加速した。僕もそれに続いて、火の玉の真下をくぐる。
だけど、僕の後ろの人の判断は違ったようで。
「なんの、《ストラトス・グレイ》!」
カーン! 鉄と鉄が強く叩きつけられる音がしたかと思えば、真後ろからしていた転がりの音が消えた。
見上げれば、鈍色の風が上空の火球に当たり、僅かに、ほんの僅かに軌道がずれる。でも、これで十分だった。
ちらりと後ろを振り返れば、隣の線路に着地した佐倉さんの反対側にずれた火球が落下する。北澤さんも早乙女さんも、巻き込まれることのない程度にはずれた場所に。
そして、速度を僅かに落とした成岩さんに先導された僕達は、ドラコのメンバーより先にラッチコアに到達した。少しだけ、余裕ができたわけだ。
すると徐に、早乙女さんが僕の前に立つ。
「ドラコの奴らなら、この子だな。……山根君、これがトランジット・トレイニングだ」
早乙女さんがそう言ってチッキを掲げると、その前に現れたのは半透明の改札ゲート。
そして彼はそこに進入すると同時に――改札ゲートに、チッキを投入した。
ガコン。
改札ゲートの扉がしまり、その内側は緑色の光に満たされて早乙女さんを包み込む。
そして、もう一度、ガコン。
扉が開いて出てきた早乙女さんの右半身は、淡いクリーム色に闇夜のような濃紺の意匠が走る。その手の先には、三日月のように反った一本の刀。
「さぁ、始めよう」
ラッチコアのすぐ前まで来ているドラコのメンバーにむけて、早乙女さんはそう発した。