「いきなりトランジットかよ? 早乙女らしいな」
「君達の手の内は十分知っているのでね」
早乙女さんはそう言うと、到着したドラコロケットに一歩踏み込んで刀を振るった。それをドラコロケットは後退して躱す。
だが。
「《金星つばめ返し》」
早乙女さんはさらに踏み込みながら刀を上に振り上げて。ドラコロケットはそれを挟むように受け止めるも、その成功を察知した早乙女さんが振り下げて回避し、一歩引く。
「おっと危ない、その見た目で両刃かよ」
「悪いか?」
「ぜんぜん」
そしてドラコロケットが手を掲げれば、その先に氷の刀身が伸びる。そしてそれを早乙女さんに振り下ろし……。
それを眺めていたとき、何かが左からやってくるのを感じ取って後ろにはねる。僕のいた場所を、一本の槍が通過した。
「ありゃ、よそ見してるかと思ったのに」
「一応ラチ内ですからね」
基本的には風が吹かないからちょっとした空気の流れでも、わりと感じ取りやすいのだ。
「そう。なら、
ドラコパレイユはそう言いながら槍に繋がる紐を手繰り寄せて手元に戻すと同時に距離を詰めると、恐ろしい勢いで突きはじめた。
2つ、4つ、8つ。その突きが途絶えることはない。そのさまはまるで、高速で走る蒸気機関車や気動車のピストン。
――はやい。
飛んだりはねたり伏せたり身体をひねったりして回避するのがやっとだ。
「ほらほらぁ! 早くキミの技を見せてよ」
「そんな余裕はどこにも無いね」
「へぇ。その程度なんだ」
……なんかこの人の口調、気に障るな。
でも、言っていることが事実なのはそうだ。こうやって避けているだけでは、いずれは必ず徐々に不利。だからどうにかしなきゃなんだけど。
考えろ。よく見て、そして、考えろ。
この槍の長さは数メートル。それを前後に単振動させながら、少しずつ位置を変えている。
じゃあ、前後方向に単振動している系を狂わせるのにいちばんいいのは?
――横からの、力!
前に倒れて躱すふりをしながら、その実右足を踏み込んで、そして残された左足を斜めに蹴り上げる!
着地したときのように、鉄輪が何かに当たる感触。驚くような、ドラコパレイユの顔。
そしてその槍は、確かに彼の手を外れて明後日の方向へと!
「……へぇ!」
そう一言だけ発して、彼は槍を伸び切った紐を引いて呼び寄せる。
けれども、彼の元には戻らない。その最中で、僕がそれを掴んでしまったからだ。
「形勢逆転、です」
槍の向きを変えて、今度は僕が突き刺した。
だけども、当然始めて槍を扱うような、完全なる素人の攻撃が通るはずもなく。
「まぁ、63点だね」
ガシリと、僕の攻撃は受け止められてしまった。
でも、この槍をただで返すつもりはさらさらない。強く掴んだまま、手元に手繰り寄せようとする彼と膠着状態になる。
「そうだよね、ただで返してはくれないよね」
「当たり前じゃないですか」
「じゃあ……
何を。
そう言おうとした瞬間、足元がレールを掴む感触が消える。
……浮いている。持ち上げられている。
でも、この手は槍から離さない。
「これが
……しまった!
視界の隅で、火の玉が打ち上げられるのが見える。動けない僕なんてのは、格好の的だ。
でも、この手を離したら、次に待っているのは槍の雨。同じ手は、通用はしないだろう。
どうする?
火の玉が、こちらに向かって動き出すのが見える。バランスの重い攻撃だ、恐らく一発で僕のシールドなんざおしまいだろう。
考えている間にも、それは少しずつ近づいてきて。判断のために残された時間は、あまりにも短かった。
背に腹は変えられない。可能性がわずかでも大きい方にかける。僕は手を緩めた。
――
僕の体は、
ここで車輪を高速で空転させて、槍の先にいるであろうものに押し付ける。そう、ドラコパレイユその人に!
飛び蹴りならぬ、落ち蹴りだ!
喰らえ。そう思って下を見れば、そこには誰もいなかった。ただ槍の柄が地面に刺さっているだけ。
「72点。案内にするって発想はアリだけど、ぼくだってそれくらいは思いつくし、対策はやってる」
慌てて車輪の回転を止めながら、回していない方の足で着地すれば、真後ろからそんな声が聞こえる。
そして体勢を立て直そうとしたその時。
「捕まえた」
ガシリと、僕は羽交い締めにされてしまった。
羽交い締めにしてる以上、1対1なら向こうだって何もできない。でも、他のドラコのメンバーが僕をターゲットにした瞬間、おしまいだ。
周囲を見渡せば、早乙女さんを二人がかりで抑える者と、佐倉さんと剣を交わし続けるもの、リタイアした北澤さんと成岩さん、そしてフリーでこちらを見つめるドラコバランス。
あぁ、僕達の負けだな。そう悟った。