翌日。
ウルサ・ユニットの部室に行くと、成岩さんが愉快なことになっていた。
「つんつん」
「うごぁっ……! おいこら佐倉テメやめろって」
そううめき声を上げながら成岩さんはカーペットの上をのたうち回っている。
なにがあったのかを知っている身としては、正直どう反応するべきか分からない。
……あ。また佐倉さんがふくらはぎをつついてる。
「おはよう山根くん。見慣れないと驚くかもしれないけど、アレはいつものことだから気にしなくて平気よ」
「いつものことなんですか……」
「月に一度はあぁやって死んでるのよね」
ってことは毎月武蔵野線を一周走らされているんだろうか。かわいそうに……。
「山根ー! なんか勘違いしてるようだが毎月走らされてるわけじゃそげぷ」
「つんつーん」
悪魔だ。このユニットには悪魔がいる。
これは止めた方がいいやつなんだろうか。でも北澤さんも放置してるしなぁ……。
そうしてしばらく二人で二人を眺めていると、遅れてやってきた早乙女さんによってそのやりとりは中断させられた。
「そこで死んでる莫迦は置いといて、定例会を始めるぞ」
「莫迦言うな」
「今朝方な、イノベイテック号からメールが届いていたんだ。今日いっぱい使い物にならんかもって、その成り行きから全部報告と謝罪のな。だから言おう、悪気はたぶんないだろうが莫迦だ」
早乙女さんの容赦のない言葉が成岩さんを襲う。
流石に成岩さんもこれには返す言葉を用意できなかったようで、無言で屈伸を数回したあと、体中を小刻みに震わせながら椅子にかけた。見るからにとてもつらそうだ。
「とりあえず報告から。山根君のユニットへの加入が正式に受理されたとの連絡があった。これに伴って、このユニットは全ての派閥に属するトレイナーが再び揃ったことになる」
「ってことは……!」
「あぁ。ウルサ・ユニットの本格的な再始動だ」
JRNの規定では、各ユニットは五つ全ての派閥のトレイナーが所属していなければならない。もちろんこのような規制が敷かれているのには訳がある。シールドだ。
各ユニットは、クィムガンがどの色のシールドを出していても単独で鎮圧できることが求められている。ノリモンはラッチを越えることができないから、それには全ての派閥のトレイナーを集めるのがいちばん手っ取り早いのだ。多くのトレイナーは、そのキャリアを重ねるにつれて別の色のシールドにも対応できる手段を得るのだけれど、たぶんそこまで管理するのがめんどくさいんだと思う。
これは決して名目的なものではなく、実際に各四半期末のチェックで欠員があれば活動は一部制限される。そして連続して3回以上の欠員があったら、そのユニットは強制的に解散となってしまう。実際、毎年少なくない数のユニットがこの取り決めによって解散させられてしまっている。その分、新しいユニットも結成されるので総数はおよそ70程度のまま大きく動くことはないのだが。
僕の入ったウルサ・ユニットも、数ヶ月前に前任のロケットとパレイユのトレイナーが独立してからは、解散の危機が迫っていたらしい。そこで、間もなくトレイナー資格を正式に得る北澤さんや僕を青田買いして接触してきた、というのが僕がこのユニットに入ることになった経緯だ。
「北澤君や山根君にとっては、これから初めての正式なユニット活動に携わることになる。慣れないことも当然たくさんあるだろうが、私達三人で可能な限りサポートしていく」
そう早乙女さんは言うけれど。
うち一人を見る。体中を小刻みに震えさせて痛みに耐えている。
他の一人。その隣で突っついて遊んでいる。いい加減やめてあげようよ……。
「「不安しかない……」」
「あー、気持ちは分かるが二人とも優秀なトレイナーなのは確かだから、その点は安心していいぞ」
「そうだぞ」
そう言って親指を立てる成岩さんの腕はプルプル震えていた。本当に大丈夫?
「それは置いといて、だ。想定よりはやくこれが受理されたから、うちも後期だが夏の合同宿泊研修へ参加できることになった。時間もないので今日中に決めてしまいたいのだが」
「俺は参加しないという選択肢はないと思う」
「私も右に同意します」
「普通に考えて新人の二人の意見を聞きたいってことは分からないか?」
この二人やっぱ駄目では?
まあ、それそうとして。合同宿泊研修か。ユニットに入ってる購買部の先輩達が参加しているのは知っていて、その中で起きた断片的なエピソードとかはいくつか聞いたことがあったけど、そのものが具体的にどういうものなのかはそういえば気にしたことがなかったな。
「その……合同宿泊研修って、何をするの?」
「合宿ってのは、基本的にはユニット対抗戦の連続さ。つってもこの前みたくクィムガン役のノリモンとの模擬戦だけじゃなくて、半分はレクリエーションみたいなもんだ」
つまり残りの半分はガチなやつということだろう。
それにレクリエーションというのも、こういうのはユニット内での団結力を高めるためだとか、そういった理由がつけられていそうな匂いがする。
でも、このユニットでしばらくやっていくことを考えたら、横の連携をうまくできるようにすべきなのは事実だ。参加したほうがいいだろう。
「僕は参加したいです」
「アタシも参加で」
「分かった。じゃあ事務方には参加で話をつけておく。他に議題がある人はいるか? いないなら訓練にしようか。……あ、そうだ、山根君」
事前にグループチャットに貼られた予定表を見て、訓練に向かおうと部室を出ようとする僕を、早乙女さんは呼び止めた。
「はい?」
「君は迷ったときに決断を伸ばす癖がある。悪いとはいわないが、ロケットの者によく見られる傾向だ。だから例えばノーヴルみたいな、決断の早い文化には触れておいたほうが君の為になるはずだよ」
ああ、そうか。
べーテクさんから早乙女さんには話が全部行っていたんだっけか。
「前向きに、検討します」
「ああ。どうするかは君の自由だ」
【キャラクター紹介:#2】
・誕生日:2月22日
・出身地:愛知県
・所 属:ノーヴル/JRNウルサ
・キール:イノベイテック
ウルサ・ユニットに所属する中堅トレイナーで、情報の収集と分析が得意。
いつも忍者装束を纏っているため忍者の末裔ではないかと噂されている。