ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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19レ前:こんなの嘘でしょ……。何故なんですか?

 月曜日。この日僕がベーテクさんのラボでやったことといえば、測定のために必要となる振り子走法の練習だけだった。視界が左右に大きく揺れるのはもっと酷いブラインドランの練習と比べればだいぶマシなので慣れはしてきた。でも、どうにも体のばねというか腱を上手く使う動きには慣れられずに動きがぎこちないままだ。一応、金曜日にあのふたり(お莫迦ども)議論している間(放置プレイ中)に、アドパスさんとポラリスを交えてお互いに走り方を確認していたから、見られなくはない程度までは行っているけれど。

 そして。この日の終わりには、約束されたイベントがある。というかどちらかと言えば僕から約束で縛った方のだ。

 

「……よし、じゃあ今日はここまでにしようか」

 

 ベーテクさんがそう宣言する。ラッチを開けるのを成岩さんに任せて、僕はトレイニングを維持したまま、衝撃に構えようと腰を少し落とし、ギュッと目を瞑って構える。

 ……来るぞ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 あれ、予想していた衝撃が来ない。

 

「真也ー! 何やってるのー?」

 

 おい待てやこら。

 目を開ければ、目の前ではポラリスが首を傾げてこちらを覗き込んでいた。

 なんだろう、この気持ち。急に体の力が抜けて、僕はその場にガコンと座り込んでしまった。なんかもう、緊張の糸がぷつりと切れて、それで支えられていた疲れが一気に襲いかかってくるような感じがする。

 

「僕が山根くんだったとしても、ポラリスには言われたくないねぇ」

「えっお兄ちゃんひどい!」

「いや、だって……ねぇ?」

 

 ベーテクさんも若干引いているし、アドパスさんもあらあらと言わんばかりの目でポラリスを見ている。

 これ、言わなきゃだめか?

 

「ここのところいつも君が飛びついてくるから身構えてたんだって」

「……そっか」

 

 よしよしわかってくれたか。ならよかった。飛びついて来ないんだったら、トレイニングも解いてしまおう。……ぐぇ

 

「つまり、こうしてほしかったってことだよね!」

 

 安心して胸をなでおろし、緊張を解いて力を抜いていたところに、容赦のないポラリスの飛びつきが襲う。どうして。

 

「言ってくれたら、いつでもぎゅーってしてあげたのに」

「違う、そうじゃない。そうじゃないんだってば」

 

 よりによって肘のあたりを腕ごと抱きつかれているせいで、うまく力を込められなくて脱出できない。

 とりあえず、そこで莫迦みたいに笑ってるおふたりさんは後で覚えておいておこうね。

 

 結局ラッチを開けた成岩さんが戻ってくるまで、ずっとこの状態が継続する羽目になった。

 彼はポラリスを取り外しながら、こう聞いてきた。

 

「それで結局どうすんだ。ポラリスとトレイニングすんのか」

「まぁ、約束しましたし」

「やったー!」

 

 実際ポラリスはそれほど困らせるような迷惑はしていない。先週約束してからはアプローチする頻度も激減したし、なおかつ言えばすぐ離してくれるので困るほどではなかったのだ。その毎回が重かった訳とはいえ、僕の手があいているときにしかしてこないし、そもそも一番迷惑だったのは金曜日にふたりだけの世界へと入っていってしまった成岩さんとべーテクさんだったというオチまでついている。

 

「それと比べりゃちょっと飛びついてくるだけのポラリスはかわいいって」

「えっ……」

 

 ……あの、どうしてポラリスは急に顔を赤らめて?

 そう思って数秒後。もはやここが定位置と言わんばかりにポラリスが飛びかかってくる。もうなんか慣れてきたよ……。

 そして成岩さんまで笑うんじゃない。このラボまともな人はいないのか? JRN自体がそうだって? うん、最近僕も否定できる自信がどんどんなくなってきてるのが悲しいところだね。

 とりあえず、あそこでゲラゲラ笑ってるだけのひとたちは見てるだけであんまりこの問題の解決には訳立たないことは分かったので、僕だけで解決しないと。

 

「ポラリス」

「えへへ、なぁに?」

「約束だよ、しようか、トレイニング」

「……うん!」

 

 いい返事だ。その勢いで離れてくれると嬉しいんだけど。

 そう思った瞬間、僕の体は青い光に包まれた。

 

「……え。ちょっと待って」

 

 流石に今何が起きているのかは理解できる。理解はできるが、どうしてそうなったのかはわからない。

 ……だって、ねぇ。確かに僕はその意志を口に出したし、そうするつもりもあったけど、それは今すぐに、ということではなかった筈なんだけれど。そもそも、なんでもう既にできるようになっているのさ。クシーさんのときはそれでも数ヶ月かかっていたが?

 そう頭の中を高速で次々と勢いよく疑問符が飛び交う。

 

「えへへ、お揃いだね!」

 

 そしてこの、ポラリスの呼びかけが聞こえてはじめて、僕はその光が晴れたことに気がついた。遠くでこちらを見て笑っていた顔がうってかわって真顔になっているのが見える。そりゃそうだろう。

 何せ腕や足元を見れば、初めて見る色と形。特に足回りの機械なんかは、クシーさんとのそれより遥かに大きい。そして検査用の手鏡で頭を見れば、銀色の髪に青と緑のメッシュ。

 

「こんなの嘘でしょ……。何故なんですか?」

 

 僕とポラリスはどうやら、既にトレイニングすることができる域まで達してしまっていたようだった。

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