ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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19レ中:たぶんまともに走れないと思いますよ

 ノリモンとトレイナーの関係は、時代や技術の進化、事実の判明とともに変化してきた。

 ……(略)……

 そんなトレイナーの存在意義が脅かされ始めたのは、解体された輸送具からのノリモノイドの分離・発生が確認された頃だった。輸送具の近傍から離れても活動が可能であるノリモノイドは、トレイナーの役割を犯し始めた。当時はノリモノイドの発生要件が不詳であり、その絶対数も少なかったため、かろうじて継続してトレイナーも対応の核の1つであり続けた。しかし、ノリモノイドの確認が増えるにつれその意義の消滅は時間の問題であった。

 そのトレイナーに、ノリモノイドとは別の存在意義が生まれたのは、チッキの開発によるところが大きいだろう。単純に輸送具やノリモノイドより遠方においてもトレイニングが可能になり、ノリモノイドと同等の機動性を得られるようになったほか、トランジット・トレイニングが開発されたことがその理由に挙げられる。これが開発されたことにより、従前トレイナーは複数のノリモンと同時にトレイニングすることは能わなかったものが、限定的ではあるが同時に並行して複数のノリモンの力を纏うことができるようになったのである。また、状況に応じてどのノリモンの力を纏うのかを選択することが容易となり、対応の柔軟性という面ではトレイナーが圧倒的に優位となった。

 

   ――『日本ノリモン研究開発機構五十年史』より

 

 ★

 

「なんでトレイニングできるんだよ」

「わかりません! こっちが聞きたい」

 

 僕だって、流石にこれは想定していなかったぞ。

 目の前のポラリスはなぜか得意気で、自信満々で恍惚として目を輝かせているけれど、多分彼女の場合は無知なだけだろう。

 となるとこれを予想してそうなのは。

 

「ベーテクさん、どういうことですかねこれは」

「僕だってね、分からないんだよ。君へのアプローチが激しくなってからここまでが3週間だろう? だから僕の考えでは早ければ再来週中、最速だと来週の金曜までは早まるかもしれないとは考えてはいたよ。でもねぇ、流石に想定すらできる訳がないでしょうよ、今日この場でされるだなんてのはねぇ」

 

 ……べーテクさんのもともとの想定もだいぶ期間が短いような気もするけれど。でもポラリスはそれを上回ってきたという訳か。だとすると、本当にここにいるひとたちでは理由は誰もわかってないのだろう。

 ……後で鳥満博士に発生した事象自体は報告入れておこうかな。早すぎてまだ測定機器とか手配できてなさそうだけど、そこはほら、多分向こうから日付の案を出してくる段階で調整が入る……と思う。測定をまた後回しにして話だけ聞きたいとかは……なんか普通にありそうだな。あの博士の目はそんなアトモスフィアを纏っていたし。

 

「それで……今日はどうすればいいと思います?」

「こう普通にやってトレイニングできているのだろう? なら金曜日も朝から普通にできるのではないかい?」

 

 うーん、どうだろうか。これ、いまただ偶然できてしまっただけで再現性が無いやつな気はしなくもないんだけれど。

 ……再現性、無いよね? だとしたら、今できることを少しはやった方がいいような気はしなくもないんだけど。

 そう悩んでいると、成岩さんが1つ、提案をしてきた。

 

「……そんなに走りてえならラッチ張るぞ?」

「走りたい? 僕が?」

「顔にそう書いてある」

 

 どうしよう。走りたいか走りたくないかと言われれば……正直、走ってみたい。

 程久保が言っていた。ヒトという生物は、どこか遠くへと動き続けることで生存競争を生き抜いてきた獣なのだと。そしてその2つの重要な要素として、スピードとスタミナに憧れを持ち、それらを求める。それこそがヒトの本能なのだと。つまり本来ロケットである僕にだって、ノーヴルと同じようにスピードを求める心があってもおかしくはない。

 そして今、僕がトレイニングをしたポラリスは、金曜日に圧倒的な走行を魅せてくれたノリモンだ。その力を纏っているのだ。

 

「確かに、この状態で走ってどうなるのかに興味がないと言えば、それは嘘ですけど」

「あーごちゃごちゃうるせぇ。走りたいか、走りたくないかで言えば走りたいんだろ?」

 

 成岩さんはそう言うと僕達を囲んでラッチを張った。水色の壁が、僕達を外界と隔てる。

 

「強引だねぇ、成岩くんも。あれは絶対自分が見たいだけだよ」

「べーテクさんからも何か言ってやってくださいよ……」

「いや。僕も彼と同じで、ポラリスとトレイニングした君が走るのを見たいからね」

 

 さいですか。そういやべーテクさんもそんな感じのひとだった。

 だけど、ねぇ……。

 

「最初に言っておきますけど、たぶんまともに走れないと思いますよ」

「大袈裟だね君は」

「いや、クシーさんと初めて走ったときはそりゃあもう酷いことになったので」

 

 あの時は大変だった。力の入れ方がよくわからなくて力んだらなんかのスイッチが入って急に加速したり、逆になかなかブレーキをかけられなかったりと、まともに走れなかったのだ。なんならクシーさんは完全にその姿になったときからの感覚でもって制御できてしまえていたから、挙動が変になった理由をつきとめるのにも時間がかかった。

 しかもその時は、トレイニングしてからしばらくは線路の上には立たず、固定されていた円盤を回すなどして何度も足回りの動かし方などをチェックしてからでそうなったのだ。それに対して今日はまだ、足回りを動かしてすらいない。

 流石にトレイニング自体に慣れた今となっては、そこまで酷いことにはならないとは思うんだけど、正直初めてゆえに何が起こるか分からない。

 

 さて、どうなるのやら。そう思いながら、遅れてラッチに入場してきた成岩さんが到着したのと入れ替わりに、僕は入線して軌道の上に立った。

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