「それじゃ、行ってきます」
まずは慣らしとして、脚を動かさずに足回りの力だけでラッチの際まで走ってみる。
ノッチを入れれば、足元からはやや高めの音が響く。流石はVVVFと三相交流モーターの駆動で、加速力は良好だ。
……あれ? ふと耳元に手をかける。
なら他に空気を使いそうなものと言えば……なんだろう? そう考えている間に、速度がおよそ45キロ毎時ほどに達して足元の
……あれ、エンジン?
『ありゃ《ハイブリッド・アクセラレーション》を使ってるな』
ふと、成岩さんの言葉が脳裏に浮かぶ。そうか、
でも、妙だ。気動車や自動車、船舶のような内燃機関を持ってるノリモンだって他にもいるけど、かれらの給気口は普通に足元についている。そして、きちんと足元を確認すれば、ここにもきちんと給気口が認められた。なら内燃機関じゃないな?
そんなことを考えていると、ラッチの壁が近づいてくる。考え事はとりあえず後にして止まらないと。
ブレーキかどれだけ効くかもわからないので、早めに回生ブレーキを作動させてみる。それと同時にエンジンを止めれば、ギアを通じて自動的にエンジンブレーキも作動する。
すると速度は、クシーさんのときの倍近い速さで落ちていく。よく考えたらこのふたり、年が半世紀近く離れているんだよなぁ。加速の時も思ったけれど、その間の技術の進歩ってここまで残酷に出てしまうものなのか……。
でも、その技術的な差が出るのは基本的にはこういった基礎的な運動能力だけで、クィムガンとやり合う力なんかは逆に経験年数が長い方が強い傾向にあるから、総合的にはあんまり年とは相関がないのがノリモンの面白いところだ。
閑話休題。
速度が50程まで落ちてきたところで最後に使うのは、結局はおなじみの空気ブレーキ。回生ブレーキもエンジンブレーキも、速度が一桁になる頃にはほとんど効かなくなってしまうので、最後はこれに頼るほかないのである。……ブレーキシューを押し付けても焦げ臭い匂いはしないし、たぶんもういい加減使い慣れてきた鋳鉄のブレーキシューだと思う。ならば好都合、この制御はもうだいぶ自在に操れるようになっているから。
そうして間もなく、僕の速度は落ちきった。ラッチの壁はまだだいぶ遠いところにある。予想していたよりも遥かに手前で速度が落ちきってしまったんだ。
でも、これで減速特性は
……よし。じゃあ帰りは、脚を動かさないのは同じだけど、このブレーキをギリギリまで切り詰めてみよう。
そうしてラッチコアまで戻ってみれば、そこではべーテクさんとポラリスが大変目をキラキラと輝かせて待っていた。
「すごい、走ってた。ポラリスの足で、真也が走ってた!」
ポラリスは興奮冷めやらぬ様子で半分叫ぶようにそう言う。モヤイで繋がっているからだろうか、なんだかこの様子を見ているだけで僕まで嬉しくなってくるような気がする。
「ねぇ、どうだった? ポラリスの、足!」
「すごく快適だったよ、ノッチも、ブレーキも。それに、とても強かで、いい足だと思う」
そう伝えると、ポラリスはまるで力強く動かしている時のエンジンのように小刻みに震えだした。そして数秒して、
「やったー! お兄ちゃん、聞いたよね、真也がポラリスの足で走って、それでとーってもいい足だって!」
と、大はしゃぎで飛び跳ねる。べーテクさんはそんな彼女を優しく受け止めて、「良かったねぇ」と涙を流していた。
……このふたり、少し大袈裟すぎるんじゃないだろうか? クシーさんのときはここまで大騒ぎはされなかったけど。
そう彼らを眺めていれば、ポンポンと背中を叩かれる。成岩さんだ。
「べーテクには走れないだなんだ言ってたらしいが、結局はきっちり走れてるじゃないか」
「まだ足を動かしてないですし、行きはブレーキのクセを掴めてなかったので思ってたよりだいぶ手前に止まっちゃってましたよ?」
「褒め言葉くらい素直に受け取れよ。それに、数回程度でブレーキのクセを掴めるとでも? べーテクと同じだとしたら、回生失効*1のタイミング毎回違うだろ?」
……え? 回生失効?
そうか、発電ブレーキを積んでるわけじゃないから、回生失効したらモーター使って減速できなくなっちゃうのか。盲点だった。
「その顔は忘れてたって顔だな。で、今回は運良く最後まで効いてたと。俺の経験で言うと、回生失効してエンブレに切り替えるタイミングは毎回変わる」
「エンジンブレーキなら最初から効いてるのでは?」
「ん?」
「え?」
……あれ、成岩さんがポカンとしている。何か変なこと言っちゃったかな。
「まさか、最初っからエンジンブレーキかけてたのか?」
「ギア切り替えなければ勝手に効くじゃないですか」
「タイムアタックしてる訳じゃねーんだぞ……。とりあえず、滅茶苦茶なブレーキングをしてたってことはよく分かった。後でべーテクとも共有しておくから、金曜はそっちになるだろうな」
やっぱりきちんと走れていた訳じゃなかったらしい。なんか逆に安心している自分がいる。
「お手柔らかにお願いします」
「知らん。やるのはべーテクだ」
それから、ポラリス達が落ち着くのを待って、今日の活動はお開きになった。
【おしらせ】
私の現実での多忙度が増しているため、誠に勝手ながらこの第一章が完結次第一度休載を挟ませて頂きます。
遅くとも今年度末までに本格的に連載を再開するまでの間、第二章の序盤は不定期での更新となりますので、予めご了承ください。