「昨晩ドラコからの土曜ののフィードバックが届いていたので先程共有した。今日はこれを元に各自の改善点を洗い出していくぞ。まずは10分くらいで各自軽く目を通す時間を設けよう」
ユニットの朝一のミーティングで、早乙女さんはそう僕達に告げた。
端末に送られてきたフィードバックを見れば、文書のページ数が明らかに多い。土曜日のうちに僕達から送ったやつの倍近い分量だ。
さて、量も多いので、とりあえず自分について書かれているところを探して読む。
1つ目。『なんで自分が不利になる戦場の中心部にノコノコと入っていったのかがわからない』。……うーん、事実だけど、これは近くに寄れという早乙女さんの指示があってのことだったからなぁ。
2つ目。『回避行動は素晴らしい動きではあるが、足元がお留守になっていたのが気になった。槍の場合、直進性の高い攻撃であるゆえ横に逃げられると追撃がしんどいので、そうすべきだったと考える』。これは素直に僕の経験が無くて、車から逃げる鹿のように横に逃げればいいことに気付かなかっただけだ。
こんな感じで、僕個人に関する言及は全体で13個。どうしてこんなに詳細に書けるのかとも思ったけど、どうやらユニットの中にキールが検測車のトレイナーがいて、それとeチッキのカメラ機能とを合わせて全体で動画を撮影していた、としれっとすごいことが書いてある。なにそれとても見てみたい。
「あの、リーダー」
「何かい」
「この動画って届いてたりは」
「残念ながら、ね。私だって機会があれば見てみたいとは思うが」
同じ事を考えていたのか、北澤さんがそう尋ねるも、答えは否。まぁこういうのに限って単純にファイルサイズがめちゃくちゃ大きくて添付できないだとか、案外そういう理由なのかもしれない。けれど、どちらにせよ映像データはないからこの文書から読み解くしかないのだ。
そうして一通り読み終えた後、早乙女さんが口を開いた
「個人で言われているのは、各自自主トレに組み込んでもらうとして、全体のを確認しようか。ちょくちょく言われているのが、現場での役割分担を明確にせよというところだな。現状私と佐倉君とで役割が多少被っているし、それに加えて北澤君も同じ方向に進みそうな気がある」
「確かに、遠藤さんの後釜にゃ山根がすっぽり入ったが、中野さんと北澤とじゃ結構立ち位置変わってるな」
遠藤さんが前のパレイユで銃使いのキール、中野さんは前のロケットで炎使いのキール、だったっけ。直接会ったのは数回だけだし、一緒にラチ内に入ったことなんてのは一度たりとも無いけれど、活動報告の記録を見た限りではそうだったはず。
「なんか、ごめんなさい」
「いいや、北澤君が謝る事ではない。我々とて最も得意とする立ち位置にいるに過ぎないからな。」
ここで言う立ち位置とは、近接する前衛、ミッドレンジの中衛、遠距離から殴る後衛、そして全体を補助する斥候の遊撃の事だ。基本的にはこの4つの役割が分担しながらクィムガンの対応をするのが良いといわれている。いまのウルサだと、後衛の僕と遊撃の成岩さん以外が全員前衛にいる形で、しかも遊撃の成岩さんがどちらかというと近接戦闘に長けている方なので、まぁ全体的に前のめりでバランスはよくないよねってことを言われているのだと思う。
……もしかしなくても、僕が正式に入る前の演習とかって全員前衛でやってたんじゃないだろうか? 教える側は確かに楽だろうけど。
「そもそもとして、組む味方や相手によって自らの立ち位置を変えられなければ、一流のトレイナーと呼ぶことはできない」
「全部の立ち位置に立てる変幻自在な変態はJRNでもリーダー含めて数人しかいねーけどな」
「昔は引き出しの多さが武器だっただけの話だよ」
引き出しの多さ、つまりトランジット・トレイニングの先か。
……ポラリス、後衛向きじゃなければいいなぁ。べーテクさんの妹分とはいえ、同じ形式の中でも兄弟姉妹で派閥からして割れてしまっている例はごまんとあるから、彼と同じように遊撃向けとは限らない。
「話を戻そう。新人の北澤君は前衛のままとして、私か佐倉君か、どちらかが中衛に下がるのが理想的だが」
「下がるならリーダーの方がいいんじゃねぇのか。佐倉と北澤は二人の間で訓練とか合わせてたりするんだろ?」
「なぜあなたが知ってる」
「見りゃ分かるわ、北澤の動き片方落とした時のお前の動きそっくりだぞ」
もしかして割といつも部室に佐倉さんがいたのって、そういう事だったのだろうか? 僕も何度か相談してたし、北澤さんも相談に来ていたとしても不思議じゃない。
……いや、この考え方だと逆か、いつも部室に佐倉さんがいるからこそ北澤さんが頻繁に相談できて、それで動きが似るようになった。
どちらにせよ、割とアクセスしやすい相談相手となる先輩がいるっていうのは、僕達のような新人にはとてもありがたいことだ。
「そうか、なら私が中衛に下がることとしよう」
「いいの?」
「本音を言えば前めに出る方が楽だが、それが新人の仕事を奪いかねないのなら喜んで身を引くよ」
……仕事を奪うって言っても、シールドの各色割らなきゃいけない以上結局は全員殴らなきゃいけないのでは?
そう聞いてみれば、成岩さん曰くトランジットを駆使して全色割れるのが早乙女さんというトレイナーだということで、たぶん彼の性格的に前に出続けていて緑がぜんぜん割られなかったら緑を割りにかかってしまうだろうとの話で。この人ユニット組む必要無いのでは?
「……聞こえているぞ、君達」
「事実だろ?」
「そうだが、これでも流石に新人教育くらいは真面目にやっているつもりなのだがね。そもそもユニット同士の模擬戦の場合は相手のシールドが無色ゆえに干渉するのだぞ。それに、例え有色でも新人のうち
なるほど? それが早乙女さんの教育方針なのか。ということは。
「……つまり、そうしたらそれが新人の卒業って事ですか?」
「ほう? 言うじゃないか。
あ、墓穴を掘ったかもしれない……。