ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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3レ前:来てくれて嬉しいよ

 7号館の入口で、べーテクさんは待ってくれていた。

 

 早乙女さんの助言の後、一晩考えてみた結果として、僕はこのインターンに参加することにした。やはりロケットが特殊な派閥で、他の文化に触れておくことは重要だと思ったのと、JRNも派閥を超えたインターンを慫慂していたことが僕の決定を後押ししたのだ。

 そしてその連絡を入れてから直近のコアタイムに、僕は再びここを訪れたのだった。

 

「待っていたよ山根くん。来てくれて嬉しいよ」

「これからしばらく、お世話になります」

「こちらこそ宜しく頼むよ」

 

 と、いうことでべーテクさんのラボまで来たのだが。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん! トレイナーなんでしょ? ポラリスとトレイニングしよ!」

 

 ラボに入った瞬間、僕を出迎えたのはポラリスと名乗る、小学校高学年から中学生くらいの女の子だった。

 なんでこんな研究機関に女の子が!? という僕の疑問は、彼女の発言内容からすぐに解決した。この子、ノリモンだ。

 

「あっこら! 突然困らせるようなことを言わない!」

 

 少しフリーズしていた僕の横で、べーテクさんは彼女を引き剥がしながら、僕を部屋の奥へと案内してくれた。

 

「あの、べーテクさん、この子は……」

「僕の妹分のようなノリモンだよ」

「はじめまして! ポラリスです!」

 

 なるほど、妹分。

 たしかに、色合いこそ少し違うけれど、シルバーの髪で前髪に青いメッシュが入っているのはどこかべーテクさんと似た印象を与えている。

 それにしても。ここまで幼い姿のノリモンって、初めて会った気がする。ノリモンの外見は人間で言うところの所謂青少年にあたるくらいだといわれているけど、目の前にいるポラリスちゃんはその下限ギリギリくらいだ。

 そんなことを考えていると、この騒ぎを聞きつけたのか、奥からもうひとり、こんどは逆に体の大きな人影が。

 

「その方がインターンのトレイナーさんデスか?」

「あぁアドパスくん、おはよう。お察しの通りさ」

 

 いや、デカい。

 ただでさえ物理的に色々と大きいのに、髪の黄色いインナーカラーがその存在感を更に強調しているようで、それはもう部屋が一回りどころか二回りほど小さくなったんじゃないかと錯覚してしまう。小柄なポラリスちゃんと並ぶと、遠近感がバグって脳が現実のものとしての受け入れを一瞬拒否するレベルだ。

 この凹凸コンビと成岩さんとを合わせた4人でべーテクさん達は研究をしているとのことだった。

 

「そういえば成岩くんはどこだい?」

「まだ倫理研修の最中じゃないデスか?」

「あぁそうだった。タイミングが悪いなぁ……。まぁ彼は知ってるからいいか」

 

 何というか……研修に突っ込まれるスピード感といい、実にノーヴルらしいなぁ。

 噂に聞いていた、ノーヴルの派閥はあまりにも衝動的に突拍子もないことをよくやるので、過ちをおかすことの無いよう倫理に関してはとても厳しいというのは、どうやら本当のことらしい。僕はそもそも実行に移す前にじっくり考えればいいんじゃないかと思うんだけどね。

 

「では改めて紹介しよう。このトレイナーが今日からうちで受け入れることになった山根くんだ」

「山根真也といいます。所属はロケットですが、成岩さんと同じユニットにいる縁でこちらにお世話になることになりました。よろしくおねがいします」

「よろしくね!」

「よろしくデス」

 

 それから僕達はインターンに関わるちょっとした事務的な手続きをしたり、グループチャットの招待を受けたりしてから、早速実験をすることになった。正確に言えば実験をするにあたって必要なデータの収集らしい。

 やってきたのは鉄輪周回試験線という、JRNの施設をぐるりと囲むように敷かれている、一周が3.6kmの線路だ。

 

「早速だけど、僕は君の速さが知りたい。それがわからなきゃ何もできないからね」

「つまり、走れってことですか」

「それ以外に何があるというのかい? トレイニングをして、試験線を5周周ってこの位置で停止だ」

「わかりました」

 

 鉄輪シューズに履き替えて、懐からチッキを取り出して天に掲げる。黄色い光が僕を飲み込んで、次の瞬間黄色い体躯がそこに現れた。

 べーテクさんが体中にセンサーをペタペタと貼り、そこから伸びるケーブルをヘルメットに貼ったアンテナに繋ぐ。これで僕の走行中の情報が随時セルラー通信で送られるらしい。

 そして、僕は実験線に入り、線路に足を乗せた。左に彼の合図をみて、僕は線路を蹴って車輪を回し始める。

 はじめは空転しない程度に太いトルクで車輪を回しながら、すばやくレールを蹴って加速する。そしてスピードに乗ってきたらこんどは車輪の回転速度を徐々に上げつつ、後ろに蹴る足の上に重心を交互に寄せながら力強く踏みしめる。このスピードスケートのような動きが、ノリモンやトレイナーにとって最も効率よく走れるフォームだ。

 そうしてしばらく加速したところで、僕は加速するのをやめて、車輪のノッチを切った。足の動きは速度を落とさない程の度ゆっくりとした動きにかわる。

 

 これ以上僕が速度を出せないという訳では決してない。でも、残念ながら、この試験線は速度を出すのに向いているとはお世辞にも言いがたい。限られたJRNの敷地の中につくられたこの試験線は、曲線半径を300m確保するのがやっとだった。

 遠心力は曲線半径に反比例する。これはどのような物体であっても、曲線半径が小さくなれば小さくなるほど、同じ速度でも横にかかる力が大きくなることを意味する。鉄道の場合、重心からその力と重力の合力が2本の線路の外側に出てしまうと、脱線という重大インシデントの原因となってしまうのだ。

 もちろん、ノリモンやトレイナーでもそれは同じ。鉄道車両と比べれば重心の高さが低いとはいえ、限度というものがある。ゆえに、全速力で走ることは能わないのだ。

 

 そうして実験線を5周周って、開始地点で線路を降りた僕に、べーテクさんは予想だにしなかった言葉を投げかけた。

 

「お疲れ様。事前の予想よりは早いけど、やっぱり、遅かったねぇ」

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