ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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21レ後:凄いんだね、君は

 午後の活動は、昼休みにやっていた成岩さんとべーテクさんの話し合いが少し伸びたため、やや遅れてのスタートとなった。おかげで話は纏まったようだけど。

 せっかくチッキは今朝方バリデーションされてはいたのだが、今回もポラリスの力を纏って走る必要があるため、チッキなしでのトレイニングをして、ラッチに入れてもらう形だ。

 

 さて、近年の輸送具は、高度にプログラム化がされて、運転士があまり操作をしなくても自動でギアの切り替えや、システムの切り替えがされることが多い。これはノリモンになっても原則は変わらないことだけれど、そこに1つだけ大きな違いがある。輸送具の形では、そもそも入力手段がなかったりしてできなかったような動きであっても、ノリモンやトレイナーは意識さえすれば操作してやることが可能なのである。

 どういう事かと言えば、例えばポラリスの場合は、普通に無意識にノッチを入れて走っているとそのプログラムが動いてギアが切り替わったり、エンジンが始動したりする。あるいはブレーキを扱えば、自動で回生ブレーキや空気ブレーキがプログラム通りに作動するのだ。

 このギアやブレーキの切り替えを、ノリモンやトレイナーは()()()()()()()()()意図的に起こすことができる。月曜日に僕が突然エンジンブレーキをかけることができたのも、まだ回生失効していないのに空気ブレーキで強くブレーキをかけられたのも、この性質によるものだ。

 

 して。

 トレイニングをしてからしばらくの走行というのは、まずは自分の手癖で走ってみたり、あえて何も考えずにプログラムに任せて走ったり、あるいは逆にあえて一部の機能だけを使って走ったりして徹底的に自分の体にそのノリモンの全てを覚え込ませる、そういったフェイズになる。クシーさんのときもそうだった。

 つまりは、今からの走行も、そういう目的のものになる。

 

「最初は、r8でいいかい? 3から4周くらいかな、()()()()()()()()()()()走ってみなさいよ」

 

 べーテクさんはそう言う。要するに、車を動かすように、ノッチとブレーキだけを指示して走れ、ということだ。

 そうして走ろうと軌道に入線すると、真後ろにも入線した人影が1つ。……って。

 

「ポラリス!? どうして」

「ついてっちゃ、ダメ?」

「危ないよ、僕がブレーキかけた時とか」

「大丈夫! 真也がどう走ろうとしてるかは()()()から!」

 

 え、モヤイを通じてノッチとかブレーキの状況ってわかるものなの?

 でも、よく考えたらオモテのトランジットでテレパシーできるんだからそれくらいはできてもおかしくないか。

 

「分かった、一緒に走ろう」

「うん!」

「じゃあ、行くよ。3、2、1、デパーチャー」

 

 ノッチを入れる。そして少しして、時速45キロメートルほどでエンジンがかかりだす。ここまでは前に確認した通り。……というか、前回も加速に関してはほとんどぜんぶ身に任せていたから、あの時の速度に到達するまではそうそう変わらないはず。

 そう思ってぐんぐんと加速していた時の事だった。ふと、視界に違和感があるのに気づく。

 ……あれ? ラチ内はカントがないはずなのに、()()()()()()()()()()()()

 体勢を確認する。膝、まっすぐ。腰、まっすぐ。首、まっすぐ。つまり、直立の姿勢だ。僕は今、r800という()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()膝も腰も曲げずに、全く体を傾けない姿勢で走り続けているのだ。にもかかわらず、()()()()()()()()

 なんか変だぞ。そう感じて足元を覗き込めば、違いは目視でもすぐに分かった。

 まず1つ。車輪と靴底の取付角。靴底に大してほぼ直角に取り付けられていたそれが、僅かに曲って僕の体を内側に傾けている。

 そしてもう1つは、外側、つまり右の靴底。その空気バネが膨らんで、右脚を上へとおしあげて、同じように体を内側に傾けている。

 そしてその2つが合わさって、僕の足の裏は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()傾いていたのであった。聞いてないぞこんなの。

 でも、なるほど。耳の吸気口はこれか。確かに、圧縮空気で足の空気バネを動かすならば、エンジンて熱せられていない空気を使いたいから前から吸ってしまうのが効率がいい。1つまた、ポラリスの謎がとけた。どこを空気が通ってるのかは謎だけど……。

 

 体を足の裏が傾けながら速度を上げてゆく。モーターとエンジン、2つの出力がかかるので比較的高速域までそれなりの加速余力はあるけれど、さすがに高速域に足を突っ込むとじりじりと下がっていって、ある程度行ったところでクシーさんのそれと同じくらいまで落ちて来てしまった。

 このくらいでいいかな。そう思ってノッチを切るも、エンジンが止まる気配はない。なるほど、事前に聞かされていた情報通り、充電をしているという訳だ。

 そしてブレーキをかける。最初にかかったのは、意外にも空気ブレーキだった。だけれど、エンジンが止まって回生ブレーキがかかると共に空気ブレーキは一旦緩んで……そして、それがもう一度きつく締まったのは停まった後だった。

 

「ポラリス」

 

 真後ろにいるであろう、彼女に呼びかける。

 

「なぁに、真也」

「凄いんだね、君は」

 

 いろいろ言いたいことはある。でも、これだけで、伝わるはず。

 言葉は帰ってこなかったけど、後ろから腰に巻き付いてきたその手を見て、なんとなく幸せな気持ちになった。

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