「えっと……。それって、どうしても言わなきゃダメ……?」
光が解けて扉が開き、下半身をスタイリッシュな白と青に染めた早乙女さんに、北澤さんがそう問いかけた。
「安心していいぞ、慣れると羞恥心を感じなくなるから」
後ろから成岩さんがそうは言っているけれど、まったくもってそういう問題じゃないと思う。要するに、慣れるまではどうしようもないってことなのだから。
「そもそも、昔と違って今はラッチの中での対応になる。聞かれたところでそこには事情を知るトレイナーかいずれ知る新米トレイナーしかいないではないか」
「……確かに、そっか」
「言われてみれば」
確かに、事情を知らない人に聞かれたらただの痛い人だけど、事情を知ってる人同士ならしょうがないなぁで済む。そう考えると、気持ちはけっこう軽くなった。
そしてそれは、北澤さんも同じだったのだろう。ガコンと、左で扉の閉まる音がした。
「魂に刻まれし山百合の紋章よ、朽ちてなお高貴なるその力を見せよ! スクモ号、このポートに宿れ」
紫色の光が晴れると、北澤さんの左半身が山吹色に変わっている。
「その口上誰が考えたの……」
「うーん、考えたっていうより、スッと頭の中に浮かび上がったというか……」
なにそれこわい。
って事は、もしかして……?
僕は恐る恐るポラリスのチッキを改札機に入れた。後ろの扉が閉まり、青い光が僕の周りを満たす。
それと同時に、何を言えば良いのかが確かに浮かび上がってくる。
僕はそれを、そのまんま口に出した。
「失われし星の輝きよ、果てしなくなつかしい大地に最後の煌きを! ポーラーエクリプス号、このトモに宿れ」
瞬間、足に纏わる感覚が変わる。
そして光が晴れれば、脚部の黄色の走行機器類は、銀色に青と黄緑の線の入った大きなものにかわっていた。上半身はクシーさんののまま。
「おお、これが……」
「なんか、不思議な感じ」
このようにして僕達が少し感動している一方で、早乙女さんは頭を抱えていた。
「準備をしておきなさいと言うのは、資料を読んでおいてほしかったのであって、決して2人してチッキまで用意しておくようにという意味ではなかったのだが……」
「俺だってポラリスが山根にチッキ渡したの今知ったぞ。あいつらが並ぶ時はだいたい側にいたはずなんだが」
「まあいい、想定より早い成長を拒む理由などない。だが2人とも、既にそれらのチッキがあったのならば言いなさい。怒りはしないのだから」
「特にそういう確認もなく始まったので」
「聞かれれば答えない理由はないもんね」
「君達、そういう所なんだがな……」
といってもこのチッキがバリデーションされたのが昨日だもの、言おうと思えば強引にねじ込めたかもしれないけれど、今朝確認されなかったら言うタイミングなんてどこにも無かったのは事実。
あと成岩さんはべーテクさんから聞いてないのだろうか? ……いや、べーテクさんにもよく考えたら言ってなかったな、たぶん既にポラリスが話してると思うけど。
「だから言ったろ、リーダー。こいつ等要領良いって。腐っても二人ともスクールの一昨年卒業の成績上位者なんだぞ」
「腐ってもってなんですか」
「アタシ達ちゃんとしてるよね?」
「お前ら2人してところどころ抜けてるところあるだろ。さっきの報告忘れとかまだバリデーションされてないチッキ突っ込んだみたいに」
いや、今回は本当にタイミングがなかっただけだって……。
そう言っても多分聞いてもらえないので、ぐっとこらえて早乙女さんの出方を窺う。
そして閉じられていた彼の目が再び開いた時、そこには鋭い光が走っていた。
「どうやら、私は君達を過小評価していたかもしれん。念の為、1回この前渡した資料の君達の理解度を測っておこうか。第1問、トランジットした時に、複数の色のシールドを同時に割れるのはどのノリモンに由来するものか。北澤君」
これは簡単だ。一見、トランジットの話題だから4つの中から選びそうになるけれど。
「キールだよね?」
言葉面こそ確認だが、その口調は当然とでも言いたげな、自信に溢れたものだった。
「正解。ではノリモンの機動性に関与するのはどの部位か。山根君」
あの、さっきの質問と比べて答えなきゃいけない量が多い気がするんだけど……?
「一概には言えませんが、大多数はトモで、例外の多くは航空系をはじめとする風力で推進するノリモンの場合。その場合はスターとポートの片方または双方が要求されるものが多い他、場合によってはオモテやトモのノリモンもいる」
航空系のノリモンは割と片肺でも飛行できるのが多いんだけど、バランスを取りにくいからスターとポート双方でのトランジットが推奨されていたはず。中にはトモにエンジン引っ付いてる場合もあるからこればっかりは本当にノリモンによるとしか言いようがないんだけど。
「他にも、リニアモーターを用いる場合は」
「理解していることは分かったからそこまででよい。次、第3問、1枚のチッキでトランジットできる部位数の上限は。北澤君」
「2つ、ただしオモテとトモ、またはスターとポートの組み合わせに限る」
「よし。第4問……」
こんな感じで、僕達は交互に10問ずつ、計20の口頭諮問を全てパスした。どれもあの資料に書いてあった基礎的な事なので間違える要素はなく、全問正答できて当然の問題なので、やる意味があったのかは若干謎だけど。
ただ、口頭諮問を進めていくうちに少しずつ早乙女さんの顔は綻んでいったので、好意的には受け取られてるんだと思う。対称的に成岩さんの顔は引きつっていったけど。
「2人とも、きちんと読んでおいてくれていたようで嬉しいよ。よし、ここからはもう少し踏み込んだ話をしようではないか」
そう、早乙女さんが宣言した時。
コンコンと、部室の扉が叩かれた音が響いた。