成岩さんが扉を開けると、そこにいたのはスカイさんだった。
「ナリタスカイ号か。佐倉君ならそこで寝てるぞ」
「起きてるよ」
「……訂正、さっきまで寝ていた」
「いや、佐倉に用があるわけじゃないし、何なら俺が用事あるわけでもない」
じゃあなんで来たのさ。その旨を言葉に出そうとした時、彼の後ろからまた別の紫が顔を出した。
「「「鳥満博士!?」」」
「ほっほ、久々じゃの。突然の来訪で失礼」
「ご無沙汰しておりますが、何故こちらに?」
やたら丁寧な口調で、早乙女さんが対応に入った。トレイニングしたまんま。
「なに、単純な興味じゃよ。今日は待機と佐倉から聞いとったのでな。仮にお取り込み中なら追い返してもろうて構わんよ」
「まぁ、今朝方考案した予定は完了してしまっていますが」
アレで終わった扱いなんだ……。
そう考えていると、ちょんちょんと肩を叩かれた。入れ替わりにこちらの方に戻ってきた成岩さんだ。
「何です?」
「ちょっと気になっただけだ。北澤と山根、
あ、確かに言われてみればおかしいっちゃおかしいのか。
すると、ヌッと僕達の間に割り入ってくる人影が1つ。噂をすればなんとやらだ。
「御名答、私が紹介した」
「紹介された」
「されました」
「こいつらが妙に早熟なのお前らのせいかよ」
「違う。私は
「悪役のマッドサイエンティストみてーな事言うんじゃねぇ」
悪役かどうかはともかくとして、この組織にいる研究者たちって半分くらいは世間一般的にはマッドサイエンティストの領域に足を踏み入れていないだろうか? ヒトとノリモンの本質的な価値観の違いとかもあるのかもしれないけれど……。
そんなことを考えていると、ふと視界の奥で鳥満博士が手招きしているのが映った。
「呼びましたか」
「ちょうど話を聞こうと思ったところでな。その様子じゃと、だいぶ事態は進展しとるようじゃが」
博士は到着した僕の姿を見ながらそう言う。そういやまだトレイニングを解いてなかった。
トレイニングを解き、手元に2枚のチッキを戻す。そしてうち1枚を机に置いた。
「件のものです」
「これは驚いた、既にここまでとは」
「僕だって予想外です、彼女と始めてトレイニングをしたのがこの前の月曜、このチッキがバリデーションされたのは昨日ですよ」
「昨日だったのか……」
「RTAでもしてんのか?」
気持ちはわかるけど、スカイさんの反応が酷い。それに、仮にそうだったとして走っていたのは僕じゃなくてポラリスの方な気はする。
というのも、あのトレイニング前からベタベタ物理的にくっついてきた奴は、同時に僕にモヤイを繋げようとしていたのではないだろうか? 超次元とはいえ、物理は物理なのだから。昨晩ふと、そんな仮説を思いついたのだ。
この仮説を伝えると、鳥満博士は少し考え込む様子をとった。
「あり得る話じゃろうな。実際、始まりのクィムガンルースの落し子への対応としての史上初めてのトレイニングをT081号としたヒトは、既に長い間共に過ごしていた
「ならば……」
「じゃが、それを考慮しても早いと言える。……ポーラーエクリプス号か、君の見たイメージ通りの名前じゃの」
机に置いた、そのチッキを手に取りながら鳥満博士はそう続けた。
そうか、それでも早いのか……。
「そうじゃな、山根君。修理の手配がつき次第こちらから連絡しよう」
……? あ、検査の話か。
「お待ちしてますよ」
「山根君、何の話をしているんだい?」
「ご安心を、早乙女君。私等とて危害を与えるつもりはない」
「ですから、何の話を」
「少し検査を受けるだけです」
そう伝えると、早乙女さんの顔が急に青くなっていく。
……あれ、なんか変なこと言っちゃったかな。
「山根君。そういう大きなお金の動くことは勝手にだな」
……え? お金?
そういえば確かにその話題にならなかったから気が付かなかったけれど、確かに検査ってお金けっこうかかるじゃん。
気がつけば、僕の顔まで青くなる。
これもしかしてお金払えなかったらサイクロの共有財産にされて死ぬまで変な実験とかにつきあわされちゃったりするやつとかじゃ……?
そうあたふたしている僕の思考は、鳥満博士の咳払いにより中断された。
「あらぬ心配は無用じゃ。私等の興味でやっとるのもある、費用はこちらで持つ」
「博士。お気持ちは嬉しいのですが、何故」
「私が
鳥満博士が笑顔でそう伝えると、早乙女さんは何も言い返せなくなってしまった。
僕も同じように飲まれそうになったけれど、なんとか言葉をひねり出す。
「鳥満博士。とは言いましても、流石にチッキの提供の上、ご相談にも乗っていただいて、その上で……」
「君のデータはそれ自体に価値があると見ておる、それで十分じゃ。じゃが、どうしてもと言うのなら、これから先いくつかの研究の被験者を引き受けてもらえると助かる」
……まぁ、それくらいなら僕にできなくもない。
「僕が危険だと判断したら断っても大丈夫ですか?」
「勿論じゃよ。尤もそのような危険な研究はしとらんがね」
「わかりました、機会があれば連絡を下さい。余裕があれば検討します」
こうしてやや放心している早乙女さんを横に話は丸くおさまって、鳥満博士の僕への案件は終わったのだった。