「おい佐倉、今日博士が来ることいつ知ったんだよ」
「昨日の夕方」
「朝のうちに言えや」
鳥満博士が一通りの要件を終え、復活した早乙女さんから追加でトランジット・トレイニングについてのレクチャーを受けた後。土曜午後のいつものぼんやりタイムに入ってすぐ、成岩さんが佐倉さんを問い詰めた。
「言わない方が面白いと思った」
「は?」
「駄目では?」
「それはないんじゃありませんこと?」
「ひどい」
ひどくない。
満場一致でダメ出しが入った。
流石に「面白い」の一言で済ませていいことじゃないと思う。
「そもそも今日はリーダーからコイツらへのレクチャーの予定だっただろうが」
「早く終わるの、知ってた」
「そうだったな、そういやお前がそう仕向けたんだったな」
……言われてみれば、そうだ。
僕がトランジット・トレイニングを早乙女さんの予定よりかなりの前倒しで行えるようになったのも、半分はポラリスの異常行動のせいだけど、もう半分は佐倉さんが僕にチッキを早い段階で渡していたからこそそれを意識して行動していたのが理由だ。
そして北澤さんにも、どのタイミングかはわからないけどかなり早いタイミングで僕と同じようにアプローチがあったと考えるのが自然。
……あれ、これ僕達佐倉さんというか、鳥満博士の手の上で転がされていたのでは?
「なぁ佐倉。
「それはアタシも気になりますわ」
「聞きたい?」
「僕も知りたいです」
「ん、じゃあせっかくだから」
曰く、北澤さんについては1ヶ月ほど前からサイクロの匂いが残留していたのでサイクロの誰かとトレイニングしていたことを察し、既にチッキを得ていると推測していたらしい。
その話を聞いた北澤さんは若干引いていた。気持ちはわかる。サイクロの匂いって、何……?
「……で、実際のところどうなんだ?」
「スクモ号と御初にトレイニングをしましたのが先月の頭、チッキを頂戴したのが先週のことですの」
「ほぼ読み通りってところか」
えっ怖……。なんでそれでほぼピッタリ当てられるんだ?
「山根は、この前の相談とあの子の襲撃から考えて、そろそろトレイニングしてるかなと」
「チッキは」
「それは想定外」
あ、やっぱりそれは想定外か。
ならばなぜ僕もひっくるめて早く終わると想定していたのかと聞けば、僕は割と部室で資料を漁ってる姿を目撃されていたので事前に早乙女さんが資料渡してるなら読んでいるはずだと推定していたらしい。確かに全部読んだけど、信頼しすぎじゃないだろうか……。
「そんな訳で、二人ともだいぶリーダーの想定より進んでると思ってた」
「お前そこまでわかってたならリーダーに伝えとけば良かったんじゃねーか?」
「面白くない」
佐倉さんはそう一言発した。僕やっぱりこの人マッドサイエンティストの気があると思う。
そして、頭を抱えている成岩さんは突然のこちらに振り向いた。
「あと、そこで関係ない雰囲気出してる2人! 言っておくがお前らも話してねーから同罪だぞ」
「それはあんまりじゃありませんの!?」
「佐倉さんから話行ってると思ってたんですよ」
「典型的な伝達ミスじゃねーか、ホウレンソウって知ってる?」
んなこと言われても。
成岩さんと目線が合う。続けて首を振れば北澤さんと目が合い、続けて2つの目線が佐倉さんに向けられる。
そして、その動きが逆順で戻って成岩さんに視線が向けられると、彼はため息を1つついた。
「……まぁミスを隠してた訳じゃねぇからこの位にしとくけどよ」
「やった」
「いやお前は許さんが? ……そうだ、お前らちょっとこっち来い」
成岩さんは悪い顔をして僕達2人を招き寄せた。
……ごにょごにょごにょごにょ。
なるほど、それは
「なんとなく、そろそろ博士に呼ばれるような気がする」
「いや逃がさねぇけど? 2人とも、かかれー!」
部室の中に、佐倉さんの悲鳴ともとれる奇声が響いた。
★
「やはり、直接動いて検証するほかないのでは?」
漆黒のタキシードに身を包んだノリモンが、これまた漆黒のプリンセスラインのドレスを纏うノリモンにそう話しかけた。
「ジュン、貴方はもう少し落ち着いた方がよろしいのではないか?」
「そう言うシャワァ、お前はやり方が回りくどいじゃないか」
言い争う2人。共に、このシエロエステヤードの四天王に名を連ねる有力なノリモンである。
そして、言い争う2人の間に入るノリモンがまた1人。
「落ち着きなよ、2人とも。今はまだ、その時じゃない。リングとブゥケが情報を集めてる」
「でもスタァ様。俺を引き入れたときからずうっとそれをしてません?」
「そうだけど? ボクは過去に失敗した。その理由が、動き始めてから数年もの時間をかけ過ぎちゃったこと。だから、今回は動き始めたら一気にやるよ。目標は、始めてから1年半。それに」
そう言うと、スタァインザラブは空を見上げた。
一筋の流れ星が、キラリと輝く。
「
「つまり、ついに動き出すんですね」
「うん、もうすぐね。いい知らせが、リングからあったんだよ。……待っててね、姉さん。ボクが必ず助け出すから。そして」
スタァインザラブは、その決意を再び胸にした。
「総てのノリモンに、祝福を」