ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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23レ前:ポラリスに一度見せてやれ

 ポラリスからチッキを渡されてから、およそ半月が経った。

 この間、恐ろしいまでに諸々が順調に事が進み、振り子走法もブラインドランもだいぶ様になってきて、逆に僕のぶれない走法をアドパスさんやポラリスにレクチャーするのも終わりが見えてきた。

 ポラリスとのトレイニングもかなり慣れて、その力を引き出せるようになっている。その間にポラリスもだいぶ落ち着いてきて、飛びかかってくる頻度も日に日に減り、今では1日に1回あるかないか程度だ。

 でも。

 

「なんか最近、刺激がないなぁ」

「それが普通なんだけどな。あんまり刺激ばっかだと疲れちまうぞ」

「でも半月くらい前までそうだったのが、いきなりバタンと何もなくなったら、寂しく感じません?」

「気持ちはわからなくもないが、そろそろ非日常も非日常の夏合宿が近いんだ。ここでそんなの起きたりしたら後々面倒だぞ」

 

 まぁそうなんだけど。

 そんな話をしていると、ちょうど扉が開かれ、ポラリスがラボに入ってきた。ひとりで。

 

「……あれ、べーテクはどうした」

「お兄ちゃんならさっきコダマおじちゃんに捕まったよ」

「山根、お前がそういうこと言うからお望み通り何か起きそうな事態になってんぞ」

 

 成岩さんは頭を抱えながらそう言う。えっ、それ僕のせいなの?

 数分ほど経って、グループチャットにメッセージが届いた

 

『突然で済まないけど、今日の午前いっぱいは僕とアドパスくんはコダマ号と話をしなきゃいけなくなってしまってね。そちらの3人で適当にやっておいて貰えると助かる』

「なーにやってんだあの莫迦野郎!」

「どうします? データ採取で残ってるのって」

「どうするも何もアドパスのなんだから何もできねぇが? 後は……そうだ、こうしよう。よく考えたらだ、お前まだポラリスの前でトランジットはしてねえだろ?」

「そりゃ、その場でポラリスと直接すれば済むのでする意味がなかったじゃないですか」

 

 そもそもトランジット・トレイニングは応用技術。基礎である直接のトレイニングがしっかりできてないと上手に力を引き出せない。だから、しばらくは控えるよう北澤さん共々早乙女さんに言われている。もうそろそろ大丈夫なレベルにまで到達している頃だとは自分では思うけど。

 

「まぁ、今のお前じゃ確かにトランジットじゃポラリスの力を十分に引き出せはしないだろうな」

「じゃあなんでトランジットを?」

「ポラリスに一度見せてやれ、それだけの話だ。呼んでくるから、準備だけしてな」

 

 意図はよくわからないけれど。

 成岩さんがたぶん奥のソファで寝転がっているであろうポラリスを呼んでくるまでの間に、トレイニングして改札機を呼び出しておく。

 ……お、来た来た。

 

「なぁに富貴、面白いものって? ……真也?」

「半分はそうさ。山根、準備はできてるみてぇだな」

「部位は……一番わかりやすいオモテがいいですかね?」

「そうだな」

 

 改札機に入り、ポラリスのチッキを入れる。

 青い光に包まれ、そして。

 

「失われし星の輝きよ、果てしなくなつかしい大地に最後の煌きを! ポーラーエクリプス号、このオモテに宿れ」

 

 光が晴れる。今頃僕の髪の色は、ポラリスと同じような銀色に変わっているのだろう。僕からは見えないけど。

 

「おぉーっ」

 

 ポラリスは双眼をキラキラさせながらこちらを見ている。

 ……まぁ、それだけなんだけど。

 

「ポラリス。率直に聞くぞ、山根を見てどう思った」

「なんか、キラキラしてる」

 

 キラキラ、か。

 なんかよくわからないけど、ポラリスにはこの姿が輝いて見えるらしい。単にトレイニングする瞬間の青い光が残ってるだけじゃないかな。

 

「でも、不思議な感じ! 髪の毛とかはポラリスなのに、体は真也なんだもん」

「この黄色は僕じゃなくてクシーさんなんだけど」

 

 苦笑いをしながらそう返す。

 もっとも、ポラリスと初めて会った時からずっとトレイニングしたらこの姿だったから、僕の姿そのものだと思われてても不思議じゃないか。

 

「それに、かっこよかった」

「……何が?」

「『失われし星の輝きよ、果てしなくなつかしい大地に最後のきらめ、き、を』……」

 

 いやそれは言ってるこっちからすれば羞恥心を羽毛で撫でられてるようなものなんだけど。

 

 そう、口に出そうとしたとき。

 

 突然、ポラリスの足元がふらついた。まるで、全身の力が抜けたかのように。

 すぐさま一歩踏み出して、その体を受け止める。

 

「ポラリス! 大丈夫?」

 

 呼びかけは帰ってこない。かわりに、僕とポラリスを()()()が包んだ。

 そして次の瞬間、耳の横、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おい山根、お前今なにした」

「何もしていない! いきなり、ポラリスが脱力して」

「いや、何かやっただろ。トランジットがトケてるぞ」

 

 えっ。

 そう言われて気がついた。ポラリスの目に反射して写っている髪の色が()()()()()()()()ことに。

 

「どういう、こと……?」

「お前がやったんじゃないのか?」

「やっていません。何も」

「……()()、その言葉を信じよう。だが、どう考えても普通じゃねぇ」

 

 手元にポラリスのチッキが戻る。完全にトレイニングが解けた証拠だ。

 だけど、僕達を包んだ青い光は、今もうっすらとだけどポラリスの周りを覆っている。

 

「何が、起きているんです?」

「解らん。とりあえずお前は奥のソファーにポラリスを寝かせておいてくれ。俺は然るべきところに連絡を入れる」

「わかりました」

 

 奥の部屋にポラリスを寝かせて、毛布を掛ける。

 その手を握っても、それが握り返されることは無かった。

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