「ポラリス! 大丈夫かい! 返事をしておくれよ」
成岩さんが連絡を入れてから、べーテクさんたちが到着するまでそう長く時間はかからなかった。
べーテクさんはポラリスが生まれた時からその存在を気にかけていたノリモンだ。それゆえ、ポラリスが突然倒れたという報せには筆舌に尽くし難い感情があるのだろう。それはさほどふたりとは付き合いが長いというわけではない僕でも、わかるほどのことだ。
僕がそんなべーテクさんに声をかけることができたのは、少し時間を置いてからのことだった。
「べーテクさん……」
「なんだい、山根くん」
「これ、預かっておいて下さい。僕には持っている資格はない」
僕はべーテクさんに、水色の券片を差し出した。これが全てを、狂わせてしまったんだ。僕にはそんな気がしたからだ。
だけど、べーテクさんはそれを拒んだ。
「いいや。君はそれを持ち続けなければならないよ。わかるね?」
「でも」
「それにね、資格があるかないかを決めるのは君じゃあないんだよ」
「どうしてですか。僕がこうしてしまったかもしれないのに、どこに資格があるというんですか」
そう告げると、べーテクさんは1度ポラリスの手を離して背を向け、僕にまっすぐ向き合った。
「ポラリスは、最初っからイレギュラーな存在だったからね。
「どうして」
「僕はね、僕達はね。ポラリスが車だったときから、その存在が世間にどう思われていたかを知っていた。だからこそ、
「考えてやったことじゃないです。むしろ逆に、僕はその時はポラリスの過去は知らなかったし、その発言がそんな意味を持つなんて気づいてすらいなかったんです。そんなの、
「違う! あの日ポラリスは、君に社台の事を話していたんだよねぇ? 君は過去を完全に知らなかった訳じゃない。それを知った上で、ポラリスの気持ちを引き出して、なお肯定してくれた。違うかい?」
べーテクさんは桃色の目を光らせながら、僕にそう迫ってきた。
あぁ、この感覚は。
あの次の日に、べーテクさんが僕をここに呼び出した時のそれと同じだ。
その言葉に飲まれて動けなくなった僕の手元から、彼はチッキを引っ手繰って僕の目前に固定した。
「いいかい、仮にだ。僕はそんなことはないと信じているけれど、本当に君に罪があるというのならば、このチッキは君の背負うべき十字架だよ。それを投げ捨てるなんてことは、この僕が許さないね」
「ポラリスも、真也に持っていてほしい」
ポラリスがそう続けた。
……ん?
僕とべーテクさんは、同時に違和感に気づいた。
「「ポラリス!?」」
「どうしたの、お兄ちゃんに真也。心配そうな顔してる」
そう、きょとんとした顔でこちらを見るポラリスの周りから、青い光は消えていた。
そんなポラリスの体を、べーテクさんは震える手でぺたぺたと触って、異常がないか確認している。
「どうしたも何も、大丈夫なのかい、君は」
「大丈夫……だけど?」
「本当に、何ともないのかい?」
「うん、ポラリスは元気だよ」
「……ポラリス!」
べーテクさんは、普段ポラリスが僕にしているようにポラリスに飛びついた。
……これ、僕はお邪魔かな。
そう思って、僕はラボの小部屋を出た。
ラボのいつものミーティングスペースでは、べーテクさんについてきたのであろう、アドパスさんとコダマさんが、成岩さんと一緒に紅茶を飲んで待っていた。
「山根! ポラリスは」
「目を覚ましました、いまはふたりきりにしておいた方がいいかなと」
「そうか、良かった……」
成岩さんもようやく安心したようで、僕の報告で肩の高さが大きく下に落ちる。
席に掛けると、アドパスさんが追加で紅茶を用意してくれた。
「しかし、こんな様子で本当にべーテクは国外に出ていけるんです? 『ポラリスの成長の為には。いつまでも僕が隣にいる訳にはいかない』なんて言ってましたけど、この騒動見てる限り依存してるのはどっちかといえばべーテクの方ですわ」
「流石に今回みたいに突然意識不明になって倒れることはそうそう無いと思いますよ……」
今までそういう事が一度もなかったか、あるいは頻度が相当低かったからこそ大騒ぎになった訳で、そう考えると今後もそう頻繁に起きはしないと思う。思いたい。
「ま、目ぇ覚ましたんならあとは原因だな。もう一回確認するけどお前に心当たりは無いんだよな?」
「無いですね」
「記憶があるのデシタら、自覚症状聞くのが分かりやすいと思いマスよ」
「そうだな、ふたりが出てくるまで待つか」
それから紅茶を飲んで待っていると、およそ10分ほどして、ふたりは奥の部屋から出てきたのだった。