「さて、べーテク。ちょうどここにコダマ号が来てくれているんだから1つ、話を聞こうじゃないか」
あの気づきの後、5人でしていたポラリスが再び倒れたときの対応策の検討があらかたまとまったころ、成岩さんがふと、そんな口を開いた。
「さっきコダマ号がポロッと溢してたんだが、お前
「コダマ号?」
そういやさっき『国外に出ていける』とか何とか言ってたな。
「お兄ちゃん、遠くに行っちゃうの?」
「はぁ……。いずれ君にはこの出張の話もするつもりだったし、本当はポラリスには出発する月末まで黙っておきたかったんだけどねぇ」
「にしても急すぎるだろうが。お前からその話初めて聞いたのは半月前だぞ」
……え、月末? それはまた、ずいぶん急な話だ。
そして成岩さんに話が行った半月前と言うのは、チッキがバリデーションされたあの日のことだろう。確かにあの前日に成岩さんにもチャット届いてたし、その夜にめちゃくちゃ長電話してたらしいし。
「それは私から答えます。もともとべーテク等にはミッドランドからの打診自体は数年前から来続けていたのよ。それをポラリスの為と何度も蹴り続けてたところに、急に受けてもいいと言い出したのが1ヶ月強前の事なんですわ」
「それで実際にやりとり始めたらトントン拍子で話が纏まってねぇ。先方もこっちでやっていた研究はそっちでも片手間で継続しても構わないと言ってくれているし、遠隔のオンライン対応ではあるけれど君の研究の手伝いだって可能だよ。悪い話じゃないだろう?」
そしてコダマさんとは、出張の間日本に残る成岩さんとポラリスを一時的に預かってもらう調整を本人不在で進めていたらしい。
……あれ?
「あの、僕のインターンは……」
「もちろん問題の出ない方法を確認しているとも。君さえ良ければ、僕が留守にしている数ヶ月の間、ポラリスの面倒を見ておいてもらおうと思っている。それだけでも君の実績としては認められるはずだよ」
「最近はポラリスも落ち着いてきてるから僕はそれでもいいですけど、本当にそれだけで認められるものなんです?」
「JRNのインターン制度の始まり自体が、派閥違いでのトレイニングしたノリモンにトレイナーを充てることなのよ。その上ポラリスはトレイニングが初めてな訳ですから、これで認められないというのならノーヴルのトップたる私からも抗議の声をあげますわ」
あ、それが制度の始まりだったのか。なら多分大丈夫だ。
だけれど、成岩さんはどうも納得していない様子だ。
「いや、そうなら何で今まで断り続けていたのが心変わりしたんだって話になるが」
「僕がこのままポラリスの近くに居続けても、ポラリスの為にならない、そう痛感したからだよ」
べーテクさんはそう答えた。
だけど、成岩さんはそれでも納得しなかった。
それどころかむしろ、その表情には怒りと呆れが宿っていて、そしてべーテクさんの首元を掴み上げた。
「分かった、分かったぞべーテク。ポラリスは俺達で面倒を見るから、お前はミッドランドでもどこでも行ってしまえ!
「落ち着きたまえ、何を怒っているんだい?」
「今ので確信した。お前の考えとは逆だよ。
「落ち着きマショウ、成岩サン」
「引っ込んでろアドパス。これは俺とべーテクの間の話だ。答えろべーテク、お前はどうしたいんだ?」
成岩さんは一度べーテクさんを下ろして、その答えが戻って来るのを待った。
「僕はね、それでも行くよ。僕だってねぇ、ノーヴルのノリモンなんだぞ? 今や神話となったRainhillの戦いも、狂気のRace to the Northも、その他のも含めてさまざまな史跡を辿ってみたいし、その血筋を引き継ぐノリモン達と話をしてみたいよ」
その答えを聞いて、成岩さんは肩をなでおろした後、一転して笑顔になった。
そして、今度はべーテクさんの肩にその首を掴んでいた手を置くと、
「――だったら、最初っからそう言えや。行ってこいべーテク、俺は帰りを待ってっから」
と、その選択を肯定したのだった。
「行ってくるよ。英国は、ミッドランドのダービーへ」
★
「全く、あのアホは。成岩の言う通り、一旦自分に素直になれる時間を過ごした方がいいですわ」
「そうデースね。この機会がそうなるといいのデスが」
「よろしく頼んますよ、ダービーの遺した夢こと、Advanced Passenger号」
「……だいぶ懐かしいニックネームを引張ってきマスね? はじまりのレコードのコダマ号」
「未だに通用する
「それ、あんまり誇っちゃダメなレコードなんデス。国鉄分割民営化の時、日本は国立も新小平も残したのに、ミー達は愚かにもダービーを消してしまいマシた。その結果がミーに残ったレコードなんデスから」
「でも、
「ええ、淑女たる者、借りは必ず返しマース」
「楽しみに待ってますわ」