ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第2章:夏季合同宿泊研修篇
1レ前:第1種目・集合


「おはようございます。こちら、今回の予算と行先になります。ご安全に」

 

 朝7時。部室に事務の方がやってきて、封筒を1つ、早乙女さんに手渡した。

 開いて中を見れば、そこには金銭出納簿、現金10万円、そして2つに折られた1枚の紙。

 

「開けるぞ」

 

 早乙女さんがそう宣言し、その紙を開く。

 そこには『長 崎 駅』の3文字が記されていた。

 つまり僕達5人は、この10万円で明日の夜までに長崎駅に辿り着かなくてはならないのだ。

 

「とりあえず駅へ向かいながら調査するぞ」

 

 まず考えられたのが航空便。羽田空港から長崎空港までの航空4社、成田空港からの2社の運賃を確認する。

 だが、しかし。当日では正規運賃のみ、明日は土曜日かつ3連休の初日。航空運賃は高どまりしていた。

 

「ならば、陸路しかないか」

 

 新小平駅にたどり着き、購入したのは著名な企画乗車券。今日1日、5人分の普通列車の乗り放題で12,050円だ。

 

「とりあえず、宿をとる場所を考えながら西へ向かおう」

「そうだな。……北澤、山根。お前ら何時頃には投宿したい?」

「遅くても、21時までには」

「欲を言えば20時ごろかな?」

「だとすると、岡山あたりが限界か」

 

 午前8時半。朝ラッシュ時間帯の南武線なんぞにこの大荷物を持って乗り込みたくない僕達は、相模線というローカル線に乗っていた。結局この先の乗り継ぎのことを考えると、ここを通って先を目指すのがいいだろうという提案があったからだ。

 そしてようやくここでまとまった時間と空間がとれたので、5人で作戦を立てるフェイズに突入した。

 

「このまま乗り継いでいくと岡山の到着が20時半過ぎだ。だからそこより東になる。なるのだが……」

「駄目だ、今からじゃ宿が空いてねぇ。空いてはいるが、1人あたりで5ケタに乗る。明日はできれば何があっても集合に間に合うように交通費はできるだけ確保しておきたいんだが」

「ならば手前の相生とか姫路とかは」

「明日がカツくなるぞ?」

 

 どうしてこんなことになっているかと言えば、明日は岡山で国民的アイドルグループのイベントが朝からあるらしく。近くの都市含めて宿が全滅しているっぽいのだ。なんで三連休とかイベントとかこういうのに当たるような日程で組んでるんですかね?

 

「このあたり本部はわかっててやっているきらいがある」

「そういう回避を含めての、競技」

「結構えげつないことをするんですね……」

 

 結局、意見は纏まらぬまま茅ヶ崎に着いてしまった。

 ここから先、しばらくの間は乗り換えを何度か挟みながら、ただ東海道線を下るだけ。だけれど、こうやって西へ移動していても、宿がないという状況は変わらないのだ。

 

「今の所は解決案は3つ。高いことを承知で岡山に泊まるか、翌日の行程が厳しくなることを理解してより東で泊まるか、あるいは今日の到着が深夜になることを考慮して先に進んでおくかだ」

「西へ行くのは、無し。明後日からの他の競技の為に体力を温存すべき」

「東も東で、明日厳しいならやめたほうがいいんじゃない?」

「岡山もやめたほうがいい。流石に高すぎる」

「一瞬で全案棄却されてる……」

 

 だいたい東京から長崎まで行くのに1人あたりの予算が2万円しかないのが悪い。しかも自腹切って足を出せば、採点の段階で辿り着けないよりはマシ程度の大幅なマイナスをされるというおまけつきだ。

 

「わざとコストがかかるような設定にしてるの、だいぶ陰湿な設定ですね」

「この企画券あるだけだいぶマシだけどな」

「そうは言っても宿が高けりゃ意味がないでしょう……。陸も空も高い日って」

 

 そう、僕がこぼしたのに、半ば冗談交じりだったのだろう、北澤さんが軽々しい口調でこう言った。

 

「陸も空もだめなら、海を行く?」

 

 ……それだ!

 もうだいぶ古い記憶になるけれど、下関には対岸の新門司から東へ向かう航路の広告がたくさんあったのを覚えている。

 携帯端末を開いて、その記憶が正しい事を確認する。時刻表は……あれ、これ間に合うのかな?

 

「あの、早乙女さん。この乗り継ぎだと神戸には何時頃着きますかね?」

「神戸なら、18時を過ぎた頃になると思うが」

「なら、これはどうでしょう」

 

 神戸港、20時発。新門司港、翌8時半着。

 瀬戸内海をゆく、夜行フェリーの時刻だ。

 

「本当に海で行けるんだ……」

「運賃は? それにもよるが」

「雑魚寝か寝台かにもよりますが……」

 

 ネット予約の割引を含めると、雑魚寝なら約5600円、寝台なら約6500円。一晩横になった上で移動もできて、なんなら露天風呂までついているのだから、結構安い方だと思う。

 

「山根君」

「はい」

「予約は任せていいかい? その価格差なら、寝台にしよう」

「賛成」

「異議なし」

「任されました、やっておきます」

 

 とりあえず、今日の宿は決まった。すぐさまインターネット予約を入れて、5人分のスタンダード洋室を確保する。後は西へ向かって移動するだけだ。

 そして列車は、ちょうど熱海に到着した。突然変なことが起きたりしないことを願いながら、僕達は短い電車に乗り換えたのだった。

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