何度かの乗り換えを挟んで、列車の旅は続く。
静岡駅のホーム上の蕎麦屋で昼食をとって列車に乗り込むと途中、藤枝という駅を通った。その昔、半世紀以上も前にこのあたりで、後のコダマさんとなる車が時速163キロで上り本線を走ったからことがあるのだと、成岩さんが教えてくれた。今のイメージに沿わず昔はやんちゃしてたんだな……。
その他にも、流れる車窓を眺めながら、さまざまな話をしていた。旅というのは不思議なもので、ついつい口が軽くなってしまう。それは僕だけじゃなくて、みんなも同じようだった。
気がつけば列車は終点について、先へ進む列車に乗り換える。それを何度か繰り返して、気がつけばもう、夕方のラッシュ真っ只中の関西に突入していた。
僕達は米原から乗ってるから普通に座れているし、網棚に荷物を入れているけれど、この大荷物5人組で途中の駅からは乗りたくないくらいには列車は混雑している。
「降りるのどこだっけ?」
「芦屋だ。そこで各駅停車に乗り換えて、住吉で降りる」
「
……考えなかったことにしよう。そもそも芦屋で降りられるのか怪しい混雑で大阪を出たけど、たぶん強く主張すればきちんと降りられる、と思う。
そして午後6時前。列車は芦屋に到着したのだった。
「降ります! 降ります!」
立つ人をかき分けながら、下車の意思を強く主張する。こうすると乗車の列が一度止まるので、降りることが比較的容易になる。
とはいえど、大荷物を持っていることに変わりはないので、降りるのには少し手間取った。ホームに降りて、5人全員が下車できたことを確認すると、まもなく反対側にやってきた各駅停車に乗り込む。
流石に新快速程は混んでおらず、多少の余裕があったのと、わずか3つ目の住吉で降りるのもあって、こちらでも特に大きな問題はなく移動ができた。
早乙女さんがきっぷを駅員さんにみせて、5人で改札を出る。そして少し歩いて連絡バスに乗り、海を渡って六甲アイランドへ入れば、海に浮かぶ今宵の宿が見えてくる。
予約した僕が窓口に並び、乗船券を受け取る。予約時に乗船名簿代わりとして全員の情報を入力していたので、手続き自体はすぐに終わった。
乗船券をみんなに渡して、少しの間フェリーターミナルで待っていると、19時に乗船開始のアナウンスが流れる。そうして船に乗り込めば、きらびやかな吹き抜けのエントランスホールが僕達を出迎えてくれた。
「本当に、乗り物なの……?」
北沢さんがそう、感嘆の声を上げる。
たしかに、一見するとこの内装は、これがそのまま動くとは思えないほどゆったりとして、開放感のある空間だ。
それもそのはず。この船は、阪神九州フェリー、かわち号。全長約200メートル、全幅約30メートルもある大型のROPAX*1だ。そもそもRo-Ro船と言うのは、車両をそのまま積み込むための船。他のタイプの乗り物とは、当然のようにスケールが違う。
そしてもう1つ。乗り物ということは。
『皆様、本日はご乗船いただきまして誠にありがとうございます。阪神九州フェリー、かわち号でございます。出港まで、今しばらくお待ち下さい』
そう、乗り物ということは。例外なくこの船にも、ノリモンが宿っているのだ。
電車やバスでも、宿るノリモンが放送設備を使って乗客にアナウンスをすることはたまにある。それと同じ事を、このかわち号もしたというだけである。
「見た感じ、けっこう新しい船のようにも見えるが、もうきちんとアナウンスできる程度には訓練されているのだな」
「きっと腕の立つトレイナーがいるんだろ」
……そして、それを受けてこのような反応になってしまうのは、困ったことに職業病というやつである。
トレイナーの仕事は、大きく分けて2つ。ノリモンの成長を見守る、いわば教師としての役割。ノリモンと心を通わせて力を借り、クィムガンへと立ち向かう役割。ラッチが開発されて以降のJRNでは後者に比重がおかれているけれど、どちらも大切な役割だ。なので僕もスクールでは両方の教育を受けさせられている。
ゆえに、スクールを出ても残念ながら後者の役割を果たせずにJRNに残れなかったトレイナーの中には、前者の能力を見込まれて運用する事業者に拾われる者も少なくはない。ノリモンが、接客の際に失礼をしないように。
「あいつら、元気にしてるのかな……」
ポロリと口から言葉が溢れる。
するとちょうど同じ事を考えていたのだろう、北澤さんから反応が戻ってきた。
「みんななら、きっと大丈夫でしょ」
「それもそうか」
乗船券を見て、まずは荷物を置きに行く。僕の指定された区画は213番。エントランスホールから少しだけ
念には念を入れて、お風呂や夕食には交代で向かう。だけどそれは杞憂で――出港してからわかったことだが、三連休前の金曜にもかかわらず、どうも僕達5人以外にこの部屋のお客さんはいないようだった。おかげでやや機密っぽい情報をうっかり口に出してしまっても安心だ。
それから土曜の午後のような他愛のないお喋りを――今日は早乙女さんも交えてだけれど――してから、床へと入ったのだった。