ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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深夜から早朝にかけてのお話なので、その時間帯に読むといいと思います。


回1レ:ギルティ

 午前4時すぎ。不思議と目が覚めてしまった僕は、船室を出て共用スペースにいた。

 

 お腹、空いたな。

 どうして深夜や早朝に目が覚めるときは、いつもお腹が空いているのだろうか。永遠の謎の1つである。

 当然、こんな時間にはまだレストランも売店も開いていない。海の上にいるので、宿を脱出して24時間営業のコンビニに行くこともできない。

 だけれど。この船には、これがある。

 

 カップ麺の、自動販売機。

 

 船内価格でやや高いものの、許容できる範囲内だ。硬貨を投入してカレー味の即席ラーメンを買い、丁寧なことに近くに設置されている給湯器でお湯を注ぐ。

 そしてそれを持って、わずかにこぼれ出るメーカーが何度も吟味し、最高の調合が施されたスパイスの香りを撒き散らしながら、早朝で誰もいない6階のテーブルつきの椅子席へと向かう。すこしだけ、落ち着いたところでお湯を入れてから150秒ほどが経過した。

 

 ――いただきます。

 

 蓋を開ける。うっすらと溢れていたスパイスの香りが、数倍にも強烈になって湯気に乗って鼻の奥へと広がった。

 割箸を割って、そのスープの中へと突っ込んで麺を掴む。そして。

 

 ズルズル、ズルズルーッ!

 

 まだ微妙に硬さが残る麺が、カレースープを掴み上げて、同時に口の中へと襲来する。コクのあるピリッと仄かな辛み。そして、それを吸い上げて戻った乾麺の、なんと美味なことだろうか。それでいてあっさりとしているこの風味は、麺を全て喉に押し込んでしまえば、儚くも消え去ってしまうのだ。

 次に味わうべきは、辛さを中和する、馬鈴薯、そして人参! 野菜の甘味が、口の中でスパイスとフュージョンして、宇宙を生み出すのだ。

 そして、カップ麺といえばこれ。畑の肉と呼ばれる大豆で豚肉を固め、サイコロ状に整形した――謎の肉。ただの肉塊と比較して、含まれている大豆分が肉汁やスープを吸い上げて、口の中で噛めば噛むほど味が出る。

 そして、それらをこの早朝に、洋上で味わっているという事実。それがさらなる調味料となって、僕の味覚中枢にはたらきかけているのだ。

 

 ズルズル、ズルズルーッ!

 

 気がつけば、その円筒の内側は、いつの間にやら空になっていた。

 

 ごちそうさまでした。

 割り箸や容器をゴミ箱に入れて、一旦部屋に戻ろうとしたとき。

 

 不意に、通りかかった公衆電話が鳴った。

 なぜ? どうして船の中の公衆電話に電話をかけてくる人がいるんだ? そもそも、これは出た方がいいやつなのか?

 周りを見る。ロビーには誰もいない。公衆電話は鳴り続けている。

 少し悩んで、僕は受話器を取った。

 

「もしもし? これ、フェリーの中の公衆電話なんですが」

『知ってるよ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 なるほど。あの周りに誰もいなかった椅子席でラーメンを食べていたところを見られていたとなると、()()()()()だろう。そもそも、この声自体思い出してみれば乗船直後に聞いた覚えがある。

 

「……1人の乗客に何の用ですか、()()()号」

『ありゃりゃ、バレちゃったか。お兄さん鋭いねー』

 

 やっぱり。

 放送設備からコミュニケーションを取れることは知っていたけど、こうやって中に設置されている電話からでもできるもんなんだな……。

 

「まだまだ新米だけど、伊達にトレイナーをやっていませんから。それで、何の用ですか」

『なーんだ、トレイナーさんだったのか。用事だけど……特に無いよ。ただ、美味しそうに食べてたからお話してみたかっただけ』

「……切っていい?」

『えー。……って、言いたいけど、あんまりお客様に迷惑かけちゃだめだよね。最後に、電話取ってくれたお礼にとーっておきの情報、教えてあげる!』

 

 今から、東の空がとーっても綺麗だよ。それじゃ、良い旅を。

 彼女は、そう最後に言うだけ言って電話を切った。ずいぶん身勝手なお嬢様だ。でも、新しい船のノリモンだと考えると、かわいいものだと思った。……もっとも、あの暴走してたポラリスと比べてしまうから大概は落ち着いている判断になってしまっているだけな気はしなくもないけれど。

 

 7階のデッキに出れば、少しだけ東の空が白み始めているのが見える。

 燃えるような空を見るために(トモ)の方へと歩みを進めれば、ファンネルの上、まだ星の出ている紺色の空から、周防灘の向こうの朝焼けの赤までのグラデーションが、かわち号の言う通りとても美しい。

 そしてその景色は時間と共に少しずつ変化していって、赤はやがて広がりながらオレンジとなって、そして暗い闇の空は少しずつ青みを増していく。

 

「ここにいたのか」

「あっ、早乙女さん」

「起きたら君だけいなかったからな、どこへ行ったのかと思ったよ」

「戻った方がいいですかね」

「その必要はない。じきに皆ここに来るだろう」

 

 その言葉通り、日の出までには残りの3人も甲板までやってきた。

 そして、航跡の先に昇る美しい太陽を目に焼き付けて、少しまったりしてから船室へと戻ったのだった。

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