「えー皆さんお早う御座います。第1種目、お疲れさまでした。まだ到着していないユニットもありますが……」
西彼杵半島の合宿所に入って翌朝の朝礼で、理事長のトシマさんが挨拶を述べる。ここから、夏合宿が本格的に始まるのだ。
ちなみに、今回参加の24のユニットのうち、まだ8ユニットが着いていないらしい。そりゃ東京から長崎まで繁忙期に、事前の予約が一切できずに5人がまとまって2日で、しかも一人頭2万円で移動するのはだいぶ無理があるって……。
それはともかくとして。
この朝礼が終わったあと、ここにいる16のユニットには残りの競技種目が渡される。各々の競技は、5人全員が参加するものは少なくて各ユニットから数人ずつ出す形となる。のであるが、新人が2人いるウルサでさえも忖度なく、ある程度均等に5人のメンバーが参加しなければならない。それがルールなのだ。
「貰ってきたぞ。競技表だ」
「どれどれ……。今年のユニットレースは……ムド*1のパシュート*2かよ」
「いきなり最終日を確認するんじゃあない」
一番最初に大トリにあるレースを確認しにいくのは、何ともノーヴルの成岩さんらしいというか。
「今日の競技は、個人種目5つが平行開催。マラソン、遠泳、剣道、バトルロイヤル、そして障害物競走」
「まずバトルロイヤルは山根に任せるとして」
「勝手に決めないでください」
「お前以外誰がやるんだよ」
「山根が適任」
「アタシもそう思う」
いやまぁ確かに全員敵のバトルロイヤルならやりやすいっちゃやりやすいけどさ。
そもそもまだユニットに入ってすぐの段階ですら、距離さえ取れればかなり実力のある早乙女さんにすら勝てるのが《桜銀河》だ。そしてその彼に
多分、技術が進歩してトレイナーでも有色のシールドを出せるようになるまではこの競技ルールでは最強のまんまだと思う。
「でも、このルールで《桜銀河》を出したら、一方的に勝つに決まっていて、つまらないのでは?」
「これは勝負だ、一方的に勝ってこいって言ってんだよ」
「はい……」
ぐうの音も出ない正論だ。個人的にはあんまり普通にクィムガンと戦う分には使いにく過ぎるから模擬戦だろうと頼りすぎたくないのだけど……。
「北澤はどれがいい?」
「剣道、かな? 普段使ってるスモールソードとは勝手が近いし。駄目だったらマラソンで」
「なら私は遠泳に出よう」
「じゃ、私が障害物競走で、成岩はマラソンよろしく」
「任された」
5人全員の担当種目が決まったところで、僕達は分かれてそれぞれの開催場所へと向かう。僕を含む16人のバトルロイヤル組はぶっちゃけラッチさえ張れればどこでもできるので、移動は徒歩で少し開けた場所に向かうだけだ。
「それではレギュレーションを確認しよう。開始の合図とともに16名、同時にラチ内へと入場し、シールドを持つのが最後の1名となった瞬間に終了とする。ラチ内には既に審判役の者が居るので、不正をはたらこうなどと考えないように。それでは、健闘を祈る」
……ただ乱闘するのに不正行為もクソもないような気はするけれど、それはさておき。僕はチッキを1枚ずつ両手に持って、トシマさん直々の開始の合図とともに左手のチッキを押し付けた。
そして入場と共に改札機を呼び出し、左手に《桜銀河》を溜めながら右手でチッキを投入、トモをポラリスにトランジットする。
光の中で考える。円周に均等に配置されているのなら、直接隣を狙うほうが早い。しかも、ちらりと見えたラッチ際の周回軌道の曲がり方は、おそらく400くらいしかない。となると、隣のトレイナーとは初期位置でおよそ150m程しか離れていない訳だから、近づかれる前に逃げる必要がある。
だから僕は、ガコンと扉が開くのと同時に、成岩さんから教えてもらったように《ハイブリッド・アクセラレーション》で一気に加速し、トレイニングのタイムロスを強引になかったことにしてラッチコアへと駆け出した。
次の瞬間、僕の元いた場所の改札機を雷が襲う! 誰がやったのかはわからないけれど、加速しなければ直撃していたのは明らかだ。あっぶないなぁ。
でも、ここからは僕のターンだ。まずは後ろに《桜銀河》を放ち、開幕で僕を狙いに来たであろう両隣のトレイナー、僕がコアに向かった際に正面からぶつかり合ってしまい、2人で戦闘を始めてしまっていた彼らに当てる。
それと同時にエンジンから駆動軸を切り離して空気と回生の2ブレーキで急減速し、止まり次第逆転機を扱ってモーターだけで後ろに再加速、続いて切り離したエンジンを戻して再び《ハイブリッド・アクセラレーション》。
するとまた、目の前に雷が落ちる! これ完全に狙われてるよね? でも、遠距離同士なら、打ち始めてしまえば向きを変えるだけでほぼタイムラグなく相手に攻撃を届けられる僕が有利だ。
しかも今、落ちたのは目の前。その出どころを辿れば、扱う人は左前。つまり、《桜銀河》をそちらへむけるのは当たり前!
3人目のシールドを割って、トレイニングが解けて軌道の外に出た件の2人の横を抜けてラッチの際まで戻った僕は、そのまま後ろ向きで時計回りに周回軌道に入る。進行方向は見えにくいけれど、ここでブラインドランの訓練が生きてきたという訳だ。
そして同じ遠距離タイプの雷使いのシールドを割った僕に、攻撃を当てられる人は残っていなかったようだ。そのまま近づいてくる他のトレイナーを優先的に対処しながら、まだ撃破されていなかった9のトレイナーを次々と《桜銀河》の光束に巻き込むまで、そう長く時間はかからなかった。
『そこまで! 第5種目・バトルロイヤル、勝者は、ウルサ・ユニット』
青と黄色のシールドを失った審判役のノリモンが、そう無線で宣言した。