ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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2レ中:理事長

 勝者の特権として一足先にラチ外へと出てラッチを開ける。その作業をしていると、不意に声をかけられた。

 

「もう決まったか。今回は早いな」

「そうなんですか? 初めてで例年を知らないものでして」

「流石はかのクシー号の力を纏いし者よ。今後を期待してもいいか?」

「精進はしますが、ご期待に添えなかったらごめんなさい」

 

 背筋がピンと張り、手元が少し狂う。そりゃ、いきなり理事長たるトシマさんに話しかけられもすればそうもなる。

 ミスしないように慎重にラッチを開ける作業を進める。出場する前にラッチコアに全員戻ったのを確認していたので、特に問題なく中の16名が解放された。

 

「あの、理事長」

 

 審判役の方が、出てくるなりトシマさんに呼びかける。

 

「なんだい?」

「先程の競技ですが、1位は彼で良いのですが、2位以降に関して審議事項があり、残る15名で再試合を行いたいと話がまとまりまして」

「なるほど、許可しよう。時間にはまだ余裕がある」

 

 ……え。

 つまり、僕は1人で外で待ってろって事ですか。

 

「あの、僕は」

「君は少しの間、外で私と共に待とうではないか」

「いや、あの」

 

 まだ新人もいいところなのに理事長とふたりっきりなのは流石に荷が重いって。

 クシーさん経由で今までも何度か顔を合わせたことこそあるけれど、ほとんどはクシーさんに用があるだけだったのに、最初の方は同じ空間にいるだけでその度に緊張してその日は体中カチコチになっていた記憶がある。

 そう困惑している間に、トシマさんはスタートの合図を出して戻ってきてしまった。

 

「私では不満かね?」

「不満では、ないですが……」

「前から言っているだろう、それほど肩に力を入れる必要はないと。まだ、力が入っているぞ?」

 

 そう言うと、トシマさんは僕の左肩に手を置いた。

 あ、無理だこれ。

 下半身の感覚が消える。ついで、視界が斜めになった。

 衝撃に備え、ギュッと目を瞑り、言うことを聞かない体に力を精いっぱい込める。

 

 衝撃は、来なかった。

 

「だから肩の力を抜けと言っているんだ」

 

 トシマさんの声が、さっきよりも近い所で聞こえる。目を開ければ、僕は彼女に受け止められていた。

 

「全く。聞けばコダマ号とは普通に接しているらしいじゃないか。私ではどうしてだめなのかい?」

「纏っている雰囲気とか、違いがあるじゃないですか」

 

 そもそも彼は最初に会ったときは直接の上司では無かったし、偉い役職についていたと知ったのも最近の話だ。それまでに築けていたコミュニケーションがあったからこそ普通に話せていたのであって、たぶん最初っからノーヴルの者として、ノーヴルのトップというコダマさんを知ったらこうはなっていないと思う。

 これを伝えるのはあまりにも残酷な気がするから黙っておくけど……。

 

「そうか、雰囲気か……」

 

 ……なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。

 そしてその予感は、往々にして当たってしまうものだ。

 

「ヒッ」

 

 つぎの瞬間、人を殺すかのようなオーラがトシマさんから発せられた。強く押し流されるような威圧感。そして、僕はそれをゼロ距離で浴びせられている。

 

 すると、どうなる?

 

 事実を確認して意識を保つだけで、僕は精いっぱいだった。呼吸すらもままならない。

 そして、永遠とも思えるような時が経ってから――実際は数秒程度なんだろうけど――、トシマさんはその気を出すのをやめて、元通りに戻った。

 体の力が一気に抜けて、僕はその場に座り込む。

 

「いきなり何するんですか……」

「荒治療だ。肩の力、抜けただろう?」

「肩どころか全身の力が抜けているんですが」

 

 トシマさんの手を借りて立ち上がる。たしかに、纏っている雰囲気自体は同じように感じられるのに、嘘のように緊張は解れているのだけど……。

 

「どうやら、少しやりすぎてしまったようだな」

「少しどころじゃないですよ……」

 

 トシマさんは仄かに笑いながらそう言った。

 ……でも、この程度で動けなくなってしまうようではまだ半人前だとも言える。いつ僕達が今のと同じような威圧感を放つクィムガンと戦う羽目になるかはわからないからだ。

 頑張って、強くならないと。お話にならない。

 

「期待しているよ」

「あれ、口に出てました?」

「否。でも、今の君の目は何かを決意した目だ。このタイミングで決意するような事といえば……そうだな、最低限あの状況でも動けるように、だとかそのあたりだろう?」

「分かるんですね……」

「伊達に何年も新人のノリモンやトレイナーを迎えていないさ」

 

 それからラチ内でのバトルロイヤルが終わるまでの間、僕はトシマさんと軽く世間話を交えて話をしていた。今まで会う度にものすごく緊張していたのが嘘のように、とてもリラックスした状態で話が進む。もはや上司と部下の枠組みを超越して、ひとりのノリモンと1人のトレイナーとしての会話がそこにはあって、トシマさん自体もそれを望んでいたことがその口から溢れていた。

 

 そうして、1時間弱ほど経ったころ。

 ラッチが光る。誰かが通ろうとしている証だ。

 

「おっと、ふたりきりの時間はここまでのようだ。それでは、私は次なる勝者を讃えねばならぬゆえ、失礼させてもらおう」

 

 そう言って、トシマさんはラッチの方へと向かったのであった。




クーリースーマースがおーどーしをかーけーてくるー♪
「論文はかけたかい?」
「冬コミ原稿終わった?」

……うわああああーっ!
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