JRN3号館は3階、第3コミュニケーションルーム。
「それで、彼はどうなの?」
暗い部屋の中、この部屋にいる者のうちのひとりが口を開いた。
「……ノーヴルにしてやられました」
「へぇ。せっかく工事業者をふっかけてこのタイミングで追い出したのに」
「ごめんなさい、ナリタお姉様」
「いいのいいの。やっぱノーヴルはこうでなくっちゃね。それにね、この仮説を立証するのは別に私達じゃなくても構わない」
「つまり、ノーヴルにやってもらおうと?」
「そうそう。アイツら動きがはやいから、私達が直接やるより早く結果が出ると思わない?」
「……しかし、私には彼らがそれを確実に行うという確信が持てません」
「だ、か、ら。できる限りでいいから、この計画が進む方向に誘導しておくのもお願いね。そのためにも、彼に怪しまれないようにするのと、次の段階のために良好な関係を築いておくのもね」
「承知しました」
「それじゃがんばってね、サクラちゃん」
★
JRN7号館。2階、事務室。
「まったく、なんでこうも事務仕事ばっかり貯まるのよ」
その人影は書類の山を高速で処理しながら、愚痴を溢していた。
「文句言わないでくださいよ、春なんですからどうしても仕事は増えます」
「だいたいなんで3月から4月にいろんな変更が重なるのよ、その理由ができ次第すぐに変えてしまえば、こんなに忙しくなることもないですわ」
「コダマさん? 毎年毎年忙しくなるのがわかってるのなら一時的でも誰かに手伝いを要請すればよいかと思われますが。それでも人員を増やすのを拒んでるのはあなたはないでしょうか?」
「そりゃまあ忙しいから文句は言うけど、一人でも頑張りゃ回るもの。そもそも今までに愚痴をこぼしたことはあっても、クミに手伝いを要請したことがどれほどあります?」
「……確かに、私の記憶にはありません」
「これで実際に手続きの遅れが出るようになったらその時また考えますわ。……ん?」
処理をしようとした1枚の書類に目をとめる。
「どうかしました?」
「いや、このインターンの届出よ。べーテクのとこ、結局来てるのね」
「え? 先程あそこのトレイナーにそのことで倫理研修をしてきたばかりですが」
「それに、この名前どこかで見たような気がするんですわ……」
「……あぁ、思い出しましたよ。これは楽しいことになりそうですわ」
★
JRN9号館、地下3階。演習スペース。
「美しいものは、強い。美しいものは、速い」
広くも静かなこのスペースの真ん中で、ふたりは向き合っていた。
「最も美しい技は、最も美しい道を示してくれます」
人影の片方は、スモールソードを構えた。ぽわり。その剣先に淡い桜色の光が宿る。
「これから貴女に最も美しい奥義を授けます」
剣先が桜の花びらを描くように舞い、軌跡が宙に残る。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、そしていつつ。軌跡が閉じれば、その内側に光は染み込み、そして桜の花が開く。
そして……剣を前へと差し込めば、その花は鍔となり、刀身は力強くも美しく桜色に輝いている。
「いいですか、百合。この技を誰か、あるいはその何かを傷つけるために用いてはなりません。そうすればこの技は醜いものへと堕ちるでしょう」
その言葉と同時に、桜色の光は砕けるように崩壊して消え去った。
「美しくありなさい。そうすれば道は開きます。美しくありなさい。そうすれば解決します」
★
JRN5号館、1階。剣道場。
「1! 2! 1! 2!」
そこには肘をまっすぐ伸ばしたまま木刀で素振りをする男の姿があった。
そして、今、もうひとり剣道場の中に入る者の影。
「精がでてるねぇ」
「……いたのか。覗き見とは趣味が悪いな」
「まさか。ちょうど着いたばっかさ」
そう言うと彼は持っていたスポーツドリンクを投げる。
「差し入れだよ」
「悪いな」
「俺とお前の仲だろうが。何十年一緒にやってきたと思ってる」
男はすぐに答えを返さなかった。迷いがあったからだ。
一口だけ飲み物を口に含んで飲み込んでから少し間を置いて、決断したかのように口を開いた。
「……私は正直、君たちが羨ましいよ」
「どうしたんだい、いきなり」
「ノリモンは生物と違って、老いることはない」
「セルフメンテナンスをサボるとすぐに体が朽ちてしまうぞ?」
「それは生物だって同じじゃないか」
「生物のほうがはるかに頑丈だよ。怪我しても勝手に治るし」
「そうかな」
「……おい、まさか」
「そのまさかさ。私もそろそろ退く時が来た。もはや私は、かつて程の力を出すことはできない。既に友が同じフィールドを去った今、若い力に席を渡すべきだ」
「……そうか。それがお前の意志だとしたら尊重するよ。でも、その時まで俺はお前の力になり続けるよ、俺とお前の仲だろう?」
★
JRN1号館、3階。
「ご苦労であった」
その声は机を挟んで、向き合うように立つ者へと投げらかけられた。
「それで、次はどうするべきかな? 一応ボクからは、しばらく積極的には接触するつもりはないけど」
「そうすべきだろう。今はまだ、成長を誘導する必要があるほど育ってはいない。ならばその域に達するまで、暫しの間は彼自身の成長を見守るべきだ」
「セチ」
「それに彼の素質は稀有だ。我々から接さずとも、その刻が訪れれば自然と我々の耳にも話が入ってくるであろうよ」
「まぁ、ボクも一応、彼が何かあったら気軽に連絡していいって雰囲気づくりだけはしておくよ」
「訝しまれるでないぞ? プロジェクト・ココマはまだ始まったばかりだ」
「わかってるって」
★
「あと一つだ。リロンチの条件を解析できた今、この最後のピースさえ埋まれば、ボクたちの計画は最終段階に達する」
「「「「全てのノリモンに祝福を」」」」
【TIPS:5つの派閥】
ノリモンやトレイナーには、各々が生まれ持った性質として5つの派閥が存在する。それぞれが固有の色を持ち、ノリモンの出す有色のシールドは、基本的に該当する派閥のノリモンとそれとトレイニングするトレイナーによってでしか割ることができない。これは世界的に不変かつ普遍の原理である。
・ロケット:安定を追求する黄色の派閥
・ノーヴル:速度を追求する青色の派閥
・サイクロ:真理を追求する紫色の派閥
・バランス:出力を追求する赤色の派閥
・パレイユ:美麗を追求する緑色の派閥