ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

94 / 306
箱根駅伝を見ながら執筆してたら思ったより話の進みが遅くなってしまった……。


4レ後:ラストスパート

 成岩さんと佐倉さんは、阿吽の呼吸で爆走して、10キロメートルポストを通過した。二人三脚レースは折り返して――ラケット上のコースなので、物理的に折り返している訳ではないけれど――後半戦に入る。

 僕達ウルサ・ユニットから出ている2人は第二集団から抜け出して前に行ったけれど、僕は2人を追いかけるのをやめて、第二集団の少し前から彼らの様子を見ることにした。正直先頭をだいぶ離れて単独で走っているのを見てもあまり面白くないし、ここから2人に追いつこうとする人たちがいたら横から彼らと一緒に向かえばいいわけだから。

 

 第二集団は、ウルサが抜けたあとも相変わらずサギッタリウスが先頭となっている。ただ、成岩さんが突ついたおかげで後ろとの差は少しずつ消え、いつの間にやらその後ろにピッタリとドラドがくっついている。そしてその後ろ数メートル離れてエクレウス、そして最後尾にゲミニだ。

 だが、サギッタリウスの失速があまりにも大きかったのだろう、しばらくしてやや長い直線区間に入ると、エクレウスが急に加速してサギッタリウスを抜き去った。その後にはきちんとゲミニもいて、サギッタリウスは完全に後方に1組だけぽつんと残される形となる。もはやここまでか。

 

 ……あれ、ドラドは?

 その疑問を抱き、目線をエクレウスに戻す。あぁ、()()。いつの間にやら、サギッタリウスの後ろからエクレウスの後ろへと()()()()()()()()()()、ドラドの2人はピタリとエクレウスにひっついている。そして数メートルほど間を開けてゲミニが続く。

 

 だけど。左カーブに入って、2パーセントの下り勾配に差し掛かったときに、この集団に悲劇が起きた。

 

「あっ!」

 

 ――バタン!

 

 悲鳴のような声と、何かがぶつかる音がその場に響いた。エクレウス・ユニットの2人の息が乱れ、時速40キロメートル強でその場に転倒してしまったのだ。

 あまり距離を置かずに走っていたドラドもそれに巻き込まれる形で転倒。少し間を確保していたゲミニはやや体制を崩しながらもギリギリでそれを回避するも、大幅に速度が低下。結果として、ゲミニが集団――もはやそう呼んでいいのかは謎であるが――の先頭に躍り出た。

 

 しかし、下り坂の中でその状況は長く続かなかった。転倒した2組4人の横を、ほぼ速度を落とさずに通過するユニットが1つ。――そう、サギッタリウスだ。サギッタリウスは、まだ諦めてなどいなかったのだ。

 一度後ろに出て、自らのペースを取り戻したのだろう。彼らは恐ろしい速度でゲミニに追いすがる。

 

 だが、ゲミニも負けてはいない。

 果敢にも下り坂を利用して、負けじと速度を回復し、サギッタリウスを引き離しにかかる! その差、わずかに20メートル弱!

 そしてウルサが後ろから突っついていたのと同じように、今度はそれをされていたサギッタリウスがゲミニに加速を強要する。その速度は気がつけば時速60キロメートルを越える、二人三脚としては破滅的なハイペースだ。

 しかもその大台を超過した上でなお、これらのユニットの加速は緩まない。63、66、70、まだ伸びる。

 

『そっちどう?』

 

 早乙女さんと一緒に追いかけ続けている北澤さんから無線が入る。

 

「今75くらい出てます」

『……嘘でしょ!?』

「本当本当本当」

『どういうことなの……』

 

 無線の向こうで、北澤さんが困惑している。僕もこの状況を無線で聞かされたらそうなると思う。だって目の前の2組、引くほど速いんだもの。

 現状では、サギッタリウスがゲミニの真後ろに入って空気抵抗を減らしている。恐らく、この後サギッタリウスが仕掛けるとすれば。

 レースルートの先を見る。直線の先に、恐らく3パーセントほどの上り坂がみえた。だとしたら、上り勾配をスリップストリームで抜けた後、横に出て抜き去る。僕だったらそうする。

 

 だが、サギッタリウスはそこまで待たなかった。坂に入る直前、ゲミニが一度速度を緩めた際にそのまんま右へと出て抜き去ったのだ。

 彼らは勢いに任せたままスピードを落としもせずに坂を昇る。一度スキを見せてしまったゲミニに、勾配の途中で急加速してサギッタリウスに追いつくだけの余力は、どうやら残されていなかったようだった。

 

『ねぇ、今どこにいるの……?』

「坂を昇りきったところ。速度はほぼ落ちずに72で走ってますね」

『わかった。そのままワッチよろしく』

「確認したいんですけど、そっちどれくらい出てます?」

『60強で、800メートルほど前方。このままのペースだと、確実にゴール前までには追いつかれちゃう』

 

 レースは残りおよそ8キロ。確かに、このまんまだとけっこう危ない。

 そして事実、サギッタリウスの横を走る僕からウルサの2人を視認するまでには、そう長く時間はかからなかった。しかもその瞬間から、サギッタリウスはまださらに速度を上げる。残り5キロ、正真正銘のラストスパートだ。

 ちらり。後ろを振り返った佐倉さんと目が合った。熾烈な2位争い。その差は縮まりながらも、縮まる速度は落ちる。これは前を走る2人も速度を上げている証拠だ。

 

 だけど、縮まる。じわりじわりと。

 残りおよそ2キロ半。ついにその差は100メートルを切る。残り2キロ、70メートル。残り1キロ、20メートル!

 

「絶対に、絶対に、絶対に負けてたまるかよ!」

 

 成岩さんの叫びが、聞こえるほどに近い。そして視界の先には、見えるゴールライン。残り400メートル、わずか10メートル差だ。

 

「我々にも、誇りがあるのだよ!」

「そう。でも、負けるつもりは無い!」

 

 残り200メートル。ついに2つのユニットが並んだ。だけど、そのスピードもほぼ横並び。これは……。

 

「すまん佐倉! 先に詫びる」

「負けるとか、言わないよね?」

「逆だっ、《ハイブリッド・アクセラレーション》ッ!」

 

 青い光が成岩さんを包む。サギッタリウスを、佐倉さんすらも置き去りにして、成岩さんは1人加速した。

 当然、二人三脚なのだからそんなことをすればバランスなんてものは脆くも崩れ去る。だけど、この状況では一歩でも、半歩でも、僅かでも前に出ることのほうが重要だったのだ。

 

 ゴール前、100メートルで生まれたその僅かな差。体制は崩れながらも、その差を維持して2人はゴールラインの少し先の地面へと激突したのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。