魔法科高校の劣等生2095   作:シラー

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二話連続投稿です。
二話目はかなり短めです。


九校戦編
九校戦編1


 九校戦の技術スタッフに選ばれてから数時間後。達也は風間少佐からの連絡を受けていた。その中で穏やかではない話が振られたのは旧知の間柄としての会話のなかだった。

 

『九校戦を予定している富士演習場で、不正な侵入者の痕跡が確認されている』

 

「軍の演習場に侵入者が?」

 

『それに加えて、国際犯罪シンジケートの構成員らしき人影が見受けられるようだ。恐らく、ろくでもない事を企んでいるのだろう』

 

 日本の情報機関は複数あるが、風間少佐は特に情報機関というわけではない。どこから来た情報かと思っていると、風間少佐はあっさり達也に教えた。

 

『壬生に調べさせた』

 

「壬生、というと一高の壬生紗耶香先輩の?」

 

『そうだ。壬生は軍から内調(内閣情報調査局)に出向していてな。現在はカウンターインテリジェンス対策室に勤務している』

 

「……驚きました」

 

 達也はそれしか返せなかった。仮にも防諜部門の責任者の娘が敵対国家の下請けに加わっていたことは、スキャンダルといえる。だが、風間少佐は平然としていた。

 

『壬生はどうやら知っていたらしい。娘がブランシュと繋がっていることを』

 

「まさか。にも拘らず放置していたと?」

 

 達也は吐き捨てた。

 

『だからこそだ。知っていたからこそ、放置していたと思われる。有力な〝情報源〟としてな』

 

「……なるほど」

 

 その行いは情報機関人間特有の冷徹さを感じたが、それよりも達也は情報源という言葉に一つ、聞きたいことがあった事を思い出した。

 

「少佐に一つ、伺いたいことが」

 

『構わないが、なんだ?』

 

「司一は()()()()()()のですか?」

 

 その質問に風間少佐は僅かに表情を固くした。達也はそれには触れず、回答を待った。それくらいの信頼関係は二人にはあった。

 やがて苦り切った表情で風間少佐はそれを明かした。

 

『……特尉の疑問はもっともだ。だが、死は間違いない』

 

 奥歯に物が挟まったような言い方は普段の風間少佐らしくない。まだ何かある──。達也は確信し、質問を予定していたのとは変えた。

 

「……司一はどのように死んだのですか?」

 

『司一は自殺らしい』

 

「自殺ですか」

 

『公安の手が延びようとしていたのは事実だ。追い詰められて自殺というのは、おかしくはない。だが、それを確認したのが公安と……、市ヶ谷だ』

 

「……市ヶ谷、ですか』

 

 達也の目付きが厳しくなった。

 一般人にとって市ヶ谷とは防衛省の所在地に他ならないが、それが防衛省本庁舎の足元に存在し続ける情報機関の通称であることを達也は知っていた。

 一説には第二次世界大戦後の米ソ冷戦構造を予測した旧軍人、陸軍中野学校の卒業生達がGHQに食い込むことで非公開組織として発足。以来、共産圏に対する太平洋の防波堤として日本を改造し、大戦の負債を国民に見えない形で、新聞やニュースで報道される以上血を流すことで、償却し続けた真の防人(さきもり)達の姿をした日本の暗部──だったのかもしれないと、言われている組織だ。

 2000年ごろの防衛省情報本部の発足により、一部のベールを脱ぎつつも、全体像を一切見せなかったそれは、第三次世界大戦という世界全体を巻き込んだ戦争により、国土安全保障局という公的機関として地下水脈の界面を突き破り、表の世界へ活動域を伸ばしていたといえる。

 だが、国土安全保障局という情報機関の存在は警察庁、特に公安警察とって職域が重なりあう、潜在的な敵対勢力ですらあった。真の防人として、国家の懐刀を以て任じるのが市ヶ谷なら、警察にも戦後の赤化から日本を守ってきたという自負がある。当時多発した大学紛争や赤色テロに直接的に対応し、目に見える血を流したのは警察であり、市ヶ谷ではない。

 ましてや、戦後旧内務省をバラバラに分割されて以来、警察力の一元化を悲願とする警察にとって、かつて非公開情報機関だった市ヶ谷など、その存在そのものが許せるものではない。両者の関係性は切磋琢磨と呼ぶには生々しすぎる、一種の差別的感情すら抱いている。──にも関わらず、両組織が協力する?

 それがどれだけ異様なことか、達也には不可解に感じられたのだ。それは風間少佐も同だった。

 

『公安と市ヶ谷が同じ見解を有することは何らおかしくはない。だが、おかしくはないことがおかしい。

 この件はこちらでも調べている。何かわかったら知らせよう』

 

 お願いします、と続けてから達也はもう一つ、予定していたことを告げた。

 

「一人、調べてほしい人間が」

 

『誰だ?』

 

 達也はゆっくりと、確かめるようにその名前を口にした

 

「國光暢という一高生です──」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「お兄様は國光君のことが気になっているのですか?」

 

 通信を終えた達也に深雪がコーヒーを差し出す。達也はそれを受け取り、少し躊躇ってから語りだした。

 

「國光暢は、ブランシュ事件で一貫して壬生先輩の味方をし続けていた。同盟の味方をではなく、壬生先輩の味方をだ。そこが気になる」

 

 ──なぜ、壬生先輩に拘ったのか。

 

「深雪も見ていた通り、最後は同盟とブランシュを切り離すことで警察の介入を最小限に留めていた。あれは、最初から落としどころを探っていたのではないかと思う」

 

 口に出すことで、その考えは徐々に纏まっていった。

 

「警察との取り引きでは明確に警察にフォローしながらも、事実上一科生二科生体制にひびを入れることに成功している。生徒会も同盟とブランシュが無関係としたことで校内に蔓延る反魔法師団体は存在しないことになった」

 

「國光君が三者得するように仕向けたと?」

 

「わからない。その可能性は高いが……。もしそうなら、国光の本当の狙いが見えない」

 

 深雪は首をかしげた。

 

「本当の狙い、ですか?」

 

「壬生先輩をフォローするのが本当の目的なら、もっとあからさまな介入があってもいい。むしろ、もっと深く介入していればブランシュの事件は発生しなかった可能性もある」

 

 達也にしてみればずいぶん表面的なフォローだと思っていた。暢が行ったのはあくまでも個人的なレベルのフォローであって、紗耶香個人の内情に深く立ち入れていれば、ブランシュ事件は阻止できた事件だと思っている。

 三者得するように仕向けたわりには、ずいぶんおざなりな介入といえた。そこがおかしいと感じていた。

 出来るのにやらない、ではなく、やらないことで事態をコントロールしていたのではないか、という疑念が拭えずにいるのだ。もっともそれは疑念と呼ぶにはあまりに弱い。だから達也は特尉としての地位を使ってまで、風間少佐に裏取りを要請したのだ。例えそれに不快に感じるものがいても、それは関係ない。達也にとって守るべきは深雪ただ一人なのだから。

 ──一度、國光と直接話して見るか。

 隣に座る深雪の存在を明瞭に感じながら、達也はそんなことを考えていた。

 生徒会室で見た九校戦の選手名簿もほとんど内定していたし、そのなかに國光暢も入っていたのを達也は確認している。確か競技は新人戦のスピード・シューティングとモノリス・コードだったはずだ。

 技術スタッフについては、誰がという点は内定しているものの、まだ誰がなんの競技に付くのかは未定だった。しかしそれも、来週中には詳細が決定すると思われる。そのタイミングならば國光と話すタイミングは作れる可能性は高い。むしろ、競技の相談とすれば、余人の邪魔は入らないだろう。

 

「もし、國光君が誰かに利用されているようならどうするのですか?」

 

「どうもしない。邪魔するというのなら──」

 

 いうまでもない事だった。達也には他の誰が、どんな目的で、何をしようと関係ない。ただ、深雪を害するのならば排除するだけだ。

 達也にとってそれ以外は些事だった。




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※内閣情報管理局→内閣情報調査局
※警察省→警察庁
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