魔法科高校の劣等生2095   作:シラー

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長ったらしく書くのはよくないと思うので3話(実質2話)で放送回です。
かなり強い表現を使いますがご了承下さい。


不公平

『全校生徒の皆さん』

 

 聞いたことがある声だな、司波達也はそう思った。達也にとって壬生紗耶香は数多いる先輩の一人に過ぎず、そういった意味では記憶の端に引っ掛かる程度の相手でしかなかった。それでも、記憶の引き出しは確かに壬生紗耶香の声であることは辛うじて残っていた。

 

『私たちは学内において発生している生徒間差別問題の解決を目指す有志です。私たちは生徒間の差別を放置する生徒会並びに部活連、そして差別を助長する風紀委員会に対して事態に対する具体的な対応を正式に要求するものです』

 

「有志、ね……」

 

 〝冷ややか〟に〝(あざけ)り〟を多分に含んだ声は周囲の喧騒に紛れ、殆んど誰にも届かなかった。

 國光暢と紗耶香がカフェで話し合ってから一週間。それは紗耶香と達也が話し合ってからも一週間で、達也からすれば()()()一週間で有志という具体的な組織が形成されるには早すぎると感じていた。

 

 同じ頃、A組の教室では端末を開いていた暢が届いた着信を確認し、端末を閉じて席を立った。だが周囲の視線は同じく席を立ち、教室を出た司波深雪に釘付けでほとんどの生徒は暢がいなくなったことを認識していなかった。

 

 達也が放送室へ向かう最中にも有志の演説は続いていた。

 

『私たち二科生は明確な差別を受けています。制度上の区別を利用した選民的な優性思想であり、許されるものではありません』

 

 紗耶香たち有志は単なる中傷では済まさなかった。具体例をあげて強い言葉で一つ一つ追い詰める。先日の具体性の無さから一変していた。

 

『本来、これを正すべき生徒会や部活連は放置し、風紀委員会は摘発すべきを摘発せず、職務を果たしていません』

 

 声は熱を持っていたが、少なくとも抑制され、激発するような危うさはない。計算され尽くした冷徹さを感じ取れる。達也の見たところ紗耶香にそんな演説は無理だ。たんたんとした冷静な演説には強いインパクトのある言葉で飾り付けており、聞いている生徒たちに差別があることを認識させていた。

 

『私たちはあくまでいち生徒としてこの学校の現状に抗議し、無為無策に甘んじ、自ら無能をさらけ出す生徒代表を弾劾するものであり、生徒会長、部活連会頭そして風紀委員長の公式の場における見解を求めるものです』

 

 放送室の前には〝有志〟にこき下ろされていた風紀委員長渡辺摩利、部活連会頭十文字克人を始めとする生徒代表と、彼らに率いられた風紀委員会、部活連の実行部隊が顔を揃えていた。生徒会長七草真由美の姿は見えない。そのなかに國光暢の姿を認めて達也はなんとなく、おやと思った。だが、その様子に隣を歩いてきた深雪は気が付かず、摩利に現状を問いかけていた。既に暢に声をかける機会は逸していた。

 摩利によると立てこもっている有志は内側から鍵をかけているらしいが、マスターキーは保管されたままだという。どういうことか、とさらに問いかけたとき、再び放送が校舎内に響いた。

 

『今、私たちのいる放送室前には生徒会、風紀委員会、部活連の三者とその指揮下の制圧部隊が待機しているでしょう。私たちを無法者として弾圧するために』

 

 達也は思わず苦笑してしまった。

 ここまで敵対されると笑うしかなかった。周りを見回せば市原鈴音も、摩利も苦い色合いをしている。唯一、克人のみが無表情でいるがおそらく内心は変わらないはずだと思われた。再び放送がざわめかせる。

 

『しかし、私たちは放送室の管理担当より、許諾を得て、今回の行為に臨んでいます。風紀委員会が行おうとすると思われる行為こそ、不法行為であり、まさに弾圧です

 私たちが放送室より排除されたときは、風紀委員会による弾圧であり、一科生による差別の具体的な行いでありましょう。

 皆さん、私たちは風紀委員会を始めとする一科生による弾圧行為に全力をあげて抵抗するものです』

 

 そう続けて、放送は切れた。

 

「……我々は弾圧者らしいな」

 

「そのようですね。とはいえ、どうしましょう?」

 

 摩利の疲れた声に鈴音が応じて、対応策を周囲に問いかける。

 

「相手は我々を徹底的に敵視している。派手な大火になる前に、ボヤの時点で徹底的に根本から火種を絶つすべきと考えるが?」

 

「放送室の管理担当に許可を得たといっている以上、それが事実かどうかわからない以上、強引な制圧はやめた方がいいだろうな」

 

 克人が強硬論を提示し、摩利は慎重論を提示する。見事に意見が対立していた。

 

「このまま待機はもっとも拙いのでは?」

 

 声を上げたのは暢だった。達也は暢の積極的な行動を起こすとは思っていなかった。

 

「ではどうしろと?」

 

 鈴音の声には少し非難の色があった。具体策を出せ、ということだ。暢は「そこで提案なのですが」といって、端末を示す。端末には紗耶香の名前が表示され、いつでも通話が出来る状態になっていた。

 

 暢が提案した策は説得ないし交渉というものだった。人質事件でも、犯人の素性、目的、人質交渉が行われるわけで、暢はその交渉を行うことを求めたのだ。生徒会長の真由美がまだ来ていないのが、若干の不安材料だったが説得あるいは交渉を行うこと事態は問題なしとして、暢に一任した。

 やって見せろ、ということか。暢は克人たちの思惑を飲み込んで、端末をスピーカーモードにしてから紗耶香を呼び出した。

 

『……國光君?』

 

 応じた紗耶香の声は緊張のためか、多少固かった。少し、声が震えている。

 

「國光です。私たちは今、放送室の前にいます」

 

 暢は少しためらってから、交渉をしましょうと単刀直入に求めた。暢は紗耶香が周囲と会議をする猶予を与えなかった。

 

「即時、放送室を明け渡すことを求めます。先輩たちの要求は?」

 

『私たちの要求はさっきも言った通りよ。生徒会、風紀委員会、部活連の公式の場での見解を求めるわ』

 

「それは、生徒会を始めとする生徒代表組織がなにもしてこなかったという事実を公式記録に残せ、ということですね」

 

 流れるような応答よりもその内容に深雪は一瞬、自分の耳を疑った。自分だけではない。達也も摩利も克人もそれは同じだった。

 要約というにはあまりにも()()な表現だと思った。しかし、暢は意に介する様子を見せず、さらに続けた。

 

「結構です。審議する時間を下さい。

 早まった真似だけはしないで下さい。ここにいる全員が、穏便な対応を認めているわけではありませんから」

 

 釘を刺してから暢は通話を切った。

 

「というわけです。我々は細部を詰めましょう」

 

 飄々とした口調のまま、暢は言い切る。そして周囲が騒がしくなる前に続けた。

 

「これで無茶はしないでしょう。あとはこちらの()()次第ですね。……それと七草会長はまだですか? 」

 

 含むものを込めた暢に周囲から敵意が一瞬強くなる。〝なにもしてこなかった〟代表の一人の摩利が周囲を代表して暢に真意を問う。

 

「なにが、というわけなのか理解に苦しむが、どういうつもりだ。私たちがなにもしてこなかった証明を残せだと? 正気か?」

 

「正気ですよ、渡辺先輩。風紀委員会の行いは二科生に敵愾心を煽りすぎですね。生徒会も部活連も放置のしすぎです」

 

「彼らの要求を受け入れるのか?」

 

 摩利の尖った声での詰問を暢はさらりと受け流す。

 

「受け入れるしかないでしょう。なにもしてこなかったから、このような事態になった。それを認めるしかないのでは?」

「なにもしてこなかったというのは誤解だ」

 

 これまで沈黙を守っていた克人がようやく重い口を開いた。暢が「具体的には?」と先を促す。

 

「摘発の行いは比較的守られていたはずだ。摘発基準は厳格で、不正を行う余地はない。強引なことをして告発されれば査問委員会が待っている」

 

「査問委員会は生徒会、風紀委員会、部活連の各代表ならびに教員によってでしたね? そして査問委員会の設置件数は?」

 

「…………なかったはずだ」

 

 克人は苦渋の声をようやく絞り出した。

 

「どうみてもそこでしょう。

 摘発件数は増加しているのに査問委員会が一度もない? 信じられませんね」

 

「待ってくれ。私たちが不正を犯しているとでも?」

 

 摩利が加害者扱いはたまったものではないと声をあげる。風紀委員会にしてみれば自分達の行いが不正である自覚は全くなかった。全くの言いがかりであるというのが風紀委員会の言い分だった。

 

「本当ですか? 生徒会、風紀委員会、部活連はその全員が一科生です。一科生優位の判定を与えたことは一度としてありませんか?

 一科生の摘発用語を二科生の前で黙認したことはありませんか? 

 ダブルスタンダード(二重基準)で摘発するしないを決めたことは本当にありませんか? 

 二科生の要請を話すら聞かずに拒絶したことはありませんか? 

 一科生の前で二科生を強引な摘発をして喝采を浴びたことはありませんか?」

 

 絶対にない、そういいきれない摩利は沈黙を余儀なくされ、克人も黙ったままだ。

 

「このままにすれば沸騰しますよ。いや沸騰したというべきでしょうね。沸騰した鍋に蓋をすれば、吹き零れます」

 

 暢は周囲を見回す。誰もが暢の視線を避けていた。達也と深雪の二人だけが暢の視線を受け止めていた。

 

「では受け入れるしかありませんね。なにもしてこなかったのが、事実なら」

 

「まて。それをしたら非を認めることになる。生徒会に対する信頼も揺らぐ」

 

 三年生の誰かが暢が結論を出そうとするのを止める。そうだと同調する声も上がるが、暢は気にも止めなかった。

 

「では本当に二科生を差別したことが一度としてないと、言い切れるんですね。言い切れるのなら、問題はありませんが」

 

「……それは」

 

 全くない、とは言えない。一概に言いがかりと言えない。否定できなかった時点で暢の提案は通ろうとしていた。

 

「結論はこちらで出すわ」

 

 だが、そこに真由美が遅れて登場してきた。

 

「遅かったですね。重役出勤ですか?」

 

 暢の度を越えた挑発に真由美は意に介さなかった。だが周囲が暢を睨む。

 

「学校側の結論を伝えるわ。学校側は今回の件を私たちに一任するそうです。正式に文書で通達されたわ。國光君、壬生さんに伝えて。

 公式記録に残すことは安易に頷ける話ではないけど、生徒代表として公式見解を発することに異議はないと」

 

 暢は萎縮の様子を見せず、平然と承った。

 

「わかりました。そのように伝えますがなぜ、僕が?」

「あなたの方が()()()より信頼を得ているようね。これでいい?」

 

 了解ですと答えて暢はさらにもう一つ質問した。

 

「壬生先輩たちの身柄は如何しますか?」

「拘束はしない。彼らは交渉相手であり、我が校の生徒よ」

 

 暢はなにも言わず、一礼する。それから紗耶香を呼び出し、先の真由美が出した条件を伝え、放送室を明け渡すことを求めた。

 

『……わかったわ。放送室を明け渡します。またこの旨を放送します。

ただし、()()()()放送室を明け渡すこと、生徒会の結論の詳細を放送することを認める限り。

七草会長にそう伝えて』

 

 わかりましたと返事をしてから暢は通話を切る。真由美に確認してから暢は紗耶香に改めて生徒会の結論を伝えた。やがて中から解錠される音ともに扉が開く。紗耶香を始めとする数人が中から出てくるのを確認して、暢は自然に実行部隊と有志の間立って実行部隊の視線を遮る。それが意識的な行動であることに気が付いたのは達也と真由美だけだった。




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