※注 作中で不法行為を考察するシーンがありますが、まかり間違っても推進するものではありません。絶対にやめてください。
清掃業者のトラックが複数台校内に乗り入れたまま止まっているを見て、相手が清掃業者に成り済まして侵入したことが窺えた。爆発の確認された実技棟には清掃業者のロゴマークの入ったワゴン車が突入したようでワゴン車が外壁に頭からめり込んでいる。衝撃でフレームがへし折れ、運転席部分まで外壁に突っ込んだワゴン車からは炎が立ち上がっており、自動車爆弾として送り込まれたのだろうが、目下の問題は侵入者の対応に人手がとられて、消火まで手が回っていないことだった。とはいえ実習棟はやたら頑丈に作られており、耐震はともかく、わざわざ熱反応を遮断する建材で作られ、噂ではミサイルの直撃に耐えられると噂されるほどの対衝撃構造の建物だった。そんな建物相手に自爆車両一台ではニトログリセリンでも満載させなければ効果は薄く、ましてや倒壊させることなど不可能だ。
──やはりこちらも陽動か。誰にも聞こえない声で結論するが、その結論はあまり嬉しくない想定を呼び起こす。
相手は講堂に一切人員を送らずに最低限の戦力で、こちらの主戦力を足止めしたうえで、更なる陽動をかけ、防衛側の分散を誘い、目標を欺瞞し本命を狙うという順序をしっかりと踏んでいるそれは、バックに軍隊がいると言われてもさほど不自然でははなく、むしろそっちの方がしっくり来るわけで、また侵入者も清掃業者の車両や建物の物陰から全身を出さないようにして銃撃を浴びせ、撃ったら直ぐに移動し、別の場所から攻撃を加えていた。持ち込んでいる火器はいまでも第三世界御用達のAKシリーズのようで国内で密造、あるいは他国から密輸された銃器だろう。
第三世界御用達というだけあって、村の鍛冶屋のようなところでも、製造できなくはないこともあって、足のつきにくいAKシリーズはいまだテロリストの間でも頻繁に使われている。魔法が使えても防げなければ意味のないわけで、十分に強力な武器だが、ここ最近国内で密造の摘発も、密輸の摘発も、情報が降りてきていないことから、かなり前から準備されていたものだと想像できた。国内で密造するとなるとそれなりの装備と時間と機関部の構造や銃身の内径などを計るために、きっちりとした見本が必要だが、国外で3Dプリンターで見本を作り、部品ごとにばらしてしまえば金属探知機にもかからず、国内に持ち込むことができる。国内での密造が全く出来ない訳ではないAKシリーズの出所はとんでもなく面倒くさい作業となるはすだ。
といってもそれらを振り回す侵入者は使いなれていないのが見受けられ、弾倉交換に手間取っているようすだが、それでも魔法科高校の生徒や教員相手に真正面から戦うことの愚を犯すような侵入者は今のところ確認できず、軍事訓練をその身に受けたなどとは言わなくとも、軍事訓練を受けた人間の指揮を受けていることが傍目にもわかるわけで、見る人が見ればわかってしまう。それがわかってしまった故に暢は一瞬だけ顔を曇らせた。紗耶香はそんな横顔が見えてしまったわけで、それを察してか、振り切るように暢は相手について述べた。
「
まさか事務棟で金品を狙うよりよほど堅実でしょう。……やり方は無茶苦茶ですが」
意図的に鈴音に聞かせる目的をもって、紗耶香への確認を避けた暢達はほどなくして図書館棟の通用口に達した。通用口は防弾ガラスで拳銃ごときでは貫通は不可能。それこそ
閉鎖されているとわかると、なんの躊躇いもなく、学校の設備をぶち破って突入する暢にやりすぎだと半分呆れ、同時にどうやってそんなことを出来るようになったのかと頭の隅で訝しむが、暢はそんな二人を放置して踏み入れた。そしてその動きは達也達が入るよりも早かった。
正面エントランスの見張りは三人くらいだろうと推察できるが、人手が足りないらしく、通用口の見張りは一人しかないない。小さく、「行きますよ」の合図の後、一高の制服を着た見張りがガラスの破砕される音を聞き付けて偵察に来た生徒を待ち受けた。通路の角に隠れ、足音で間合いをはかって相手が勢い余って飛び出した一瞬を狙い、暢は一歩を踏み出し、スタンバトンを持っている手を掴み引き寄せた。突然、思わぬ方向に働いた力に相手がたららを踏み、バランスを崩す。そのまま足を引っ掻け、転倒したところに首筋めがけて手刀を振り下ろす。反撃の隙を与えず、一撃で意識を刈り取られ、動かなくなった相手の首にてを当てて脈拍を測って生きているのを確認してから、暢は自分のネクタイをほどいて拘束する。呼吸一つ乱さず、反撃の隙を全く与えないで決着のついた屋内での戦闘は暢の
本来、
事態が始まる前に届いた連絡の通りに、眩暈のしそうな現実を前にして、暢は情報管理の杜撰さに「
既に侵入されているはずの図書館棟の内部は静まり返っていた。この時間なら司書以外の職員や利用する生徒もいたはずだが、外の戦闘に引っ張られたのか、それとも退避したのかさだかではないが、その姿は見えない。代わりに聞こえてきたのは通路を駆け足で抜けようとする四つ分の足音で、次第に遠ざかっていく。相手が居なくなったのを確認してから、動き出そうとする暢に「ちょ、ちょっと待って」と鈴音は声をかけていた。暢が振り向き、後ろの紗耶香が足を止めて鈴音に目を向けた。
「襲撃者は一体何者?」
暢はわずかに紗耶香へ目線を向けてから、鈴音に向き直り、少し躊躇ってから「実行犯は反魔法国際政治団体、バックは他国の情報機関」と答えた。開示された情報は鈴音にとって既知か想像の範囲内というものだが、それで鈴音を納得させるのはさすがに無理というもので、苛立った視線を向けた鈴音に暢は「……というのが表の
「
その言葉にこれ以上は踏み込むと危険だと警報が頭のなかでうるさく騒ぐ紗耶香は、「本当にやめて」と制止し、鈴音も眉をひそめる。だが、それを無視して暢は飄々と続けた。
「先輩達は反魔法国際政治団体という組織をなんだと思いますか?」
いきなり核心に触れた質問に紗耶香はぎょっとするが、暢は斟酌せずに二人のようすをうかがった。
反魔法国際政治団体とは何か? 名前は聞いてもなんとなく魔法師を敵視しているとしか考えたことのない自分に鈴音は紡ぐ言葉を躊躇った。暢はそれを見てとってか、ふふっと柔らかい笑みを浮かべる。なぜ笑えるのかと紗耶香は疑問を浮かべたときには暢は歩きながらその続きを語っていた。
「なぜ彼らの行いをこんな大事件になるまで放っておいたのか。こんなことをして何が変わり、誰が得をするのか。
答は一つだけ。反魔法団体だったから、というものでしかない。その見方は
紗耶香は意味深な暢の視線を受け止め、見返したが言葉を返すことは出来なかった。利用し、利用されている我が身を思えば反駁は声になる前に飲み込まれた。
「分断ししかるのち統治せよ、とはイギリスのやり方ですが、別に統治こだわる必要はないわけで、強大な敵を相手にするときの基本戦術というわけです」
強大な敵が魔法師という予想が簡単に出てくるあたり紗耶香は魔法師が世間一般で言うところの強者に近いのだろうと自分でも思う。その強大な敵を分断するとなれば紗耶香の知識に当てはめれば一科生と二科生にピタリと当てはまる。一科生と二科生に分裂し、各校にその対立が広がれば校内で魔法師は内紛を引き起こす。内ゲバという訳で一般市民に誤爆でも行われれば警察は国民の敵として粛清せざるを得なくなる。治安大国として警察の面子にも関わることだから、国家にもたらす長期的な利益を度外視してでも、警察はなりふり構わず魔法師の団体を潰しにかかることは容易に予想でき、それは今度は魔法師と国家の対立に直結しかねないもので、暢の説明は空想か妄想と切って捨てるにはあまりに現実味が伴っており、「あんまり楽しくない想像ね」と紗耶香が呟き、鈴音もそれを認めた。
「そしてそれを望んだ者達がいた。もちろんこの国ではありませんよ。他人の足を引っ張り、積み上げていき自分の利益に転嫁する。やり口が陰湿と思うでしょうが、この手のやり方はどこも変わりません」
北米も新ソも大亜も陰謀が趣味みたいな連中ですからね、と自分のことを棚にあげて、暢は話を終えた。すでに建物の一番奥、地下二階に存在する特別閲覧室は角を曲がったすぐそばだった。
高評価ありがとうございます。
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次の次の次くらいで入学編は終わるかなと考えています(多分)。