もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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第十一話:一人で、二人で

 もうすぐ夏が来ると照りつける太陽が教えていた。

 ヨーロッパの国々を巡る日々もそろそろひと段落してよいだろう。

 様々な国を巡り、様々な文化に触れ、いろんな料理を食べた。

 基本的に表情の変化がないデュフォーとの食事ではあるが、こいつが美味いと感じた時の微妙な変化に気付けるようになってきた。

 一応オレが朝食を担当していて、マズい料理を出すのはプライドが許さんので料理の腕は上げておかなければと思っていたところ、食べるのがオレ以外ではこいつ一人な為に、初めは味の判断基準が分からなかった。

 観察すること一月。デュフォーが美味いと感じた時、マズいと感じた時、普通に感じている時の三つの変化があることに気付いた。

 この変化が分かるのは今の所オレだけしかおるまい。その内あの鉄面皮を崩して見せるのが密かな目標の一つだ。

 

 あだしごとはさておきつ。

 ブラゴ達との茶会から半月ほどのこと、ここ一週間オレ達はイギリスで休息をとっている。

 何やらデュフォーはガッシュと出会った森の付近を散策したいらしく、オレは少し離れた街でこの三日は一人だ。

 目的を聞いてもあいつは何故かはぐらかしてきた。今までにないことだった。いつでも共に過ごしてきたのに、あいつ一人で何かをするなどと。教えろと迫っても決して口を割らない。

 あいつが何処に居ようと魔力の目印を付けてあるので瞬間移動すれば合流できるとはいえ……少し腹が立つ。

 

 確かにだ。一人で何かをしようと思い立つのは、あいつの過去を思えばいい変化なのかもしれない。他人に利用されるだけの人生を過ごしてきて、オレが死の運命から連れ出してからはオレの目的に付き合わせてきたのだから、自発的に行動し始めたのは喜ばしいことなのだろう。

 

 だが、腹が立つのだ。

 せめて目的を言え。ガッシュと出会った森の付近なら、確実にガッシュに関することだろうに。

 

―――それなのにあいつはオレを連れていかないといいやがる。

 

 わけがわからない。あいつだってガッシュのことを少なからず気にかけていたはずなのに、オレと共に行動しようとしない理由が分からん。

 

「クソ……イライラする……あっ」

 

 あまりのイラつきに削っているカツオブシの厚さが変わってしまった。

 これではカツオブシチップスも作らないとバランスが取れない。あいつのせいだ。

 他の厚さを調整するのが面倒だったので、ひょいと口に放り込んでサクサクと噛み砕く。

 

 せっかくのオレのおやつも、一人で食べると味気ない。

 こんな狭い部屋なのに、あいつが居ないと少し広い。

 せっかくあいつに料理を作ってやることが出来るのに、今日も帰ってくる気配がない。三日だぞ、三日。

 

 なんなんだあいつは。イライラする。

 気配を消して後を追ってもいいが、あいつのことだから答えを出す者(アンサートーカー)ですぐに気付いて絶対に呆れた目で見ながら、

 

“お前、ばれないと思ったのか。頭が悪いな”

 

 とか言いやがるんだ。だから追跡することもできやしない。いくら魔力が強かろうと、いくら特殊な術が使えようと、あいつのあの反則な能力のせいで全て封じられる。かといってプライドがあるからあいつに教えてくれというのもイヤだ。オレにとって最悪の相手だ、全く。

 

 またカツオブシの厚さが変わった。厚すぎてチップスにすらできやしない。

 

「あぁ! もう! デュフォーめ!」

 

 バギリ、とそのまま厚くなりすぎたカツオブシを手に取って噛み砕く。大好物のはずなのに、いつもよりやはり味気なく感じる。ベストな厚さにしてないからということにしておこう。

 やることが無い。料理の練習も飽きた。テレビとやらを見ていても全く面白くない。パルコ・フォルゴレとかいうスターの映画など興味がない。パソコンはデュフォーが持って行ってしまったから人間界の知識を集めることもできない。

 

「そうだ……こんな部屋に居るから気が滅入るんだ」

 

 なぜオレが一人で留守番などせねばならないんだ。せっかくだからこの街や近くの街を散策してやろう。つまらなければ今まで行ったヨーロッパの何処かに瞬間移動してもいい。デュフォーに見つかるとバカにされるので、あいつとは常に大きく距離を離してやる。

 

 そう考えてオレは、カツオブシを全て口に放り込んだ後、合鍵とデュフォーの置いて行った魔本を持って部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 ゼオンを置いて一人で行動をしていたデュフォーは、とある古い城まで来ていた。

 彼の持つ答えを出す者(アンサートーカー)の能力は、求める答えが頭に瞬時に浮かぶというモノであり、今回はとある目的を叶える為にこんな場所まで一人で来ていた。

 

 古城の門は開け放たれて、誰でも侵入出来るようになっていた。

 

 一番目の部屋。

 入った途端に、ガシャガシャとひとりでに動く鎧が目の前に現れる。人間とは思えない歪な動き。金属が響き音は中身が空洞なのを伝えていて、間違いなく人間が動かしているモノではないのがありありと分かるナニカ。

 デュフォーは表情一つ変えず立ち止まり、自分の右へ、一つ一つと小石を投げていった。

 すると鎧達はただただ、その小石の鳴る方へと向かっていく。

 

(音と振動、そして魔力のどれかを感知して操作しているモノを向かわせる術。本体はこの城の中で感知能力のみで察知している為、ゼオンの雷を前に受けた(・・・・・・・・・・・)石の魔力も追ってしまい誤認する)

 

 小石を入り口の方へと投げながらゆるりと歩くデュフォーは、ゼオンとの訓練で身に着けた気配をあまり読ませない歩行術によって鎧の行列を抜けていく。それを見て、マニュアル操作ではなくセミオート操作の簡素な術であることを見抜いた。

 己の懐にまだある石には反応せず、動く方へと反応し続けているのがその証左。

 鎧達を放っておいて、彼は楽に次の部屋へと突破した。

 

 二番目の部屋。

 入った途端に一斉に二百本もの剣が侵入者に襲い掛かってくるトラップだと“答え”が出ていた。

 入る前に石をまとめた袋を投げ入れると……剣はその袋に向かって殺到していく。高い金属音が鳴り響き、石を入れた袋がズタズタに切り裂かれていく。

 何本かは互いに弾き合ってデュフォーに向かって来たものの、その軌道の“答え”さえ出ているデュフォーには全く意味がない。

 二番目の部屋もなんということはなく突破した。

 

 三番目の部屋。

 ただの落とし穴。答えが分かっているデュフォーに効くわけがなく、単純すぎる罠を見てデュフォーは憐れなモノを見るような顔で穴を見つつ、

 

「この罠考えたヤツ……」

 

 頭が悪いな……そう呟きながら扉を開けた。

 

 四番目の部屋は落ちてくる天井。

 さすがのデュフォーも単純で圧倒的な物理の質量には対抗できない。

 入れば落ちてくるし、出入り口も封鎖されるという仕様な為、打つ手がない……と普通なら考える。

 

 あらゆることに“答え”を出せるデュフォーにとって、この罠でさえもどうということは無かった。

 

 封鎖される出入り口は、扉が閉まるのではなく鉄格子が突き出てくるタイプであり、格子状のソレの隙間は人間の拳くらいは余裕で通る。

 なら簡単だとばかりに、三番目の部屋の石畳の内で初めから割れているモノを剥がし、扉を開けた上でまず四番目の部屋に投げ入れ、落ちてくる天井の罠を発動させる。

 しばらくして、次の侵入者を排除する為の罠に戻ろうと勝手に上がっていく天井。粉々になった石畳の破片と……元の石畳もヒビが入り、壊れているところがちらほらと。

 一回、二回、三回、四回……とデュフォーは罠を起動させて天井を落としていく。

 

 大きさが違うとはいえ、堅さの違う石同士がぶつかり合うとどうなるか。罠の為に加工された天井の石は、間違いなく通常の石よりも脆くなっている。そも、こんな古い城にある罠であるなら、経年劣化が見られるのは当たり前。魔物の子が手を加えていたとしても、魔力が通っていないのならばただの大きな石。床も同じように石であるのなら……カタチを崩し始めないわけもなく。

 数を重ねる毎にそのぶつかる音は変化していく。

 

 “侵入者がこの罠に気付いて回避したのはいいが、どうにかしようと何度も確認して途方に暮れているのだ”と、そう高笑いしている男。そして意味不明なデュフォーの行動に戸惑っている魔物。それらの全てに、“答え”が出た。

 デュフォーが何を狙っているか気付いた頃には……もう遅い。

 

 天井の大きな石の耐久度すら答えが出ていて、どの角度に、どの位置に、どの高さの不純物を与えてかみ合わさせれば早く砕けるか……その“答え”が七回。

 

 割れた岩は、天井には戻らない。アンカーと鎖だけが天井に巻かれていく。

 

「つまらない罠だ」

 

 呆れのため息を吐きながらデュフォーは岩を渡って進む。

 衝撃で壊れた出口の鉄格子を潜ると長い廊下。

 

 もう罠はないと“答え”は出ていた。

 

 そうして進んだ先に……短髪で裸の上半身にマントを羽織った男と、天井まで届きそうなほど大きな、石で造られた、犬の顔をしたロボットのようなナニカ。

 人間ではとても敵わないであろう敵の出現にも、デュフォーはなんら顔色を変えない。

 

「はっ……こんなひょろい男があの罠全てを抜けてきたとはな」

 

 心底バカにした顔でデュフォーに向けて言葉を放つ男は、魔本を持ちながら大仰に腕を広げた。

 

「ようこそ我が城へ、とか言ったほうがいいか? クク」

 

 余裕で立っているその男に、デュフォーは呆れのため息を吐き出した。

 

「……お前、頭が悪いな」

「ああ!?」

 

 ビキビキと青筋を立てる男。デュフォーは変わらず無表情だった。

 

「言葉に気を付けろよガキが。状況が分かってるか? このでかいのとお前みたいなひょろっちいのが戦えるとでも?」

 

 威圧的な眼光を向けられても、後ろの大きいのが魔力を滲ませようと、デュフォーの表情は崩れない。

 

「……はっ、ビビッて言葉もでねぇか?」

 

 舐めきっている男は、デュフォーが無言で腰に手をやってもにやにやとしていた。

 魔物の力を手に入れ、自分に優位な拠点を手に入れ、安穏と過ごしてきた男は……警戒心というモノが薄くなっていたのだ。

 

 すっと、デュフォーはズボンの後ろに固定していた黒いナニカを男に突きつける。

 

「……っ」

 

 息を呑む音。見開かれる目。

 真っ直ぐに突きつけられる、真っ黒な穴。

 

「お前の世話をしている人間全てを下がらせろ。二人きりで話をしよう。お前が“ゼベルオン”や“ゼベルセン”を唱えるよりも、オレが引き金を引く方が早いのくらいは分かるだろう?」

 

 向けられる空虚な空洞は、指先一つで命を奪える人間の暴力の叡智。

 警察や軍隊じゃあるまいし、ど素人の男が唐突にソレを向けられて咄嗟に対処など出来るわけがなく。

 更には自分が唱えるはずの術の名を言い当てられて、思考もぐちゃぐちゃに乱される。

 情報の津波を叩きつけることによる思考停止は、全てデュフォーの目論見通り。

 

「この距離だとどの場所も外さない。“バルトロ”との距離が離れすぎているから、いくら人間より力が強かろうとこの一瞬じゃあお前を助けることは出来ない」

 

 わなわなと震える手。持っている鞭を握りしめたのが分かって、デュフォーは更に相手を追い詰める。

 

「たかがガキ一人に何が出来る、と考えているな、“ステング”。その手に持つ鞭の範囲はあと二歩。オレの銃の射程は此処からでも余裕。行動に移すなら話の途中か? それとも語りきったすぐか? そう考えているな? この通りオレはお前の全てが、頭の中さえ分かるから、お前が動こうとした瞬間に引き金を引ける。おとなしくした方が得策だぞ」

 

 銃口は何も語らない。デュフォーの瞳には何の感情も映らない。

 魔物の名前を知っていることも、自分の名前を当てられたことも、ステングに身を引きつらせるような恐怖を引き立たせる。

 無機質な瞳と銃口を交互に見て確信する。この相手は、間違いなく何の感情もなく引き金を引けるのだと。

 真っ直ぐに突きつけられる命のやり取りの現実に、他人の力だけで強くなった気でいる男は抗えない。

 

「……全員……下がれ」

 

 壁際に寄っていた女やコック達に命じるも、彼らは戸惑うばかりで動こうとしない。急な命令に従えない。

 デュフォーの首が、僅かに傾く。どうした、というように。銃が鳴った音がした。些細な音を聞いただけで、ぶわっと冷や汗が噴き出した。

 

「てめぇら! はやくしろっ!」

 

 怒鳴り声を聞いて、やっと人々は城の他の部屋へと逃げていく。

 ギシリと歯噛みをする男。たった一人の青年に、全てを手に入れたと思っていた男は窮地に立たされた。

 

―――あいつらも頭が悪いな。オレがステングを拘束しているんだから今すぐ逃げればいいのに。

 

 わざわざ言う必要もないかと心を切り替えて、銃を構えたまま、デュフォーはポケットから石を取り出して放り投げる。

 

「“バルトロ”。城の中を感知して、更には鎧の兵士達を此処から村までも遠隔で操ることができるお前なら……この石に込められた魔力を持つ、オレのパートナーの魔物がどんなモノか理解できるはずだ。罠の部屋では遠すぎて魔力の質までは分からなかっただろう。この距離なら、ちゃんと感知できるな?」

 

 カツン、と鳴る小石の音と、デュフォーの放ったその言葉。二つを聞いて数瞬……地鳴りのようでありながら幼い声がその部屋に響いた。

 

『だ、だめだステング……こいつに、逆らっちゃダメだ』

「バ、バルトロ……?」

『こんなの……勝てるわけ、ない……』

 

 怯えを滲ませるその声は、小石に込められた魔力の残滓だけでソレの元がどれほどの魔物か理解した。

 バルトロという魔物は、物質を遠隔操作する術を持つ魔物。魔力を感知し操ることに長けているのは必然で、それ故たかだか小石に込められている魔力であっても、その大本がどんなモノかなど理解出来てしまった。

 

「だが……こいつは一人で此処に―――」

「お前、頭が悪いな。オレのパートナーが居なくても、オレ一人でお前をどうにか出来る状況になっている事実を見て何も考えないのか? それに比べてバルトロは頭がいい。ちゃんと……オレのパートナーの強さを分かった上で、自分がオレに何かすればこの後すぐに追い詰められることを理解してお前を止めたんだから」

 

 ぴたりと思考を言い当てられたバルトロは、ひっ、と短く悲鳴を上げた。

 姿かたちも見えないデュフォーのパートナーに怯えるバルトロに異常を感じたステングは、もはや混乱に支配された頭ではなんの対処も出来るはずなく。

 

「さぁ、ステング。話をしよう。何もお前が必死で組み上げた城とシステムを奪おうとしてるわけじゃない。オレは此処に居る人間がどうなろうと、何も困ることはないしな」

 

 真黒な銃口と、デュフォーの冷たい瞳。

 全ての人間がどうでもいいと伝える、無機質な機械のような目が、ステングはただ恐ろしかった。

 

「誘拐の依頼を一つしたい。ターゲットはこの近くの大学の教授、高嶺清太郎。指定の日時はまた連絡する。それを約束すればオレは帰るし、二度と此処に来ない。詳細は―――」

 

 簡単だろう、と言わんばかりの声に、ステングは頷くことしか出来ず。

 其処から語られる説明にも、首を縦に振ることしか出来なかった。

 従わなければどうなるかの結果が分かりきっていたから、ステングはデュフォーに従うしかなかった。

 

 デュフォーは、説明をしながらぼんやりと先のことを考えていた。

 

―――ガッシュのパートナーがガッシュのことを知る為に此処に来るのは間違いない。それなら成長のきっかけにこの三下を使うのがいいだろう。あの森(・・・)に行かせるのは少しでもガッシュの成長とパートナーとの現状をこの目で見てから……オレが其処で起こる変化をしっかりと確認しなければ。

 

 全てはガッシュの成長の為。ゼオンにすら内密の独断行動。きっと今頃拗ねているだろうなと、そう思った。

 

―――だが、ガッシュと会うことすら許されないゼオンにこんなことは……させたくないし、見せたくない。

 

 ゼオンとガッシュ以外の他者のことなどどうでもいい。人間の命など、特筆して大切にするべきモノではないとデュフォーは思っている。

 この城に監禁されている人間達も、デュフォーにとってはどうでもよかった。

 

 最効率の手段はこれだと“答え”が出た。

 優先したいのはガッシュとゼオンのことなのだからこれでいいと、結論付けた。

 

 ただ、ゼオンには、こんなことに関わって欲しくないと、デュフォーは思った。

 三下の人間などに関わらせたくないと思った。この二人を従えて利用する行いに加担させたくなかった。

 まだ彼の心は、温もりをくれた二人の為以外に動くことはない。

 

―――こんなくだらない鉄の塊を利用したと知ったら、ゼオンはどう言うかな。

 

 冷たいだけの銃を握っていると、もやもやと、不快なナニカが胸に募る。

 二度と使いたくないと、心の中で吐き捨てる。物言わぬただの武器は、まるで研究者の老人に言われて人殺しの兵器を作り続けた無感情な自分のようで気持ち悪かった。

 今の自分を見てゼオンがどう思うかを考えた時、心の無い兵器のような人間のはずのデュフォーの胸は、また少し、チクリと痛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日目の夜にやっと帰ってきたデュフォーは、なんとなく疲れたように見えた。

 

「何か変わったことはあったか?」

 

 “答え”を求めればすぐに頭に浮かぶはずなのに聞いてくる。わけが分からない。

 

「この三日で変わったことか? 一週間前に居た彫刻家の一族の魔物とは別に、街に女の魔物が一人来ていたくらいだな。前と同じで弱すぎるから放置した。オレが手を下さずともどうせ生き残れん」

 

 一応口で説明してみると、ヤツは何も言わずにベッドへと倒れ込む。きっと分かっていたのだろう。

 仕方のないやつだ。こいつなりに頑張ってきたというのなら、オレが特別に褒美をやらんこともない。

 

 とっておきだ。有り難く受け取るがいい。

 

「驚けデュフォー。シェリーの所の執事から紅茶の淹れ方を教わってきてやったぞ。お茶請けもある」

 

 そういうと、あいつはこちらに顔を向けて不思議そうに眉を寄せた。

 

「フン。お前が自分から自発的に何かをしてきた。それが何かは分からないが、お前のこれまでを思えば大きな成長だろう? だからこのゼオンが、と・く・べ・つ・に! 褒美として茶を入れて労ってやろうと言うのだ」

「いや、別にいらない」

「あぁ?」

 

 ビシリとこめかみに青筋が入ったのが分かる。

 せっかく準備したというのに、こいつはあろうことかいらないと言いやがる。

 威圧を放つと、デュフォーはオレをじっと見つめてくる。

 

「オレ達の目的に必要なことをしてきただけで、何ら特別なことはしていない。ただ役割分担でお前と別行動していたんだ」

「なら! なぜオレに内容を教えない!」

「お前に言ったら絶対に着いてくると分かっていたからだ」

「そんな“答え”が視えていたとしても! それでも教えるのが筋というモノだろうが!」

「こうやって無駄な時間を取られるのが嫌なんだ」

「せっかく! せっかくこのオレ様がお前を労ってやろうと―――」

「必要ない」

 

 むくりと起き上がったデュフォーがオレに向けて言い切った。

 こいつは本当に、他人の感情というモノを全く理解しようとしやがらない。

 

 イライラする。

 

「うるさい! なら勝手に淹れるから勝手に飲め!」

 

 ガチャガチャと荒っぽく、オレは怒りのままに紅茶を淹れる為の道具を用意していく。

 湯を沸かし、茶葉を適量混ぜ合わせ、執事に習った通りの手順で入れていくだけ。

 タイミングが難しいと教わった通りに、きっとまだオレでは執事のようには淹れられないだろう。

 

 デュフォーは何も語らず、今度はベッドから下りてパソコンに向かってナニカしていた。

 お前の分など淹れてやらないでおこうかとも思ったが……それすら別にいいとでもいいそうなので意地のままに確りと準備してやった。

 

 ああ、クソ……イライラする。

 

 味見はした。

 どしどしとあいつの座っている場所に近づいて行き……わざとがちゃりと音を立てて茶器を置く。

 カップを乱暴に取って紅茶を淹れていく。香りはいいが、味は執事より数段落ちているが許容範囲内。

 

「飲め」

 

 湯気の立つ紅茶を見つめるデュフォーは黙ったまま。

 すっと……静かに一口。

 

 どんな顔をするかと、いつも通りに観察していた。怒りが燃えているとはいえ、オレの淹れた紅茶にどんな反応をするかは見ておかねばならん。

 美味いのか。ふつうなのか。マズイのか。

 さあ、どの顔をするか見せろ、大バカモノめ。

 

 だが……こいつはそのどれとも違う、いつもとは全く違う顔をしていた。

 

「お前、何をしてきた? そんなつまらなそうな顔をして」

 

 そう、つまらなさそうなのだ。

 こいつは味に対して思考を向けていない。感覚を向けていない。

 心ここにあらず、というのだ。こういうのは。

 

「……何も」

「ウソをつくな」

 

 むにっ。

 両の手でデュフォーの両の頬をつまんでやった。

 

 そのままこいつの目を覗き込む。

 目は口程にモノをいうと聴いたことがある。だからと覗いてみると……いつもよりも深いナニカが渦巻いていた。絶望ではないナニカが。

 

「お前……自分で言ったよな? 一人で救うんじゃない、二人でだ、と」

 

 あの夜にオレに言った言葉を忘れたとは言わせない。

 

「オレからも言っておくぞ。何かをするなら、二人で、だ。勝手に一人で、なんでもかんでも、するな。分かったか」

 

 言葉を区切って言い聞かせるように伝える。

 

「それで? お前はここ数日で何をしてきた?」

 

 目を合わせて問い詰めても、デュフォーの瞳にはナニカが渦巻くだけで答えを教えてはくれない。

 きっとこいつは何を聞いても絶対に教える気がないのだろう。

 

 少しだけ、哀しくなる。

 

「フン、言いたくないならいい。だが、これっきりだ。そんなつまらなそうな顔をするのなら、二度と勝手なことを一人でするな。いいか、二度とだ」

 

 手を放して背を向ける。

長い沈黙。オレからは何も話そうとは思えなかった。時計の音がけが響く数分後……デュフォーがやっと口を開いた。

 

「……ガッシュとそのパートナーが……もうすぐこの街に来る」

 

 ぽつりと零したその言葉にも、オレは振り返ってやらなかった。

 

「その準備をしてきた。ただ……お前は会う事が出来ないから、あまり関わらせたくないと思ったんだ」

 

 ナニカをまだきっと、こいつは隠している。でもそれは、きっとこいつなりにオレの為を想って隠しているのだと、そう思う。

 

 怒りも、哀しさも、静かに消えていく。

 結局こいつの行動理由はオレの為だった。

 自発的に何かをしようとしたのではなく、オレの願いに必要だからと単独行動しただけ。

 

 それがまた……違う哀しさをオレの胸に湧かせる。

 

「もういい。分かった」

 

 これ以上は、きっと今は進めない。進まない。

 

 まだ他者の心に疎いこいつでは、折れることなんてできないだろう。

 それならオレが、折れてやらねばなるまい。

 

「もう褒美とかはいい。だが、明日はちゃんとオレの茶を味わって飲め」

「……ああ」

 

 振り返って言うと、いつもの色に戻った瞳でオレを見ていた。

 

 仕方のないやつだ。まだオレとの距離すら測れないアホウだからな、こいつは。

 

 このまま今日を終えてもいいが……せっかくだからと、オレは大きくため息を吐いて言葉を投げてやった。

 

「お前がオレの為にしてくれているんだ、期待しておいてやる。ただ、オレの為であってもオレが認められないようなことをしていたら許さん。そして……一人で無茶はするな。一人でつまらないと思うこともするな。一人でイヤだと思うこともするな。そういうのを分かち合うのも……二人で、だろう?」

 

 自然とにやりと浮かべた笑みを見てか、あいつは少し驚いたように目を丸くしてから……

 

「ああ」

 

 ほんの少しだけ、柔らかい表情で返事を返してきたんだ。

 

 信じてるやるさ。バカモノめ。

 

 なんせお前は、オレのパートナーなのだからな。




読んでいただきありがとうございます。



城と村の間50キロの距離も動かせる操作性の術を持つバルトロ、実は優秀なのでは説。
この戦いで一番効率的な人間側の武器は間違いなく銃なのですが、デュフォーくんは兵器作らされている過去があるから人間の兵器や武器への嫌悪感が天元突破してる設定で書かせてもらいます。断言しますがこれ以降は使いません。

ゼオンくんとデュフォーは少しずつ相棒としての距離を縮めていってる感じで……


これからも楽しんでいただけたら幸いです。

下記のうちでどの魔物が好きですか

  • 弟にとっても優しいお兄ちゃん
  • モフモフな親友
  • 竜族こそ最強よ
  • 王をも殴れる男
  • ゴーーーーーー
  • 御意のままに!
  • 大・将・軍!
  • グロリアスレボリューション!!!
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