もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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第十二話:受ける想い

 その小さな魔物は、裏社会の賭け試合で生計を立てているチンピラと出会った。

 己の持つ魔本は、パートナーを見つけた時に僅かに反応を示すことがあるという。屈強な男どもが沸き立つ会場で、勝ってもつまらなそうにしているそのチンピラに反応を示したのを見て、小さな魔物は少しだけ不安に思った。

 この相手で大丈夫だろうか。自分の能力を生かせるだろうか。自分が王になるのにちゃんと協力してくれるだろうか、と。

 

 チンピラはその日ほとんど負けなしだった。

 小さな魔物は、その最後の試合に対して乱入することを決める。

 

 人間と同じようにグローブを嵌め、リングに上がった。

 なんだお前、と虫けらを見るような眼で見てくるチンピラに、その小さな魔物は呆れた。

 自分との力の差さえ読み取れないのかと。

 

 だから、思い切りぶん殴った。

 不意打ちで一撃。その後に何度もジャブを叩き込み……止められた。

 殴り返してきたチンピラは、楽しそうに笑っていたんだ。

 

 勝ちはしたが、なかなかに痛かった。

 

『よぉ……お前、変な犬のくせにやるなぁ』

 

 ボロボロになりながらも笑っていうチンピラは、きっと疎まれていたのだろう、小さな魔物にその言葉を伝えてすぐに、周りの人間に引きずられてその施設の外に放り出された。

 負けた人間には用はないとばかりに。

 

 レンガ作りの壁にもたれ掛かっているチンピラの隣に座った。

 

『なんだぁ? てめぇ。お前みたいな変な犬に負けた俺を笑いに来たか?』

 

 自嘲気味な声を出すチンピラは、動く気力もないようで、ただぼーっと夕暮れの空を見上げていた。

 すっと、ページを開いた本を横に差し出す。

 不思議そうな顔でその小さな魔物を見るチンピラ。魔物は静かに、土で人形を作り始めた。

 

『なんだこの文字……ん……一ページだけ文字が……これを読めってか?』

 

 出来た土人形を持ったまま、魔物はコクリと頷いた。

 

『……第一の術―――』

 

 本が光り、魔物から花が出る。

 魔力の籠ったその花は、小さな土人形に引っ付くと……その土人形が動き出した。

 

『お前……これは……』

『ボクはバルトロ。キミの名前を教えてほしい』

『は? しゃ、しゃべっ』

 

 まるで操り人形のように器用に人形を動かすその小さな魔物―――バルトロは、ニコリと笑ってチンピラ―――ステングを見上げた。

 ステングはその顔を見て舌打ちを一つ。

 

『……ステングだ』

『よろしく、ステング』

 

 この戦いにおいてはなんてことはない、小さな魔物の子とパートナーとの出会いと始まり。

 

 ただ、その二人の胸に宿っている想いは重なっていたのかもしれない。

 片や、ごろつきの蔓延る世界で燻っていたチンピラ。

 片や、あまり強いとはいえない操作系の術を持った小さな体の魔物。

 

 心に秘めていた想いはきっと、見返してやりたい、目にモノを見せてやりたい、そんな想い。

 

「ガッシュ! 顔を……こっちに来てこいつの方に顔を……」

「ウ、ウヌ!」

「ザケル!!!」

 

 電撃に撃ち抜かれながら……バルトロはそんな出会いを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 城から離れた林の付近、デュフォーは一人、“答え”で出た通りの場所で待っていた。

 囚われていた人質たちの幾人かには顔を見られている為、城でガッシュとそのパートナーの成長を見極めるわけにはいかず、こうして離れた場所でバルトロ達が敗走してくるのを待っていたのだ。

 

 当然のことながら、ゼオンは連れてきていない。共に来ても良かったのだが、やはりステングのような人間の相手などさせたくないと考えてのこと。

 城の崩れ始める音が聴こえた。バルトロの術で城の石を崩したのだろう。逃げるのには悪くない手だとデュフォー自身も思う。

 

 草を踏む音が遠くに聞こえる。

 やっと来たかと、デュフォーは林から彼らが走ってくるであろう場所へと立つ。

 

「まあいい。バルトロはまだいるんだ……こいつとこの本さえありゃいくらでもやり直せる。また別の村をカモにして……!」

 

 そこでステングはデュフォーに気づいた。

 

「て、てめぇ……俺達にあの日本人をさらわせた……」

「……」

 

 立ち止まったステングが吠える。

 

「てめぇに聞きたいことがある! お前、あの日本人の息子が本の持ち主と知ってたのか!? どういうつもりで俺達に誘拐の依頼をしやがった!!」

 

 ステングからの問いに、デュフォーはあきれ果てたようなため息を落とした。

 

「お前、頭が悪いな」

「ぐ、またそうやってバカにしやがって……っ」

 

 冷たい瞳は何の感情も宿さない。ステングの怒りのボルテージがどんどん上がっていくが……バルトロはデュフォーの呆れの理由を理解した上で、彼の不気味さに警戒したまま無言を貫く。

 チラリと、デュフォーはバルトロを見るも、すぐにステングに目を戻す。

 

「簡単なことだろう? お前達はただの試金石、そしてエサだ」

「……は?」

 

 口を開けて音を発しただけのステングに、またため息を落とすデュフォー。

 

「お前達と赤い本の魔物をぶつける為に誘拐させたと言っているんだ。あいつらがこの街に来る予定だと知ったんでな、ちょうどよかったんだ」

「な、なん……」

「あの魔物の実力がどれくらいなのか、パートナーがどんな人間なのか、どんな意思を持って戦いに臨むのか、どこまでの悪辣さを許容し、どこまでの正義を貫こうとするのか、どれだけ周りのことを考え、どれだけ先のことまで思考を飛ばし……そして二人がどれほどの絆で結ばれているのか、それが知りたかった」

 

 まっすぐに見つめてくる目には、なんの揺らぎもない。

 語っていることこそが真実だと伝えている。

 

「そんな……そんなことの為に、お前は……」

「ああ、その為にオレはお前の居城に一人で赴き、罠を突破し、お前と交渉し、あの日本人を誘拐させた」

「なら、俺達は―――」

「言っただろう? お前とバルトロはガッシュと清麿の力を見る為、そしてあいつらの実力を上げる為のエサだ」

 

 額に青筋を浮かべ始めるステングにもデュフォーは怯むことはない。

 何も声を出せずに震えているステングから目を放し、デュフォーはバルトロをじっと見つめる。何かを推しはかるような、問いかけるような眼差し。

 

「舐めやがって……クソガキがぁ!!! バルトロォ!」

「無駄だ。バルトロは戦わない」

「あぁ!?」

 

 言われて目を向けた先、バルトロはステングと目を合わせることはなく、デュフォーを見詰めたままで震えている。

 

「てめぇバルトロ! なにビビッてやがる!」

 

 無言でふるふると首を振る様は、完全に戦う気力などなく。

 

「吠えても変わらん。ベルの雷を直接受けたバルトロは、オレのパートナーがどれだけの力を持っているかをより正確に理解してしまった。ガッシュの様子が気になって仕方ないあいつがこの近くに居ることをバルトロも感知してるはずだ。魔物としての理性でも、野生の勘でも、バルトロは歯向かうことを拒絶している。賢い生物は勝てない戦いはしないモノだ」

 

 淡々と説明していくデュフォーには、バルトロの心理さえ“答え”として理解出来ていて、ステングただ一人が状況を理解できていない。

 だが……ステングの怒りが収まるはずがない。此処までコケにされて、彼のプライドが許すわけがない。

 

「クソ……イヌっころが。てめぇなんぞに頼るのが間違いだった」

 

 震えるバルトロを睨みつけてから、彼はデュフォーに向き直る。怒りながらもバルトロの怯えを見てすっと冷えた頭は、ステング本来の自分を取り戻させる。

 バルトロの力に頼って欲に溺れていた自分ではなく、アウトローな男達を相手に拳一つで勝ち抜いてきた自分に。

 

 前のように拳銃を構えていない。距離も近い。筋肉の付きを見れば喧嘩慣れしているとも思えない。

 心が読めるようなことを言っていたが、そんなモノはハッタリだと決めてかかるしかないと腹を決める。

 

 細めた目は、研ぎ澄まされた刃のような鋭さ。

 バルトロは震えながらステングを見つめる。あの時、自分と殴り合った人間の姿を、其処に見た。

 

「う、おぉぉぉああああ!」

 

 気合い一発。ステップは速く。相手が拳銃を抜くよりもより早くと。

 ステングの拳が唸りを上げてデュフォーに迫る。目の前の全てを見透かしたような相手を必ず殴るという意思を込めて。最後に頼るべきは自分の拳のみだと、彼は歯を噛みしめてそう思った。

 

 だが……彼の拳が当たることはなかった。

 

「な……に……」

 

 完璧に決まったと思った一瞬で、デュフォーはステングの力を利用して彼を引き倒したのだ。

 ステングは知らない。

 答えを出す者(アンサートーカー)という反則級の力をデュフォーが持っていることを。そしてこの数か月の間に、ゼオンという圧倒的な強者と共に修練を積んでいることも。

 単純に相手が悪すぎた。

 

「体格差があろうと、筋力差があろうと、お前ではゼオンと共に答えを出す者(アンサートーカー)を戦闘に生かす訓練を積んだオレには勝てない」

 

 “知っている”と“出来る”では違いがある。

 デュフォーが如何に優れた“答え”を出そうとも、追随出来る身体能力や反応、そして対応力がなければその“答え”を実現することは出来ない。

 そのズレを理解していたデュフォーは、ゼオン自身の訓練と共に彼自身もこれから来るであろう戦闘の為に修正を行っていたのだ。

 

 ゼオンという魔物の中でもトップクラスの戦闘力を持つ相方だからこそ、彼に求められるパフォーマンスは他の魔物に比べると段違いに高い。

 守られながら術を打つためのタンクのような戦いをしていてはこの戦いで生き残ることは出来ない。魔物から攻撃されることはあるだろう。パートナーだけで危険を冒す必要もあるだろう。自分だけで魔物と相対しなければならない瞬間もあるかもしれない。

 その全てに対応する為に、ゼオンのパートナーである為に、デュフォーも日々の努力を怠らなかった。

 地獄のような訓練だと、周りからは視えたかもしれない。胸の奥で燻る憎しみと、吹雪の中で灯された火と、あの夜の温もりがあればその程度の痛苦など彼にとっては取るに足らない事柄だった。

 

 引き倒され、関節を極められ、ステングの動作は全て封じられた。

 大地に抑えられる頬。上から抑えられる力によって、ステングは土を舐めるしかない。

 屈辱の土の味に、ステングは怒りで頭がどうにかなりそうだった。吠えることも、怒鳴ることも、吐き捨てることもできず……血走った眼で大地を睨みつけるしか出来ない。

 

「……」

 

 無言でステングを見つめるデュフォーの瞳は冷たい。極寒の冬のようなその瞳には、哀れみの感情一つも浮かんでいない。

 虫けらを見るのと変わらない視線は、ステングの命になんの感情も持っていない。

 

 ステングは無力化され、バルトロも戦意を喪失。あとはデュフォーがステングの意識を断って本を燃やせばいいだけ。

 

 横で震えていたバルトロの頭には、先ほどのステングの視線が反芻される。

 

 期待を向けていない目。失望、落胆、幻滅……もはやステングにとって、バルトロという存在は共にあるモノではなくなったと、そう言っている眼差し。

 

 は、は……と短い息遣いで、バルトロは締め付けられる胸を抑えた。

 

―――イヤダ

 

「助けを求めないのか?」

 

 バルトロに、とはデュフォーは言わない。

 わざわざ彼の顔をそちらに向けて目くらいは合わせられるようにしているのに目線さえ合わせないステングは、もうバルトロになんの期待もしていない……そう見える。

 ステングの傷つけられたプライドが、無様に助けを求めることを拒否しただけかもしれない。事実、そうなのだろう。一人で無様に負けた上に誰かに頼りたくないと彼は思っていた。

 しかしバルトロにとっては、もう自分がパートナーではないと突きつけられたようにしか思えない。

 

 じわじわと目に浮かんでくる雫。出会いの思い出と交わし合った笑顔。悪に走ったのは己も同じだが……二人で共に過ごしてきた数か月は彼にとってかけがえのないモノ。

 ほろりと……頬を伝った涙。

 

―――このまま別れるのは……イヤダ

 

 震える身体はまだいう事を聞いてくれない。

 

 遠くに感じる圧倒的な魔力の気配が恐ろしくて仕方ない。

 

 目の前の感情一つ浮かべない人間が怖い。

 

―――それでも……

 

 心が抵抗を示した。

 短い息遣いが荒くなっていく。零れる涙が止まらない。震えはあるが……力は入る。

 

 顔を上げた先、デュフォーと目が合った。その瞳には、驚愕の色。

 

 ステングは未だにこっちを向いてもくれない。自問する。

 

―――このまま呆れられたままで、ステングと共に舐められたままで……いいのか?

 

 ギリ、と噛みしめた歯が拒絶を示した。否、否、断じて否だと。

 

―――ボクは……ステングと一緒に……見返すんだっ

 

 バルトロは泣きながら、震える身体を構えた。怖い、怖くて仕方ない。だが……此処でステングと一生の別れをする方が怖いと、そう思った。

 

「――――――っ!」

 

 声なき叫びを上げて、バルトロは飛びかかる。

 目を見開いたデュフォーは、バルトロが構えを取った時にこうなる“答え”が出ていたにも関わらず……動けなかった。

 

 怯えを持ちつつも相棒を助けようと振り絞った勇気。

 バルトロの渾身の爪が振り下ろされ、静かな風が一陣吹き抜ける。

 

 

 バサリ……と純白のマントが風に靡いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガノ級の術すら弾くマントは、たかだか下級の魔物風情に傷つけられることなどない。

 

 ずっと見ていた。表情が見える距離ながらも空の上で。デュフォーとこいつらのやり取りをずっと見ていた。

 

 どうやらデュフォーがガッシュ達の為にと準備していたのはこいつららしい。成長の為の当て馬にしたというところ。

 デュフォーなら一人で後処理くらい出来るだろうと思っていたが、最後の硬直は明らかにおかしかった。

 

 すんでの所でオレが介入出来た。ただ……この魔物の攻撃をマントで受けることはしなかった。したくなかった。

 

 爪が肌に食い込む。魔力を流しているから手ひどい傷にはならない。かすり傷のような僅かな傷にすぎない。

 しかしデュフォーはオレのその対応にすら驚いている。

 

「……何故だ」

「さてな。オレにも分からん」

 

 介入した一瞬で、オレはこいつの攻撃を避けてはならないと、そう思った。デュフォーはオレの行動に疑問を持っているようだが、オレにすら分からんのだからどうしようもない。

 僅かな痛みが、目の前の魔物の涙塗れの瞳が、震える爪の感覚が、オレの心を疼かせる。

 

 デュフォーにもオレにも、“答え”は出ない。

 

 だがこの胸に響くナニカは……オレにとって必要だと感じた。

 

「デュフォー、やれ」

「……ああ」

「ぐっ!」

 

 答えを出す者(アンサートーカー)でオレの考えを読み、デュフォーが人間の意識を断ち切った。

 

「ガァ―――ッ!!」

「……フン」

 

 瞬間、飛びかかってきた魔物の首を掴み上げる。

 今にも逃げ出したいというような気を放っているくせに、魔物は逃げようとしなかった。

 あまつさえ、人間に危害を加えたら攻撃に移るなど……恐怖に支配されたモノにはありえない行動だ。

 

 こちらを睨みつけてくる魔物の目は、憎しみではない光が宿っている。

 

「バルトロ、とか言ったな? よくこのゼオンに向かって来た」

 

 歯を見せて唸る相手ににやりと笑いかける。

 ガリガリとオレの腕を掻いて抜け出そうとするも、その程度で逃がしてやるわけもなく。

 

「貴様のその勇気、称賛に値する。まさか貴様のような弱い魔物がオレとの魔力差の恐怖を乗り越えてオレに攻撃してくるとは……クク」

 

 少しだけ、心が弾んだ。

 ガッシュを傷つけた魔物とそのパートナーとはいえ、それを責める気持ちが消えてしまっていた。

 

 デュフォーが隠していたのはこいつらが狡い三下だったからというのは先ほど理解した。

 確かにこんな奴らの悪事を利用してガッシュの当て馬にするなど、オレの心を不快にする選択だが、デュフォーの能力による“答え”ならば少しは呑み込んでやる。

 

 もちろんデュフォーには後で説教だが。

 

 ただ、この結果は予想外だ。

 

 こいつはただの三下ではなくなった。その事実が、オレの心を弾ませた。

 

 恐怖を乗り越え、勝ち目などないと分かっているのにパートナーとの未来の為に拳を振るったバルトロ。

 デュフォーに向かっていったこいつの目には、憎しみや怒りだけではなく、純粋な想いが宿っていたのだ。

 

 ああ、そうか。分かった。

 

―――オレは……その想いの拳を受け流したくなどなかったのだ。

 

 オレがガッシュの為に拳を振るおうと決めた時のように、バルトロはパートナーと想いを重ねて拳を振るった。

 

「言え……お前はなんの為に戦おうとした?」

 

 紫電で射抜く。

 大地に身体を下ろしつつも首からは手を放さず、威圧を込めてバルトロを睨む。

 

 ヤツはオレから視線を放さない。涙を零し、身体を震わせながらもオレを睨み返していた。

 

『……ステングとボクを舐められたままで、いられるか』

 

 悔しさと屈辱と怒りを混ぜたような声。

 パートナーの気持ちをも含めて込められた想いが、オレの心にすっと届く。

 

 聴いているか、デュフォー。

 お前の行動がこいつの心を染め上げた。

 お前の行動がこいつに恐怖を乗り越えさせた。

 

 そしてオレの心に、こいつの想いを届けさせた。

 

 自然と口角が吊り上がる。

 強大な相手に立ち向かわんとするその心は……まさに、オレの行動理由と合致している。

 

 そうだ。そうだよな。

 

―――思惑通りに操られて、好き勝手に使われて……それでいいわけがないよな。

 

 敵に歯向かうモノは好ましい。理不尽に抗うモノこそ素晴らしい。

 

 デュフォーは図らずもオレの父と同じようなことをしてしまった。そうして生み出されたオレと同じような心を持つモノを、オレはどう対処するべきか。

 

 父と同じように、オレを憎めと言うべきか?

 

 否、否だ。

 

 オレはあいつとは違う。ステングとやらに理不尽を強いたりはせず、策で縛り上げたりしない。

 バルトロと真正面から向かい合おう。バルトロの想いと向かい合うのに必要なのは……

 

「いいだろう。なら証明して見せろ。お前自身の価値を」

 

 言いながら放り投げる。

 デュフォーに一つ頷き、オレはバルトロと向かい合った。まず言っておくことがある。

 

「お前もステングとやらも罰を受けるべき悪人だ。それを忘れて都合よく見逃すことなど、王を目指すモノとして看過できん」

 

 デュフォーが利用する前に聞き出していれば止めていたモノを……過ぎたことは仕方ない。

 

 罪には罰を。王を目指すモノとして、そこは譲ることの出来ない線引きだ。

 

 ステングとやらは人間の法で裁かれるべき。オレ達がでしゃばるべきではない。例え魔物の力を利用していたとしても、悪事は悪事だ。

 

「魔物のお前は人間の法では裁けない。そしてお前を裁く権利はオレにもない。だが……お前とパートナーの“別れの刻”を奪うことが、罰になってくれることと願おう」

 

 断罪の代行者などになるつもりはない。

 罰とは、悔い改める為の手段だ。オレがこいつを断罪する権利はない。その権利を持つのは被害を受けた人間達だけなのだから。あの人間達の元に突き出してもいいが、裁く法がないのだからさらし者にされて嬲られるくらいしかないし、そんなことは意味がない。

 

 バルトロの悪事の分もステングが背負い裁かれ、バルトロはパートナーに失望されたままで魔界に帰る。

 

 それがこいつらにとっての終わり、そして罰。

 オレが終わらせる。こいつらの戦いを。

 悪人としての罰を受けるのなら無機質な終わりではなく、パートナーと戦った戦士として。

 

「せめて抗え、最後まで! 無様に震えていたお前ではなく、最後はパートナーが認めたお前で在れ!」

 

 幾瞬、風が吹いた。

 

「――――――ッ!!!」

 

 拳を握り、構えたバルトロが大きく吠えた。

 

 咆哮と同時に飛びかかってきたヤツの身体は、もう震えていなかった。

 涙を流しながら飛びかかってくるヤツに……オレは真っ直ぐ掌を向ける。

 

 悪事を働いたヤツとはいえ、想いを胸にオレに向かって来たせめてもの敬意だ。強い術で送ってやる。

 

 

「やれ! デュフォー!」

「ジャウロ・ザケルガ!!!」

 

 

 眩い閃光が林を包み、幾本もの雷撃がバルトロを呑み込んだ。

 

 そのうちの一本がステングの持っていた本を燃やし尽くし、バルトロは光が収まる頃には消えていた。

 

 

 何が正解だったかは分からない。

 後悔など全くない。

 

 ただ、バルトロが少なからずパートナーに絆を感じていたことだけは、オレの胸に残った。

 

 

 気絶しているステングを置いて帰る前に、デュフォーにオレは一つ頼み事をした。

 瞬間移動で部屋に戻り取ってきたのは一つの紙きれ。

 デュフォーに一文を書いてもらってステングのポケットに捩じり込んだ。

 

 

 

 檻の中で、せめて少しでもバルトロのことを思い返してくれることを願って。




読んでいただきありがとうございます。

バルトロとステングの出会いについては扉絵からの妄想です。
拳で語り合った関係であってほしいなって思いました。



これからも楽しんでいただけたら幸いです。

下記のうちでどの魔物が好きですか

  • 弟にとっても優しいお兄ちゃん
  • モフモフな親友
  • 竜族こそ最強よ
  • 王をも殴れる男
  • ゴーーーーーー
  • 御意のままに!
  • 大・将・軍!
  • グロリアスレボリューション!!!
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