もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら 作:ちゃんどらー
イギリスのとある森の中。
プロフェッサー・ダルタニアンに爆発のあった場所を教えて貰い、清麿達はそこへ向かっていた。
ガッシュが途中ではぐれるというアクシデントはあったモノの、清麿はガッシュを確認をしながら歩くこと数十分。
「今度はちゃんとついてきてるな、ガッシュ?」
「ウヌ、大丈夫なのだ」
「しかしあの人が居てよかった。思わぬところで道が分かった。これで……」
木々の間を抜けた先。
其処にあった光景を見て清麿は言葉を失った。
隕石が落ちたようなクレーターが一つ。そして極大のビームが木々を薙ぎ払ったような後が一つ。
合計二つの術の痕跡があった。
「まるで隕石が落ちたような……ここだけ木が残っていない。地面にも高温で焼けた跡がある」
大地の異変に近付いて確認していく清麿。周りになぎ倒された木は焼け焦げていて、その力の大きさを示していた。
「こっちも……すごいな。自然に生えていたはずの木が一直線に焼けてる。燃やして途中で火が消えたのとはわけが違う。前に戦ったロブノスのビームよりも大きいナニカが、一瞬で木をここまで焼き尽くしたんだ」
数十メートルはあろうかという長さで焼けた木。クレーターから五メートルほどの場所にそれはあった。
木々の様子からその時の状況を推察していく清麿は、間違いなくこれは魔物の術の痕跡だと確信していく。
―――ガッシュのザケルよりも遥かに大きい力。炎系の魔物? それともビーム? いや……クレーターの感じからすると……雷もあり得る……そうだ。
思考に潜り始める前にふと気づく。
「ガッシュ、何か思い出すことは―――」
振り向いて話しかけると、
「ガ、ガッシュ!?」
己の腕で自分を抱きしめて震えているガッシュが居た。
「す、すまぬ清麿……震えが、ふ、震えが止まらぬ」
声さえも震え、荒い息で話す彼の様子に清麿は固まった。
「こわいのだ……な、なぜだか分からぬが……ここが、此処がとてもこわいのだ……」
「ガッシュ、落ち着け……」
「うぁ……うぁああああ」
落ち着かせようと肩に手を置くも、ガッシュの震えは止まらない。
「ガッシュ! すぐにこの場を離れ―――」
「うわぁああああああ―――っ」
―――ガッシュの身体が……
変化は突然起こった。
震えるガッシュの身体が金色に光り出したのだ。
「ガッシュ! 落ち着け! 俺の声が聞こえるか! 返事をしろ!」
「わぁああああああああ―――っ」
いくら声を掛けてもガッシュは震えて叫ぶばかり。
―――ダメだ、目を開けてられない。
強くなる光に、清麿は耐えられず目を瞑っていく。
輝きが増すにつれて、ガッシュから何らかの力が発されて清麿はその身体から手を放した。
「うあああああああああ―――っ」
大地に伏せた。輝きと力をやり過ごそうと耐えること数瞬。徐々におさまっていく光が完全に消えたのを見て、
「ぐ……ガッシュ……ガッシュ! ガッシュ!!」
清麿はへたりと座り込んでいるガッシュへと強く声を掛けた。
「ガッシュ! 大丈夫か!? 俺が分かるか!?」
ビクリと震えたガッシュが振り返る。
「清……麿……」
名を呼ばれてほっと息を零した。
「ハッ……なんだよ、あせらせんなよガッシュ。あんなすごい光を放ってよ。俺は一体何が始まるのかと―――」
「清麿」
安心して語り掛ける言葉の途中で、ガッシュが身体を向けて声を挟んだ。
「私はこの森を知っている」
呆然と、一寸思考に空白が出来た。
「な、何!? 何か思い出せたのか!?」
「私は昔、ここに住んでいた」
記憶が戻ったのかと思い尋ねると、ガッシュがつらつらと語り始めた。
「この世界にきてから、本の持ち主が見つからず、この森を寝床にして暮らしていたのだ……。昼は森の動物たちが遊んでくれたから良かったが……夜は……」
ふるり、と身体を震わせる。
「夜になると、とても寂しかったのだ。夜の闇が、世界でたった一人になってしまったかのように思えて……いつも陽がのぼるまで怖くて眠れず……空が明るくなった頃にほっとして寝ておった」
泣きだしそうな声は、きっとその時の事を思い出してのこと。
「私は毎晩……ウヌゥ……確か何かに……何かに縋って過ごしておった。何かに縋り、何かを求め、何かを願って……そして何かをしたくて、私は夜を越えておった。それらが何かまでは……思い出せぬ」
苦しそうに頭を押さえて語るガッシュは、己の欠落した記憶の断片を探そうと必死に目を瞑るも思い出せず。無理をするなというように清麿が肩に手を置いたことで一息ついてから、続きを語りだす。
「そうだ……そんな夜明けが続いたある日のことだ……私の前に……誰かが来た」
そいつがこの焼け跡の原因か、と清麿は予測しながら頷いて続きを促した。
ただ、ガッシュは苦しそうに呻く。
「う……うぅ……」
「大丈夫か? 無理に思い出さなくても……」
「だ、大丈夫なのだ清麿……これはきっと、絶対に思い出さなければならぬと……何故かはわからぬがそう思うのだ」
頭を抱えて蹲る。必死に記憶を探しているガッシュを清麿はただ待った。
「うぐぅ……」
ズキリ、と頭が痛んだ。歯を食いしばって耐える。
ガッシュがいくら思い出そうとしても、誰かが来てからどうなったかが、どうしても思い出せない。
ガサリと音がして、自分が木の洞に隠れたことまでは思い出せた。
大きな獣かと思い、早く通り過ぎてくれと願って震えていたことも思い出した。
しかしソレが獣でないと気づいて外に出て……それが人型であるにも関わらず、“誰か”であることが、どうしても分からない。
そこからどんなやり取りをしたのかも、ノイズが掛かったようになって観えない。
頭の痛みはじわじわと、二本の角を中心に全体に響いて来ていた。
読み取れない思考を進めていく。
自分は何かを話していた。
何かは分からない。その時の自分の感情さえ思い出せない。
ズキリ、と胸が激しく痛んだ。
ぎゅう、と胸が大きく締め付けられた。
とても苦しくて、切なかった。
思い出せないのに、ガッシュの中のナニカが勝手に反応していた。
ぽつぽつと、大地に染みが出来ていく。
「あ……あれ……?」
ポタリ、ポタリと……勝手に涙が零れていた。
「ガッシュ……? お前……泣いてるのか?」
「ウヌゥ……ど、どうしたのだ、わ、私は……どうして……?」
ぽたぽたと落ち続ける涙と、なくならない胸の痛みと切なさ。
ぐしぐしと拭っても拭っても収まらない雫。
「う……? 涙が……止まらないのだ……あ、あれ?」
何度も何度も、彼は零れる度に拭う。けれども止まることはない。
「ふ、ふふ……私は……どうして……」
戸惑うガッシュは、胸を押さえて辛そうに笑った。わけがわからない涙を清麿に見られたくなくて背中を向けて……でも苦しくて……蹲る。
その小さな背中が、幼子の背中が、あまりにも哀しくて、見ていられなくて……そっと、清麿はガッシュを後ろから抱きしめてあぐらの上に乗せた。
「き、清麿?」
「無理しなくていい。落ち着くまでそのままでいろ」
わけが分からないままに泣くガッシュを、清麿は無言で包み込む。
出会ってから一緒に戦って来たが、自分は化け物だと傷ついていた時よりも苦しそうなガッシュに、清麿はこうすることくらいしか出来ないと思った。
清麿が見た背中は、ただの子供の背中だった。独りぼっちで生きてきた幼子の、誰かに縋りたくても縋れなくて、それでも己の不幸を憎めないような……否、憎み方すら分からないような、そんな背中だった。
声を出すこともなく、泣き叫ぶこともなく……しばらくガッシュは、止まってくれない涙を流し続けていた。
背中に感じる温もりに、何処か既視感を感じながら。
さわさわと風が吹いていた。
木々が涼やかに揺れていた。
幾分経って、ガッシュの涙が止まった。
「ありがとう。もう大丈夫だぞ、清麿」
「ん、そうか。無理はするなよ?」
「ウヌ! でももう少し頑張ってみるのだ!」
明るい笑顔を浮かべて膝から下りたガッシュに、清麿は微笑みかける。
瞑目して頭を押さえるガッシュは、少しして目を開けた。
「思い出せぬ所は省こう。そのモノと何を話していたかまでは思い出せんが、その後、私は……何かを持っていた。この手に」
「それが何かってのは」
「分からん」
何かはガッシュには分からない。重要なモノだったような、そうでもなかったような……曖昧な感覚。
「それを掲げた時、唐突に光りだした。その光は……空から雷が降ってくる時の色に似ていたのだ」
「雷と、同じ色?」
言われて思考に潜る。もし、それが魔界からガッシュが持ってきたモノだとしたら……と。
「そのあとは……?」
「え……っと、分からん」
「んん?」
「それがな……その光の後に私が覚えているのは地面なのだ。たぶん……蹲っていた」
疑問だらけになる思考。清麿はその時の状況がつかみきれない。
「手に持っていたナニカが光って、雷っぽいのが飛び出したとして……ガッシュは蹲った……」
腕を組んで首を捻るも、いまいち把握できなかった。
「ただ……手に持っていたナニカが、放そうとしても放せなかったのは覚えている。そのナニカが私から……」
ハッと息を呑んだ。
フラッシュバックのように思い出される光景。
己のつぶやきが耳に聞こえた。
―――イヤだ、イヤだ、イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ。やめて、取らないで、奪わないで、なくさないで、消さないで、大事なのに、大切なのに、残さなきゃなのに、思わなきゃなのに、やっと……やっとゼ■■お■ちゃんと■■■のに……取らないで、壊さないで、奪わないで、やめてやめてやめてやめてやめてやめて―――
ガッシュはその時のことを思い出したようで、頭を抱えて震えだす。
「ガッシュ!?」
「だ、大丈夫なのだ。そうだ……あの時、私は……手に持っていたナニカから……記憶を吸い取られていた」
「なにっ!?」
震える声で、ガッシュは続ける。
「頭の中を掻きまわされるような感覚と、壊されるような感覚と、一つ、一つと消えていく消失感。私が持っていたのは……水晶のようなモノで……その中に、失われたモノが映っていたのを、覚えている」
ノイズだらけながらも断片的に観えるその過去の記憶を、ガッシュは清麿に伝えていく。
「だから、ソレに記憶は吸い取られた、と思うのだ……」
記憶喪失ではなく、記憶を奪われた。
その事実に、清麿は目を見開く。
―――なら、ガッシュの記憶を戻すには……その水晶みたいなもんを探さなきゃならねぇってのか。
一つ情報を手に入れてもまた新たな問題が生まれてくる。
―――ならなんでこの森での記憶は覚えているんだ? いや……もしかして……断片的に記憶を奪われた感じか?
予測を組み立てて、頭脳をフル回転させてガッシュについて思考を巡らせる。
今はもっと情報を、と望んだ。
清麿は大きく息をついてガッシュを見た。
「そうか。まだ続きは思い出せるか?」
「……」
また目を瞑ったガッシュは、静かに呼吸を行って記憶を思い返そうとしていた。
しばしの沈黙……後に、目を開いたガッシュの顔が悲痛に歪む。
「……掌と」
「掌?」
「ウヌ……そして……紫電の瞳」
思い出した一ページ。目の前に立っていた人物の顔を、ガッシュはそこで思い出した。
「私と同じ顔をした、子供がおった」
「……」
「向けられた掌と、憎しみと哀しみに染まった紫電の瞳。流れる涙。そのモノは……
“きっと、憎んでいた”
ぽつりと、最後に零された言葉が清麿の胸に響く。
自分の掌を見たガッシュは、また震えだす。
無言で、言葉も紡げず、ガッシュはただ震えた。
記憶がないから思い出せない。憎しみの感情を向けられるほどのナニカを自分がしてしまったのだと、ガッシュはそう思った。
また、ズキリと胸が痛んだ。
―――私は……そのモノにどうして憎まれるようなことをしてしまったのか……どうしてこんなに……胸が苦しい。
握らずに開いたままの彼の掌。掴もうと握ることさえせずにじっと見つめる。
きゅっと清麿がその手を握った。
「お前はお前だ。過去がなんであれ、俺はお前を信じる。大丈夫、大丈夫だ。だから……もう泣くな」
「え……?」
また零れ始めていた涙に、ガッシュは漸く気づく。
ぽん、と清麿は彼の頭に手を置いた。
「そいつにもきっと理由があるんだ。ティオも言ってただろ? イギリスで見かけたガッシュに似たヤツから悪い気配はしなかったって。だからさ、一緒に探していこうぜ。多分、記憶を吸い取った水晶はそいつが持って行っただろうし、そいつならガッシュの過去とかいろんなことも知ってるはずだ。一緒に探して、見つけて、話を聞いて……」
力強く、光に溢れた瞳で語る清麿の温もりが、ガッシュの涙を止めていく。
「こうして、出会った時のやさぐれた俺にしてくれたみたいに、手を繋げばいい。お前なら出来る。そうだろ?」
心まで広がるその暖かい光が、ガッシュの顔に笑顔を戻す。
「ウヌ! そうなのだ! もしかしたらトモダチになれるかもしれぬしな!」
花が咲くように笑ったガッシュの頭を、清麿はグシグシと撫でやった。
「よし! それでいい! じゃあ、まだ何か思い出したことはあるか?」
「うーん……思い出せるのは多分、そこまでなのだ……あ!」
「おっ! まだ何かあるか!」
最後の確認の為に聞くと、もう思い出せることはないらしい。
のちにと大きな声を出したガッシュに期待を向けるも―――
「あそこにダルタニアンが!!」
妖精のコスプレをした大学教授を見つけて、清麿はずっこけることとなった。
「あ、あああ、あんた! 何してる!?」
「ついてきたんだよ! それよりお前達! さっきの光はなんだ! 私は腰を抜かしたぞ! さては数か月前の爆発もお前達が―――」
「違う! 俺達じゃない!」
「ならそのカバンを見せてみろ! それも金色に光っていたぞ!」
「なにっ!? カバン……まさかっ」
出づらい雰囲気に隠れていた教授に問いかけるが、話をずらされた先で指摘された事柄に、清麿は目を見開いてカバンを開いて本を取り出した。
「……っ! 第四の呪文が出てる!」
「何!? 本当か清麿!」
喜ぶガッシュと共に、ページを開いて術を確認した。
「第四の術……バオウ・ザケル……おっと! あぶないあぶない!」
「ウヌ! 気を付けるのだぞ、清麿!」
勢いで唱えそうになったところをどうにか抑えた。
二人で目を合わせて笑い合う。ガッシュもまた一歩、この戦いの次のステージへと踏み出せたことに喜んでいた。
―――よし、よしっ! ガッシュと似たヤツとガッシュの過去は気になるが、これで俺達は一歩進んだんだ。
いろいろと不安なことはあれど、一つ一つと、一歩一歩と進んでいけることが、今はただ嬉しかった。
「ガッシュ……強くなれ! 強くなって、そいつに会おう! そして記憶を取り戻して、友達になって……」
言葉を区切ると、ガッシュが続きを笑顔でつないだ。
「ウヌ! この戦いを乗り越えて、優しい王様になるのだ!」
そう、いつか必ず出来ると信じて。
彼らは少し手に入れた断片を持って、先へと進んでいく。
繋いだ手は絆。二人なら乗り越えていけると、ガッシュも清麿も感じていた。
ズキリ、と。
ガッシュの頭が痛んだ。
その小さな痛みを、ガッシュは気にしなかった。
部屋の中。
森に仕掛けられた機材から送られる音声を無線で聞いていたデュフォーは……新しく出た“答え”を確かめる。
何度確かめても、その“答え”は変わらない。
「……現地に行かずに部屋で居て正解だった。やはり“バオウ”はゼオンの憎しみと雷の味を覚えている。不完全とはいえ使われる為に魔本に出てくるなんてな……」
「……」
ゼオンはただ無言で、無線をじっと見つめるだけ。
不思議に思うも、何か考えることがあるのだろうとデュフォーは声を掛けずにいた。
「……ガッシュはいいパートナーに出会えたのだな」
ほっとしたような、それでいて淋しいような声が零れ落ちる。
「しかしそうか……オレはガッシュの記憶の中で、あいつを憎んでいるように覚えられているのか」
マントごと胸を掴んで握るゼオンは、必死に感情が溢れるのを抑えているかのよう。
「それに……トモダチ、か」
苦笑を零しながらの発言を聞いて、デュフォーの胸がまたあの時のように小さく痛んだ。
「オレとあいつは、いつになったら家族になれる……いや、失言だ。忘れてくれ」
つい、無意識でぽろりと落ちてしまった本心。弱音と言ってもいい一言を慌てて取り繕ったゼオンは首を振ってからデュフォーに目を向けた。
瞳の輝きは陰りなく。弟の現状を理解し、記憶の食い違いを知ってもその意思が揺らぐことはない。
「デュフォー。お前の能力で新たに出た答えを教えてくれ」
ガッシュと自分がこれからどうすべきか。会いたいなどとは、もう二度と口にしないのだろうなと、デュフォーは感じた。
「……記憶で見せた通り、“バオウ”は危険だ。アレはゼオンの雷と憎しみを欲して無理やりにガッシュの術として本に現れた。通常の術のように魔物の成長や感情に呼応して出てくるのとはわけが違う。アレは生きて、意思を持っている」
「やはりか」
「ああ。今は中途半端に封印された状態だから術としての威力はギガノと同等程度で、ガッシュが使う分にも問題はない。だが……ガッシュの成長が追い付かず、ガッシュがなんらかの形で憎しみに染まってしまえばアレは封印から解き放たれて表に出てくる。断片的にしか“答え”は出ていないが……お前が止めに入るとしても、“ジガディラス”で勝てるかどうかも怪しいし、お前の雷すら餌として成長する可能性が高く、そうなるとおしまいだ。ガッシュが魔界に帰っても同じ。記憶なく魔界に帰ってしまうと、中途半端に封印が解けている今では何が起こるかわからない。お前の父や……“黒騎士”というモノですら止められないと“答え”が出ている」
人間であるデュフォーが魔界の事情すら話して止めるのならよほどのこと。
欲望に塗れた大人は必ず居ると、ゼオンは知っている。何より……ゼオンはもう、ガッシュを独りぼっちにしたくなかった。
「ならばやはりガッシュの成長を待つことが最優先、というわけだな」
「ガッシュ自身の心の成長がこの調子でいくなら……そうだな、魔物の残りが二十人ほどになる頃に、雷の力を強くするよう干渉し始めるのが頃合いだ。負けることがないように最低限の手助けはするとしても、ブラゴ並みの強敵や五対一のような不利な戦い以外は無干渉を貫くべきだな。あのパートナーの優秀さならば乗り越えられる」
「会話を聞いた限り、あのパートナーなら十分に任せられるだろう。戦闘面もお前が言うなら問題はないか」
「昔は荒れていたようだが、ガッシュが変えたと“答え”が出ている。築かれている信頼関係はかなり高く、明晰な頭脳と不屈の精神でガッシュを勝利に導くのにとても適していて、息の合い方はブラゴ達にも劣らない」
コクリと頷く。
パートナーとしての人間性も性格も問題がなく、ガッシュのことも大事にしている様子を知ったゼオンの安心はとてつもなく大きい。
「フ……どうしようもないのは分かっているが、少し……あの人間が羨ましいな」
ガッシュとまるで兄弟のように支え合っている様子を聞いていたのだ。嫉妬してしまうのも、羨望を持つのも仕方ないこと。
言ってもしょうがないと思いつつも口に出すのは、デュフォーになら吐露しても構わないと思ったからだ。
「オレには分からないが、まあ、いいな、とは思う」
「ほう? お前にしては珍しいじゃないか。何か気付くことがあったか?」
「……笑い合っている声がな。あの夜のお前とガッシュみたいで、それを聞いていると……」
「なんだ?」
少しだけ首を傾げて考えた後、デュフォーは胸に手を当てて言った。
「此処が、暖かい気がする」
「……そうか。その感覚を忘れるな、デュフォー。お前がこの先、
言いながら、コツンとゼオンは小さな拳をデュフォーの胸に当てる。じっと胸を見やる彼の表情は、その分からない感覚をなくすまいとしているように見えた。
「お前の判断はある意味で正しかった。オレ達はヒーローではない。清濁を併せのみ、非情な決断も出来なければ王にはなれないし、これから先、ガッシュの成長という目的の為には人間や魔物を生贄にすることもあるだろう。しかしそれを出来る限り回避し、最善の決断を下すことこそが王の選択だ。犠牲者や被害者など……効率的だからという“答え”だけで、早計に出すモノではないのだから」
「……すまなかった」
「いい。過ぎたことだ。他者も己も、命の価値が分からないお前に、悔いることはまだ出来ないだろう。まだいいんだ。少しずつでいい。その胸にある暖かさを忘れるな。だからこそお前は、この戦いが全て終わった時にこの村に来なければならない。きっとその時、お前が胸の温もりの“答え”を得ていたなら、きっといい結果が訪れるはずだ」
ゆっくりと、ゼオンは拳を前に突き出した。デュフォーは一寸首を傾げたが、同じように拳を上げて其処に当てる。
「いつも通り。一緒に、だ。これからお前の罪はオレの罪。他者を傷つけたならその分救え。一人でも多く、大きくな。その代わり……」
「お前がガッシュの為に背負う罪を、オレも背負おう。人が傷つけられるのも、命を落とすのも出来る限り避けたうえで、ゼオンの願いを叶える為に共に在る」
よしよしと口にしつつ、ゼオンは満面の笑顔を浮かべて頷いた。
「頼りにしている。デュフォー」
合わせた拳が放される。其処に在った暖かさは、ガッシュ達の様子を見て胸に沸いた温もりと似ていて。
デュフォーの頬が自身もゼオンも知らぬ内に、僅かに緩んだのだった。
彼の心にも、一歩だけの変化が訪れたのやもしれない。
読んでいただきありがとうございます。
原作と微妙な差異があるイギリスの森での話。
ガッシュくんと清麿は手を繋いで、ゼオンくんとデュフォーは拳を合わせて踏み出す一歩。
次からヨーロッパを出ます。
これからも楽しんで読んでいただけたら幸いです。
下記のうちでどの魔物が好きですか
-
弟にとっても優しいお兄ちゃん
-
モフモフな親友
-
竜族こそ最強よ
-
王をも殴れる男
-
ゴーーーーーー
-
御意のままに!
-
大・将・軍!
-
グロリアスレボリューション!!!