もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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感想、評価、誤字修正、いつもありがとうございます。


第十八話:彼にとって初めての……

 夢を見ていた。

 

 古い夢だ。

 

 血だらけで威嚇をしている大きな魔物が其処に居た。

 

 オレが、其処に居たんだ。あの時の大馬鹿野郎なオレが。

 

 低い視点に小さな掌。張り上げる声は高く幼い。

 

 それでも“こいつ”は臆することなく、心の底から心配のみでオレを助けたいと願って手を差し伸べた。

 

 嗚呼、本当に“こいつ”はどうしようもなくお人よしで優しいんだな。

 

 

 

 場面が映った。

 

 魔界の王が目の前に居た。

 

 驚愕に支配されたオレは……夢の中で思い至る。これは……記憶の断片だと。

 

 

 “こいつ”は嬉しそうに語っていた。ようやく会えた父に語り掛けるその声も、その心も……幸福をこれでもかと表していた。

 

 魔界の王が浮かべた笑みは柔らかい。“こいつ”の精一杯の話に静かに耳を傾けていた。

 

 懺悔と、悔恨と、苦悩と……大きな安堵を浮かべた瞳。“こいつ”を孤独に追いやったことへの感情が溢れていた。

 

 だがそれだけじゃない。オレには分かる。分かってしまった。

 

 その瞳の奥には……恐怖が潜んでいたんだ。魔界の王は、“こいつ”を……いや、“ナニカ”を恐れていた。

 

『……よく聞くのだ。お前がこの魔界の王を決める戦いに参加するからには、一つだけ約束してほしいことがある』

 

 王は“こいつ”に父として何を言うでもなく、王として語り始めた。

 首を傾げる“こいつ”は疑問を浮かべるも口をはさむことは無く。

 

『“ベル”の名を持つ魔物と出会った時は、そやつにこの水晶を見せてほしいのだ』

 

 手渡された水晶を受け取って、“こいつ”は王を見上げた。

 分かったと元気よく答える声。大きな掌が“こいつ”の頭を撫でようとして……離された。

 

 哀しいという感情が胸から溢れていた。

 

 “こいつ”は父から、温もりを一つも与えられることはなかった。

 

 それでも受け取った水晶を宝物だというように抱きしめる。

 

 ゾワリ、と眠っているはずなのに自分の体中の体毛が総毛だった気がした。

 

 夢の中のオレは……胸を掻きむしりたくなるほどの混沌とした感情が心に渦を巻いたのだ。

 

 

 

 何故ならこの水晶は……“あいつ”が持っていたモノと同じだったのだから。

 

 

 

 これが真実だとするならば……“こいつ”と“あいつ”は……

 

 

 

 

 場面が変わる。

 

 

 楽しそうに語る“こいつ”と嬉しそうに笑う“あいつ”。

 

 感じ合う温もりが、“こいつ”にとって一番の幸せとなっていた。

 

 さっきまで泣きじゃくっていた。強いと思っていた“こいつ”が。

 

 突き詰めて積もり積もった澱みが心の中にあったのだ。

 

 友だからこそ甘えたくなかったのだと、“こいつ”は言う。

 

 馬鹿だなと、頼ってくれてよかったのにと、少し悔しかった。

 

 今度あった時は頼ってやれと言う紫電の瞳。

 

 くしくしと頬を撫でる“あいつ”の手は優しくて、その目を向けられている“こいつ”の心は歓びに満たされて。

 

 大きく頷いて笑っていた。

 

 

 

 唐突にジジジ、とノイズが掛かってその幸福の場面が変わった。

 

 手に持っている水晶が怪しく輝いていた。

 

 “こいつ”の心が、絶望に支配されていた。

 

 いやだとどれだけ呟いたのか。

 

 やめてとどれだけ懇願したのか。

 

 一つ、一つと消えていく感覚。

 

 一つ、一つと失われていく記憶。

 

 大切だから離すまいと必死に抗っていた。

 

 取らないでくれと泣き叫んでいた。

 

 

 やめてくれとオレが願っても過去は変わらない。

 

 “こいつ”の記憶が変わることなんてないんだ。

 

 

 

 魔界学校での思い出が消えて

 

 馬型の魔物との日々が消えて

 

 オレとの時間が消えて

 

 そして最後まで残っていた……“あいつ”との出会いが消えようとしていた。

 

 ふと見上げた時、“あいつ”が掌を翳して泣いていた。

 

 泣かないでと、“こいつ”は笑った。

 

 どうしようもない大馬鹿野郎な親友は、いつだって自分の苦しみよりも他人を心配しやがる。

 

 其処で“あいつ”との記憶が吸い取られて……“こいつ”は……ガッシュは……

 

 

 初めて父親から貰った贈り物が

 

 自分と兄にとっての絶望だったなんて

 

 

 そんな

 

 

 そんなのってあるかよ

 

 

 こんなクソみてぇなことがあっていいのかよ

 

 

 なぁ、おい

 

 

 なんだよ、これは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと目が覚めて見たのは知らない天井だった。 身体を起こそうとして……ズキリと強い痛みが走る。

 レインとの戦闘によってついたダメージは相当大きいらしく、オレの身体のそこかしこに包帯が巻かれていた。

 大きな怪我でも数日で完治するはずだというのにまだ痛みがあるということは……オレが倒れていたのは一日か二日といった所。

 まずは現状把握を……

 

「ミッ!?」

「む?」

 

 ベッドの横から小さな悲鳴が上がり、そちらを向くとプルプルと震えている少年が一人。

 

「……」

「ミッミミミミミ……」

 

 あれだけ侮辱してしまったカイルと二人きりとか気まずいにもほどがある。

 いや、しかし何故カイルと二人きりなどという状況に……

 そこまで考えてゆっくりと身体を起こした。

 

「っ」

「ミッ!?」

 

 少し痛みに顔を歪めてしまいそれを見ておろおろとするカイル。

 大丈夫だと手で制して、大きく一息ついた。

 

「……すまなかった、カイル」

 

 どうにか目を見て一言。

 まず初めに伝えたかった。

 

 こちらの思惑の為に彼の友を傷つけたのだ。謝って許されるモノではないが、それでも謝らなければならない。

 自分が許されたい為の行動のようでイヤになる。しかしこれ以外にオレが口にしていい言葉はない。

 

 頭を下げて待つこと幾分……ふっと、オレの頭に触れる温もりがあった。

 

「ん……デュフォーからはなし、聞いた」

 

 一定のリズムで撫でてくるカイルの手は、オレが顔を上げると同時にゆっくりと下ろされる。

 合された瞳には強い光。自信と気高さの溢れるその目は、カイル自身の変化があってこそのモノ。

 オレが寝ている間に彼の周りの環境に変化があったのだろう。

 

「あのね、ゼオン。キミが本当に悪い子なら、僕も迷わなかったと思う。あの時は騙されたと思って哀しかったし、レインを傷つけたことは当然許せなかった。

 でもキミの話をデュフォーから聞いて、レインともよく話し合っだんだ。本当はレインがこの部屋でずっとキミのことを見張ってるはずだったんだけど。どうしてもキミの目が覚めた時、僕一人で話してみたいってレインには言ったんだ。危ないからって反対はされたけど、どうしてもキミのことを知りたくて……。

 そしたらやっぱりさ、大丈夫だった」

 

 その笑みは、まるで太陽のように眩しく。

 ガッシュといいカイルといい、つくづくオレはこういった笑顔を浮かべる子に弱いらしい。

 

 ふっと口元を緩めて吐息を漏らすと、カイルはオレの片手にそっと掌を重ねた。

 

「僕が弱かったからキミにそんな選択をさせてごめ―――」

 

 唐突に、綴られ始めた言の葉をオレは指先をカイルの口元に当てて止める。

 その先はオレにとって看過できないから。

 

「いいか。それの続きはきっと言ってはならない言葉だカイル。悪いのはオレ。お前の友をオレの都合で傷つけたんだ。許されることではない。

 理不尽から逃げず、友の為に強大な敵に立ち向かったお前は凄いヤツなんだ。乗り越えたお前はもう、弱くなんてない」

 

 真剣な目で見つめると、カイルは眉を寄せて抗議の視線を送ってくる。

 まだその歳では分からないかもしれない。しかしお前は……曲がりなりにもこの地域一帯を治める主なんだぞ。

 故にオレはお前のその不満を受け付けない。

 

「カイル。それにお前は町の町長の息子であり、いわばこの辺りの“王”となるモノなんだろう?

 ならばお前は罪を犯したモノに対して軽々しく謝罪などしてはならないし、簡単に許すなどということもしてはダメだ。

 裁定を下して見合った罰を与え、罪を償わせることが必要なんだ。だからお前はオレを罰さなければならん」

 

 デュフォーがうまくやってくれてカイルの環境が改善されているのなら、主としての第一歩から甘えさせてはならんだろう。

 これは王を目指すモノとしての線引きだ。オレが王ならば信賞必罰は絶対に譲らないからこそ、ソレを曲げて許されることは出来ない。

 

 じっと見つめ合うとすぐに、カイルはクスリと小さく声を漏らした。

 

「ふふっ、ゼオンは凄いね」

「……?」

 

 首を捻る。急にわけの分からないことを言い出してどうしたんだこいつは。

 

「僕はまだ、そういうのは分からない。でもキミが王様になる為に、沢山勉強してきたんだってことは分かったよ。それはきっと、キミにとって譲れないことなんだね。

 だから……うん」

 

 カイルはまた笑った。

 

「この戦いの間、僕が立派な“王様”になれるようにいろんなことを教えてほしい。それがキミへの罰、でどうかな?」

 

 驚きに一寸だけ思考が止まる。

 すぐに動き出して口を開こうとすると、今度はカイルの指に口を止められた。

 

「レインを傷つけたことを僕は許さない。でも僕が勇気を持てるようにしてくれて、レインと色んなことが出来るようになったことには感謝してるんだ。

 だから、ね? それで納得してくれると嬉しいな」

 

―――ああ、凄いな。

 

 単純に、明快に、オレの心に感嘆が沸く。

 あまりにも眩しいその心は、オレが持ちえないモノだ。

 

 カタリと音がして扉が開く。

 

 途中から気配はしていたから分かっていた。やはり盗み聞きしていたらしい。

 人間に変化したレインとデュフォーが入ってきた。

 レインの浮かべている表情は穏やかで、からかうような視線をオレに向けてきた。

 

「よう、起きたかゼオン」

「ふん……盗み聞きしておいて白々しい奴め」

「ははっ、ばれちまってたか」

 

 言いつつ椅子を持ってきて座ったレインはもう敵意を向けてこず、未だオレの手を握って離さないカイルを優しく見つめた。

 

「聡いお前なら気付いてるとは思うが……お前が眠っている二日の間にな、カイルは小屋じゃなくてこっちの母屋の方に住めるようになったんだ。

 ジル……遺産管理の総まとめをしてる女に面と向かってカイルが直接反抗して、それを見た他の手伝いや庭師なんかが仲間になってくれて、町の人達も力になってくれて、あとはもうとんとん拍子に話は進んだよ」

「そうか」

 

 一言落としつつ、オレはデュフォーを見る。

 事前に根回しもしていたんだろう。カイルの一言で全てがいい方向へと動き出すように町のモノにも声を掛けていたに違いない。

 ふるふると首を振るデュフォーにとっては、ただ能力を使ってカイルの味方になってくれる奴らを見つけただけだとでも言いたいのだろう。

 目を細めて睨んでおく。お前が居なければこんな上手くはいかないのだからそれをつまらないことのように感じるのはいただけない。

 

 視線を戻す。

 

「礼は言わねぇぞ」

「それでいい。礼を言われるようなことは何もしていない」

 

 カイル自身の強い心があったならば、きっといつかは一人で立ち向かった未来すらあったやもしれないのだ。

 礼など言われる必要はない。こちらが思惑の為に巻き込んだ側で、お前らは被害者の側だ。

 

 どうやらカイルは握っている手を放してくれないらしいので、そのままレインの瞳をしっかりと見て言葉を続ける。

 

「改めてだが……すまなかった。もっとやり方があったというのは承知の上でこういった強硬手段に出たことを謝罪する。デュフォーからどれくらいまで聞いたかは分からないが……どんな理由があれ力を行使して傷つけたことに変わりはない。お前からの罰も受け入れる」

 

 目を伏せて言うと、レインは黙っていた。

 気を失う前に伝えたことだとしても、もう一度面と向かって言いたいことがもう一つ。

 

「あとオレからは一つだけ。弟の友達になってくれてありがとう。あいつの幸せの一つになってくれたことに感謝を」

 

 こいつだけは信頼できると、そう思えたんだ。何があってもガッシュの力になってくれるであろう魔物を見つけられたことは大きい。

 それに……こいつがガッシュの友であってくれることが素直にうれしいからな。

 

 少しの沈黙。

 呆れたようなため息を吐いたレイン。

 次に投げられた言葉は、オレにとって少し予想外のモノだった。

 

「なぁ、ゼオン。何故お前はあのオレ達の最後の術に対して、気絶するほどボロボロになりながらお前自身で術とぶつかりあった? お前ほどの魔物なら避けることも、あれ以上の威力の術で上回ることも出来たはずだ」

「……褒美だと言ったはずだが? オレ自らが真正面から叩き潰してやると言えばお前達に希望を持たせて結束を高めることが―――」

「いいや、違うね」

 

 遮ってくるレインが確信をもって遮ってきた。

 

「それならお前達が放つ術はもっと大きなモノで良かっただろう?」

 

 なぜこうまで食い下がってくるんだこいつは。

 いや、もしや手を抜いたとでも思っているのか?

 

 確かにジガディラスを使えば、充填時間があるとはいえレインの術(ガルバドス・アボロディオ)を耐え抜きつつ完全に破壊出来たかもしれないが……。

 デュフォーと目が合う。こいつはあの時オレの考えている“答え”を出した上で術を選んだはずだ。

 

―――レインに説明しなかったのは……オレに直接レインを説き伏せる機会を残してくれたということか。

 

 しかしだな……これを直接言うのは少しばかりイヤなんだが。

 お前が説明しておけよと意味を込めてデュフォーを見つめ続けていると、小さく呆れのため息を吐いてきやがる。

 

 なんてやつだ。

 口にせずとも顔に描いてある。お前、頭が悪いなと。

 

「お前が選んだ選択だろう? 弟のことになるとバカになるような兄には丁度いい罰だ」

 

 いつもと違う口ぶりと、少し棘のある声。

 こんな感情が乗っているデュフォーの声は珍しい。

 

 つまりこいつは……怒っているのだ。オレが無茶を選んだことに。

 

 そうか、それならば仕方ない。後でデュフォーにも謝っておかなければな。

 

 レインを見て、カイルを見る。

 少し恥ずかしいが、それでも語らねばなるまい。

 

「……あの時お前が放ったのは、死んでも弟を護ろうとしてくれたレインの本気の術であり、カイルの友を想う気持ちが込められた最高の術だった。

 それを避けたり、たかだか上位の術で打ち合うなどという結果にしてしまうのは……嫌だったんだ。想いの一撃を無下にすることなど出来なかった。

 それに……そうだな。間違いなくあの時、ガッシュを助けたいという最高の想いが籠った術をオレ自身が乗り越えられずしてどうするんだという想いが生まれて。オレは……ガッシュへの想いだけは……誰にも負けたくなんてなかった」

 

 ただのわがまま。

 それだけのこと。

 

「オレの方がガッシュを想っているんだという証明が欲しかった。オレこそがガッシュを一番に護りたいんだということを示したかった。

 嬉しかったんだよ。レインがガッシュの記憶を死んでも護ると行動で示してくれたことが。オレ自身が磨き上げてきた身体と力の両方で打ち破れずに負けたならオレはガッシュの隣に立てる兄ではないとまで思ってしまった。

 ならばと、オレは考えた。オレは……オレの想いとはなんだ、と。どれくらいなんだと。レインの想いに勝てないのか? そう考えたら……証明しなくてはと思ったのさ。だから避けてはならんと思った」

 

 沈黙。

 長い長い沈黙が部屋を支配した。

 

 く……物凄く恥ずかしいぞ。なぜこんな羞恥に耐えなければならん。

 デュフォーめ。オレの視線に映るようにつま先でリズムを刻んでやがる。この一定のリズム……モールス信号だが……バカめ、だと? クソが。

 

 怒ってやりたいが、恥ずかしくて顔を上げられない。

 レインとカイルにこんな顔を見せられるものか。

 

「くくっ」

「ふふっ」

 

 二人から、小さく笑い声が出た。

 

「ははっ、あはははははは! ゼオンお前……おっかしぃなぁ!」

「ふふふ。ね? 言った通り、やっぱり悪い子じゃなかったね」

 

 笑うなとも言えず、震えることしか出来ないオレの頭にレインの大きな掌が置かれる。

 

「いやぁ! お前は術を打ち破ったけど気絶したから……オレの勝ちでいいな?」

 

 にやにやとした顔をしていると視ずとも分かる。

 オレの我慢はそこで限界に達した。

 

「ふざけるなよ貴様ぁ! 貴様のパートナーが倒れたからあそこで手打ちにして眠ってやったのだ! 貴様が敵だったならオレは間違いなくあの後に最強術をカウンターで放って魔界に還している!」

 

 人が下手に出たら調子に乗りやがって。

 噛みつくように言い放つと、レインは腹を抱えて笑い出した。

 

「はははははっ! 冗談だ! これに関しては甲乙つけるのが間違いだ、そうだろ?」

「……」

 

 目じりに溢れた雫を払いながらの言葉に少し考える。

 想いの大きさに勝ち負けがないと、こいつは言う。

 大きさに優劣はないといいたいのだろう。

 

 オレの返答は……

 

「ダメだ。オレの方がガッシュを想っている。そこは絶対に譲らん。オレの勝ちで納得しろ」

「ぶふっ」

 

 今度はカイルが再び噴き出す。

 やれやれと首を振るデュフォーの口元は何処か緩んでいるように見えた。

 

「平行線になりそうだからそこまでにしとけ、ゼオン。カイルもレインも、これ以上はからかわないでやってくれ。このゼオンがおもしろ……「おい」んんっ……比較的からかいやすいのは分かるがな」

 

 こいつ、おもしろいと言いかけやがったぞ。

 なんてやつだ。オレは哀しい。お前をそんな性格の悪い人間に育てた覚えはないぞ、デュフォー。

 

 ひとしきり笑ったあと、二人は頷き合ってオレを見た。

 カイルがレインに目配せをして……優しい瞳で語りだす。

 

「ゼオン、実はな。

 デュフォーが教えてくれて実際に体験もしたんだが、オレがあの水晶を喰ったことによってガッシュの記憶を夢に見た」

「なにっ!?」

 

 驚愕に目を見開いて身体を乗り出すも、ベッドに座ったデュフォーに抑えられる。

 デュフォーを見ると……そうか、それがお前の出していた答えの一つ(・・・・・・・・・・・・・・・・)か。

 

 レインにガッシュの真実を見せること。オレの記憶転写の術によって記憶を見せたとしても、レインやカイルが猜疑心を持ってしまうかもしれなかった。

 だからこそ真摯に頼み込むつもりだったというのに……お前は……。

 

 直接ガッシュの記憶を見ることが出来たのはきっと水晶にバグが生じているのだろう。

 特殊な環境と状態であるがゆえのこと。まあ、壊れていないのならそれでいい。

 

 それよりも……

 

「どんな記憶を見た?」

 

 それが気になる。

 ガッシュの記憶ということは、オレの知らないナニカも見たかもしれないのだから。

 

 レインは少しだけ哀しみを瞳に映しつつ……その奥に、大きな怒りを宿していた。

 

「……オレとの出会いと、魔界の王から水晶を渡された時の記憶、そしてお前とデュフォーと楽しそうに笑い合っている時と……絶望の夜明け」

 

 身が凍る、とはまさにこのことだった。

 固まったオレの手を、カイルが優しく包む。

 

 レインは、ギシリと歯を噛みしめて……一粒の涙を流した。

 

「なぁ……ひでぇよ。あんなのよぉ、あんなのってあるかよ。初めて父親から貰ったプレゼントがこんなもんだなんて……」

 

 既に吐き出していたらしい水晶を取り出して、レインはベッドの横の机の上にコトリと置いた。

 

「なぁゼオン。起きてからのお前を見て、話を聞いて……そんでもって夢のこともある。

 あんなに大切にガッシュを抱きしめてたお前のこと、もうウソだなんて思えねぇよ。こんなにガッシュのことを考えて、オレの術に突っ込んで、命さえ掛けてもいいってくらい無茶するやつの気持ちがウソなはずあるかよ」

 

 カイルの手と重ねて、魔物本来の姿に戻ったレインはオレの紫電を覗き込む。

 

「お前はきっと当たり前だから知らなかっただろうし、一人だったから分かってないと思うから……ガッシュの親友として言うぜ。

 “ありがとよ。ガッシュを想ってくれて。オレの大切な親友を護ろうとしてくれて。お前さんはいいアニキだよ、ゼオン”」

 

 

 

 

 まるでオレがレインに言ったことの裏返しのような。

 

 弟を想う者から“理解された”その一言に。

 

 オレの目からポタリと雫が落ちた。

 

 

 

 見られるわけにはいかないと思い伏せた顔。グイと寄せられて、レインの胸に押し付けられた。

 腰に抱き着いてくるカイルは、なぜか泣いていた。

 

「は……はは、バカな奴め。そんな、こと。当たり前だろうが」

 

 ひくつく喉がうっとうしい。

 

 なぁ、デュフォー。

 

 オレはこんな時、どうしたらいい。

 

「だってオレは、あいつの兄なんだ。兄が、愛する弟を護るのなんて、当たり前なんだ」

 

 絞り出したような声になった。無様を晒している。兄としてもっとしっかりしなければならないのに。

 

 

 

「ゼオンとオレが目指した“答え”は同志。今もソレになるだろうと“答え”が出ている。しかし出来上がった解答は違うモノなようだ。また、答えを出す者(アンサートーカー)が外れたな」

 

 

 

 けどいい景色だ、と呟いて。

 最後にデュフォーが頭を撫でてくる。

 

 

 

「もうお前とデュフォーの二人だけじゃねぇよ」

「僕たちも、キミの力になるから」

「沢山いればガッシュを護るのだって簡単になるだろ?」

「キミが出来なくても僕たちが代わりに戦える」

「アニキだからって突っ張らなくてもいいさ」

「お兄ちゃんだからって無理ばっかりはやめてね」

「あいつと一緒に、でっかい魚とか喰いに行こうや」

「僕のおうちで皆でお泊り会とかもしようね」

「きっと楽しいぜ、皆ではしゃぐのは」

「きっと楽しいよ、皆で遊ぶのは」

 

 

 

 二人の声が、胸によく響いた。

 

 

 

「「だから……友達になろう。ゼオン」」

 

 

 

 重なった二人の声に、オレは小さく声を上げることしか出来なくて。

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 何度も頷くことでどうにか、彼らの想いに応えることにした。

 

 なぁ、デュフォー。

 

 オレはお前以外にも、頼っていいんだろうか。

 

 

 初めてで分からないけれど。

 

 

 これがトモダチというモノなら

 

 

 悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~想う者二人の語り~

 

 

 

 

 

「お前一人が残ったということは、デュフォーに事のあらましを聞いているな?」

「ああ、にわかには信じられなかったが、オレしか知らない魔界での出来事を言い当てたことでデュフォーの能力が本物だってのは分かったし、言われた通りにガッシュの記憶を見たことで事実だってのを理解した」

 

 向かい合うゼオンとレインは二人、カイルの邸宅の一室で話をしていた。

 

「何故、お前達がオレとカイルをこんな強硬手段で仲間にしようと思ったのかも聞いた。そんでもってさっき見せて貰ったデュフォーが見たあの夜の記憶(・・・・・・・・・・・・・・)で状況も分かった」

 

 暖かいミルクを一口飲んで、ゼオンが続きを受け持った。

 

「当然、早期からお前達にガッシュを助けてやって欲しいという願いはあったが……一番の目的は別にあった。

 魔界の王からガッシュに継承された術、“バオウ”。

 アレが意思を持った特殊な術だからこそ、オレ達はお前達が自発的に環境を改善していくのを待つことを許されなかった。

 必要だったのは……」

 

 少し区切ったのち、ゼオンは重く言葉を落とす。

 

「憎しみに染まらず、恐れも持たず、バオウの暴走を止められるほどの圧倒的で純粋な想いの力。

 しかも……“シン級”に至るほどの力を……最低でも三体(・・・・・・)だ。これがデュフォーの持つ答えを出す者(アンサートーカー)で得た答え」

 

 それほどまでに、と術のなんたるかを知るレインは衝撃を受ける。

 ゼオンはまだ続けた。

 

「デュフォーとオレならば万事に対策を練れるとはいえ、不可測の事態というのは奇妙なことに起こる、起こってしまう。

 突然変異の魔物というイレギュラーの存在が有り得ると王から聞いているし、オレとガッシュがソレにならないと限らない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 術に意識を乗っ取られるという最悪の事態さえ起こりうると言うのだから、ソレを危惧して準備しておくのは必要なことだ。

 “バオウ”という術は、それほどにやばいんだ。もしオレが何らかの事態で雷の力をバオウに喰われたり、ガッシュが何らかの理由で雷の力を覚醒してしまったならば……人間界と魔界を滅ぼしうる最悪が世に解き放たれることになるだろう」

 

「ソレを止めるのに“シン級”が扱える魔物を三体……」

 

「言っただろう? 最低限だと。其処はガッシュの人を引き付ける心をあてにしている。優しいあいつのことだ。きっと沢山の魔物と友達になることだろう。

 オレとデュフォーが集めて鍛えておきたいのが三体、というだけだ」

 

 なるほどな、と呟いたレインは続きを促す。

 

「“シン級”には並大抵の魔物では至れない。それこそ魔物と人間の絆によっての成長という特殊なことがあってやっと至れるレベルだろう。

 お前とカイルの絆に不純物を混ぜては到達など出来ない。だからこそ一芝居打って絆を試したということだ。すま―――」

 

「おっと、もう謝るなよ。終わったことだ」

 

「……恩に着る」

 

「いいってことよ。それでだ。“バオウ”ってのがとんでもなくやばいのは分かったし準備が必要なのも理解した。

 お前が王の掛けたくそったれな呪いでガッシュに近付けない以上、オレが動くべき時は必ず来るってな」

 

 言いながら、どんなにつらいことだろうかと、レインは思う。

 

 本当ならゼオンが直接バオウの対処をしたいはずなのに、彼は呪いがあることと、バオウに取り込まれる可能性がある為に何もできないのだ。

 

 

 憎しみではなく想いと絆の力で。それこそがバオウが暴走した時に止めることが出来る唯一の鍵。その一つが、レインとカイルだったということ。

 

 愛するガッシュに世界を壊させないように先んじて打っておく一手。そうならなければそれでいい。

 

 どこまでいってもガッシュの為なのだと、レインの頬が綻んだ。

 

 

 

「そういえばゼオン、お前はもしオレがこの戦いを最後まで戦おうという意識を持たず、こういう関係にもならなかったら……どうやってオレを戦いに参加させるつもりだったんだ?」

 

 まあ、バオウとガッシュのことを聞けば力になったとは思うけど、と続けたレインの目を見ながら、ゼオンは少しイヤそうな表情をした。

 

「いや……う……まあ、その……」

 

 煮え切らない言葉。

 意を決したと唇を引き結んだゼオンが語る。

 

「ガッシュの為に協力してくれるというのが前提で……“王となってからかこの戦いの最後か……その時にお前がオレを間違った悪しき存在だと思ったなら、お前とガッシュでオレを倒して最後の勝者となって欲しい。なれ合いでなく、友好でなく、カイルとお前の曇りなき目で判断してその時はオレを討て”と、水晶を渡した上でそう説得するつもりだった」

 

 気恥ずかしそうに彼はそっぽを向いた。

 

「弟が信頼を置く友だと語ったのだ。それを信じずして兄ではないだろう。だから……お前に初めからガッシュの記憶は預けるつもりだったんだ。ダメだとしても何度でも頭を下げたさ。なにせガッシュの為なんだから」

 

 ああ、とレインは納得した声を出す。

 

「なるほどな。くくっ、お前ほんと……」

「うるさい。その先は言うな」

「くっくっ、悪い悪い。ま、もうそんなことにはならねぇからよかったじゃねぇか」

 

 にやけるレインに不機嫌なゼオンは、またコクリとホットミルクを一口。

 

 レインは優しく宥めながら、心の中でつぶやいた。

 

 

 

―――間違ってたなら叱ってやらぁ。それでもだめなら殴ってでも止めてやらぁ。それがダチってもんだろ? な、ガッシュ。

 

 

 嘗て友に叱られたことのある自分だからこそよく分かっている事柄。

 

 今は遠い親友へと想いを馳せたレインは、新しい友との夜を深めていく。

 

 




読んで頂きありがとうございます。

レイン編ラスト。

カイルとレインの選択。
ゼオンくんの本音。
同志ではなく友達。

お兄ちゃんなのでこんな結末です。
レインが記憶を見れたのはゼオンくんが原作でガッシュくんの記憶を見れたような感じでお許しを。


最後のは
ファウードをボロカスにしたようなベル兄弟の真・バオウ(外から他の魔物の力をゴウンゴウンって喰らえる能力付き)がシン・クリアみたいな感じで敵になるとしたら……そりゃやばいという話。

シン級使える仲間をあと2体……一体誰になるんだ


これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

次の1000年前の魔物編で好きな魔物はどの子ですか

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