もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第十九話:秋に出会う空色

 

 夏の残り香が漂う秋の始めの頃。

 ヨーロッパはオランダのとある街はずれにて二人の魔物とそのパートナー達が相対していた。

 

 風車の見える草原に吹く風を感じながら、白銀の髪を揺らす少年は口を引き裂き笑う。

 そのパートナーの青年はただ無表情に……相対する青年にも魔物にもなんら感情を浮かべずに見つめるだけ。

 

 彼らには傷一つない。疲労の色もなく、汚れも一つもなかった。

 

 対する二人は……満身創痍。

 特に本の持ち主である青年はボロボロで、肩で息をするほどに体力を消耗していた。

 魔物の子の方はてんとうむしを思わせる羽や肌に電撃による傷がいくつも。まだ戦えると構える彼は、心配そうに青年を見上げる。

 

「ふん……もう少し歯ごたえがある相手だと思ったんだがな」

「だから言ったんだ。この戦いは無意味だと」

「偶にはお遊び(・・・)もいいモノだろう? それなりに魔物の方に見込みはあるんだ。あのバカ(・・・・)程ではないにしても」

「お前がいいならいいが」

「ククク……それにだ……おい、人間」

 

 向けられた紫電の眼光は、真っすぐに、ただ真っすぐに青年を射抜く。

 

「貴様、まだ勘違いしているな」

 

 ズクリ、と跳ねる心臓。

 

「貴様は後悔することがないと、本当にそう言えるのか?」

 

 真実を見通すような少年の目は、青年の心にナニカを突きつけてくるモノで。

 

「“旅”の終わりを誰かに委ねるお前に……本当の覚悟があるというのなら、それを見せろ。でなければ―――」

 

 迸る雷と、何か大きなモノを秘めている紫電の瞳。

 青年はその少年の言葉に唇を噛みしめる。

 

 

「此処で貴様の旅を終わらせてやってもいいんだぞ」

 

 

 両腕で守るように抱えた本は自由を意味するような空色なのに、青年の心は縛られたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ○△○

 

 

 

 

 

 

 レインとの訓練やカイルとの勉強といった充実した日々を過ごす中で、久しぶりにオランダの拠点へと帰ってきたのが今日。

 未だにジガディラスを超える術を思いついてはいないが、それでもこと戦闘に於いては王城に居た頃よりも上の訓練が出来ていると言えよう。

 カイルの成長も順調だ。自信がついたことによって人との対話も増えてきているし、最近では虫にビビることが少なくなってきた。

 レインに対しては……デュフォーによるツボ押しは当然のように行った。あいつも痛がっていた。アレは本当に痛いからな。うん。

 そんなあいつも、最近メキメキと自力の成長を見せているところだ。この調子でいけば新しい術が出る日も近いだろう。

 

 オレとレイン、二人の強者で高め合う日々に、頃合いだと見たのかデュフォーはこんな提案をしてきた。

 

『感知能力を伸ばす訓練と魔力操作を次の段階に移す。記憶した大きな力に対しての感知距離を国単位に伸ばすと同時に、自分の魔力を極限まで下げて見つからないようにするのが今回の到達点だ』

 

 レインとオレの二人の魔力であれば、互いの位置把握によってそういった訓練が可能になるとのこと。

 更には隠ぺい能力の強化。これは間違いなく“次”を見据えてのことだろう。

 

 “シン級”に到達する見込みのある魔物を仲間に引き入れるには、その相手に“逃げられず”に交渉せねばならない。

 ポテンシャルの高い魔物達の感知能力では、オレやレインなどが距離を詰めれば警戒して隠れる可能性が高いのだ。

 瞬間移動で国をまたいで移動できるとしても、鬼ごっこをした先で仲間になってくれるとは思えない。こちらとしてもしたくないことだ。

 逆にそういった奴らは近付かれるまで見つからなかったという高い実力を示すくらいの方が交渉の席に座ってくれるというモノ。

 

 

 あとは……警戒心が殊更に強いと“答え”の出ているあの一族の子供の企みへの対処と行動の為。

 

 

 そう、あの一族だ。

 

―――オレの大切な弟を小間使いにしようとしたあの……。

 

 いかん。感情的になるな。本人がどれほどのゲス野郎だとしても、オレの弟に手を出したわけじゃない。本人に報いを与えるのは被害者でなければならない。

 あの一族の企みはもう“答え”が出ている為、オレ達はその対処と行動の方針を立て始めている。

 

 レインとオレは、あの一族の企みに基本的には介入しない(・・・・・・・・・・)

 オレ自身は当人に直接挨拶にはいくが、企みを打ち砕くようなこともしない。

 

 もはやあの一族の企みがなんであるかはわかりきっている。

 千年前の魔物を復活させて支配下に置き、今の魔物達を蹂躙しようと言うのだろう。

 

 記憶や心を操る特殊な術を持つあの一族の考えそうなことだ。千年前の魔物のパートナーがいないなら創りだせばいい、支配すればいい。そんなところ。

 それについては後々、レイン達と共に対処を煮詰めるとしよう。

 

―――その時はオレと同じで、レインはあの一族による反吐が出るやり口にはらわたが煮えくり返る程の怒りを覚えるだろうがな。

 

 直接叩き潰してやりたいし出来ることなら企みなど燃やし尽くしてやりたいところだが、千年前の魔物達のことも考えるとオレ達に出来ることはそれほど多くない。

 それに……封印されている中に数名、オレ達に必要な情報を持っているモノが居るはずだからな。

 

―――千年前の戦いでの……“バオウ”の情報を。

 

 レインと二人でソレを集めるのが一番の目的だ。オレとレインは別行動で動くことになるだろうが……カイルの実戦経験にもなるのはいいことだ。

 出来ることならオレかレインが次の仲間を見つけに動きたい所ではある。ただそれに関してはやはりデュフォーの言う通り、感知能力と魔力操作のレベルアップを待ってからの方がいいだろう。

 

「レインのように、ガッシュのことを知っているモノではないのだからな……」

 

 救いたいという想いが同じモノではない為、交渉することしか出来ない。レインにしても友となったことなど奇跡に等しいのだから。まあ、あのバカ(・・・・)とのやり取りは悪くはないがな。

 

―――千年前の魔物にも実力者が居るし、そちらに協力して貰うことも考えた。こちらの事情に彼らの自由を奪うのはさすがに心苦しい。

 

 街を歩きながら考える。

 反吐が出るような輩を前にして我慢できるのか、そして何より……

 

「千年前の魔物全てをいちはやく故郷へと還してやる為に、全部をオレとレインの二人で相手取ってもいいが……」

 

 出来るか出来ないかで言えば、出来る。オレのマントと瞬間移動を使えば分断も可能で、デュフォーの力があれば個別の対応は問題ないからだ。

 千年前の魔物のリストは覚えているし、どんなモノ達が封印されているのかも知っている。その中でもオレとレインが少し手こずるのは三体。

 

 星の使徒、パムーン

 棍を極めし者、ツァオロン

 千年前の特殊個体の一体、ベルギム・E・O

 

 そして一体だけ特別なヤツ。レインでも苦戦するであろう

 

 狂戦士、デモルト

 

 オレとしては問題ないとしても、些かカイルとレインには荷が重い。レインを失うことだけはあってはならない。

 

 

 閑話休題。

 少し思考に潜りすぎたか?

 そろそろデュフォーとの昼食の場所であるホットドッグ屋の近く。

 

 今はまだいいか。あの一族の者と直接会うまでに四人で話し合えばいいのだからな。

 

 一息つき、訓練の為にレインの魔力感知以外切っていた他の魔物感知へも意識を向ける。

 

 すると面白いことに……数メートル後ろに一つ、微弱な魔力を感じた。油断していたわけではなく、唯々敵意も害意もない、澄んだ魔力反応が其処にあったのだ。

 純粋な魔力のみのその力は、意識を尖らせねば感知できない程に綺麗だった。まるで赤子のように。気付きにくいモノではあるが、気付かなかったのはオレの修行不足だな。それに……

 

―――ほう……そうか。そういえばこの戦いは年端もいかない子供でさえ参加させる戦いだったな。

 

「ガ、ガッシュ!?」

 

 思い出していたら、掛けられた声は予想外のモノ。

 

 その一言はオレの心をささくれ立たせるには十分であり。看過できるはずもない。

 

「……誰だ?」

 

 許さんと、そう決めた。

 

 こいつは間違えた。

 

 レインは光の加減があったからいいとして。

 

 こいつはなんともマヌケな間違いをした。

 

 

 

 振り返った時に、やはり小さな子供の魔物が居て……驚いているパートナーの人間が一人。

 

 

 

 なるほど、お前だな人間。許さんからな。

 

 このオレとあの愛らしいガッシュを見間違えるなど……あってはならないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人で賑わう街で青年は楽し気に。

 手の持った笛の音は美しく陽気で、街行く人々にも笑顔を与える程。

 そんな彼の前をくるくると回りながら歩く魔物が一体。テントウムシのようなその魔物は、言葉が喋れないながらもその青年に心を伝えることが出来るらしい。

 

 音楽に合わせたステップを一つ二つと踏んで、曲の終わりに決めのポーズを一つ。

 

 やりきった顔で青年を見る魔物の子に、青年は満足げに拍手を送った。

 

「うん、いいねロップス。曲の強弱や緩急に合わせた表現がすごく上手くなった」

「かう~♪」

 

 羽を広げて嬉しさを表現するその子―――ロップスと、その青年―――アポロは止まることなく進んでいく。

 

 旅の途中で寄ったオランダのとある街で、彼らはいつも通りに音を奏でて世界を感じていた。

 

「うーん。この国には“危ない感じ”はしないけれど、魔本を持ってたらいやでも魔物の子と巡り合うみたいだし油断はダメだよね」

「かうー♪」

「まだオランダの街も三つ目だし、戦うとしても出来ればもう少しゆっくりと観光してからがいいかな」

「かう! かう!」

「おいおい、ロップス。今度はそっちに行きたいのかい?」

 

 言いつつ和やかに歩く彼は、ご機嫌に歩いて行くロップスの背中をいつも通りに追う。

 気まぐれな彼のパートナーに振り回される毎日だが、それもまた彼の旅にとってのいい刺激となっているらしい。

 

 ただ……魔物の子を連れているということは、誰かが仕組んだかのような巡り合わせに遭遇することは有り得ることで……

 

「かう!?」

 

 そして彼らが訪れたこの街がとある魔物の拠点であるならば……出会いは必然と成り得ること。

 

「ん? どうしたんだ、ロップス?」

 

 驚愕で固まったロップスの背に追いついたアポロは、その視線の先を見やった。

 

 数メートル先を歩く後ろ姿に、彼らは見覚えがあった。

 

―――まさか……

 

「ガ……ガッシュ!?」

 

 日本という国で出会った一人の魔物の子の後ろ姿に、余りにもそっくりであったから。

 口から名前が零れてしまったのは仕方ない。記憶に新しい知り合いと思ったなら、声を掛けたくもなると言うモノ。

 ただ、その名を口にするということが、目の前の少年から絶対に逃げられなくなる行動であることをアポロは知る由もない。

 

「……誰だ?」

 

 振り返ったその顔を見て、アポロとロップスは息を呑む。

 

「オレとあいつを勘違いするようなマヌケは」

 

 少しの怒気を孕んだその声。

 紫電の眼光に白銀の髪。

 顔は同じであれども、纏う空気も存在感も、圧倒的に違いすぎた。

 

―――この眼……この感じ……ガッシュじゃない

 

 少ない威圧はわざと抑えられているのだとすぐにでも分かる。内に秘められる大きな力を、アポロはその特殊な勘でもってしても図りきれない。

 

 てくてくと、目の前の少年はアポロとロップスに向けて歩いてくる。

 

「か、かう……」

「ロップス」

 

 少し震えているロップスを見てアポロは庇うように腕をロップスの前に広げた。

 少年はそれを見て、ほんの僅かにだが驚いたようだった。

 

「人間、こいつは喋れるか?」

「……ロップスは言葉を話せない。意思の疎通は出来るけど」

 

 投げられた質問に少し面食らうも、アポロはその紫電から視線をそらさずに答えた。

 

「そうか、まだ幼い魔物ならば仕方ない。だが……」

 

 すっと細められた目が、殺気すらも僅かに纏ってアポロを射抜く。

 

「貴様は別だな、人間」

 

 ぐっと、少年は一歩踏み出して詰め寄ってきた。合される眼差し。

 その目から伝わる怒りをアポロは感じ取る。恐ろしいほどに純粋な怒りは、有無を言わさぬ圧力を持っていた。

 

「このオレとあいつを人違いするなどという愚かなことをしたんだ。質問に正直に答えろ。あいつに会ったのか? 貴様らはあいつを倒したのか?」

「……倒してはいない。彼らは強かった。僕らは引き分けたんだ」

 

 片目を細めた少年は、じっくりと品定めするようにアポロの瞳を覗き込む。

 

「引き分けとは? この戦いは最後の一人になるまで戦い続けるモノだ。引き分けなどあり得ないが?」

「お互いに力を出し切ったんだ。今度はもっと大きくなって再戦をと誓い合って別れた」

 

 そこまで聞いて少年は黙り込む。後に―――

 

「ふん、そうか。なるほどな……“答え”が分かりきっていたとはいえ、オレもまだまだだ」

 

 質問したというのに全て分かっていたと少年は語り。自嘲の笑いを一つした彼はそこでようやくアポロから視線を切った。

 

「ロップスとか言ったな? お前はあいつと戦ってどうだった?」

 

 しゃがんで目線を合わせ、自分より小さなロップスへと語り掛ける少年は、今度は怒気を浮かべておらず。

 穏やかさすら混ぜ込まれたその声。唐突な変化にアポロはついて行けない。

 

「かう! かうかう! かうー!」

 

 少しだけ悩んだ後、ロップスは精一杯の身振り手振りで少年へと伝えようとし始める。

 パンチの真似事をしたり、飛んでみたり、ひっくり返ってみたり……。

 その度にうんうんと頷いて聞いている少年の口元が、少しずつ笑みへと変わっていく。

 

「かうかうかう! かう!」

「ふむ……よし、ロップス。少しその思い出を見せて貰ってもいいか?」

「かう?」

「なに、敵意も害意もない。ただ知りたいだけだ。オレを信じてくれるか?」

「……かう!」

「ふ、助かる」

 

 ひらりと、少年はロップスの頭へと手をやった。優しく頭を撫でた彼は、嬉しそうに声を出す。

 何かをしようとしたことにアポロは反応出来なかった。彼の信頼する勘が、その行動に全くの危険を感じ取らなかった為に。

 

「ククク……そうかそうか。なるほどな」

 

 掌が光り、少年は目を瞑ったまま。

 何が起きているのかは先ほどの言葉から予測できる。

 

―――この子は記憶を見ることが出来るのか

 

 魔物達は特殊な能力を持っていることがある。

 それをよく知るアポロは彼の行動を見て納得した。

 

 ガッシュと瓜二つの見た目をしていて、勘違いしたことに対しての怒り。

 何よりもガッシュのことを“あいつ”とまで呼ぶのだ。関係があることは間違いなく。

 

 しばらくして掌を離した少年は、優しい……とても優しい表情を浮かべてロップスを見やった。

 

「ありがとう、ロップス。あいつと戦ったのがお前達で良かった」

「かう!!」

「いい子だ。気に入ったぞ。それになかなかやるじゃないか。その強く気高き心があればお前はこの先もっと強くなれるだろう」

 

 グッとサムズアップをするロップスに、少年は拳を向ける。

 嬉しそうにその拳を付き合わせるロップスを見て、アポロは漸くほっと一息ついた。

 

―――どうやら……すぐに戦いをしようとする子じゃないみたいだ。

 

 楽し気に笑い合う二人を見ている時間は穏やかで、まるで戦いの後に清麿達と語っていた時のようだった。

 アポロが見守っていると……くるりと振り向いた少年は、パチリと指を一つ鳴らした。

 

「オレとあいつを間違えるなどという失礼な見間違いに対しては先ほどの威圧で貸し借り相殺としよう、人間。此処からはロップスにいいモノを見せて貰った返しだ。

 名乗るのが遅れたことは許してくれ」

 

 すっと並び立つ人影。

 大人というには少し幼い顔立ちの青年が一人。

 

 白銀の本とホットドッグを持って現れた彼が少年のパートナーだとすぐに気付く。

 

「オレの名はゼオン。そしてこいつはオレのパートナーのデュフォー。

 ロップスを王にしたいのと同時に、旅をしているんだろう? 昼食でも食べながらこの国のことや、この魔物達の戦いについて情報を出そう。同席……するだろう?」

 

 

 ああ、逃げられないなと、アポロは思った。勘が告げているのだ。彼らから逃げることは出来ないし、逃がすつもりもないのだと。

 

 ただしそれは戦いの為というわけではなく……その時は分からなかったが、一重に少年の純粋な想いからだということだった。

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

旅する人との出会い。二話に分けます。

見間違えたのでお兄ちゃんおこです。

原作で声を掛けられるまで気付かなかったのはロップスの通常時の魔力放出が子供なため低かったからかなと予測からこんな感じでどうかなと。



ちなみに、アポロくんが旅人のままだと清麿くんは彼の財閥の恩恵を受けられません。


これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

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