もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら 作:ちゃんどらー
少し時間が出来そうなのでぼちぼちと感想返信も再開していきますね。
「ああ、そうだね。ようやく落ち着いて動けるようになったよ」
星空の下で青年は歩く。
「父を説得するのが一番苦労すると思ってたんだけど……まさか既に根回しされているなんて思わないじゃないか。うん……うん、そこからはトントン拍子さ」
呆れと畏怖を込めたため息と苦笑。
「ありがとう、と言っておくよ。でもよかったのかい? 敵に塩を送るマネなんてして」
相手の答えは分かりきっていても、彼はおどけた口調で続けた。
「後悔するよ? ボクとボクの相棒はこれから先にどんどん強くなっていくんだから」
同じ答えが繰り返されても、青年は笑みを崩さず、相手の言を否定することもない。
唐突に、あ……と声が漏れた。
「そういえばだけど、“彼の大切なモノ”にはどれくらい話していいのかな?」
何を、とは相手も聞かず。
淡々とした説明を受けつつ、青年はニッと笑った。
「いいのかい? 本当に? ボクの勘だと……
聞き返しても、相手からの返答は変わらなかった。
「……それもボクに任せる、か」
唯々、相手は青年に全てを委ねた。
「其処に彼も居るの? ああ……そうなんだ。ははっ、相変わらずだね」
少し崩れた様子で話す青年は前よりも自信に溢れていて。
一つ、相手への些細な意趣返しだとして一言放り投げる。
「
沈黙だというのに、電話口からでも分かるほどの空気がひりつき。
おい……と。
静かに、とても冷たい声が耳によく響いた。先ほどまでの感情の籠らない相手とは違い、激情を冷徹の中に隠した幼い声音。
これくらいの駆け引きくらい出来なければと、ただの
「大丈夫、安心してほしい。キミたちの邪魔はしないさ。ボクがこの答えに辿り着けたのはこの前戦った魔物のおかげでちょっと魔界について詳しくなったからと、キミが“誰かさん”に向ける感情を見ていたからだよ。誰にも言うつもりはない」
まだ空気は張り詰めたまま。
「分かってる。ここまでスムーズに動けるようになる手助けしてくれたことで恩もある。ロップスとの今があのお遊びのおかげだってことも含めて感謝してる。だから、うん……キミがキミ自身でそのコトを大切な子に伝えるまで、ボクはその秘密を守るよ」
やっと弛緩した空気に、青年はほっと胸を撫で下ろした。
「これから起こるナニカにだって直接手出し出来ない事情があるんだろ? どんな困難なことが来るのかもデュフォーもキミも教えてくれないけれど、教えないからこそ意味があるんだろう? うん、だからこそ……一言だけ、キミに伝えておこうかな」
なんだ、と不愛想に言った電話口の相手に、ゆるりと青年―――アポロは想いを流す。
「ガッシュ達のことは任せてほしい。キミが近くに行けない分まで、あの日から借りっぱなしの借りを少しでも返すよ」
小さく零された息だけを残して電話が切れた後に、夜の道を歩きながらアポロはロップスを抱き上げて、彼が聞いていたら怒りそうな言葉を並べた。
「……余計なおせっかいなんて求めていないのは分かってるよ。だってキミは……お兄ちゃんだもんね、ゼオン」
○△○
残りの魔物がついに四十名となったことをガッシュとたまたま家に来ていたティオへと伝え、考古学者の父親からの電話を切って夕食を食べ終わった頃。
わたわたとしているガッシュとティオを横目に見ながら、高嶺清麿は椅子に座りながら思考に潜っていた。
―――部屋を荒らすことなく机の上に置いてあった石版だけを盗んで行くなんて……間違いなく魔物の仕業だ。
部屋に置いてあった石版が何者かに盗まれた。泥棒であれば部屋は荒らされているはずだし、何より一階に自分達が居たのだから泥棒にしては余りにも計画性が無さすぎる。
―――魔物の戦いをする為に来て、ガッシュとティオの二人が居ることを理解して逃げていったんじゃない。不意打ちで術を仕掛けてくるわけでもなかったのなら、間違いなく石版を狙っての犯行。二人居てもあの時に二階からこちらに向けて術を打たれていたのなら……
ふるり、と清麿はその可能性に気付いて震えた。
自分達が日常生活をしているその時に二階に気付かれることなく侵入した何者かが、もしも敵意を持っていたらと考えると恐ろしかった。
―――オレがこの本を二階に置きっぱなしにしていたら……
それは最悪の事態だろうと、清麿は息が詰まった。
何処か自分は気が抜けていたのではないかと。
音も気配もなく、悟られることなく侵入した敵。目の前に本があったのならまず間違いなく燃やされていたであろう。
今回は偶然、手に持ったまま電話に出ていたから大丈夫だった。
しかしいつも通りだったら、と。
―――四十を切った現在……今まで通りじゃダメだ。石版を奪われたのだってそう。せっかく見つけた魔界の手がかりを失くしたのはオレの責任だ。
この戦いの残りと、魔物の戦いについてのヒントであろうと思われた石版を思って、清麿はぐっと眉を寄せる。
「……麿」
―――もっと気合いをいれなきゃガッシュを王にするなんて……
「……清麿!」
―――この前の魔物との森の中での戦いだって、オレの不注意が危機を作った。なんだ……全然成長してな―――
「きよまろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「どわぁぁぁぁ!?」
突如、耳元で叫ばれて椅子ごとひっくり返ってしまった。
呆気に取られているティオの横、不機嫌そうなガッシュが目の前に仁王立ちしていた。
「ウヌゥ! 無視をするとはひどいではないか清麿!」
「あ、ああ……わるいわるい。ちょっと考え事をしてて……」
「むぅ、まあよいのだ! お客さんが来たそうだぞ! 母上が下から呼んでおった!」
「え……? こんな夜に?」
思考に潜っていたことを謝罪してから伝えられた情報に首を傾げる。
「ふふふ、この匂いはきっと……清麿も良く知っている相手なのだぞ!」
「誰よガッシュ?」
「ティオは初めて会うことになるかの! いい者達であったし、きっとティオも友達になれるのだ!」
そういえばガッシュは鼻が利いたなと思い出す。その言いぐさと上機嫌な様子を見て清麿は自分の記憶の中の相手を思い返していくが……
―――誰だ? 山中や水野みたいなクラスメイト、だとこんな反応はしないだろうし……ティオに紹介したくなるくらいガッシュが嬉しくなる相手……うーん。
思いつかなかった。
まあ、会ってみればいいかと内心でつぶやいて、清麿は玄関へと向かっていった。
そこで待っていたのは―――
「やぁ、清麿」
「な……」
スーツをぴっちりと着こなして爽やかに笑う青年だった。
「夜遅くに突然の訪問で悪いね。明日にしようと思ったんだけどちょっと時間が足りなくて。どうしても話したいことがあったんだ」
目の下に僅かに隈が出来ているアポロにお茶を出してから、清麿はコタツ机の対面へと座る。
横にはガッシュが、そして清麿の背にティオが警戒して隠れていた。
「そこのお嬢さんは初めましてだね。ボクはアポロ、清麿達とこの前に戦った魔物の子のパートナーさ。よろしくね」
「え、戦ったって……」
与えられた情報に驚いて清麿とガッシュを見るティオ。何かを察したように清麿がアポロに話を向けた。
「今日はロップスはどうしたんだ?」
「はは……うーん、ちょっと強い子と戦ってね……」
「そう、か……」
意味深に顔を伏せる彼に、心中を察したと清麿が悔しそうに俯いた。居づらい沈黙に、ティオがあわあわとガッシュの隣へと向かう。ガッシュも哀しそうに眉を寄せていた。
そんな中……
「かう~♪」
「おかえり、ロップス。清麿のお母さんにお礼は言ったかい?」
「かう!」
「うん、えらい!」
扉を開けてふつうに入ってきたロップスを見て、清麿とガッシュはあんぐりと口を開けた。少しして立ち上がる。
「お、おおおお、おい!」
「ん?」
「アポロお前、さっきロップスは帰ったって……」
「そんなこと言ってないよ? 強い魔物と戦ったとは言ったけど」
「紛らわしいんだよ!」
勢いよく突っ込むも、悪戯っぽく微笑まれてからかわれたことに気付く。
「よかったのだ!」
「かぁう?」
「この子があの人のパートナー?」
「おお、ティオ。そうなのだ。ロップスと言ってな、私達と引き分けたのだぞ!」
「へぇ~、小さいのに凄いのねあんた」
「かう!」
三人は楽しそうに話し始め、ほっと息を落とした清麿は腰を下ろした。
「なんにしてもよかった無事で。スーツになってるしでさすがにそういうことなのかとびっくりしたよ」
お茶を一口、清麿はアポロの目を見て……その、合わされた瞳の奥に力強い光を見た。
「うん、“ボクの旅”は終わった。此処に居るのは一財閥を纏める社長さんさ。似合っているだろう?」
腕を広げて見せるアポロは、出会った時の雰囲気とは違って。
どことなく芯の強さを持ったような印象を受けた。旅人をしていた時は己の未来に興味のなさそうだった彼が前向きに自分の家のことを語っている。其処に清麿は何かを感じた。
「ああ、似合ってるぜ」
ニッと笑って言う少年は、己の居る場所のことを胸を張って自慢するアポロという青年を、カッコイイなと思った。
「ロップスを王にする……キミたちと戦ってその覚悟を決めたと思った。思っていた。でも……足りなかったなって、気付いたんだ」
苦笑して紡ぐ彼は、ロップスにおいでと両腕を広げる。嬉しそうに彼の腕の中に納まるロップスに倣ってか、ガッシュとティオもアポロの話を聞こうと集まった。
「ボク達がこの前戦った魔物には、かすり傷一つ負わせられなかった。相手はボク達との戦いをお遊びとすら言ってた」
「な、なに?」
「ウヌゥ……そんなに、なのか?」
あのアポロが、と清麿が呟く。それでは自分達も同じような結果になるのだろうかと言いかけて、飲み込む。
そういえばと思い返せば、ブラゴにも一つも傷を負わせられなかった。今の彼らにとって別次元のような強さの相手は確実に存在する。
「偶然見逃してくれたけれど、本当ならあの時に燃やされていても不思議じゃなかった。さっき本が教えてくれたよね、もう残りの魔物が四十を切ったみたいだし……これからは本当に覚悟を決めていかないとだ」
「その為に……旅を終えたのか?」
真剣な眼差しで問いかける清麿は、今後の為にと貪欲な光を宿していた。
先ほどのことも、ついこの前の戦いも、残り人数の情報も、清麿にとってより一層心を引き締める為の要因となった。
アポロの訪問は大きな糧になるだろうと、そしてガッシュを王にする為の光にもなるだろうと、そう確信して彼は問いかけている。
「ああ、そうだね。ボクはロップスを王にする為に、自分の財閥の力を使うことに決めた。イロイロな国を旅をすることはとても気持ちがよくて素晴らしかった。たくさんの人に出会ったし沢山のことを知れた。
でも……ロップスと一緒に居る時間を増やすには、強くならなきゃいけない。ロップスも……ボク自身も。その為には、旅をしてるだけじゃだめだったんだ」
腕の中のロップスを手であやす彼が清麿に向ける瞳は、あの時よりも研ぎ澄まされていた。
「逃げることも出来ない、勝つには希望が欠片もない、新しい力なんて望んでも出ることはない……敵わないって分かった時、ボクはロップスを失うことが怖くなった。必死だった。魔物と人間の違いを思い知らされて、ボクの特殊な能力なんて効かない。
こんなのが何人も居るのなら、ボクはロップスを守り抜いて清麿達ともう一度戦うのに辿り着けないんじゃないかって心が折れそうになった」
首を振った彼は、ロップスの頭を撫でた。
「その時に思った……守り抜く、っていうのが間違いだって。ロップスと肩を並べて戦うこと、足りない所を補い合うこと、そういった戦いに対しての意識の違いが、ロップスとボクの中にはあったんだ。
きっと清麿とガッシュの姿を見ていたから……その場で変わることが出来たんじゃないかな。ありがとう、ガッシュ、清麿。必ずキミたちと戦う相手としてふさわしくなって見せるよ」
「オレなんか何も……いや、そこまで言ってくれるんだ。卑下するのはダメだよな……でも、なんか照れるな」
真っ直ぐにほめられたことで、清麿はほんのりと顔を紅くして鼻の頭を掻いた。
クスクスと笑うアポロと、嬉しそうに微笑むガッシュ。ティオは隣でその話を真剣に聞いていた。自分達にも生かせるように、と。強くなりたいとガッシュと一緒に特訓をしていたりと、彼女も思うところがあるのだろう。
「ボクが此処に来たのはそのお礼を言いに来たことが一つ。そしてもう一つは……警告を伝えに来た」
此処からが本題というように、アポロは姿勢を正す。
「戦った魔物が教えてくれたんだ。近いうちにボク達や清麿達は大きな敵にぶつかるってさ。見逃してくれた子のような遊びなんてしてくれなくて、本気で本を燃やしに来る敵だと言っていた」
強大な敵と戦ったからこそ、アポロはこの情報を重く受け止めている。
清麿達も油断していては呆気なくやられてしまうと、そう伝えたいのだ。
「それは……他に情報とかはあるのか?」
「ううん。彼はそれ以上教えてはくれなかった。でも……」
言葉に詰まる。
あの時の彼の言葉を思い返して、アポロは不思議に感じたことを清麿に語る。
「その敵への対処に対して直接的に手を下せない理由があるから手助けはしない。でも知り合いが少しだけ手伝ってくれる……そう言ってた」
「……よく分からない魔物だな」
警告をしただけならまだ分かる。気まぐれに情報を与えてくれただけで、遊びの延長線だったのだろうと思えるのだ。
しかし手助けはしないやら、知り合いが手伝ってくれるやらと、そういった言葉を残していくのは不自然なこと。
―――なんだろ……なんか引っかかるな。
明晰な頭脳を持つ清麿の思考が廻る。
―――そんな強いヤツがアポロと戦ってわざわざ見逃して、これから当たるだろう敵の情報を流して、自分は戦えない事情があるから手助けはしない……。
くるくると思考は廻り続ける。
―――手助け……手助けか。その言い方からしてそいつはとりあえずアポロとロップスのことを気にかけてるってことだ。敵の情報を渡したのも親切心……いいや、それはいいように考えすぎか? アポロ達を使ってその魔物の対処をさせようとしている……とも取れるんだぞ。
次々に組みあがっていく予測を客観的に積み上げれば観えてくるモノもある。
―――アポロとロップスを無傷で圧倒するような魔物が自分で戦わない理由はなんだ? 敵の魔物との因縁? 敵が準備しているナニカがそいつにとって弱点であるとか? それとも……その敵を倒す過程でナニカがそいつにとって不都合なことが……もう一度アポロの言ったことを思い出して……ん?
ハッと息を呑んだ。
巡らせる中で一番引っかかったモノを、清麿は拾い上げる。
「なぁアポロ、お前達だけじゃなくて、オレ達も敵とぶつかるってそいつが言ったのか?」
「……うん、そうだ」
少し驚いた顔をしたアポロは、目を伏せて頷く。その表情は、何処か焦りを浮かべているかのよう。アポロの表情までは清麿も気付かなかった。
「他の魔物に対しての警告じゃなく、アポロ達とオレ達、って感じだったのか?」
「そうだね。少し話して、ボク達と清麿達が交流したことを話したのもあるけど、キミたちのコトも含んでいたかな」
―――そいつは……アポロ達だけじゃなくて、オレ達まで敵にぶつかるってことをアポロに教えた……? なんでだ。直接戦ったアポロ達だけならまだしも……なんでオレ達に……
もやもやとすっきりとしない思考。アポロ達を遊び程度の感覚で追い詰めて、しかし危機が迫っていると情報を与えるようなちぐはぐさ。
ブラゴ達のようにナニカを感じて見逃してくれたのだとしても、わざわざガッシュと清麿も危ないと伝える意味が分からなかった。
思考に潜り始めた清麿に対して、アポロは冷や汗を浮かべる。
―――約束を違えないようにしないと。ごめんね、清麿。
ゼオンのことをガッシュと清麿に悟らせない、というのがデュフォーとの決めごと。警告自体はゼオンが直接言ってきていたので開示してもいいとは思うも、これ以上の情報を与えるのはまずいと感じた。
清麿の明晰な頭脳であれば……少しは曖昧にぼかしたとしても間違いなくこの情報一つで何かしらゼオンへの糸口へとたどり着くと分かってしまった。
今の所はその敵の情報は送られておらず、幾人かの人間の捜索など、彼にとっては意味の分からない協力要請だけ手伝っては居る。
後々に大きな情報をくれるという言葉を信じるならば、彼らはその大きな敵に対抗するであろう自分達に力を貸してくれるのだ。
まだまだ発展途上のアポロとロップスはそれを失うわけにはいかず、清麿達の為にも同じく。その為には、あの二人との約束を守るのは必須。
ならば、と彼は先手を一つ。
「清麿……」
「ん? なんだアポロ?」
「そのとても強い魔物はね……強くて、厳しくて、そしてきっと、優しい魔物だった」
語る。清麿という人物の心を能力で読み取り、その人となりを少しは知っているからこそ、アポロは彼の心理を逆手に取る。
「その魔物はね、ボクに怒ってたんだ。ロップスの夢と本当の意味で真摯に向き合っていなかったボクのことを見抜いて、彼はロップスの為に怒ってた。
そんな他人のことに怒れるような子がわざわざ警告をくれた……敵対してる相手が憎いとか、そういった感情は感じられなかったから、きっとその魔物はボク達への気遣いから教えてくれたんだと思う。一度だってロップスのことをバカにしたりせず、むしろ力の差はあっても対等な相手だって感じで接してて、きっとこんな戦いとかがなかったら仲良く遊んでくれたんじゃないかって思うくらい優しい眼をしてたから」
まだ引っかかっている顔を浮かべている清麿を見て、もうひと押しと情報を重ねた。
「ただ偶然出会っただけのロップスに対して其処まで親切にしてくれたってことは、多分ボク達と清麿達だけじゃなくて、他の魔物達に対しても情報を与えたいのかもしれないね」
そこまで言って漸く、ふむ、と清麿は顎に指を当てて別の思考へとシフトした。
あの時の状況を出すことで他の魔物に対しての可能性を示せば、清麿ならば自分達が特別という思考だけには囚われないと考えた。
ただ、まだ予想外は続く。
「そんな無条件で他人を助けるなんて、ガッシュみたいな変な魔物が他にも居たのね」
ほっと一息をついたのも束の間。唐突に投げられた予期しない言葉。
ティオが語った一言に、アポロはまずいと肩をびくつかせる。
ティオは以前、ガッシュによって救われた過去を持つ。
仲良くしていた魔物からの裏切りは彼女にとっての嫌な思い出だ。彼女も初めは魔物同士は出会えば必ず争わなければと思っていた一人。
しかし本を持つモノ同士は誰であれ戦わなければならないはずなのに、その常識をあっさりと崩したガッシュと清麿に出会って彼女は変わった。
優しい魔物だと言うわけではなく、ティオが直感的にガッシュみたいと感じたからそう言ったのだろう。
アポロからの話を聞いてそう思ったのなら……ティオは本質を見抜いたのかもしれない。
女の勘はどの世界でも鋭いらしい。
清麿の思考はティオの発言も取り入れてしまうだろう。
なら、きっと辿り着くのは時間の問題だ。
早鐘を打つ心臓を誤魔化すように笑みを浮かべてどうにか躱そうとした時……隣から、今度は予想外の援護が来た。
「ウヌ! とてもいい魔物なのだな! その者は! だって手強い相手が来るからと、わたし達のことを心配して教えてくれたのだろう!?」
キラキラと光る眼差しを向けるガッシュ。瞳に浮かぶのは期待と嬉しさと歓喜の色。
「聞いたか清麿! 強くて、優しくて、戦いのことなど気にせず誰かのことを考えて動くことの出来る、誰かを助けようという心を持っておる、強くとも威張らずに誰かの為にと手を差し伸べられる……そんな者もこの戦いにはちゃんと居た!」
ぽかんと口を開ける三人の前で、腰に手を当てたガッシュは花開くような笑顔を清麿に向けた。
「きっとその者も、わたしと同じで“優しい王様”を目指しているに違いないのだ!」
ガッシュの目指すモノが何であるのかをよく知る清麿は、琥珀の輝きを向けられて……ニッと、力強く笑った。
「おう、そうだな。わざわざ情報を教えてくれるようなヤツなんだ。アポロが言う通り、そいつは優しいヤツで間違いないな」
「ふふふふふ、きっとティオやウォンレイやウマゴンのように友達になれるぞ! アポロ! その者はどんな魔物であったのだ!? カマキリジョーのようなカッコイイヒーローなのか!?」
「いや、さすがにあんなカマキリみたいなヤツはいねぇだろ」
期待に膨らむ感情が溢れている心を向けられて、アポロの胸が僅かに痛む。
「そうだなぁ……」
単純に見た目を答えるわけにもいかずどう答えたものか。思案しているとロップスが嬉しそうにガッシュの前に立った。
「かう!」
ビシリ、と拳を突き出す。
むむむと唸りながらガッシュは首を捻った。
「急にどうしたのだロップス?」
「……かう」
構わずに、トン、とガッシュの胸に拳を当てた。
言葉を話せない彼の心は、アポロでさえ全ては理解できない。
だが、その行動の意味は分かった。
「ははは、ロップスはガッシュとその子の“想い”が似てるって言いたいんじゃないかな?」
「想いが……?」
「似てる……?」
ティオと清麿の声に頷く。
「かう!」
「うん、そうだね。ボクから一つ教えるとしたら、その子はヒト型の魔物ってことぐらいだね。これ以上はその子に会った時に確かめてみたらいい。楽しみにするのも悪くないんじゃないかい?」
曖昧に誤魔化してみると、少し唸ったガッシュはすぐに顔を綻ばせる。
「ウヌ! そうするのだ! 会うのが楽しみなのだ! のう、清麿!」
「ああ、オレもそいつがどんなヤツなのか興味が出てきた。とは言っても……強くならなきゃブラゴの時みたいに相手にすらされなさそうだけど」
「うっ……ブラゴにだって今度は負けないのだ! その為にティオとも特訓をしているのだぞ!」
「ブ、ブラゴ!? え、あんたブラゴとも戦ったの!? 聞いてないんだけど!」
「ヌ? 言わなかったかの?」
「とぉっても強い魔物なのよ!? なんで無事なのよ!」
「いや、ティオ。直接的に戦ってはいない。アポロみたいに見逃されたんだ」
漸く話が別に逸れたことで、アポロは安堵しつつロップスを撫でやった。
ありがとう、と小声で伝えれば、嬉しそうに笑い返してくれた。
「それは興味深いな。今度はそっちの話を教えてくれるかい?」
今度は清麿とガッシュの話へと誘導して、話を聞きながらアポロは心の中でつぶやいた。
―――ボクがこうしてヒントを渡せば、いつか清麿とガッシュは確実にキミ達に辿り着く。それでもいいって言ってたのは……絶対に逃げ切る自信があるからっていうのと
感情を読み取れるという特殊な能力で読み取ってしまった一人の兄の悲哀から、予測を一つ。
―――見つけてほしい、会いたいっていうゼオンの気持ちを一番に理解してるデュフォーが向けた……少しでも弟が兄のことを意識出来るようにっていう、そんな気遣い……か。
思い至って。
尚のこと彼らの邪魔は出来ないな、と。
自分から直接ばれるようなことがないようにしないと、と。
アポロは更に気を引き締めてこれからに備えることにした。
読んで頂きありがとうございます。
今回は原作と時期がずれたアポロとの再会を。
清麿くんなら情報を手に入れ続ければいずれ絶対にゼオンくんに辿り着きますが今回は見送り。
原作でもなぞなぞ博士やアース等の情報を持っている相手にゼオンくんの情報を尋ねたりはしなかったので、この物語でも積極的にガッシュくんの記憶関連の情報を集めようという思考には現時点ではシフトしない、という風に考えて頂けるとありがたいです。
次回、ゾフィスくん。
これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
下記のうちでゼオンが興味を示しそうな石版はどれですか
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二本の角のある人型魔物の石版
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清麿くんが変なことした魔物の石版
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美しく華麗な勝利を示す『V』