もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


△Infomation△

アンケートのご協力により、千年前の魔物編に於いて次の√が却下されます。

・月の少女共闘√(Nomal)
・華麗なるVとの勝利のメロンティータイム√(Hard)

次の√が採用されました。

・星の使徒バトル√(Very hard)


第二十五話:銀の張るイト

 

 ゼオン・ベルという少年には、魔界の王を決める戦いに参加するにあたって“自分の敵と定めた存在”が三つある。

 

 一つは言うまでもなく、最終目標にして最大の憎悪を持っている相手、弟と己に生まれてから地獄を味わわせ続けてきた存在……自らの父であり現魔界の王である“ダウワン・ベル”。

 

 もう一つは直接的な影響を与えられたわけではないが、己に掛けられている呪いの情報を唯一知っているであろう魔物。最愛の弟と二人で成長してこの戦いを共に乗り越えるという未来を、幸福な人間界での暮らしという希望を容易く打ち砕いた一族からの参戦者……守り人の一族の“リオウ”。

 

 そして最後の一つ。

 最愛の弟の記憶を消し、あまつさえ別の人格を植え付けて小間使いにしようなどというあまりにも卑劣にして邪悪な行いをしようとした一族からの参加者……千年前の魔物の救出を任されていた爆発の一族の子、ゾフィス。

 

 漸くだ。やっとゼオンはその三つの内一つと相対することが出来る。彼の機嫌はここ数日でも一番といっていいほどに良くとも、内心には沸々と怒りなどの感情が煮詰められているのは言うまでもない。

 面と向かって会ったら即座に消し炭にしかねない……とまでは言わないが、相応の感情を孕んだ彼の心中に理解を置いているデュフォーは、話を聞いた後に少しばかりの“八つ当たり”の可能性まであるやもと危惧していた。

 

 ただ話をするだけ。それがゼオンに許されたゾフィスとの邂逅での行動制限ではある。

 

 千年前の魔物を石版からどうやって復活させるのか。水晶に込められた記憶をどうすればガッシュへと戻せるのか。その二点を話すことが主にゼオンのすべきこと。

 

 しかし、シェリーから聞いた話を思い返せば、そしてこれから齎されるであろう人間達への仕打ちを考えれば……ゼオンがゾフィスに対してなんらかの枷を仕掛けることもあり得た。

 

 何処でゼオンに釘を刺そうかと考えているうちに答えを出す者(アンサートーカー)によって毎日の定期確認を行っていた中でゾフィス側に動きがあり、出立は明日がいいと“答え”が出てからのこと。

 他の頼み事で動いていたレインとカイルを呼び寄せて今後の動きについて打ち合わせを行いながらがベストだとして、此処で話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちが例の魔物(・・・・)とコンタクトを取ってすぐにゼオンが迎えに来るもんだから驚いたが……そうか、ついにか」

 

 応接間の内部に置かれた円卓にて、ヒト型になっているレインは座ると同時に声を掛けた。

 何を言わずともデュフォーの方をちらりと見て直ぐに察するあたり、レインはいつ来てもいいように心構えをしていたらしい。

 

「上手くいったのか?」

「微妙なところだな。まあ、オレのことは一応知っていたみたいだから話を聞いてくれた。ただ……」

 

 言葉が濁される。続きは自分がと、カイルが口を開いた。

 

「あの子は……ボクと同じだ」

 

 俯きつつ放たれた言葉に、ゼオンとデュフォーは聞き入る。

 

「戦いが怖くて、でも大切な人は戦いに行く……やっと出会えたから離れることもイヤだ、大切な人が傷つくのもイヤだ。自分には何もできないからイヤだ。それでも、どうしたらいいか分からない。そうして日々を過ごしてる。まるであの時のボクみたいに」

 

 カイル自身とほぼ同じ境遇の相手に対しての気持ちの吐露。乗り越えたからこそ分かると、そういっていた。

 

「だから、ボクとレインの選択は……不干渉。あの子はあの子自身で決めないとダメだと思う。レインっていう大きな力が傍に居るって分かったらきっと安心してしまうし、あの子がダメになっちゃう。それにきっとそうしないと心が持たない」

 

 ふるふると首を振って告げられた報告を受けて、ゼオンは小さく吐息を漏らす。

 

「残念だ……仕方のないことだな。そもそもこの戦いの理不尽な選出方法が悪い。ほぼ大人のような子供とロップスのような年端もいかない子を戦わせるシステムそのものに問題がある。その魔物もあと数年すれば分別もついただろうに」

「はっ、違いない。パートナーの人間にしても子供から大人から老人まであるんだろ? そのおかげでカイルと出会えたとはいっても……覚悟をしてくれたっても怪我だってするし危ないんだ。思うとこはある」

「ボクもレインと出会えたのは嬉しいけれど……誰かが傷つくのも傷つけるのも本当はイヤだ」

「相変わらず優しいな、お前は」

「魔界の実力主義なとこもカイルみたいな子がもっとたくさん居てくれりゃ少しはマシになるんだがなぁ」

「ああ。その辺りも魔界の改革には必要な部分だ。未だに孤児がいる地域もあるし一族での諍いなど耐えん。教育の改革は必須だろう」

「デュフォー、ゼオンがこうして小難しい話に持ってくのカイルと居る時の変なクセになってんな。これも勉強の一環か?」

「こうやって口にすることで記憶の片隅に残る。そうすれば為政者として土地を治めているとき、ふとした時にゼオンもカイルも思い出していい案が浮かぶこともあるだろう」

「へぇ、そうなのか」

「……頑張る」

「全てを覚えようとしなくていい。聞き流しているだけでも記憶には残っている。さて話を戻すが……つまり例の魔物(・・・・)との協力関係はなしの方向でいいということだな? 秘密裏に鍛えることも?」

 

 脱線した話を戻して尋ねるとコクリと頷いたレインとカイル。

 

「うん、彼自身が変わらないとダメだから、ボク達はもう関わらない。別れを告げる時、一瞬だけあの子が寂しそうな眼をしたよ。ボク達と少しの時間でもこっちに来て訓練をしないか誘っても彼の傍にいることを選んだのはあの子だけど……きっとレインにも一緒に居てほしかったんだろうね」

「強い敵や悪い奴らが来るってことを教えた時も、助けてくれないのかって感情を向けてたな。こっちでしばらくすることがあるから関われないと言うと落ち込んでた」

 

 レイン自身も助けにいきたい気持ちを抑えて語っていたのだろうと、すぐに予測できる言い方。

 

―――ガッシュ達が他の魔物と戦っている間にパムーンとデモルトを相手にする機会が出てくるとしても、レインとカイルの戦いでは目立ちすぎる……役割上、敵の本拠地へ向かわせることは出来ない。

 

 本当ならデュフォーとゼオンは今回の千年前の魔物との戦いが本格化した場合、彼とカイルにもなんらかの策を以ってガッシュの影のサポートをしてもらう予定だったのだ。

 それも敵の持つ戦力と敵本拠地の都合上、レインの攻撃術では威力が高すぎるがそれを使わねば負ける可能性さえあると答えが出たのだ。故にゼオンとデュフォーが直接的に影でのサポートをしなければならないとして断念した。

 ただ、と続けた。

 

「せめてあいつの心が少しでも強くなれるように、想いは託しておいた」

 

 自分の胸を一つ叩いて、レインが言う。

 

「オレの分まで任せる、親友を頼んだってな」

 

 ニッと笑ってゼオンを見た。

 

「まだ戦いは怖いかもしれないけど性根の所には強い想いがあった。安心しろゼオン。目を見てきたから分かる。ガッシュのトモダチだし、あいつはきっと……やるヤツだぜ」

 

 自信を持って語る彼の声。じぃっと瞳を合わせたゼオンが緩く吐息を落とし込む。

 

「ふん、いいだろう。お前が其処まで言うなら予定は第二プランに変更することもありだ。そうなると……お前とカイルの二人が背負うモノも大きくなるが?」

 

 紫電が射抜く。圧の強さに圧されそうになるも、レインは挑戦的に思える光を宿して返した。

 

「おう。どんと来いだ。元から承知の上よ。オレ達の代わりに今回お前はガッシュのことに集中すればいい」

「ゼオン……ボクもレインも言ったはずだよ、キミの力になるって。それに乗り越えなくちゃならないのはボク達も同じだから」

 

 トモダチだからねと、二人は言う。

 

 すっと目を細めたデュフォーが、二人に向けてコクリと頷いた。

 

「分かった。いいか、ゼオン?」

 

 それぞれが語らいながらも、あくまで最終決断を下すのはゼオン。それがこの数か月で出来た彼らの在り方。

 多数の意見を纏め、一人が決する。縮小された国の在り方そのもの。

 

「ああ。では第二プランに移行する。出立から連絡を取り合うとはいっても、再び出会うのは互いに最低限の目的を達成してからとなる」

 

 宣言と共に、デュフォーが机に地図を広げた。

 ペンで丸を付けた個所は三つ。

 

 それの一つをゼオンが、残りをレインとカイルが指差した。

 

「オレとデュフォーはゾフィスとの邂逅を済ませた後、南北アメリカ大陸の各地へと拠点を作りつつその大陸に拠点を持つ魔物と交流を持ってみる。“ゾフィスとの戦いの後の為の行動”を行いつつアポロ達との連携を以ってガッシュのサポートを行う。そして……こちらの第一交渉対象は、ヒヒイロの鱗を持つ竜族の神童の一人“アシュロン”」

 

「オレとカイルはデュフォーと定期連絡を行いつつ極力魔物との戦闘を行って経験値を増やしてこっちの大陸で旅をする。話をした上で戦い、本を燃やすかは相手によって決める。戦闘を避ける相手は黒の魔物ブラゴと守り人の一族リオウ。第一優先の交渉対象は……翡翠の鱗を持つ竜族の神童の一人“エルザドル”。次点で北の荒くれ者“バリー”」

 

 第二プランにおいて、ゾフィス関連とバオウ対策、そして新たな同志集めを同時並行で進めていくことを決めている彼らは、それぞれが個別で強大な相手に挑むことになる。厳しい戦いとなることはデュフォーによって予測され、それぞれも魔界の記憶からその魔物達のことを知っているからと油断も慢心も持っていない。

 それでも自分達の実力が劣っているなどとは思っておらず……互いに口角を釣り上げた。

 

「くく、勝算はデュフォーの計算上でも五分を切っているぞ」

「どのみちいつかは戦うんだ。お前と訓練してると言ってもあのバカ強ぇ竜族と戦うならいつだろうと覚悟決めなきゃならねぇさ。お前の方こそそっちでヘマしてガッシュのこと疎かにすんじゃねぇぞ」

「誰にモノを言っている? このゼオンがデュフォーと共に戦えば誰であろうと負けることなど有り得ん。美味い土産でも買って先に待っててやるから精々上手くやって帰ってからの楽しみにしていろ」

「ぬかせ、バカ。オレ達の方が先に終わらせて待っててやるよ。どうせならお前の度肝を抜くような結果にしてやらぁ。帰って来たら模擬戦での連敗もストップさせて貰うぜ」

 

 楽し気に言い合う二人を見ながらニコニコと笑顔を浮かべるカイル。デュフォーはやれやれと首を振って呆れの吐息を落とす。

 

「勝てよレイン、カイル」

「お前らもな、ゼオン、デュフォー」

 

 拳を合わせて、いつものように。

 信頼から生まれる絆が繋がった魔物二人は綺麗に笑う。

 

 ゼオンの様子を見て、ゾフィスを前にしての感情の暴走などはないかもしれないと予測を立てたが、万一の為を考えてデュフォーは常にイトを張る。

 

―――カイルとレインの居る前で約束させれば縛りの一つにもなるだろう。

 

 此の時でいいか、と唐突に席を立った。

 

「……どうした、デュフォー?」

 

 足元に於いていた紙袋を机に置き、彼は疑問に眉を寄せるゼオンを見た。

 カイルとレインも不思議そうにその行動を見ていた。

 

「一応だがゼオン。ゾフィスとの邂逅時、お前はそいつを前にして冷静を保てるか? ここ最近の成長があっても、お前はガッシュのこととなるとアレだからな」

「……ああ、大丈夫だ」

 

 一寸だけ迷ったゼオンが、それでもと胸にある感情を抑えて言い切った。

 

―――やはり……何かしら自分でも抑えきれるか不安な部分もあるんだな。

 

 デュフォーはそのゼオン自身が抑えきれないと考えている迷いを断つ為に。止まることなく、言葉を並べていく。

 

「他者の心を操る。他人の記憶に偽りを挟み込む。他人の感情を意図的に染め上げる。貪欲にして悪辣、計算高く臆病で卑劣。そんな相手が目の前に来て……その外道さにガッシュを穢されそうになったという事実に、お前自身を抑え込むことが出来るか」

「……出来る」

 

 揺らぐ紫電を覗けば、少なくない大きな感情の渦が見て取れる。

 

 ぽつりと、デュフォーが言い放つ。

 

「少しでも迷うようではダメだ。ガッシュのことを思うのならなおさらのこと。だから……“ゼオンはゾフィスと会わせない”」

「……なんだと?」

「どういうこと?」

「……何を言ってる?」

 

 唐突にデュフォーから言われた話に三人共が付いていけない。

 今になって何故と、彼らは思う。

 

 言い方が悪かったなと頬を掻いたデュフォーは……机の上の紙袋をひっくり返した。

 

「……千年前の魔物の石版の動きや過去に人間界で起きた魔物の戦いについて等を調べていく内に、“最近Dに加入したとある人物”とシェリーからの情報をすり合わせて分かったが、ガッシュの見た目は有名でも、どうやらゼオンの見た目についてほぼ全ての魔物が知らないようだ。

 だからな、ガッシュと瓜二つのゼオンが事前に会いに行くことに問題があると答えが出た。これは答えを出す者(アンサートーカー)を使って“ゼオンがゾフィスと会った場合のガッシュへの影響”というモノを問いかけしていなかったオレのミスだ。一応、それについての解答は出している。

 ゼオンが感情を抑えられずにゾフィスへと何らかの縛りを与える可能性を回避するにはどうすれば、と問いかけたことで出た副産物の解答でもあるのだが……これが最善だと判断した」

 

 机の上に落ちたモノを見て、三者共に思考が止まる。

 

 デュフォーは構わずに言葉を続けていった。

 

「要はゾフィスにゼオンとガッシュの繋がりを感じさせないためだ。こういうモノはオレでは分からないから、シェリーに相談して見繕って貰った。仮面で隠すことでどうにかなるかとも考えていたんだが、その程度の変装でゼオン本人が出ていってしまっては、王族としての“雷のベル”の印象をガッシュに対しても繋げてしまうからこれくらい本格的な方がいいだろう」

 

 あくまで効率と対策の為だと語るデュフォーの言葉からは、決して……そう、決して冗談を言っているのではないと分かるのだ。

 だが、机の上に広がっているモノを見た三人は、肩を震わせ始める。

 

「くっ……くく」

「ふふ……ほ、ほんとにコレを……ふふっ……するの?」

 

 レインとカイルの二人の震えは、どうにか噴出さないようにとする我慢から。

 

 当然だと頷いたデュフォーは耳まで真っ赤にして震えているゼオンに向けて、無慈悲にも言い放った。

 

「ガッシュの為ならばゼオンは必ずしてくれると信じている。雷の術を使うことも抑えて己を“雷のベル”と悟らせることなく、必ずゾフィスとの邂逅を円満に終わらせてくれることだろう」

 

 

―――その言い方は……ずるいぞ、デュフォー。

 

 わなわなと震える彼の掌は布地を掴んでいて……机の上に置かれたそれらを今にも引き裂きたいと思っているのだろう。

 彼の明晰な頭脳でも、他にいい案が思い浮かばない為にデュフォーの提案を呑むしかないと気付いてしまった。

 

「これも……ガッシュのため……ガッシュのためなんだ。だから仕方ないんだ。デュフォーの答えに間違いはない。いやしかし……だが兄としてこれは……こんな姿を見られては……オレの威厳が……だ、大丈夫……絶対に姿を現さなければ……いやガッシュが窮地になった時に助けに入るとしても通常の姿では本末転倒……とはいえ、こ、この姿で助けに入ることも……」

 

 しばらくぶつぶつと呟いていた。

 漸く覚悟を決めたらしく。睨み上げてくる紫電はこれでもかと怒りと羞恥を浮かべている。

 

「い、いいだろう……けれどこれっきり……この一回きりだ」

 

 屈辱からか少しだけ涙目になりながらも同意を示したゼオンが腕を振り上げて、手に持っていたソレを机に叩きつける。

 

 もう抑えきれないというように、カイルとレインは腹を抱えて笑い出した。

 

「あはははは! 随分と可愛らしくなりそうじゃないか! ええ、ゼオン!」

「ふふふ……ご、ごめんね。でも……それを着たキミを想像したら……ごめんね」

 

 机の上には……

 

「よし。じゃあゾフィスと話している時のお前は雷帝ゼオンから指示を受けて千年前の魔物の復活を調べている魔物として動いて貰う。名は―――」

 

 

 可愛らしい女の子用の衣服と帽子やウィッグ、そしてカラーコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカのとある廃れた坑道にて、ゾフィスは自身の元に集まった石版を並べて、仮面の下で満足げに微笑んでいた。

 ビョンコというカエル型の魔物を仲間に引き入れて手足として動いてもらい、長年の研究によって開発された“ゴーレンの魔力を捜索する機材”と“魔本同士が引き合う性質”によって千年前の魔物の石版を集め終わった所である。

 次は、と己の計画に想いを馳せる。

 ビョンコと共に中間管理職として働かせる魔物を見つけ、石版の魔物達を復活させてそれらのパートナーとなる人間達を見つける作業へと移行するステージへと進んでいる。

 丁度今はその千年前の魔物達を纏める将の役割を果たす魔物をスカウトに向かわせた。

 

「一番欲しい人材としては……魔界の中でも有力な貴族達、そのうちの一人娘であるパティ嬢……彼女であれば部下や下々の者達への扱いにはある程度長けているでしょうから、私の計画には大いに役に立ってくれることでしょう」

 

 彼が一番に選んだ魔物の名はパティ。

 魔界貴族の一人娘であり、ゾフィスにとって与しやすい程度の頭脳と能力を持っている魔物であった。

 ゾフィスが単体で勝てて、彼より頭脳明晰でもない。そして何よりも“執着しているモノがある”という一点。言うなれば扱うのに丁度いい相手なのだ。

 

「落ちこぼれのガッシュ・ベルにご執心とのことですし、そういった“欲望”を持つ相手こそ従えやすい。この戦力を見せつけて勝てないことを理解させ、ガッシュの本を燃やさないという約束を取り付けてやれば協力関係にあると錯覚させ、部下であるという意識を持たせないで扱えるよう方向性も持たせられることでしょう」

 

 くつくつと喉を鳴らして石版の一つを持った。

 封じられている魔物は椅子に座ったカタチをしていた。

 

「星の使徒パムーン、ベルギム・E・O、棍の極致ツァオロン、狂戦士デモルト……過去の戦いの情報にあった千年前の筆頭候補が四体もいる。さすがに竜族の戦士は居ませんでしたが、これならば厄介なブラゴや竜族の神童達相手でも十分に勝算は出てくる」

 

 ゾフィスは己の実力を間違わない。

 磨いているのは当然のことであるが、自分より上の化け物達が居ることもしっかりと理解していて、そういった化け物達を倒して王となる為にはどうすればいいかといつでも思考を回してきていた。

 自分だけでは勝てない、と彼は計算した上で答えを出した。それは彼の一族全てが出した答えでもある。

 

 王から受けている千年前の魔物達の救済という勅命。それを利用した今回の策は一族の悲願であり、ゾフィスにとってたった一つの王への“(ロード)”。

 心理操作と心理掌握といった特殊な術を扱える自分達の一族にしか出来ない策を用いて、己は王となるのだと心を決めてこの戦いに参加している。

 

 彼は他者を信じない。

 心を操作するというその特異性を持つ彼らは、悪意という感情をいつでも傍に置いてきた。

 他者の心の醜さをよく理解しているからこそ、彼はビジネスとしての契約を他者に求め、報酬と結果で関係を築いていくのが一族として通常のこととなっている。

 王となってしまえば後はどうとでもなる。なる為にどうするか。他者を使えばいい。王からの勅命に応えた上で、それを利用すればいい。

 報酬は与えて満足させて見せよう。彼らに報酬を与える代わりに……自分には王という結果を齎して貰おう。そう、考えた。

 

 この魔界の王を決める戦いに参加することを知った時には既に、彼はこの計画を一族と共に煮詰め始めていた。

 事前情報を集めるのが戦の常であり、行動を起こすのは速ければ早いほうがいい。

 

 魔界学校に通いながら、そして研究を手伝いながら……明晰な頭脳と一族の中でも優れた心理掌握能力を持つ彼は、人間界に旅立つ頃にはこの計画を実行可能なモノとした。

 

 彼には他者の気持ちは分からない。心理を理解することは出来ていても、操ることが出来るとしても……彼は他者の気持ちは分からない。

 悪意を見て、悪意と共に過ごしてきた彼は、この戦いで王になる為ならば他者を利用することなど当然だと……竜族のような強者になれない自分ならば、何かを利用して王への道を歩むのは当たり前のことだと、そう考えている。

 更には、他者の心の醜さを引き出して突き落とすことにも愉悦を感じる彼の性根も、そういったバックボーンから生まれたことなのかもしれない。

 

 だからこそ彼は……他者を思いやり、利用することを嫌う……ココという人間と理解しあうことは出来なかった。

 

 人間とパートナーになって共に戦う今回の戦いに於いて、彼はパートナーという一番重要な要素で躓いた。

 だから彼は……己のパートナーに自分好みの悪しき性格を植え付けて、己を肯定してくれるパートナーを創り上げた。

 悪意を自らで増幅させ、悪意を好み、悪意を受け入れて、誰であれ悪を持っていて当然としている理想のパートナーを。

 

 創り上げたパートナーから向けられる肯定は……とても心地よいモノだった。

 

 臆病な彼にとって、自分を肯定してくれる存在というのは得難いモノだ。

 悪意と共に過ごしてきた彼にとって、何も心配せずとも共に居れる相手というのは初めてのモノだった。

 

 臆病だからこそ、彼は聡く、聡明である。

 しかし臆病だったから、彼は誰とも心を通わせたことなく、ビジネスの関係しか築いてきておらず……独りだった。

 

 彼は今のところ気づいていない。

 彼はその人間のパートナーとの時間をどう思っているかも気づいていない。

 自分の心にさえ気づききれない。

 

 もしかしたら……彼が幼い頃に心優しい誰かや、厳しくも優しい誰かと知り合っていれば……こうして独りで大きな計画を立てることなく、軍師のような立場として誰かと手を組み、強敵に向かい合う姿が見れたのかもしれない。

 

 現実は一つ。そんなもしもは有り得ない。

 

 

 

 

 

 

 坑道に、ほんの僅かに変化があった。

 ゾフィスは……石版を持ったままで固まった。

 

「……どなたです?」

 

 焦りと困惑に支配されている心をどうにか捻じ伏せて平静を装った言の葉。

 後ろを振り向くことなく放った言は、二つの気配へと向けられていた。

 何者か、と問いつつも威圧することなく。まるで客人か何かに問うように。

 

 精一杯の見栄っ張りだったのかもしれない。本来なら攻撃されていてもおかしくない状況。しかしゾフィスのソレは……成功した。

 

「姑息な手を使おうという輩にしては……最低限は肝が据わっているらしい」

 

 すぐさまの奇襲を受けることなく。

 振り向いた其処には幼い少女と一人の青年が居た。

 白い帽子、艶のある黒髪、ふわふわとした白のマントの下には落ち着いた感じを表したスカート。首からは“獣のようなナニカの爪と牙のネックレス”。両目の翡翠がじっとゾフィスを見据えていた。

 

「王から勅命を受けし一族の者だな?」

 

 彼の質問には答えずに綴られる言葉に、少しだけ不機嫌になったゾフィスはため息を落とした。

 

「……相手に名前を聞く時はまず己から名乗るべきでは?」

「礼を払う程の相手ならばそうしよう。しかし貴様に払う礼など―――うぁ」

 

 ズビシ、と。彼女の頭に人間からチョップが落とされる。

 翡翠で恨めし気に睨んだ先、青年が代わりにと口を開いた。

 

「オレは“D”、こいつの名は……“リエム”」

 

 名乗りを受け、すっと、仮面の下でゾフィスの目が細まった。

 

「……おやおや? 人間の裏社会に蔓延しつつある“D”と呼ばれる集合体の一人ですか……それに“リエム”……そんな名の魔物はこの戦いの参加者の中にいなかったと思いますが?」

「そうだな。こいつもオレもお前も、名前を偽ってでもすべきコトがある身だ。それくらいは許すべきじゃないか、“ロード”?」

 

 記憶力も悪くないゾフィスは参加者の名を覚えていたから、彼女の名が偽名だと看破した。

 しかしカウンターで、まだ名乗っても居ない自身の偽りの名を口に出されて、情報を知られていることを理解する。

 

 どれだけの情報を相手が持っているか分からないというのは、それだけでゾフィスにとって最大限の警戒に値することだ。

 それを示して見せた相手にこれ以上追及することは封じられたと言えよう。

 

 何よりもその……人間の目。無感情に、そして無関心の極限ともいうべきなその目が……ゾフィスの心に一筋の恐れを刻んだ。

 

「まあいいでしょう。そうですね。では私もロードと名乗っておきましょう。わざわざこんな隠れた坑道まで出向いてくださった客人なのですから……お茶くらいはお出ししましょうか」

「……必要ない」

 

 翡翠の瞳を持つ少女が言う。

 目は口ほどにものを語る。それをよく知るゾフィスは合わせた瞳から感情を引き出そうとするも……先ほどのような嫌悪感を濃くした色ではなく、静かに揺蕩う波のように凪いだ心しか見えなかった。

 一瞬で切り替わった少女の性質。なるほど、とゾフィスは薄く笑う。

 

「ふふふ……先ほどの嫌悪があったということは、私の一族が魔界で貴女に何かしてしまいましたか? それとも私自身でしょうかねぇ」

「ああ、そうだ。それについては後で聞くとしよう」

 

 神経を逆なでするようにわざと撫でるような声を出すも、やはり彼女の感情はもう動かないようだった。

 

―――切り替えてしまえば精神性は揺らがない、と。厄介ですね。魔力量は……見える限りでは一般的な魔物クラスを少し超える。秘めたる力があるとすれば私と同等、というところか。“魔力の質は魔獣型に近い”ようですが……

 

 研究者であるから、彼の分析能力は高い。魔物達の研究もしてきている為、総魔力量やその魔物が持つ限界値をある程度正確に逆算したりも出来る―――彼女の隣に居る人間が策を仕掛けて居なければ、だが。

 

―――それよりも問題は二つ。一つはあのネックレス。あの魔物の周りを漂うように魔力を発している……一族か何かに伝わる貴重品の類でしょう。そしてもう一つ……あのマントとブローチ。確か王族や貴族等の一部の魔力タイプが好んで使うモノ。金銭的な大きな余裕と職人とのつながりがなければ、一介の魔物の一族程度では手に入れることも困難なはず。

 

 服装は人間界のモノでありながら、ネックレス、マントとブローチが魔界のモノだと看破した。しかもそれがどういった貴重品かも、彼は分析することが出来た。

 警戒から、彼は目の前の人物が魔界でも有力な部類だと辺りを付ける。

 

―――人物の特定は後でも出来る。なら質問をするべきか。

 

 今はいい、と思考を切り替える。

 手に持っていた石版を地面に置き、くるりと身体を彼女達に向けた。

 

「その口ぶり……つまり貴女は私に何かを聞きに来たと? とはいっても大体予想はついていますがね」

 

 自分と面識がない人物が戦い以外の目的で尋ねてくるというのなら、その理由は一つしかない。

 大仰に手を広げて見せたゾフィスは、クスクスと小さく笑って言葉を並べた。

 

「王族よりの使者、なのでしょう? 魔界の王であるダウワン・ベル様からの依頼によって私たち一族は千年に渡ってあの御方の悲願を叶えようと研究を続けてきたのですから。

 千年もの時を石となって過ごしてきた悲劇の子供達。ゴーレンという突然変異個体の放つ術にてこの戦いのシステムから外れ、魔界の王以外の全ての者に忘れられた哀しき魔物達。ええ……ええ、分かっていますとも」

 

 芝居がかった言い方をしながらゾフィスは顎に指を当てる。どうにか少しでも情報を集めようと、彼は会話を引き延ばすことにしたのだ。

 

「この者達を私達一族が復活させることは出来るのかと、貴女はそれを尋ねに来た。王からの勅命の進捗の確認、そして結果を示せと、そうおっしゃるのでしょう?」

 

 もったいぶった言い方に、目の前の少女は舌打ちを一つ落とす。

 

「ちっ……小賢しいヤツだな、お前」

 

 ビシリ、とその場の空気が変わった。

 

「茶番はいい。遅延だと分かっている。こちらの情報を引き出そうなどという浅ましい考えはやめておけ」

 

 静かに、冷たく……魔力ではない何かが溢れる。ゾフィスは翡翠の奥に違う色の輝きを幻視する。

 

「お前はただ答えればいい。こちらは“答え合わせ”をしに来たに過ぎんのだから……まあ、“雷帝”を敵に回す覚悟があるのなら好きにすればいい」

 

 魔力は変わらないのに与えられる圧は尋常ではなく。

 同時に彼女の口から零れた名を聞いてゾフィスの呼吸器がひゅっと音を立てた。彼の精神と肉体に掛かる圧はそれ以上の呼吸を禁じるほど。

 

 殺気、ではない。敵意、でもない。ただの少女が持つにはあまりにも異質なその圧力にゾフィスは膝を付きそうになった。

 格上から与えられる有無を言わさぬ重圧。大人の魔物でもないただの少女から感じるソレは、ゾフィスの経験したことのないモノ。

 

 それはまるで……強くとも覚悟を持っていない魔物が、絶対の覚悟の元に戦うただの人間の一睨みで拳を止めてしまうように。

 ゾフィスは指先一つ動かせない。

 

「……これより後、嘘と偽りの全てを禁ずる。千年の絶望を解決することこそ貴様の使命。魔界の王、ダウワン・ベルの名に於いて命じられし責務を果たせ」

 

 翡翠から目を離せない。

 キラキラと内に光る輝きは、翡翠を濃く染め上げる何かの色。

 吸い込まれそうだった。彼女の瞳と纏う空気に。

 膝を自然に付き、頭を垂れてもおかしくないと錯覚してしまう程に、彼女から感じる重圧は高貴にして圧倒的。

 

「お前達一族のことを王族は評価しているんだ。長きに渡り叛意を持たず忠誠を示してきた事実は揺るがない。安心して答えるがいい」

 

 少しだけ緩んだ圧に、やっと呼吸が出来るようになったゾフィスは肩で息をする。

 

「……わ、私達は」

 

 途切れる言葉。

 正直に言うしかないと、彼の本能が告げていた。

 

「私達一族は……今はもう消滅したゴーレンの術のあらゆる情報を王から与えられ、何千という仮説を立てた中でもより確実性のある数個の方法を行う為に機材を持ってこちらへと転移して、数か月の試行と研究の後に、千年前の魔物を石版から解放する方法を発見致しました」

 

「ふむ……なるほど。千年の時を費やして、ついに悲願を果たせたというわけか。お前達の一族のその頭脳と能力と努力、まさに称賛に値する。ご苦労だった」

 

 尊大な態度からも見て取れる気高さのある彼女の気。褒められているというのに、安心が来ることはなかった。真っ直ぐに見てくる瞳がゾフィスには恐ろしい。今すぐにでも逃げ出したいとそう思う。

 正直に話すしかなかった。戦ってはならないと、彼は思う。余りにも異質な少女と……そして、彼女の後ろにいるであろう存在が、ゾフィスにとっては恐ろしかった。

 

―――此処まで、なのか。

 

 自分の計画が王族の後継にバレている。復活させて、準備を全て整えて、現代の魔物達の全てを殲滅するという計画を立てていたというのに……その全てがこの少女が現れたことによって台無しとなる。

 王族からの使者であり、魔界の王子である雷帝と知り合いともなれば、ほぼ確実にこの情報があちらに伝わり、千年前の魔物達は復活後魔界に返されることになる。

 

 現代の魔界の王を決める戦いには千年前の魔物達は必要ない。要らない手間を増やすよりも、王の勅命を全うさせるのが最効率だと少女も雷帝も思うだろう。

 自分の企みなど看破した上で、相手は理不尽ともいえる能力を以って自分をも敗北させに来る……そうゾフィスは思った。

 

―――ちくしょう……

 

 竜族に対しての勝算すら出てきたというのにこんなあっけなく崩されるのかと、じわりと湧いている恐怖を理解しながらも、己の計画が頓挫しようとしていることに対しての憤りが湧いてきていた。

 これからという時に入った横やり。確かに本来は彼の計画などなく、魔界に返すことこそが当然のことであろうとも、ゾフィスにとっては最悪のことだ。なにせ、彼が王になる為に出来る最高で最後の策であったのだから。

 

―――どうにか……どうにか見逃させることは出来ないか……

 

 思考が巡る。彼の明晰な頭脳が幾多も案を浮かべ続けて……ふと、とある事象に気付く。

 それは生来持つ彼の悪性によってであり、そして彼自身の在り方に因る所でもあった。

 

―――そ、そうか……千年前の魔物達は……今のところオレしか戻せない。ならば……

 

「……しかしながら、まだ設備も時期も整っておらず――」

「いいか、二度目だ。これ以上はない。嘘偽りを禁ずと、そう言ったが?」

 

 しかして見透かされた心。瞳の奥から来る呆れの感情。確信を持って語られる言葉。

 此処から誤魔化そうとすることも愚かだと、彼女はそう言っている。

 ゾフィスはカタカタと歯を噛み鳴らすほどに震えた。彼に逃げ場は、無い。

 

 ため息が一つ。少女から落とされたソレにびくりと震えたゾフィス。もはやこの邂逅での力関係は決定づけられた。

 

「千年前の魔物の復活は今スグにでも出来るな?」

「……はい」

「その方法を説明しろ」

「ゴーレンという魔物の術を解くには、人間界の月の光に似た光を当てれば成されます。私達が研究していたのはゴーレンが石化を解呪する時に使う術を疑似的に作り出すフィルターであり、その光が月の光に酷似していた為、人間界に来たことで完成に至りました」

「ゴーレンの術が解けてから、再び魔物達に何かしらの後遺症はあるか?」

 

 ふと、言葉が止まる。

 ゾフィスにとって予想外の質問であり、考えていた予測はあれど確定的な答えは無いモノ。

 

「其処までは……何せ今回が初めてのことですから。私達の研究の成果としてゴーレンの術による石化物体に対しての反応は確認していても、完全な復活は未だどの魔物にも行っておりませんので分かりません。一時的な石化解除に留まることさえあり得るでしょう」

 

 事実だ。ゾフィスは問題ないとは確信していても、それが確定でないことを理解している。

 

 研究者にとって絶対や完全という思考は無い。

 進歩や進化を求める彼ら研究者にとって、そういった思考は有り得ない。万が一、億が一でも確率があるのなら、それを求めるのが研究者であるのだから。

 

「ふむ……なるほどな」

 

 しばしの沈黙。すっとその少女が自分のパートナーであろう男の方に目を向ける。

 今の今まで微動だにしなかったその男は、目を向けられたことで漸く動きを見せた。

 

 とはいっても、僅かに目を石版に走らせた程度だったが。

 同じようにそれらに目を向けた少女は、ゆるりとゾフィスへと翡翠を戻す。

 

「では此処で一体の石化を解いて貰おうか」

「な……」

 

 絶句。

 思考の空白が起こり、後に焦ったような表情を見せるも少女の翡翠に射抜かれて口が閉じる。

 

「どうせ復活させるのだろう? ならば今、一体を実験として復活させても支障はないな」

「し、しかし……」

 

 言いよどむとすぐに、グッと、その少女がゾフィスへと詰め寄ってきた。

 

「なら……もう一つの尋ね事を先に済まそう。貴様らの一族が王の依頼によって創り上げた記憶操作の水晶のことだ」

 

 目を見開く。知っていることを反応で伝えてしまった。もう逃げられない。

 

「アレに秘密裏に隠されていた効果によって貴様の部下として扱うことになるはずだった魔物が居たらしい。貴様はその情報を知っていたか?」

 

 ギクリと跳ねた肩と、怯えた瞳をその少女は見逃さなかった。

 

「そうか……そうだよなぁ」

「ひっ」

 

 一瞬。一瞬だけその少女の瞳にどす黒い感情が渦巻いたのをゾフィスは見た。

 心を操る魔物だからこそ、その感情がどれほどに大きいモノなのかを彼は理解できる。

 怒り、憎しみ、嫌悪、殺意、侮蔑……あらゆる敵意という敵意を凝縮し濃縮した感情だったが、それが一端でしかないことすら気付いてしまう。

 声に感情が籠っていないからこそ、彼女の秘める大きな感情が瞳以外に表に出て来ないことでこれ以上ない恐怖を覚えた。

 

「質問を続ける。その部下となるはずだった魔物を貴様は知っているか?」

「い、いいえ」

 

 もう戻ってしまった瞳。感情は欠片さえ読み取れない。

 探るような視線の先で、少しだけリズムをずらした足音で男が近づいてくる。

 

「……いいだろう。信じてやる。

 あの水晶は今こちらの手にある。貴様たちの一族が仕掛けたゲスな術は発動することなく“他の魔物の被害はなかった”。王の懸念は解消された。よってあの水晶は無意味と化した。ただいつ誤爆するかも分からない為、あの水晶に掛けられた術の無効化及び術の解除方法を言え」

「あ、あれに関しては私は関わっていないのですよ。なので術の解除や水晶の無効化方法は分かりません」

 

 また沈黙が場を支配する。

 今度は翡翠から感情が漏れることはなく、大きなため息だけを落とした人間の男が先に少女の前に動き出したのを見てから、彼女はやっとゾフィスから離れた。

 

「分かった。信じよう。おい“D”。まだ話が終わってないのに先に進むな」

「これ以上はいいだろう? それよりもオレにとってはこっちの方が興味深い」

「仕方ない。なら、そうだな……復活させる魔物でも選ばせて貰うか」

 

 好奇心が強いのか人間は集められた石版を見て回り始めた。

 

「おい」

 

 まだ緊張感の取れないゾフィスに向けて、少女が振り返りつつ声を掛ける。

 

「貴様の小賢しい策……“雷帝”は捨ておくそうだ」

「ど、どういうことです……?」

 

 目を見開いて尋ね返すと、鼻で笑って返事を返された。

 

「千年前の魔物達を使ってこの戦いを有利に過ごすつもりなんだろう? この戦いに参加しているのだから王になる為に策を弄するのは当然のこと。貴様の代わりにその研究成果を使ってこちらで復活させてもいいが、貴様達の一族は千年も責務を全うしてきたというのにその最後の大仕事を奪うのは余りにも酷なことだ。

 褒美の余興、と“雷帝”は言っている。残存している魔物を効率的かつ早期に片づけられるからというのもあるし、何よりも―――」

 

 ふっと笑った少女の目が、侮蔑と軽蔑を突きつける。

 

「貴様如きの策で負けるなら……どの魔物が魔界の王になっても魔界が滅びてしまうだけだからな」

 

 あまりにも屈辱的な発言にゾフィスは衝撃を受ける。

 

―――ちくしょう……

 

 もう興味はないとばかりに振り向いた少女の背を睨みつけても何もできない。

 今はまだ、彼に出来ることは何もない。敵の情報が少なく、そしてゾフィスの戦力も整っていないのだから。

 此処でこの少女を消してしまえたら……そう考えても、先ほどの圧力と、“雷帝”の脅威を計算して思いとどまらせる。

 

―――こんな……こんな屈辱を受けてオレは……しかしまだあいつも……ブラゴまでも居るというのに……

 

 立ちはだかる壁の多さと大きさを再確認して、彼の心は冷えていく。

 

―――今はまだ(・・・・)雌伏の時……必ずやその心を叩き潰して、余裕を持った顔を絶望に歪めてやる……

 

 心に宿した怒りを持って、彼は石版を選ぶ少女を無感情の瞳で見続ける。

 必ずその少女を屈服させてやると決めながら。

 

 

 

 

 

 彼自身に宿った憤りすら、星の力を宿した人型魔物の石版を手に取って頷き合う二人の計算の内だと知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。


前回のアンケートにて密かに√分岐をしていましたことを此処に報告します。
ご協力に感謝します。

ゾフィスくんのちょっとビビりな感じと、バリー戦の清麿くんみたいな“圧”を表現出来てたら嬉しいです。

ゼオンくんはガッシュくんと見た目似てるのがバレたらダメなので変装。
変装姿の参考は雷句先生の作品“どうぶつの国”で一番好きな子“リエム・ヴィーヴル”ちゃんから。

次回はゼオンくん視点での続きになります。

ガッシュ2最高過ぎてほんともう最高でほんと(語彙力)

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

  • リーヤ
  • リオウ
  • ザルチム
  • ファンゴ
  • カルディオ
  • チェリッシュ
  • ギャロン
  • ジェデュン
  • ロデュウ
  • ブザライ
  • キース
  • テッド
  • モモン
  • アース
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