もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。

少なめですが区切りたくなったので区切らせてください。


第二十七話:千年の代償

 

 

 

 

 坑道を抜けてしばらくの場所。

 念には念を入れてゾフィスから大きく距離をとって離れたところで、漸くゼオンは足を止めた。

 無言でついてきていたパムーンは苛立っていることなく、振り向いたゼオンと瞳が合わさると腕を組んで少し覚悟を決めた表情へと変わる。

 

「“D”。どの程度こいつに説明する必要がある?」

「どの程度、という匙加減が難しいな。ヤツの状況やこれからの計画の予測など、明かしていい“答え”の関係上、オレが話そう」

 

 目の前で為される会話に少し眉を寄せるも、千年後の人間界に復活したばかりで情報が足りないからとパムーンは話の続きを待った。

 

「さて……どこから話すか。とりあえず、先ほどの魔物はゾフィスという。心を操る爆発の術の一族の末裔……といえばオレとこいつが此処まで警戒してお前と話すことになった理由は理解出来るな?」

 

 聞いてすぐにすっと細くなった眼差しがデュフォーに向けられ、納得だというようにパムーンが頷いた。

 

「そういうことか。心を覗き、心を操り、心を作れる……なるほど、確かにあの一族ならオレ達千年前の魔物のパートナーの準備もできて、最悪の場合は心に介入することで従わせられることも出来るから此処まで警戒しているわけだな」

「お前ほどの高き心を持つモノであっても、油断をすればどうなるか分かるだろう?」

 

 ゼオンから語り掛けられてピクリと反応したパムーンは、目を閉じて顔を歪めた。

 

「……よく、分かっているさ。油断したからこそ今のオレが居るんだ」

 

 過去。甘さという油断によって石版に封じられることになったから今がある。

 己の失態を千年の間石の中で見据えてきたことを思い返した彼は、どうにか気持ちを落ち着かせたようで、真っすぐにゼオンを見詰めた。

 

「それで? わざわざ変装までしているお前にとっては、此処で正体をオレに話してしまうことは記憶を覗かれるリスクを考えるとしたくはないんじゃないか?」

 

 真剣な眼差しで問いかけるパムーンの言葉は正しい。

 彼の言うように、もしもゾフィスに彼の正体がバレてしまっては手を打ったことは水の泡となってしまうのだ。ガッシュのレベルアップを狙っているのならば、出来るだけリスクは減らしておきたいというのがゼオンとデュフォーの考えである。

 

 だが……

 

「構わない。ゾフィスという魔物が使う記憶操作の術はとても繊細で緻密な術だ。記憶を覗くことはパムーン自身が了承して身体を完全に許す必要があって、本人が許可しない状況なら寝ている時くらいでなければ不可能だろう。その点で言えば、個人の実力がゾフィスを凌駕しているパムーンであればそんな隙を晒すこともない」

 

 語りを行ったのはデュフォー。ゾフィスの能力を完全に詠み切っている人間という特異な存在に、パムーンは驚愕の表情で彼を見た。

 そのままデュフォーの言葉は止まらない。

 

「別人格を入れたり暗示で操ることにしてもそうだ。それこそオレとこいつが以前対処した水晶、ゾフィスの一族が創り上げた……“記憶そのモノを封印した上で隙間に別人格を植え付ける”くらいしなければ出来ない。あの水晶にゾフィスが関わっていないのなら、記憶封印と人格移植のシステム構築を同時にして従えるのは時間的にも必要素材的にもほぼ不可能。千年前の魔物達の掌握、そしてそいつらの術の力を従える為にパートナーとなる人間の捜索と調整……それら全てを行いつつ己の都合のいいように操れる人格を作成して己を超える存在にインストールして使役するには試行回数も足りなくなる上、理不尽な服従を強いることを恐れた他の魔物達の暴走等まで考えなければならないから、ゾフィス自身のキャパシティを超えるだろう。

 まだ正確な“答え”は出ないが……そもそも四十もの人間を都合のいいように掌握するシステムの管理を一人でしつつ過去の魔物達の管理運営も同時並行で行うんだから、あいつが担う負担は計り知れない。そういった背景がある上、オレ達が話すのがパムーンだからこそ、オレ達は正体を明かしてこちらの情報を大きく話しても問題ないんだ」

「だ、そうだ。ならこの忌々しい変装ももう解いてもいいな?」

「……この後に他のペアと少し会う予定があるから今脱いでもまた着ることになるがいいか?」

「な……おい、聞いてないぞ!」

「まあこの後の話は置いておいて」

「おい! 無視するな!」

「……」

「ため息を落とすな! そろそろ怒るぞ!」

「今はパムーンと話しているから待て」

「ぐ……後で覚えておけ……」

 

 どうにか自分のプライドを傷つけ続けている変装を解除しようとした所に爆弾発言を落とされて怒るゼオンを抑えて、デュフォーはパムーンに再び向き合う。

 

「そちらはゾフィスの能力に警戒さえしてくれたら十分だ。今の説明内容の通りに、オレ達はゾフィス側が打ってくるであろう手をある程度予測している。数十に及ぶパターンで対策をシミュレートしているから、何も気にせず安心して話を聞いてくれていい」

「……驚いた」

 

 ほうと感嘆のため息を落としつつパムーンが口を開く。

 

「奴らは昔から賢い一族だが、どうやらお前は軽くそれの上を行く知将らしい。その口ぶりならオレから情報が洩れることも対策出来ると見た」

「……」

 

 無言で表情を変えないデュフォーの様子に、ニッと歯を見せて笑った。

 

「優しいヤツだな。オレのプライドなど気にしなくていいのに。敵が誰であれ、油断の如何があろうと、不可測が起きることはあるんだ」

「……侮られた、とは思わないのか?」

 

 ゼオンが横から尋ねるとパムーンは笑みを深くした。

 

「侮るなんて……やっと思い出したくらいだぞ。ふふ……千年……千年だ。石になってどれくらいの時間を過ごしたことか」

 

 穏やかながらも瞳の中に浮かぶ恐怖の感情。震える指先をどうにか抑えようとしても、パムーンの震えは止まらない。

 ゼオンはハッと息を呑んだ。

 

「考えるのを放棄したこともあった。意識を微睡の中に揺蕩わせている間だけが安らぎだった。眠っているのか、そうでないのかも分からないぼんやりとしているだけの時間。自然と一体化して溶け込んでいるような時間が安らぎとなってしまった。慣れてくると自分という存在の境界があやふやになって来て、“オレという個”が曖昧になってくるんだ」

 

 哀しい光が瞳に浮かぶ。

 

「数年の孤独と、数年の人間に晒される時間の繰り返し。外の状況が分かれば思考を巡らせることが出来て、そうしてオレは数年置きに個を取り戻すんだ。きっと己を失わないようにする呪いでもかかっているのか……石にされている間は、オレは発狂など出来なかった」

 

 すっと目を細めたデュフォーを見て、きっと能力を使ったのだろうとゼオンは理解する。

 

「分かるか? 狂うこともできず、動くこともできず、何もすることがなく、唯々好きなようにされて、唯々流れる時を見続けるだけの世界を」

 

 その瞳に渦巻く絶望の深さを、ゼオンは初めて知る。

 ぐるぐると渦巻く昏い彼の感情に……ゼオンはごくりと生唾を呑み込んだ。

 

「石から解放されて……感情ってモノを急速に取り戻した。ゴーレンの術はそういう術だったんだろう。封印される前の感情を解除した途端に正常に戻す……千年の石の拷問の記憶を……より鮮明に、残酷なカタチで記憶に刻みつけるような……そんな術、だ」

 

 ぎゅっと、彼は自分の両腕で自身を抱きしめる。

 カタカタと噛みあわされる歯は、取り戻した感情によって石であった時の記憶を恐怖として刻まれた証左。

 

 震える手が、ゼオンに向かう。

 

 ぎゅっと、彼の服を掴んだ。

 

 其処でパムーンは……復活した時のように、その瞳から涙を零す。

 

「なぁ、ベルからの言伝があるんだろう? 教えてくれ……魔界は、どうなっている? 千年という時で、何が変わったんだ? オレに……帰る場所はあるのか? 父は……母は……どうなっている? オレの家はあるのか? オレ達の一族の村は? オレの通っていた学校は? オレの大好きだった場所は?」

 

 縋るような眼と、希うような声音。

 

「父と母は誇らしげにオレを送り出してくれたんだ。必ず王になるという約束は果たせなかったけれど、せめて……せめて一目だけでも会えないか? ははは……いや、分かっている……分かっているけれど、昨日のことのように思い出せるこの記憶を、オレはどうすればいい? いつでも心を癒してくれた母の暖かい料理も、誇らしげな父の微笑みも……オレには……もう……」

 

 ずるりと彼の身体が崩れ落ちる。決して手は離さずに、彼は祈りに似た形でゼオンに縋った。

 

「そう、そうだ……誰もいない……誰もいない、んだよな、もう。オレは……っ。オレを……オレを覚えている誰かは……本当に魔界で……待っていて……くれるのか……?」

 

 嗚咽と共に、彼はゼオンを見詰めた。

 滂沱の涙を流しながら、彼は泣き笑いの表情でゼオンに縋る。

 

「なぁ……」

 

 ゼオンは動かない。いや、動けない。パムーンの声が、向けられた瞳が、心があまりにも哀しかったから。

 

「っ!」

 

 溢れ出る感情が何かを、デュフォーは能力で知る。

 強い感情を知りたいと、ふと思い至ってしまったが故に、デュフォーは……己の好奇心を悔いた。

 

『淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい淋しい』

 

 千年もの間に凝縮された寂寞の感情を、デュフォーの能力が“答え”として脳髄に叩きつけてくる。

 まるで思考全てが塗りつぶされるような初めての感覚に、デュフォーは片手で頭を押さえて顔を逸らす。

 

 狂えないという地獄。濃縮された感情の渦は忌むべき術によって無理やりに抑え込まれていただけで、氷塊が徐々に溶け出すようにパムーンという魔物の心の奥底から溢れている。

 

――これは……オレが過ごしてきたモノとは別の……地獄だ。

 

 時間の経過という最も残酷な拷問を受けた者の末路。世界に取り残された存在の寂寥。孤独という牢獄で壊れず過ごしてきたことで溜められた呪いにも似た泥濘。

 識ってしまった“答え”によって、デュフォーはゼオンへと頷いた。

 瞳の奥に輝くデュフォーの感情に、ゼオンは分かったと無言で返事を送る。

 

 少しでも楽にしてやってくれと、そう伝えていた。

 

「うぅ……あぁ……オレは……みんな……もういない……もう、会えない……」

 

 大地に両手をついて、頭を抱えて蹲ってしまったパムーンを見詰めながら、ゼオンはバサリとマントで己を包んだ。

 そうしてマントが元に戻ると……いつものゼオンが其処に居た。

 

 

――どれほどの絶望だろう。

 

――千年だぞ。

 

――オレなら……

 

――オレなら……千年もガッシュに会えないなんて、無理だ。

 

――いやそもそも……二度と会えない……のか……

 

 そう。既に彼の知り合いは居ないのだ。

 彼を知るものは魔界にはいない。

 

――悠久の孤独を乗り越えて待っているのがこの仕打ち……

 

 もはや別世界となった故郷で、彼は生きていかなければならない。

 

 ギシリ、とゼオンは歯を噛み鳴らす。

 

「パムーン」

 

 名を呼ぶと、彼は顔を上げた。涙でぐちゃぐちゃになった彼と目線を合わせるように、ゼオンは膝をついた。

 目を見開いた彼は、ゼオンの顔に誰かの面影を重ねていたようで。

 

「お、お前は……雷のベル……?」

 

 あらわになった正体が、千年前の好敵手を思い起こさせる。

 いつかは戦う相手だと気に留めていた魔物。雷のベル一族の一人を。

 

「父は……魔界の王であるダウワン・ベルはまだ生きている。お前達を……千年待っていた」

「……っ!」

 

 その言葉に、彼の目からまた涙がぽろぽろと溢れだした。

 

「千年前の戦いの勝者は我が父、ダウワン・ベル。そして父は千年の間ずっと……お前達を救うことを諦めていなかった」

「……ほ、本当か?」

「ああ、だからオレが此処に居る。オレこそがお前達への言伝そのモノだ。王のメッセンジャーとしての役割。だからオレ達が真っ先にお前達を救えるか見に来た。オレの名はゼオン。ゼオン・ベル。魔界の王が嫡子であり、父の戦友であるお前達を迎える任を与えられし者だ」

「で、でも……オレ達はずっと……千年も……待ったんだ……どうして……魔界の王様になったはずなのに……助けに来て……くれなかったんだ……」

 

 ぽろりと出てしまった弾劾の言の葉に、ゼオンは唇を噛んだ。

 

 寂しかったんだと、苦しかったんだと、つらかったんだと……感情が伝わって来る。

 

 誇り高き星の使徒であってもまだ子供。歳もそう変わらないはずなのだ。父と母を失ってしまった哀しみと、ひとりぼっちであるという孤独の苦しみを受け止めるべきだと、ゼオンの心が叫んでいた。

 

 胸が締め付けられる。まるであの……森の中でガッシュと初めて出会った時のように。

 

 どうすればいいと考える前に、ゼオンの小さな体は動いていた。

 

「……」

「……っ」

 

 首に回した腕にぎゅうと力を込めた。

 石の冷たさに慣れた心を、少しでも暖められるようにと。

 

「……助けるから。オレがちゃんと……魔界でお前達を助けるから」

 

 はらりと伝った涙が、合された頬に当たる。

 

「辛かったよなぁ……苦しかったよなぁ……寂しかった、よなぁ……すまない……助けてやれなくて……待たせて……ごめんな……」

 

 分からなかった。だけど自然と言葉が溢れてきた。

 最愛の弟に語り掛けるように、地獄に待たせた存在を救えるように。

 

「う……うぅ……うぅううううううううううううう!!」

 

 もう言葉にならず、パムーンはゼオンの胸に縋りついた。

 子供のように泣き続けるパムーンをぎゅうと抱きしめながら、ゼオンは己の罪深さを知る。

 

 

 彼らの心を知りながら……ゼオンはガッシュと魔界を救う為に彼らを利用しなければならない。

 

 

 ギシギシと軋む心には、目の前の少年の泣き顔と、最愛の弟の泣き顔がフラッシュバックして映される。

 

 

――安らかに還してやればいいというのに……オレは……

 

 

 ふるふると首を振るデュフォーだけが、真実を伝える。

 

 それではダメなのだ、と。

 

 魔界へ帰っても滅亡したら終わりだろう、と。

 

 一時の感情でお前は未来を壊すのか、と。

 

――失った時は戻せない。なら……これからの未来を示すことこそ……オレの役目だと、お前はそう言うんだな、デュフォー。

 

 理解はしていた。でも、感情が追い付いてこない。

 ああ、と吐息を落とした。涙によってか、苦悩によってか、熱の籠った吐息だった。

 

「すまない……」

 

 もう一度呟いた謝罪に、彼の涙もまた伝って来た。

 

 また一つ……ゼオンは覚悟を高めていく。

 

 自分が必ず王になって……この悲劇の子供達が笑って過ごせる幸せな世界を作るのだと。




読んで頂きありがとうございます。


短いですがご容赦を。

原作のパムーンが恐怖するのも仕方ないと思うんです。

この物語のゼオンくんはガッシュくんに早期に出会った影響で少し涙もろいです。


これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

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