もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら 作:ちゃんどらー
コロナに掛かったり出張が長引いたりなどなどでごたごたしておりました。
アメリカのとある街。其処から数キロ離れた遺跡への林道にて、アポロとロップスは周囲を警戒しながら歩いていた。
歩いているのは彼らだけではなく、大きなシルクハットを被った老紳士と、人形のような子供の魔物が並んでいた。
清麿と今後のコトについて話し合った後、自身の仕事をどうにか調整して彼らとの時間も作れないかと四苦八苦していた時のことだ。
アポロ達の元に一組のペアが訪問してきた。
ナゾナゾ博士と自己紹介した老紳士と、キッドという魔物の子。
少しふざけた態度でアポロを試す老紳士に対して初めは不信感を持っていたモノの、アポロは彼が零した内容に食いつかざるを得なかった。
『ふははは! 私はナゾナゾ博士! なんでも知ってる不思議な博士さ! この魔物の戦いのことも、この本に隠された謎のことも、そして……キミが財閥を継ぎつつ、“D”の端末の一人として動き初めていることも、ね』
威圧感と余裕。輝きを放つ本を見て、アポロはその老紳士がただ者ではないことを理解する。
“D”の名が出たことでアポロの頭によぎったのは自分の行く道を変えた“彼ら”のこと。この老紳士が何を知っているのか、否、どこまで知っているのかを聞き出す必要があると考えた。
アポロはあの二人に恩を感じているし、彼らの秘密を時が来るまで誰かに悟らせないことを決めている。
もしあの弟想いの兄の不都合になるというのなら、この目の前の老紳士とそのパートナーを此処で倒しておかなければとそう思った。
『……貴方は何処まで知っている?』
『ふふ……私はナゾナゾ博士、なんでも知ってる不思議な博士さ。この戦いは結局一人しか勝ち残れない。だから……聞きたいというのなら、相応の力を示してみてはどうかね?』
力づくで聞き出せと、老紳士はそう言った。
そうして場所を変えて始まった戦いは、両者にとってこれまでで一番激しく、そして厳しい戦いとなったのだった。
戦いの後。
互いに情報を交換しあったナゾナゾ博士とアポロは、こうして共に“悪しき敵”の対処の為にと動くことにしたのだった。
歩みを進めながら、アポロはナゾナゾ博士に語り掛けた。
「……“D”の情報によるとこの先の遺跡が新たな拠点らしいですが、ボク達が近づいても警戒されないでしょうか?」
「ウム、感知能力の高い魔物だと聞いておる。ならばまだ大きく近づくことは出来んだろう。しかしこうして道中を知っておけば千年前の魔物達の軍勢を確認する時に役立つ。事前のこうした調査も必要なことじゃな」
「なるほど……確かにそうですね」
「他の魔物に見つかった場合の逃走経路の確認、遺跡までの最善の道の選定、万が一の時の戦闘地形の予測。準備するにこしたことはない」
真剣な表情で語るナゾナゾ博士に頷いたアポロは、納得といった様子で辺りに更なる注意を払って歩いて行くことを決める。
「ありがとうございます、Drナゾナゾ。ボクだけではこういった準備はきっと出来なかったでしょう」
「ふっ、ワシとしても助かっておるぞ。よもやこんな心強い仲間が早くに出来るとは思わなんだのでな」
表情を緩めた博士と、それを見て嬉しそうに笑うキッド。
「ありがとうアポロ! ロップス! ボクからもお礼を言うよ!」
「かうー!」
「気にするな、だってさ。うん、こちらこそお礼を言いたいくらいさ。この強敵の情報は“D”から貰ってたけど、やっぱりボク達も手が足りなかったからね」
仲良さそうに肩を組みあうロップスとキッドを見つつ、アポロはにっこりと笑いかける。
「“D”の情報無しに千年前の魔物の情報に辿り着き、ましてや彼の端末として“D”から更に情報を手に入れていたなんて……Drナゾナゾは凄いな、キッド」
「そうさ! 博士は凄いんだ!」
パートナーを褒められて更に嬉しそうに表情を綻ばせるキッド。ロップスは不満げにアポロを見る。
そう、ナゾナゾ博士はこの戦いに参加するにあたり、以前の戦いである千年前の情報をなるべく多く集めていた。それが出来る立場と、情報網を持っていたが故に。
そうして見つかったのが不思議な石版であり、これが千年前の戦いで忘れられた魔物達であると予測と情報から推察し……間違いなくコレを使って勝とうとする魔物が居ると考えたのだ。
多くの人間と太い繋がりを持つナゾナゾ博士は、こうして辿り着いた“答え”により的確に対処しようと……世界の裏に突如現れた不可思議な存在――“D”に接触したのだった。
博士は本物の“D”に既に辿り着いている。
己の知恵と、ありとあらゆる人脈を使って辿り着いたその存在を思い出して……博士は身震いを一つ。
「いや、キミの方こそ……あの青年、本物の“D”と直接連絡が取れる存在が居るとは思いもしなかった。ワシでさえ呼び出されなければ会うことすら叶わんかったじゃろう。それに
たらりと一筋の汗を頬に垂らして博士は言う。
邂逅を思い出すだけでも緊迫感が甦る。いつものおふざけなど一つも通じない、そして……能力にしても、情報にしても、知識にしても、魔物の戦いに対しての在り方にしても……全てにおいて博士は現状では彼らに勝てないと理解した、してしまった。
不思議な光を内包する翡翠の瞳の少女と、氷のように冷たい眼差しを持った銀髪の青年。
間違いなく魔物達の中でも格が違う存在であり、何時かは越えねばならない最大の壁だろう。
そんな彼らと繋がりを持つというアポロは、博士にとっても驚愕しか出ない存在であるのだった。
今度はロップスが自慢げに胸を張った。キラキラと輝く眼差しを向けるキッドは、博士が評価するアポロにも尊敬を向ける。
苦笑を一つ。アポロは言葉を零す。
「運が良かっただけ、ですよ」
「……ま、そういうことにしておこうかの」
にやりと不敵に笑った博士はそれ以上聞かない。
アポロは“D”と少女についての情報を博士には明かせないと明言しており、仲間としての協力関係を結ぶとしても共有できない機密事項だと伝えてきていた。踏み込むというのなら、此処で博士達と刺し違えてもいいというよう程に大きな……とてもその歳の青年が放つべきではない気迫を交えて。
きっとその情報を知ればアポロ達はその二人と敵対することになる。それが博士の予測。
博士はアポロと戦ったからこそ、彼が放った気迫の理由を知った。お互いが全力を以って戦うことになったからこそ、互いに全てを理解出来たのだ。
ロップスという“大切な友達”との時間を失わないように。それがアポロの想い。
同じように、アポロも博士の想いを感じ取った。
故に彼らは協力関係を結び、こうして共通の敵への対策をすることにしたのだ。
根が善人な二人と二体であるから、仲良くなるのにそう時間はかからない。
それにアポロも博士から学ぶことは多いとして、自身の経験を更に高めることとなり有意義な時間を過ごしているようだ。
「彼らは直接力を貸してはくれないけど知り合いの魔物が助力してくれると教えてくれました。ボクの方でも清麿達に声を掛けてあるので、できればDrナゾナゾには彼らを中心に少しきっかけづくりをしていただけると助かります」
「ガッシュくんや清麿くんの他にも仲間が居ると?」
「……ティオという少女の魔物はガッシュの友達だと言ってましたね。清麿やガッシュならきっと他にも仲良くなった魔物やパートナーが居ると思います」
ほう、と興味を表して唸った博士は、嬉しそうにキッドを見た。
「そうか……そうか、希望は……あるのじゃな」
「やったね博士!」
不安だったのだろう。
戦い合うしかないという現実を理解しながら自分達だけで強大な敵の事実を知り、少しずつ暗闇の中を進むように打開策を探してきたのだ。
自分達に匹敵する力を持ったアポロや清麿を得て、更にまだ増える……それを聞いて嬉しくないはずがない。
「ワシらは他にも力を貸してくれそうな強い魔物も探してみるとしよう。どうじゃ? 清麿くんの周りは……アポロくんが説得してくれんか?」
一つ提案をしてきた博士に、ふるふると彼は首を振った。
「Drナゾナゾ。ボクとロップスではきっと清麿の知り合いということから話し合いにしかならないでしょう。貴方のように彼らを上手く焚き付けて成長させるなんてことは、とてもじゃないがボクには出来ない。
それに、貴方自身も顔を見せる必要があるはず。この先で強大な敵と戦うというのなら、貴方自身の信頼も勝ち取っておくべきだ。Drナゾナゾという不思議で頼りになる年長者の人が居てくれるという安心感は、きっとこの戦いで大きな、とても大きな心の支えとなりますから。それはボクでは出来ない役割で、ボクにはボクの……きっと大きな役割がある」
そう言ったアポロはウインクをしてからロップスを肩に乗せる。
「あと、まだ言ってませんでしたが最近“D”から伝えられた任務がありまして……多分、ボクはそれに専念することになると思います。ボクは彼に“借り”があるので」
「なにっ」
驚嘆した博士に真剣な眼差しを送り、大きく息をついてから彼は語る。
「千年前の魔物が戦うのに必要なモノはなんでしょうか。ロップス達現代の魔物と同じように戦うというのなら、どうしても必要なモノがあるはずだ。貴方も気付いているでしょう?」
「……ああ、そうじゃったな」
当然だと頷いた博士の目が鋭くなる。
「パートナーの人間達の調査。それがボクに与えられた任務です。人間が全員この戦いに賛同的でないことは当然……ならきっと」
苦い顔をしたアポロの言葉の先を、博士が続けた。
「……無理やりに戦わせられる者達は必ず居る、そういうこと、か」
「“D”との連携が取れるのは現状でボクだけですから……すみません」
「いや、いいのじゃ。“彼ら”も言っておった。出来る限りのことはする、と」
天を仰いだ博士は、クイとシルクハットの鍔を上げる。
「……」
流れる雲が空を掛ける。
天に浮かぶ日輪に雲がかかりそうだった。
とある日の、博士にとって大きな分岐となる邂逅を思い出していた。
○△○
アメリカのとある州、比較的治安のいい街のとある病院にて、一人の老紳士が椅子に腰掛けて手を組んでいた。
その老紳士の肩には少しばかり変わった人形のような子供が一人。
見る人が見れば一目で分かる。その小さな子供は魔物の子。魔界の王様を決める戦いに参加した百人の内一人。
疑問だらけのように頭にクエスチョンを浮かべていた魔物の子―――キッドは、待ちくたびれたからか老紳士―――ナゾナゾ博士に尋ねた。
「ねぇ、博士? どうして博士の探してた人は待ち合わせを病院にしたんだろうね?」
ナゾナゾ博士と呼ばれた老紳士は、その問いに一寸だけ逡巡するも、内心の冷や汗を感じ取られないようにニコリと笑って答えた。
「それはね、キッド。彼が私と同じくらい頭がよくて、なんでも知ってる不思議な人だからさ」
「? それでどうして病院に?」
「……大きな傷を、治す所だからだろうね」
いつものようにはっきりと答えず、そして深くも語らない老紳士の言葉に首を捻りながら、あまり聞いてはいけないのかなと思ったキッドはまた足をぶらぶらさせて待つことにした。
膝に置いて組んでいる手が僅かに震えていた。
冷や汗がついに頬を伝う老紳士は、悟られないようにハンカチを出してソレを拭う。
――私は……“とんでもない怪物”に関わろうとしているのかもしれない。
携帯端末を取り出した彼は、もう一度その画面に表示される内容に目を通す。
自分が関わったモノのとてつもなさをはっきりと表すその文章に、大きく喉を鳴らしながら。
『差出人:
“D”
本文:
情報の詮索は十分だろう? お前が得た情報は此れから起こる魔物達の戦いの一つの分岐点、個人だけで関わるには過ぎた問題だ。
数十年を無為に生きてきた老人がやる気になっているのは結構だが、掻き回そうと言うのなら容赦はしない。
Dの端末としての指令は、お前にはもう必要無いだろう。
×月△日、○○病院にパートナーと共に来るがいい。そう……お前には縁の深い病院だ』
最後に並べられる文字列は、彼のトラウマを抉り、彼を確実に引き付けるモノ。
『もう一度大切なモノを己の手で失うことにならないよう、逃げないことを推奨する。
魔界の未来も、人間界の未来も、全てはお前の返答次第で……こちらの指先一つなのだから』
ナゾナゾ博士と魔物の少年に呼ばれる老紳士は、過去は偉大な医者であった。
彼は世界にも名が轟く偉大な医者であり、世界中の人々の多くを病魔から救った。
しかして己の孫を己の腕で救えなかった彼は、医術の道を閉ざして一人、余生を古城にて知識を吸収するだけの人間として過ごしていた。
ただただ膨大な書物を読んで知識を集めるだけの存在。
後の彼は己のことをこう呼ぶ。
何もしていない人、と。
ただ知識を溜めるだけのモノと化した彼の元を、数奇な運命によって一人の魔物の少年が訪れた。
それが彼の隣に今いるキッドであり、彼を古城での無為な時間から連れ出した運命そのもの。
キッドという少年に恩義を感じていること、そしてその無為な時間を知っているのは彼本人しかおらず、他者が知ることなどないはずだった。
だというのに……たった一つのメールによって“答え”が明かされた。
「いいかい、キッド。この部屋に入ったら、何が起こるかは私にも分からん。相手から呼び出されたとはいっても罠の可能性もある。決して……油断してはならん」
「うん、わかった博士」
キィ、と扉を開けて呼び出された部屋に入りつつも、本をいつでも開ける状態にして警戒していた。
例え病院のような他の人間がたくさんいる場所であっても、そんなことおかまいなしに攻撃をしてくる魔物というのが存在すると知っていたからだ。
キッドも同じように、並々ならぬ博士の空気を感じ取って最大限に警戒をして部屋へと踏み入った。
目に飛び込んできたのは、院長室のようなその部屋で、年若い青年が背を向けて椅子に座っている姿。
机の横に並んでいる少女は目を瞑り、こちらを見ようともしなかった。
「よく来た、Drナゾナゾ」
ぴたりと今使っているハンドルネームを言ってくる声は、青年と少年の狭間のような声音。
警戒を解かない博士は、そのまま次の言葉を待った。
くるりと回った椅子。立ち上がった青年は、片手を広げて挨拶の言葉を一つ。
「初めまして、オレが“D”だ」
すとんと、博士の胸にその言の葉が落ちる。
青年の纏う空気と受ける感覚、そして言葉を受けて……納得したのだ。
博士が長い年月を重ねて、知識を蓄え続けて、そして生に対する達観というある種の境地に達したからこそ気付けたのかもしれない。
目の前の青年こそが、電子世界に蠢く怪物……そのモノである、と。
凡そ人非ざる彼の空気に呑まれそうになりながらも、ぐっと堪えた博士は彼へと相対する。
ちらりと少女に目を向けると、やはり魔物と思われる少女が動く気配はなく。
「“D”の行動の根幹は魔物との戦いに焦点を合わせている、という核心に迫ったのはお前が初めてだ。医者として国家から信頼があり、強化人間達のケアをして、社会の闇も光も見てきただけはあるな、
青年が部屋の中央のソファへと移動し、座れというように手で促した。
本は院長机の上に置きっぱなしだが、青年には隙が一つもない。
キッドと並んで座り、本を横ですぐに動かせるように置いた博士は、青年から目を離さずに口を開く。
「何が……目的かな?」
相応の覚悟を持った瞳で、博士は青年へと言い放つ。
この場所、この病院は博士にとって大切な存在を失った場所。それを引き合いに出してきてこちらを呼んだのだから、相応しい答えをと彼は求めた。
博士は別に、ソレを引き合いに出されても怒りに震えることはない。
何故ならば既に過去のことで、そして己の中で長い時間をかけて消化してきた問題だからだ。
誰かに挑発に使われて怒りに支配されるほど、博士は青くない。
相手は世界の影を操るに等しい怪物だ。相対出来たことすら奇跡だと博士も理解していた。
「……医者として救って来た人脈を頼り、あらゆる情報網で得た千年前の出来事の切片からの予測と分析。あとは今まで戦った魔物達からの情報と考察。それがお前の保持しているこの魔物達の戦いに於ける情報の全てだな?」
「な……」
「その魔物……キッドは幼い。まだ未就学児だから魔界の教育も完璧とは言えない。ならお前が代わりに分析と考察を繰り返して確定情報を積み上げていくしかない。
単刀直入に言うとオレがお前に有用性を感じたのは一つ。たった一人で千年前の魔物の戦いの考察から、過去の魔物達を何者かが復活させてこの戦いに投入すると予測した点だ」
ゾクリ、と博士の背筋に寒気が走った。
全てを見通すかのような彼の瞳こそ、今は何よりも恐ろしい。
すっと差し出された紙きれには、博士の来歴から今の今までの行動まで、博士の心を恐怖に染め上げるように分かりやすく書き綴られていた。
――か、怪物。これが……本物の“D”。
逃げることも出来ないのだと理解する。自分は今まさに俎板の鯉。関わった時点で調理場へと上げられていて、目の前の存在からは逃げられないのだ。
いつもなら、そういつもなら少しはおちゃらけて道化を演じて間を引き出すことも出来た。
それもこの病院に呼ばれたことで出来ることではなくなった。
マジェスティック12という能力者集団に助力を頼むことも人目に着くから出来ず、病院関係者に己の存在がバレないようにするので精一杯。
何が出来た、と考えても……全てはもう遅すぎたのだと分かってしまう。
冷や汗を垂らしながら思考を巡らせると、ふと、隣のキッドが見上げてくる。
心配そうな彼の目に観られれば……博士は、不敵な笑みを取り戻すことが出来た。
大丈夫と、それだけで伝えられる。例え“空元気”だとしてもだ。
まだ話は終わってない。相手は怪物だとしても……まだ、敵ではないのだから。
「私に、何をさせたいのかね?」
力強く見据えるその瞳は、キッドの為に逃げ延びて見せるという意思を宿して。
空気が変わった部屋の中、は……と、少女が吐息を落とし込む。
「特になにも。オレ達から望むことはないな」
一瞬、博士は何を言われたのか分からなかった。
目の前の青年の空虚な瞳には感情が薄く、博士とキッドの存在にあまり興味を向けていない。
「少し、いいか?」
とす、と来客用のソファに腰を下ろした少女。楽しそうに、嬉しそうに笑みを浮かべる魔物の少女は、少年のような声を紡いでいく。
「お前が千年前の魔物のことを調べ、わざわざ危険を冒してまで“D”に関わってきたのは、現在の魔物達の……いや、パートナーの魔物の脅威を少しでも減らそうとしたから……で間違いないな?」
「ウム。大方、合っている」
ウソをついても仕方ないからと頷くと、だろうなと笑った少女はキッドを見やった。
「強大な敵が現れるかもしれない。己達だけでは打倒出来るか分からない。ならば先に、何よりも先に情報と動きを……なるほど、正しい教育だ。情報を得ることこそ戦で最もすべきこと。敵の戦力や数、目的の把握と……同盟に成り得る存在の明確化。この魔界の王を決める戦いの中、戦うだけが全てじゃないという答えは出すのが難しいというのに……不明瞭な戦いの中で一つ一つと組み立て始めたお前は、これ以上ないほどに王としての教育を施している」
感嘆を漏らす彼女は、優しい声を出す。
「キッドとやら、いい人間がパートナーになったじゃないか。今まで出会った中でも一番だと思うぞ」
「ほ、ほんとう!?」
「ああ、本当だとも」
「へへ……そりゃあ、博士は凄いからね! なんだって知ってるんだ!」
慈しみさえ浮かぶ柔らかい表情を見て、博士はほっと胸を撫で下ろす。
どうやら悪い魔物ではないようだ。そう結論付けた。
ビシリと指を立てた少女。
「お前が予測した通り、これから千年前の魔物達が復活する。そいつらは千年もの間置き去りにされていた哀しき魔物達だ。だからといって同情からの加減などしてはならない。奴らの内に秘める負の感情は計り知れず、その怒りや恨みの矛先をお前達に向けてくることだろう」
吸い込まれそうな翡翠の瞳。まるで千年前の魔物を見てきたかのような少女の発言に聞き入る。
「そいつらを配下に置いている魔物の情報はこちらからは出さない。お前達がその存在と戦うと決めている以上、“とある魔物”に行きつきそいつらから話を聞くことになるのは確定だろうからな。その方がいいだろう」
「……キミたちはイロイロと知っている。しかし情報は出さない。それが何故かは……」
「教えない。教える義理がない」
「じゃが、そんな大規模な戦力が動くというのならキミたちも……それにキミたちも協力してくれたら……っ」
そこまで言って、博士の言葉が止まる。
“D”は変わりない。
ただその少女の纏う空気が……凍った。
「攻めてこないさ、ヤツは。それに本当は、
無表情の中に押し殺された感情を博士は読み取れなかった。
感情のうねりによって少女の大きな力の一端が漏れ出たことと、少女が敵に対して何かを抱えていることと、理由があることだけが理解できる。
少女を見てため息を一つ落とした“D”が立ち上がる。
すっと差し出されたメモには、とある財閥の名前と住所。
「“D”の深くに辿り着いた報酬だ。此処に行き、アポロという人物と話をすればお前達にとって大きな助けとなるだろう」
顔を上げた少女は、キッドと博士を交互に見てから“D”の後を続けた。
「そいつらならきっといい力となる。まだまだ足りない所は多いが、十分に骨のあるコンビだからな」
少しだけ嬉しそうに表情をほころばせた少女は、もう語るつもりがないようで立ち上がって窓の外を見始める。
「……脅して呼びつけて悪かったな。メールで言った通り、Dの端末としてはもう働かなくていい」
対して“D”は博士の目をまっすぐに見つめて謝罪を一つ。
続きは、ナゾナゾ博士にとっては思ってもみなかった言葉だった。
「お前達へのこれ以上の協力は出来ないが、オレ達もオレ達で出来るだけのことはする。
そして……あいつの代わりに礼を言う。ありがとう、Drナゾナゾ」
何に対しての感謝かは分からなかった。
ただ、差し出されて握った掌は熱く、“D”の青年の瞳の奥には暖かい輝きが観えた気がした。
背中しか見えない少女が小さく鳴らした音は、優しい感情から零れた音だと思った。
読んで頂きありがとうございます。
アポロ達と博士達が共闘するようです。
時系列はナゾナゾ博士が清麿達と戦った後。
ナゾナゾ博士どうやって千年前の魔物のこと調べて回ってたの、というのを補完。
この物語では“D”が裏社会に居ますが原作通りにそれ関係なく答えを出して対策を練ってたのでナゾナゾ博士はとても凄い
次は原作の時系列を鑑みて多分この時じゃないと会えない魔物とゼオンくんが出会います。
これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
下記の内で好きな魔物は誰ですか?
-
リーヤ
-
リオウ
-
ザルチム
-
ファンゴ
-
カルディオ
-
チェリッシュ
-
ギャロン
-
ジェデュン
-
ロデュウ
-
ブザライ
-
キース
-
テッド
-
モモン
-
アース