もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら 作:ちゃんどらー
常夏の島、ハワイ。
人間達がこぞって旅行に来ることで有名なアメリカの島。
ゼオンがとある目的の為に訪れたこの島で、デュフォーは借りたコテージにてPCを操作しながらのんびりと過ごしていた。
アポロとシェリー、そして世界中の“D”の端末から情報を集め、行方不明者への対処をしていくのが現在の彼のやるべきこと。
デュフォーの持つ
しかしどんな便利な能力にも負荷はかかる。
いくらその反則級の能力を安定させているとあっても、デュフォーという一個人はただの人間。
特殊な思考訓練や薬物投与、手術による思考能力の拡張などを受けていたとしても、一人の人間が処理しきれる範囲というモノがある。
デュフォーとてそれが分かっている為、普段からオンオフを切り替えたり、必要最低限しか問いを投げなかったりと使用に注意を払っているのだ。
行方不明者への対応に思考を割き、普段の世界全体の情報処理に加えて、苦手とする人間の心情への“答え”の入手などを追加するとなると負担が大きい。
故に彼はアポロとシェリーの二人に対して、行方不明者の三分の一ずつの対処を割り振って対処することにした。
二人に渡した被害者への対応は全て任せる。そうすることでデュフォー自身の負担は格段に減り、更には“D”の端末達の働きによって被害者への対応のマニュアル化も進みつつあった。
現在、千年前の魔物達の復活は既に為されている。
被害者が出た、ということはロード・ゾフィスが動き出したということに他ならない。
そも、千年前の魔物のパートナーを見つける為には本が必要不可欠だ。本が人間と引き合うからこそ誰がパートナーか分かるのだから。
世界中の監視カメラによって既に敵の情報は割れている。背中に大量の本を背負ったカエルが映っているのだから割り出すのは簡単だった。
復活させた飛行能力を持つ魔物によって国をまたぎ、本が引き合う性質とゾフィスからの情報によって適正を持つ人間達が発見されていくわけだ。
ゼオンは此処でもゾフィスのことを評価していた。
数倍から十数倍に渡る子孫の情報を集め、的確に迅速に適合者候補を集めさせ、魔物達と引き合わせた上で己の能力により心の波長を合わせる。
何よりも速さを優先し、世界を巡る為の魔物を選んでもいたのだろう。飛行型の魔物に最優先でパートナーを見つけて事に及んでいたのだ。
行っていることが悪事とはいっても間違いなくゾフィスの頭脳や能力の高さを示している。
評価しているとはいってもやはりその行いに不快感を感じているようで、ゼオンは被害者たちへの対応の進捗を必ずデュフォーと確認し続けている。
―――これが目的の為に最高の効率を出せるが、どうしてもあいつには我慢ならないんだろう。
千年前の魔物達、そして被害者の人間達の情報を聞くたびに苛立ちを隠そうともしないゼオンの様子を思い出して、小さく吐息を落とし込む。
カタカタとキーボードを鳴らしながら廻る思考は止まらない。
そんなデュフォーの前に、コトリとアイスコーヒーが一つ置かれた。
椅子を引き、対面に座った人物に目を向けたデュフォーは……すっと目を細めるだけ。
不敵な笑みと、飄々とした態度。長い脚を組んで座った長髪を逆立てた男。
「仕事仕事って頭働かせてばっかりだと息が詰まるってもんじゃあありませんか。せっかくこんな立派な家を借りてんなら、仕事のことなんざ忘れてぱーっと遊ぶのもアリだと思いますがね」
勝手に作って勝手に飲んでいる男は、まるで此処が自分の家だとでもいうようなくつろぎ方をしていた。
手を止めたデュフォーはじっとアイスコーヒーを見詰めてから、ソレを手に取った。
“答え”では毒などは入れられていない。ただのコーヒー。込められた感情は……“何もない”。
ただ其処にコーヒーがあったから作っただけ。
飲みたかったから作っただけ。
労いなどではなく、ただ自分がそうしたかったから作っただけ。
前にゼオンが言っていたことのような。それが能力で得た“答え”。
目の前の男が、コレを用意した“答え”だった。
「遊ぶことはないが、コレは頂こう」
「くっくっ、デュフォーの兄さんもなかなか面白ぇや」
「何がだ?」
「いやなに、警戒しながらも変に素直なとこがね。ダンナが居ない時間のいい暇つぶしになりそうだ」
からからと笑う男に対して、デュフォーはため息を落としてからコーヒーを傾ける。
冷えた飲み物が喉を通る感覚が心地いい。どこか頭も冴えてくるような、そんな気がした。
汗をかいたコップを机に置けば、対面の男は同じようにコーヒーで喉を潤す。
「それにしても……ただ者じゃねぇってのは会ってすぐにわかりましたが、まさかダンナの言ってた“雷帝”のパートナーとは。しかもその雷帝サマ抜きで話をしたいと来た……くっくっ……」
「懐にしまってある魔力共有されたその鱗で“竜族の神童”を呼び出していればあいつと一緒に話していたところだ。そうならなかったから今がある。それだけだ」
「そこが面白ぇ。まるであっしがダンナを呼ばないと分かってたみたいなあんたの判断がね。相当な経験をしてるのか、それとも他のナニカか」
「……」
「あー失礼。探るつもりじゃぁなかったんです。ただの独り言。あっしはこの通り、面白ぇことやスリルを求めるだけの“何もない”人間なんでね、つい目の前の面白ぇことに考えを馳せちまう」
自然体のように見えて隙のない男の態度に、デュフォーもゼオンとしてきた訓練から警戒は解かず。
その様子も理解しているのか、男はまた喉を鳴らして笑う。
「そんなに気張らなくてもあっしは何もしやしませんよ。ただね、生憎とスリルを求め続けたおかげでこういうのクセになっちまってるんで、その辺はご容赦を……それで?」
脚を組み替え、またコーヒーで喉を潤した男が問いを投げた。
「ダンナのいる場所にはあっし達みたいな人間には行けませんし、ダンナくらい強い魔物と組んでる面白そうなあんたの誘いなら喜んで受けましょう。“竜族の神童”とまで呼ばれるダンナのパートナー、しがない人間リーン・ヴィズに何を聞きたいんで?」
大仰な身振りで言うリーンを見ながら、デュフォーは能力で得た“答え”から問いを投げた。
ずっと飄々としていたリーンの表情を、彼の問いは崩すことになる。
「……縛りの無い状態のゼオンを除いて一番の優勝候補であるお前達が敗走した時のコトを。そしてアシュロンが“この星に喧嘩を売るレベルの修行”に至った理由を……バオウと同じく魔界を滅亡に至らせる脅威、“クリア・ノート”の全てを聞かせて貰おう」
○△○
地球上で一番活発な活火山であるキラウエア火山。
熱風は肌を焼き、呼吸すら困難であろうこの場所の上空にて、ゼオンはマグマを見下ろしていた。
ぐつぐつと煮えたぎるマグマはこの星の生命そのものの証と言えよう。まるで血潮だ。そのうねりに、その熱さに、その蠢きに……ゼオンは途方もない力強さと大きさを感じた。
比べて自分を見る。
魔力の操作とマントの力で此処に居られるだけで、ただ其処に在る熱量だけでも体力を消費させられている。
星の生命に比べて、なんと己のちっぽけなことか。
そんな感想さえ出てしまうようなこの場所に彼が来たのは、何もマグマを見に来たわけではない。
ハワイに着いてからデュフォーと別行動となり、魔物には自分が、パートナーにはデュフォーがというように役割分担をして向かって来た。
「初めまして、とでも挨拶をしておこうか」
唐突に投げかけた言葉。
星の圧倒的なパワーに圧されている中で、感知能力を最大に引き上げれば……確かに此処に魔力の反応があった。
わざと魔力を最小限にしているらしいソレはマグマの中から感じられる。自分に同じことが出来るかと言われれば否。ゼオンはヒト型の魔物であり、魔力防御を上げたとしても大自然の、それも星の血潮の中に飛び込んで無傷でいられる程の頑丈さは持ち合わせていない。
こんなバカげたことが出来る魔物など、きっと二体だけ。
しかしその内の一体も持って数分という所だろう。それ以上は焼け焦げ、溶かされ、星に呑まれることが間違いない。
故に、ソレは誰か答えが出る。
「気付いているんだろう? お前程の魔物がオレの接近に気付かないはずがない」
再度声を放ってもマグマが煮えたぎるだけ。
魔物の中で唯一、星の血潮に耐えられるモノ。この星の血液に包まれても耐えきれるモノ。星に抱かれて死ぬことなく、“星とは異なる炎”を身の内側に宿すモノ。
ニィと、ゼオンの口の端が吊り上がる。相手の強大さは予想外だった。あまりにも途方もないバカげた行い。星に喧嘩を売るような修行をしているそいつに敬意と畏怖を感じた。
故に、普段から押さえつけている己の魔力を、人間界に来てから、あのレインとの戦いの時でさえ全てを出さなかった魔力を彼は……この場所で全開にした。
それはまるで……雷雲を今にも呼び寄せるような魔力だった。火山灰によって曇った空を更に暗くするような、そんな大きな魔力。
人間が入ってこれない火山のど真ん中という特殊な場所で、ゼオンは掌を空に向ける。
にやりと不敵に笑った彼の口元は更に引き裂かれ、見据えるマグマが多くの泡を浮かべ始めたのを見て目を細める。
「お前にとって、今のオレでは話すらするに値しないか? 実力が不満だというなら……オレとデュフォーの力を少しだけ見せよう」
遠く離れていても、デュフォーだけはゼオンの意図を察して呪文を唱えられる。
だからこそ、こんな特別な芸当が出来る。
今から行うのは、己の素の魔力と、デュフォーからの心の力の供給を持った……“正真正銘の全力全開”。
他の魔物が使うことの出来ない己の魔力を乗せた術のやり方。デュフォーと訓練してきたからこそ出来た……雷の本質への理解を以ってして。
ゼオンは知っている。
ゼオンは理解している。
ゼオンはずっと研鑽を積んできた。
そしてゼオンのパートナーは……全てに答えを出せるから。
だから、彼は己の力の源である雷というモノがなんであるか、そして電荷を引き上げる為に……物質の素たる電子というモノが何か、その概念を理解し、感じ取り、掌握し、己の全てを持って研ぎ澄ます方法を導き出した。
例えばいつの日か重力の力を持つ魔物が星の自転を肩代わりして己の術を引き上げるように。
例えば目の前の真なるブレスを引継ぎし魔物が星の生命に潜りこんで己を磨き上げているように。
ゼオンというベル家の才児は、雷という現象……そして物質を構成する極小の存在にまでたどり着こうとしていた。
出会ってからこれまで、ゼオンとデュフォーは強くなることを怠ったことはない。
あの夜を越えてから、彼ら二人は救えないという可能性をゼロにする為にひた走ってきたのだから。
そうしながらも、まだ術の極限には到達していなくとも……ゼオンとデュフォーは、“一”をずっと鍛え上げている。
―――まだ実践では使えんが、“こいつ”に力を示すには上出来だろう。
「括目せよ」
言い放つ言の葉を。己が超えるべき壁だと判断した存在に対して投げた。
小さな頃より研鑽し続けてきた始まりにして全ての“一”。
第一の術が……轟音と共に
「「ザケルっ」」
他の扱う第一の術とは、間違いなく桁が違う。
己の魔力によって電荷を増幅し、引き合わせ、空間に雷の道を作り出す。雷雲の中のような環境を疑似的に己の魔力で創り上げ、ゼオンの術に上乗せされる。
ただでさえ強いゼオンのザケルが、彼によって創り上げられた電荷を喰らい、ディオガをも凌ぐ威力の雷となっていた。
駆けのぼる紫電の雷は灰の雲を帯電させ、更に伝達され増幅された雷がキラウエア火山のそこかしこへと降り注ぎ始めた。
幾本もの雷は、自然界では決して発生しない紫電の輝き。
刺激を受けた火山から、また噴火が起こった。世界有数のホットスポットであるこの火山から、火の川が流れだしていく。
同時にマグマ溜まりの中から、ゆっくり、ゆっくりと出て来た存在が居た。
緋色の鱗を持ったその存在は、大きな羽を広げて彼を睨みつけた。
「■■■■■■―――っ!!!」
瞬間、大気が爆ぜる。
音の爆発はその存在の雄たけびにより。
視線の先のゼオンを、確かな敵として見据えていた。
本気を出さなければならない相手だとその存在……竜族の神童、アシュロンは認めたのだった。
ただ……ゼオンは目を見開く。相手の姿を見てしまったことで驚愕に支配された。
事前にデュフォーから情報は与えられていない。
万全の状態の強敵が居るとばかり思っていた。そうだと信じ切っていた。
なぜ、アシュロン程に強い魔物がこれほど過酷な修行をしているのか。
なぜ、この戦いのことを深く理解しているであろう竜族のモノが、パートナーの人間を置いてまで魔物本来の力を高めようとしているのか。
伝説に聞くヒヒイロの鱗が抉られた大きな胸の傷から、何があったのかを悟らされる。
深く、重い、誇り高き竜族の子の声は……ゼオンの胸へとよく響いた。
「雷帝ゼオン。お前は……魔界が好きか?」
吹き荒ぶ熱風よりも、その言葉とその声が……ゼオンの胸に特別な風を吹き込む。
魔界を背負う二人の邂逅は、星の血潮が流れる場所で成された。
城の中と愛する弟しか世界を知らない雷の子。
空を駆け大人にさえ縛られずに生きて来た竜の子。
紫電の瞳を持つ小さな少年は
たった一つの大切である弟の……笑顔と泣き顔を思い出しながら言葉に詰まった。
彼にはそれしかなかったから……竜の子の問いに答えを紡ぐことは出来なかった。
読んで頂きありがとうございます。
エルザドルとバリーの戦闘時には既にアシュロンはエルザドルを越えていた、という情報。よってアシュロンは千年魔物編の時期にクリアに敗北していると考え、この物語ではそういうことにします。
ゼオンくんは
魔界が好きか?
って聞かれてもすぐには答えられないと思うんです。
これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
下記の内で好きな魔物は誰ですか?
-
リーヤ
-
リオウ
-
ザルチム
-
ファンゴ
-
カルディオ
-
チェリッシュ
-
ギャロン
-
ジェデュン
-
ロデュウ
-
ブザライ
-
キース
-
テッド
-
モモン
-
アース