もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第三十話:飄々と銀に吹く

 

 何処から話したもんですかねぇ。

 そんな気の抜けた言葉から始まった語り。

 

 リーンとアシュロンの出会いは街の路地裏で。

 やんちゃしていたリーンに人型に化けたアシュロンが声を掛けた所から彼らの戦いは始まった。

 ドラゴンという空想上の生き物の存在、魔界の王を決める為の千年に一度の戦い、魔物という人間よりも遥かに強い生物のこと。それらをリーンは初めは信じていなかった。

 話をしながら街から出て、そうしてやってきた森の中。人化の術を解いたアシュロンの真の姿を前に、リーンは驚き、焦りながらもアシュロンの話を信じるしかなくなった。

 そうこうしている内にやっていた初戦闘は……思いのほか強い相手であり、アシュロンのことを知っている魔物だったという。勝ったとはいっても傷を負って己のことを語るリーンに向けて、アシュロンは夢を語った。

 

 こういうのもいいか、と腹を括ったリーン。そしてパートナーとして認め、夢を預けることを躊躇わなかったアシュロン。

 修行と些細な戦闘を繰り返す毎日の中で……魔物の数が四十を切ってすぐに、最悪の敵と出会ったのだという。

 

「そいつはね、本当に唐突にあっし達の前に現れました。ダンナが竜の姿でくつろげるようにって隠れ家にしていた遺跡に、ダンナの感知すら掻い潜って、どっからともなく来たんスよ。

 成人もしてないそこいらのガキの顔で、ひょろっちい身体にうっすい肉、人間だったなら大したことないだろうって思うそんな見た目でした。でもね、出会った瞬間に分かっちまった。ああ、こいつはやべぇって。やべぇヤツだって」

 

 真剣な表情になったリーンの目に宿る鋭い輝きが、その時の記憶を思い出しながら冷静に分析しているのだと分かる。

 

「そいつは自分のことをこういいやした。“滅亡の子、クリア。魔界を滅ぼすことが、自分の役目だ”ってね」

 

 同時に、情報を得たことでデュフォーは能力(アンサートーカー)を使う。“答え”を出せる彼の力は、クリア・ノートという魔物の情報を引き出そうと試みた。

 頭に浮かぶ姿。リーンの言った通りに、その魔物の見た目は人間そのモノだった。

 

 問―――クリア・ノートの持つ術の特性。

 答―――消滅の力。術、身体、はたまた存在そのものを消滅させる。

 

 問―――ゼオンと比較した魔物としての身体能力や特殊能力。

 答―――耐久力・ゼオンの二倍、マント使用ならばほぼ同じ。格闘術・ゼオンと同格。速度・ゼオンと同格。物理攻撃力・レインとゼオンの中間。魔力量・ゼオンの約二倍。瞬間移動・無し。戦術対応力・ゼオンと同格。感知能力・地球の六割。自己回復能力・高。???時・ゼオンの■倍。????時・ゼオンの■倍。

 

 問―――滅亡の子と自身を呼ぶ理由。

 答―――魔界の自浄作用によって歪められた突然変異の異端な個体。魔物を滅ぼすことで魔界を■■■■させ、より■■な■■を作り■■して、次に与えられる■■からの■の試練に■する為に生まれた、または魔界という次元の■■■ー■■。どちらにしても魔物を滅ぼすことこそが与えられた存在理由である。

 

 問―――クリア・ノートとゼオンが和解することは可能か。

 答―――否。クリア・ノートには自身を含めて全ての存在に対する“愛”が存在しないため、他者の生存と生命そのものが理解できない。使命以外に対しての喜怒哀楽は存在せず、魔物の滅亡の為にしか動くことのないシステムと同義である。よってクリアとは和解できることはない。

 

 次々に並べられていく問いと答え。

 問いと答えを処理しながら、リーンの続く話を聞いて行く。

 

「この魔界の王を決める戦い。最後の十体になった時に王になった時のとある特権が明かされるそうじゃないっスか。ダンナは古の王族の竜の一族だから知ってましたし、あんたんとこのパートナーも事前に知ってんでしょ」

 

 小さなため息は何を思ってか。

 

「……自分の好き勝手に魔界で生きる魔物を魂ごと消滅させていい権利。個人でも、一族でも、種族でも……なんでも王サマの意思一つで消せちまうなんていう……おっそろしい話だ」

 

 憂いと憐憫と呆れと恐怖を含むリーンの瞳が揺れる。

 

「そんでもってクリアは……その特権で魔界の魔物全てを消す……って言ってたっスね」

「……」

 

―――だろうな。

 

 デュフォーは目を瞑り一人ごちる。

 

―――滅亡を使命として生まれた個体にとって、その特権はこれ以上ないほどに効率的に自分の使命を果たせるモノだ。王やその部下達や強力な魔物達と戦わずして消滅させられるならその方がいい。間違いなく魔界を滅亡へと向かわせられるだろう。

 

「おや、驚かないんスね? 名前を知ってた所といい、まさかあんた達はクリアの目的を知っていたとか?」

 

 警戒と敵意。クリアの仲間なのではないか、そう疑っている言葉。

 リーンの真っすぐ見つめてくる瞳から目を逸らさず、デュフォーはなんでもないことのように答えを返す。

 

「滅亡の子と自称するのだから当然の帰結だろう。クリアの仲間であるというのなら、パートナーと離れてお前がこの街に一人でいる内に消している」

「いやぁ、分からないッスね。クリア自身があんた達とあっし達が戦わないように言い聞かせているだけかもしれない。まだ赤子のパートナーの成長を待ってるんですから、ダンナの成長具合を確かめに強い魔物を寄越したって線もあるでしょう?」

 

 疑いを解かないリーンに向けて、デュフォーはため息を吐いて目を細める。

 

「くだらないな」

「……何がです?」

「そもそも王族のゼオンが誰かの下に従うと思うのか? 竜族の神童さえも知見している雷帝が、魔界でも指折りの強者であるあいつが誰かの小間使いになどなるはずがない。アシュロンのパートナーであるお前なら分かるはずだ」

 

 じっと見つめてくる目、真偽を図ろうとする目。

 リーンはしばらくした後で、くつくつと喉を鳴らして肩を竦めた。

 

「あー、確かにそうだ。くっくっ……ダンナも誰かの下に着くとか絶対にしない。すいませんね、舐めてました」

「構わない。クリアについての情報を求めたのはオレだ。お前の方もオレを試しただけで、別に本当に敵だとは思っていなかったのは分かっている」

「其処までお見通しですかい? ははっ、デュフォーの兄さんはやっぱ面白ぇな」

 

 また軽い感じに戻ったリーン。

 きっとこうして家に招いた時点で敵ではないと当たりを付けていたのかもしれない。

 予想以上に頭の回転と適応力の高い彼の評価を更に上げた。

 

 どこまで話していいか、どこまで信じていいか、どこまで協力していいか。それらを計算して導き出すにはリーンのことを把握しておくのは必須なことだ。

 デュフォーにとっても強者との繋がりは欲しい。

 クリア・ノートという必ず倒さなければならない敵が出て来たのは、“バオウ”という魔界の脅威をどうにかしようとしているデュフォーとゼオンにとって更なる負担となる。どちらもゼオンの望みの為には排除すべき要素であるならば、デュフォーは彼の望みを叶える為に自分に出来る全てを賭ける。

 頭の中で筋道を立てていく。差し当たって一番重要な要素を能力によって算出すると……

 

 

 問―――現在のゼオンがクリアに勝てる確率。

 

 答―――ゼオンがクリアと相対した場合の勝率は……

 

 

「あんたのパートナーの雷帝ってのがどれだけ出来るのかはダンナに聞いた限りでしか知りません。ただ、この戦いで自分と一、二を争う強さだろうってダンナが言ってたっスから相当なもんなんでしょう。なのに……」

 

 一つ指を立てて、彼はデュフォーに告げる。

 

「クリアはその上を軽く行ってた。あっしの予想なんですがね……クリアはもしかして、魔界の王族、それも王様の嫡子そのもんであるあんたのパートナーですら情報を持っていなかった本物のイレギュラーで、あんた達はそういうのがこの戦いで出現する可能性ってのをおぼろげにですが知っていた……そうでしょ?」

 

 ぴたりと言い当てた考察。リーンの素の頭の良さを理解し、デュフォーは“問い”を能力(アンサートーカー)に投げ続けるのを辞める。

 ここまで予測してくるのなら、互いに語り合って筋道を立てるのがいいと判断したのだ。

 

「ああ、そうだ。ゼオンの覚えていた魔物リストの名簿から、出自や実力が不明瞭な魔物の名をリストアップし、ゼオンの受けた王族の知識に無い不確定要素となる可能性のモノが二体居た。そして電子世界に埋もれた世界の情報から拾ったデータの中に、お前達が拠点としていた街に出現したクリア・ノートを見つけ、そいつが一番の不確定要素であると判断した」

 

 ウソをつくコツは、本当のことを混ぜることだ。

 ゼオンがどうこういうのはウソで、アシュロンの拠点にクリアが現れた映像を見たのは本当。

 千年前の魔物達が動き始め、ガッシュの成長という目的の為に動いている現状で、デュフォーはゼオンにそちらに集中してほしいと考えてゴーレンのような突然変異個体の魔物の出現確率等の情報は明かしていない。

 

 デュフォーの持つ答えを出す者(アンサートーカー)はゼオンの望みを叶える為に使われているので、彼がゼオンの障害となるモノを見極めようと問いを投げれば、必然として答えは出てしまう。

 ただし、巧妙に隠されたクリアの実力は、魔界からこちらに来てから……アシュロンが敗走するまでデュフォーの答えには出て来なかったので伝えようがなかった。出現するだろうと確率を出していても、クリアともう一体が突然変異だという情報は、魔界で何か大きな出来事を起こしていない限りは答えとして出て来なかった。

 

 段階を踏んで思考を誘導し、ゼオンが成長出来るようにしていくようにプランを進めていても……こうやってイレギュラーは必ず起こってしまうモノ。今回の動きは本来のデュフォーの計画にはなかったのだった。

 アシュロンという現状で一番ゼオンにとっての障害となるだろう魔物の子が敗走したことは、“答え”を新たに弾き出しデュフォーの計画を曲げるほどに大きい出来事。能力で知ったデュフォーは、イレギュラーが起きたのだといち早く理解して、わざわざ計画を曲げてまでアシュロンとリーンからクリアの情報を聞き出すことにしたのだ。

 

 相変わらず使い勝手の悪い能力だと、デュフォーは思う。

 知らないことは問えない。問いが出来なければ求める答えは出ない。魔界にとっての脅威として認識されていなかったから事前にクリアが突然変異の個体だと情報が出て来なくて、アシュロンという強大な存在の敗走がなければイレギュラーについて問わず、クリアともう一体の突然変異個体には辿り着かなかった。 

 リーンから聞いたことでクリアの能力までやっとたどり着けたのだ。

 

 もう一体の突然変異の個体については……とりあえずは最低限だけを出して、後で整理することにして思考を投げる。

 

「あんなのが、もう一体いるってんですかい?」

「いや、実力的には多分クリアの方が圧倒的に高い。もう一体はきっとただの突然変異だ。ゼオンの親しくしている魔物にレインという特殊個体が居るが、そいつと似たようなモノだろう。竜族の神童に比べれば劣る」

「そいつの情報まで持ってるとはね……」

「いろいろと情報に詳しいんでな。お前の出身から来歴も出せるが?」

「ははっ、い、いいっすわ。遠慮しておきます。自分のこたぁ自分がよく分かってるッスから」

 

 若干の引き気味の声。ズズっと残っていたコーヒーを啜ったリーンは彼の言葉を疑うことはなく。

 その前で、唐突にデュフォーは本を取り出し……何事かと椅子から飛び上がって身構えたリーンに背を向けた。

 

「ザケルッ」

 

 本の光はあった。術の効果は現れない。

 遠くの空で、雷鳴が轟いた。

 

 ぴたりと背中に突きつけられた手刀。リーンの手がデュフォーの背中の筋肉の隙間を狙うように添えられている。纏う空気が一段階冷えた。これはブラフ、ではない。

 突然術を唱えたのだから、リーンからすれば当然の対応だろう。

 

「……今のに対しての説明は?」

「オレはゼオンの特殊な能力によってあちらの状況が見られるようになっている。アシュロンが姿を見せないからあいつ自身の実力を見せられるように第一の術を唱えた。それだけのことだ」

「な、なんて反則な……じゃああんたらは離れててもラグ無しで正確に戦えるってことじゃないスか」

 

 通常のパートナーからすれば、傍で自分が弱点になるよりも離れて正確に戦えるのならそうしたいのは当然だ。

 デュフォーは手を上げて本を投げ、これ以上の術を使う意思はないと示して見せる。

 

「ソレだけで勝てるほどこの戦いは甘くない。そもそも視覚共有や感覚を共有したとして、人間の視力や反応では魔物のスペックに追いつけない。お前は音速と近しい速度で飛ぶアシュロンの視界で正確にタイミングを計れると思うか?」

「……なるほど、確かに」

「人間側が俯瞰的に戦闘を見るからこそ正確に判断できることの方が多いだろう。今回のようなことは本物の戦闘中では不意打ちや威嚇もしくは圧倒的な格下相手にしか使えない。現地でパートナーと共に戦わなければ、ほんの些細な“ズレ”が敗北に繋がる。人間側の自力一つで勝負が決してしまうこともあるだろう」

「……そう、スね」

 

 経験があるのか、リーンは苦い顔で目を切り手を下ろす。

 

 窓へと歩いて行った彼は、そのまま外を見つめた。雷鳴の方角を見れば、火山の噴煙が上がっている。

 其処に居るだろう気高き竜のことを、彼は信じるだけ。

 

「このままクリアの術やら戦闘のことやら話してもいいですけどね。あんたはクリアの情報を聞いて、ダンナと雷帝を引き合わせて……どうしようって思ってるんスか?」

 

 デュフォーの目的が分からずに、そしてアシュロンがどういった対応をするのかも分からずに、リーンはとりあえずと尋ねた。

 白銀の本を拾い上げ、てくてくとリーンの隣まで来たデュフォーはソレをリーンへと押し付けた。

 

 自分のパートナーの勝敗を決する大切な本。それを彼はいとも簡単に渡したのだった。

 あまりにも異常な行動と、先ほどまでのまるで“答えを知っている”かのような対応の数々も相まって……ついにリーンの心に彼への恐怖が沸き立つ。

 

 見つめてくる瞳に飲み込まれそう。

 その奥底に在る一筋の光の意味を、リーンは知らない。

 

「……互いに魔界の滅亡を防ごうとしているペア同士だ。今度はこちらの情報を話そう。オレ達とお前達が直面している脅威は別物だが、共有してこそ今後のことを決められる」

 

 真に迫る彼の気迫に、リーンは僅かに圧される。

 アシュロンと同じ、大きなナニカを背負っている目。

 それならばと、リーンはふっと息をついて肩を竦める。

 

「はぁ……なんたってこんな次から次へと……ま、デュフォーの兄さんの相棒が戦う気がないなら、きっとダンナも話が長くなるでしょうし……せっかくなんであっし達もじっくり腰を据えて話すことにしますか」

 

 机の上のコップを二つ手に取った。

 

「どんなに優秀な頭を持ってたってね、相棒と二人だけで世界を一つ背負うってのは疲れるもんでしょ」

 

 気楽で、気軽な声が胸を梳く。

 

「コーヒーのおかわり、いりますかい?」

 

 ウインクをした彼の笑顔は、もう警戒が解けていた。

 白銀の本は机の上に。其処に重ねられた朱色の本。

 意味するところは、“答え”を出さずとも分かる。

 

「……いただこう」

 

 デュフォーの返した一言は、不思議と穏やかさを含んでいた。

 

 いつだって胸の内にあった切迫した大きな感じ。それがふわりと、少しだけ、ほんの少しだけ軽くなった気がした。

 




読んで頂きありがとうございます。

ゼオンくん達の方の様子も一緒に上げるつもりだったのですが人間側二人の方だけにしたかったので分けます。

世界を背負う的な意味で対等な人間が出て来たという。

クリアのステータス一部開示。私の考察でこんな感じに致しました。
皆さんの知っての通り“今のクリア”に対してなのでアンサートーカーでは少し正しい答えが出ません。
ゼオンくんのステータスですが、今回の単純なクリアとの比較ステータスとは別に『デュフォーくんとの完全連携時』という特殊ステータスがあるのですがそちらは……ご想像にお任せします。

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

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