もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。

独自解釈等入ります。


第三十二話:星の瞬く華麗なる空の下で

 

 千年前の魔物達は全て復活し、既に“リエム”という魔物にバレている場所から拠点を移して数か月。

 ゾフィスは復活した魔物達と特殊な能力によって視覚を同調させ、飛行能力を持つ魔物たちを分散しつつ世界中からパートナーとなる人間達を集めていた。

 六十億を超える人間達の中からたった四十人弱を見つけ出すのは不可能に近いが、魔本の魔物と人間を引き合わせる特性を利用してどうにか探し出すことには成功していた。それさえ成功させてしまえば後はゾフィスの能力によって過去の魔物達の実用化が可能となるのだ。

 

 千年前の魔物の復活と運用というのは、ゾフィスという多岐に渡る特殊能力を備えた魔物だからこそ成り立たせられたと言えよう。

 部下として迎えているビョンコというカエル型の魔物と、パティという人型の魔物は確かに優秀ではある。しかしながらゾフィスの一族の膨大なる事前準備と彼自身が綿密に立てた計画がなければ復活は出来ず、更にはたかだか数か月で魔物達全てを戦える状態に持っていくことなど不可能だった。

 

 パムーンは一番初めに復活した魔物としてゾフィスと一番長く過ごしているが、だからこそゾフィスがこの計画にどれほどの時間をかけて熱量を注いできたのか理解出来た。

 

 やり方は気に喰わない。

 しかし王になろうとする狡猾なる執念は一目置くべきとまで思った。何せ、パムーン自身がそういった絡め手によって敗北を喫したのだ。

 四十弱もの魔物達を配下にし、人間達を操るマインドコントロール。心の底から軽蔑するやり方だ。強制的な支配を行うのは暴君の在り方だろう。王になる為に其処までしなければならないという決意だけ……その一点だけは一目置くことにした。

 

 当然だが、パムーンはゾフィスに対してそのやり方は気に喰わないと伝えることはした。救って貰った恩があるからと出来る限り穏やかに、しかしてそれは外道に過ぎないかと。

 

 そんなパムーンに、ゾフィスはやはりというか狡猾に一つのイトを仕掛けた。

 

『やはり看過できませんか。それとも“彼女”の存在があるからこそご意見を? まあ、どうであれ、貴方が私の敵と繋がっていても構いません。既にお見せした通り、私は貴方がたを石に戻す術を持っていますが……他の過去の魔物の本を燃やそうとしない限り、どんな事をしようと貴方に対してだけは決してソレを使わないとお約束しましょう。加えて、“彼女”からの報酬も約束されているでしょうけれど、私が王となるのに協力してくださった暁には、あの方と同等以上の報酬を支払うことも約束致しましょうか。地位であれ、街であれ、財であれ……ね?』

 

 貴方にとっても、悪い話ではないと思いますが?

 

 意地の悪い笑みを浮かべて告げられた誘いはそう締めくくられた。

 千年前の魔物達全てが見ている前で行われた鬼畜の所業……復活した魔物を石に戻すという出来事の後に、ゾフィスはパムーンにそう言ったのだ。

 

 石に戻されて再び復活した魔物達は勿論のこと、それを見ていた全ての魔物達は恐怖に震える身体を抑えながら……パムーンに異常な視線を送っていた。

 

 怨嗟、と呼ぶべきだろう。なぜあいつだけがという悪感情が多く彼に向かい来て、それに突き刺されたパムーンは心の底から震えた。

 ゾフィスの狙いはきっと、パムーンを孤立させること。不信を宿らせて疑心暗鬼の渦に巻き込むこと。同じ境遇に置かれていたはずの魔物達に……格差という憎しみの種を植え付けること。

 

 協力してゾフィスからの恐怖に抗おう―――そんな提案一つさえ疑心の種が芽吹いた心には響かなくなってしまう。

 

 パムーンが既に外部の魔物と繋がっている可能性を表に出し、その上で二重スパイになるのも好きにしろと泳がせる。

 これにより、ゾフィスの忠実な僕であるか、はたまた叛意を持ちし解放の剣となるかという希望と絶望の選択の余地さえ生み出し、彼が協力していなくとも彼に近付く魔物達はゾフィスにとって危険分子とマークされることになる。反旗を翻そうとした魔物をあぶりだす為の見せ札の役割さえ持たされたわけだ。

 魔物同士で牽制しあう狡猾な手はパムーンを利用したモノだけではない。幾重にも張られたことで逃げられなくなる。その中でもパムーンに対して仕掛けられたこのイトは特別だった。

 ゾフィスはパムーンの実力を認めているし、その力を欲している。だからこそ……精神的に追い詰めることで彼を手に入れようとしているのだ。

 

 本当ならお互いに語り合ったりして交流出来たはずだ。パムーンが出会った“魔界からのメッセンジャー”のことを教えられれば、きっと心を救える魔物も居たはずだ。

 だというのに……心優しい魔物も、誇り高い魔物も、誰しもが救われないことになってしまった。パムーンだけでは救えない状況にされてしまった。

 

 あの時の……全員が復活してゾフィスによって開かれた初めての全体会合を思い返すだけでパムーンも手が震える。

 

 あろうことかゾフィスは……その場で逆らった魔物の後に、三体の強力な魔物を徐々に石化させて見せるという演出をわざわざ行った。

 誰もが知っている強力な魔物ですら逆らえない。あの“狂戦士デモルト”でさえ一瞬で行動不能にした石化の呪いは、千年前の魔物達の脳髄に恐怖と絶望を染み込ませるには十分だった。

 どの魔物であっても、もう石になど戻りたくないのだ。あの虚無の時間を再び繰り返すくらいなら自害したいとすら思う程に。

 

 パムーンにとって幸いなことはたった一つ。

 “雷のベル”とそのパートナーがそれらを予測していたこと。

 

『ゴーレンの術が千年も継続するバグのような術であったのだから、再度石に戻される可能性も否めない。爆発の一族が報復の危険性を無視してまでお前達を従えることはないだろう。

 必ず己の野望への服従を強制させる手を打ってくる。再び同じ術を掛けることは不可能だと“答え”が出ていても、石から復活させられるのだから石に戻せるナニカもあるやもしれん。“答えが無い”のではなく“出ない”なら、未来のことはまだ分からん。だから……』

 

 その時向けられた紫電の瞳が、他の魔物達と違いパムーンだけが心に安堵を持てる希望の光となった。

 

『無理はするな。敵になってもいい。従えと言われたなら従ってもいい。苦しいなら向かって来い。オレとデュフォーが全員、必ず救い上げる』

 

 敵になっても必ず救うという言葉が、どれほど有り難かっただろうか。

 他の魔物達も、ゾフィスも、現在の魔物達も……全てが敵。パムーンの心を削りきって従えようという思惑がゾフィスにあったとしても、あの紫電の眼差しを思えば気高く立っていられる。

 自分が壊れない為の最終の線引きをベルの継承者は与えてくれた。逃げ道を作ってくれた。もし心が壊れそうな時は、悪に屈してもいいという選択肢を与えてくれた。

 

 故に、そんな紫電の眼差しを受けたから、彼は恐怖に震えようとも誇りを失わない。

 

 屈してなるものかという不屈の心を取り戻せた。耐えきって見せるという忍耐を思い出した。

 

 与えられた温もりがある。

 己よりも幼い魔物の子がくれた温もりと、誇り高き紫電の瞳が彼の心を震わせる。

 無力な己を無様だと自嘲することはあれど、周りの魔物達の恐怖に落ち込んだ瞳を見る度に……彼の善性が訴えかける。

 

―――同胞達を恐怖から救えと……オレの魂が叫びやがる。

 

 千年前の魔物達は自分と同じ同胞だ。同じ絶望を共有できる同志であり、“生きた時間”を同調出来るたった数十の同胞なのだ。

 

 自分の救われた心は、同じように彼らを救いたいと叫んでいた。

 

 

 

 

 

 だからこそ、彼は現状がもどかしく、常にゾフィスを監視して現状の打破を画策することしか出来ないことに苛立ちを覚える。

 

 ゾフィスはパムーンに対して何もしない。同じ部屋で自分のすることを探られていようと気にもしないし声も掛けない。

 常にゾフィスの傍に一体の魔物―――ツァオロンが居ることで手出しも出来ないと知っているからだ。

 

 静かに佇むその魔物は、最上位の魔物であるパムーンも容易に戦える相手ではない。

 

 “棍の極致”とまで言われる彼の一族に伝わる武術は、術の力を使わずとも脅威であり、英才教育を受けているとはいってもパムーン単体では喰らい付けたとしても相打ちどまり。

 

 デモルトレベルのバカげたスペックがなければ一対一で敵対出来ないと言わしめる武、そんな魔物が護衛に居ることでゾフィスは安全に自分の時間を過ごせている。

 そも、ゾフィスがパムーンの叛意を計算に入れていないはずがなく、それを計算に入れた上で配下に置くことを良しとしたのだから対策は万全であるのは当たり前なのだ。

 

 瞑目して壁に背を預けているツァオロンにはいつも隙がない。

 彼ほどの魔物が何故ゾフィスに素直に与しているのか……その答えを既に、パムーンは知っている。

 

 千年前の魔物達のパートナーはほぼ全てがゾフィスによって意思を奪われて従っているのだが、ツァオロンのパートナーともう一人だけは意思を奪われておらず、その男がパムーンに語ったのだ。

 

 曰く、ツァオロンもその男も、強者との戦いを求めていると。

 曰く、ゾフィスの護衛をしているのは取り引きの結果だと。

 

 曰く……ツァオロンが一番に求めているのは、全てを賭けて“死合い”が出来る相手である、と。

 

 千年前の魔物同士が全力で争うことを禁止されている為、ツァオロンはデモルトやパムーンと戦うことは出来ない。

 棍の強化など、術を使ってこそ彼の全力が発揮される為、パートナーと組むしか全力を出す方法はない。

 だから、ツァオロンはゾフィスを護ることで、いの一番に強者と戦う権利を得たということ。

 

 確かにゾフィスの傍に居れば情報には事欠かない。現在の魔物達の情報も得ることが出来るだろう。自分の目で見て耳で聞いて魔力を感じて相手を選ぶことも出来る。

 

 だからツァオロンは、パムーンが敵だろうと味方だろうとどうでもいいと、そういうことらしい。

 常にゾフィスの傍に居るから語ることもできず、本心を聞くことはない。

 しかしそれが真実なのだろうと、パムーンは思う。

 

 善でもなく悪でもない。

 彼にあるのは闘争への欲求のみ。

 

 一つだけ……パムーンはツァオロンのパートナーに問うた。

 

『ツァオロンは恐怖に縛られてはいないのか』

 

 それだけを。

 

 酷く傲慢な顔で笑ったその男は、ツァオロンの代弁者として語った。

 

『そりゃゾフィスに逆らうのは無理だろうが、他と戦うのは別だろ。お前はオレ達みたいな飢狼の想いを分かっちゃいねぇ』

 

 そう言って握られたその人間の拳は、己だけで高めて来た力の象徴だった。

 

『てめぇには分かんねぇよ、あいつとオレの共有してるこの“楽”への渇きは』

 

 通り過ぎざまにドシリと当てられた傷だらけの拳は、パムーンの抱く義の心とは違うナニカを持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、もやもやするから私のところに来たと」

 

 ゾフィスの拠点である遺跡の中、誰しもの目から逃れることは出来ないパムーンではあるが、唯一ただ一体の魔物の前だけでは魔物達の負の視線にさらされることなく過ごせる現状が出来上がっていた。

 

 その魔物は育ちも生まれも能力も……性格も“姿かたち”も特殊な男だった。

 

 吹き抜けた壁から空に煌めく星を見ながら、とがった足先を揃えて両の手をぴっちりと伸ばしているその魔物は、振り向くことなく、体勢を変えることなくパムーンの話を聞いていた。

 

 その魔物にはあまり他の魔物達は近づかない。以前から知り合いであったという“月の魔物”だけがよく行動を共にしているが、よほどのことが無い限りはその魔物に近付く者達は居ないのだ。

 

 それは何故か。

 

「ふん……何かと思えば……そんなしょうもないこと(・・・・・・・・)で華麗なるVのパワァを高める夜のルーティンを邪魔しに来たのか」

 

 一重に……変だからである。

 

 その魔物の名はビクトリーム。

 発言も行動も他者の理解の範疇を越えている少し変わった魔物だった。

 

「……いや、スマナイ」

「ハハハッ! さすがの星の使徒も孤独には勝てんか! やーいぼっち! ちっちちっち、ぼっち! ぼっちぼちぃ!」

 

 べろべろばぁと舌を出して振り返っておちょくってくるビクトリームの姿に、パムーンのこめかみに青筋が浮かぶ。

 しかもVの姿勢のままで最近覚えた歌のリズムに乗って、ゆらゆらとやじろべーのように揺れながらの挑発であるから余計に腹が立つ。

 

 ただ、パムーンはどうにか耐えた。

 

「ぼっ、ち♪ ぼっちぼち♪ キ・ミ・ぼ・っ・ち♪ 誰と言葉も交わさずに♪ いつも一人で廊下メシ♪」

「ぐっ……」

 

 構わず上機嫌にぼっちの歌を歌い始めるビクトリーム。

 とある歌を替え歌にして、しかも心に刺さるように歌ってくる彼に対してパムーンは大きくダメージを受ける。

 

 準備された昼食を食べる時も、他の魔物達はわいわいと誰かしらと食事をしているのに、パムーンはいつも食堂ではなく廊下で寂しく食べているのだ。

 ビクトリームは“月の魔物”と食事を共にしている。他の魔物達もゾフィスに言われたチームを組んで皆で食べている。ツァオロンは護衛の為にゾフィスと。デモルトでさえ、摂取量の問題で身体の大きな魔物達と外で食事を取っているのだ。

 

「い、いや……オレだってランスと……食べているし……」

「ベリィィィシット! ぶわぁかめ! 我が本の使い手モヒカン・エースもレイラの供のアルベールと一緒に卓を囲んでおるわ!」

「だ、だから、それでも! オレは一人じゃないだろうが!」

「フフフ、いいのかぁ? 甘くてジューシーとろけるベリーメロンをレイラに分けて貰ったりもしてるんだぞぉ? ランスは自分から分けてくれるのかぁ? んん~?」

「そ、それは……」

「もちろん私もレイラの好きなブルーベリーシェイクなんかと交換しているがぁ? んん~? もしや……分け合いっこをすることもないとか?」

「お……おぉぉ……」

「美味いぞぉ? 誰かから貰った好物ってやつはなぁ、ククク」

「う、くぅぅぅぅ」

 

 がっくりと項垂れる。床を力無く叩いた拳には無力さが滲み出ていた。

 しばし沈黙が続く。

 静寂の夜に風の音だけが流れた。

 

「気は紛れたか?」

 

 ふん、と小さく鼻を鳴らしたビクトリームは、再び星空に向けてVを主張し始める。

 

「喜ぶがいい。可哀想なボッチの使徒パムーンくぅんにはぁ……心優しき華麗なるビクトリーム様が話し相手くらいにはなってやろうではないか。幸い此処にはうっとうしい目もないことだから存分に孤独でないことに安堵すればいい」

 

 そんな彼の発言に、パムーンはぽかんと口を開けてそのVの背中を見るだけ。

 

「ツァオロンやデモルトやベルギムは力が強いからな。石化への恐怖など乗り越えてしまえるんだろう。もちろん、この私も既に乗り越えてはいるがぁ……アレをもう一度となるとやはり……身体が強張ってしまう。それは奴らもきっと同じだ」

 

 誰にともなく語る言の葉。

 

「だが、あの三体と私は少なくともお前のことなど気にしていない。それだけは理解しておけ!」

 

 ビシリ、と振り向きポーズを決めて指差したビクトリームは、細めた目でパムーンを睨む。

 

「裏切者……なんて声など無視しておけ。“ディオガ”すら満足に扱えん木っ端共の言葉など聞くに堪えんわ。例えお前がゾフィス配下の監視役だろうと、そんなモノは私にはどうでもいい」

 

 それは絶対の自信から来る声で、あの力への渇望を宿す人間にも含まれていたモノに似ていた。

 

「自分の力の強さを理解していれば、お前がどうだろうと少しの制限を看過してでもしたいように過ごすのは変わらない。それに……もっと“面白いモノ”があるだろうに」

 

 そうして笑ったビクトリームの顔は、パムーンが見たこともないナニカを含んでいて。

 

「せっかく冷たい石から戻れたというのに。怖い顔、哀しい顔、苦しい顔、つらい顔をしているだけでお前は満足か?」

 

 続く言葉は、思ってもみないもの。

 

「何より……また出会えた(・・・・・・)。大切な友ではないけれど、私はモヒカン・エースと過ごせることを嬉しいと思っている。レイラだってアルベールにずっと語り掛けるくらいにあの時の時間(・・・・・・)を取り戻したいと思っている。そうさ……私達はまた、“共に立つ者達”と出会えた」

 

 呆然と、パムーンは言葉を失った。

 

「怒りんぼうのデモルトや幼いベルギムは知らないが……少なくともツァオロンは人間のコトを気に入っているだろう。少しだけあいつが羨ましいぜ。何せ、本当の意味であいつと肩を並べてくれるパートナーがいるんだから」

 

 千年前の記憶。風化する程の時間が経っても覚えているあの時の時間。

 懐かしむような顔でビクトリームは上を向いた。

 

「知っているか? いや、知らんだろうなぁ。お前が封印されてからの話だから。私はな……残りの魔物が少なくなってからあのゴーレンにたった一組で挑んで、もう少しという所まで追い詰めたんだぞ?」

 

 自慢げに語る彼は誇らしげに胸を張りつつまたVの体勢に戻る。

 

「艶やかな黒髪を踊らせて、上等な着物を泥に塗れさせ、端正な顔にキズがついても……シキブは私と共にアレと戦ってくれたよ。大切な友がやられたから力を貸してくれと言った時……任せろと言ってくれたあの笑顔を、私は忘れることはない。

 半日を掛けた戦闘で互いにボロボロになっても、私とシキブは諦めなかった。勝つだけじゃダメだ。勝って屈服させて友を元に戻させなければダメだったんだ。それを理解していたゴーレンはわざと本を危険な位置に置いたりと……それはもう、難しい戦いだった。

 最後の最後で、シキブに託した。ゴーレンに勝てるヤツに情報を、と。私の石はほっておけ、レイラが石化から戻れるよう後のことは頼んだと。泣きながらシキブは何度もうなずいていた。あいつは……最高のパートナーだったよ」

 

 千年前の戦いも後半に差し掛かっていたその頃を思い描いて、パムーンはごくりと生唾を呑み込んだ。

 

「モヒカン・エースはそんなシキブの血縁なんだぞ? また、巡り合えた。また、私達は戦える。また、心と心で繋がれる。本は心の力を使うんだ……いつかはモヒカン・エースにも私の心が届いてシキブと過ごしたような時間を共有できるかもしれないだろう? そんなことが、私はとても嬉しい」

 

 微笑みと、心からの歓喜の声。

 ビクトリームという魔物の本質が何なのかをパムーンは知る。

 

 彼はただ、友と過ごす時間が嬉しいのだ。

 千年の孤独の絶望に落ちても胸に残っている友との美しい思い出がある彼にとって、復活してパートナーの子孫と共に過ごせる時間は嬉しいこと。

 例え意思を消されているとしても、そんなことは関係ないとビクトリームは考えているらしい。

 いつか、いつかはあの頃のように。きっとそうなれる。否……必ずそうなるのだという意思を感じた。

 

 パムーンとて、己のパートナーと絆を育んできた。

 だからビクトリームの言いたいことは理解出来たし、その気持ちもよく分かった。分かってしまった。

 

―――今を楽しむ……か。

 

 少しだけ、ツァオロンの心も理解出来たかもしれない。

 “共に戦う楽しみ”も“己の全力を出す楽しみ”も、ツァオロンはどちらも覚えているだろうから。模擬戦での連携を思い出せば理解がより追いついてくる。

 過去のこと、先のこと、いろいろと不安も苦痛も絶望もある。ただ、ビクトリームとツァオロンは“今”を全力で楽しもうとしている。

 

―――オレもランスと語り合うことが出来るのなら……それはどれだけ……

 

 善性と誇りがあるから、パムーンは魔物達や人間達のことを考えて動くことを止める事はない。

 ゾフィスによる制約があるから自由には動けない。

 他の魔物達の目もあるから、出来ることは限られている。

 

 きっと待っていたら雷のベルの計画通りに魔物達は救われるだろう。

 きっとこのまま過ごしているだけで彼らは無事に魔界へ帰ることが出来るのだろう。

 

―――恐怖から解放するだけじゃなくて、他にも……

 

 だが、救いを待つだけなど……彼は満足しない。もう出来ない。

 ヘンテコな魔物が気付かせてしまった事柄は、些細な変化を星の子に与えた。

 

「……なら、オレもお前達も、もっと楽しめるようにできたら―――」

 

 小さく零したその声がビクトリームに聞こえたかは分からない。

 

 星の子は夜空の下。

 

 迷いに揺れていた瞳の奥に光を宿す。

 

 たまには付き合ってみるかと、彼は両の手を上げて隣の魔物と同じ姿勢を取ってみた。

 

 ヘンテコな姿でヘンテコなこだわりを持つ魔物は……いつでも勝利を掲げて両手を広げている。

 

 ニッと笑ったそいつの笑みは、きっと友達に向ける表情と同じモノだった。

 

 

 

 

 

 そんな彼ら二人を遠くで羨ましそうに見つめる小さな女の子の魔物が一人。

 

 小走りで駆けだした小さな足。

 

 きれいな黒髪に二本の角。

 

 恐れを振り切って踏み出した一歩は彼女にとってとても大きい。

 

 月と星が華麗なるVの絆によって繋がるまで、あと―――。




読んで頂きありがとうございます。

ゾフィスくんによるパムーンくん掌握計画。
ツァオロンは千年前の魔物組の中だったら一番恵まれていたのでは?ということから少し掘り下げれたらと思う次第。
華麗なるビクトリーム様のお歌はチチをもげのリズムで再生ください。
ゴーレンとビクトリームの一騎打ちとか最高にカッコイイ戦いしてたと思うんです。

ちなみにゼオンくんひいてはパムーンくんの行動によって千年前の魔物戦の難易度が上がります。原作通りにはなりません。
ゾフィスくんも原作よりも幾つか手を増やすことになります。


雷句誠先生の個展行けそうなので楽しみです。先生の原画などを目に焼き付けてこの物語にも生かせるようにインスピレーションを受けて来ようと思います。

これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

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